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施設管理 前川勉
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「あんた、取材を申し込んだけど断られたんだんだろう? うちの企画室に」
はい、実はそうなんです。でも、どうしてそう思ったんですか? 何もまだお話していなかったと思うんですが。
「そりゃあわかるさ、施設管理の人間に建物の設備や施工の話ならまだしも、『ショッピングモールのトリックアートについて話が聞きたい』なんて言ってくるやつは滅多におらんよ」
そうでしょうか? このショッピングモールで働く人なら誰しもが目にするものなのでそこまで違和感はないかなとも思うのですが。
「まあ、そりゃあここで働くやつは皆んな見てる。でも、トリックアートは話題性があるものだから催事的な要素もあると思わないか? となるとだ、企画系の話題なら広報とかさ、そういう機能をしてるとこに聞くもんだろう? それがわざわざおれみたいなやつに話を聞くってことは、もう企画室に取材はしていて、念のためおれにも話を聞くか、もしくは企画室に断られたかのどっちかだと思ったんだよな」
なるほど、それで私が後者だと思われたんですね。
「そういうことだ。まあ、取材は断られたって仕方ねえよ、うちの企画室は閉じこもってるからよ。あんたみたいに取材に来てダメ元でこっちに回ってくる人はたまにいるんだよな」
そうなんですね。先日、企画室の方にお話を聞こうと思ったんですが『うちはそういうのはお断りしています』の一点張りで何も伺えなくて……
「そんなもんそんなもん。あそこ、広報の仕事もしてるはずなんだが、外に情報発信はしてもいつも一方通行なんだよな。前はもうちょいとマシだったんだけどここ最近は何を聞いてもだんまりでよ」
そうなんですね。あ、あの、今更なんですが取材させていただいて大丈夫なんでしょうか? 企画室の方からはNGだったってことは施設管理の方にお話聞くのもやめておいた方がいいんですかね? もしご都合が悪いようでしたら遠慮させていただこうと思うのですが……
「え? ああ、いいんだよいいんだよ。おれにとっちゃどうでもいいことだしさ」
どうでもいいこと……ですか。そう言いますと?
「おれ、もう定年再雇用だからさ、給料安いんだよね。だから、いい仕事が見つかればここなんてすぐ辞めるつもりだし、思い入れなんてもんもないのさ。今更ショッピングモールの印象がどうなろうとおれには興味がないの。だから、何聞かれてもおれが知ってることならなんでも教えてやるよ」
それはありがたい……と言ってしまっていいんですかね。でも助かります。それじゃあ早速。ショッピングモールにトリックアートを設置する企画はいつ頃からあったのかってご存知だったりしますか?
「すまん! それは企画室のやつしか知らんなあ」
そうですよね、すみません。企画室の方に聞きたかったことなのでもしご存知だったらと思いまして。
「あ、でも、多分一年前とかそれぐらいだろうな。トリックアートの話が出て割とすぐに設置のスケジュールが決まってたし、制作会社のメンバーも『企画から設置までがかなり早い』って話してたからな」
前々からあった企画ではなさそうなんですね。
「そうなんだよな。企画室のトリックアートの企画担当のやつと何回か話したんだが、この企画は早く進めないと、みたいなことを言ってたなあ」
早く進めないといけない……上司や上層部から急かされていたんでしょうか?
「いやー、そんな感じでもなかったな。もっと切羽詰まった感じだったんだよ。鬼気迫るというか、会社の上から言われている感じとは違う焦った雰囲気だった」
鬼気迫る……ですか。仕事の一案件でそんなに焦るものでしょうか?
「いやあ、わからないんだよな、それが。おれもそう思って聞いたんだが口ごもって教えてくれなかったんだよ」
そうなんですね。じゃあトリックアートが設置されてからはその方は落ち着かれたんですか?
「落ち着いた……うーん、確かに落ち着いてはいたけど、なんていうか、そんな単純な顔じゃなかったな。どこか諦めているような、そんな感じの顔をしてた」
諦める……ですか。でも、設置は上手くいったんですよね? 何がダメだったんでしょう?
「さあな、何を聞いてもだんまり。話してくれなかったなあ。ああ、『これで良かったんだ。やれることはやったんだ』って呟いているところを何度か見かけたよ」
そうなんですね。その感じですと何か満足いく出来じゃなかったのかもしれませんね。
「そうかもなあ。でも、それだけじゃない気もしてならないんだよな」
出来栄え以外にも何か気になることがありそうなんですか?
「あいつ、怯えてたんだよ」
怯えてた……企画室の人がですか?
「ああ、何度も急に振り返ったりして、そわそわしていたな」
振り返る……ということは視線でしょうか? 誰かに見られていると感じたんですかね。
「そうかもなあ……でも、そんな感じだったなあ」
あの、よかったらその企画室の方のお名前を教えていただけませんか? もう一度企画室の方にアポを取ってみようと思うんです。
「アポ? 企画室の山本にか? それは無理だぞ」
無理? どうしてですか?
「だって山本は死んだからな。トリックアートが設置されて一ヶ月も経たないうちに」
はい、実はそうなんです。でも、どうしてそう思ったんですか? 何もまだお話していなかったと思うんですが。
「そりゃあわかるさ、施設管理の人間に建物の設備や施工の話ならまだしも、『ショッピングモールのトリックアートについて話が聞きたい』なんて言ってくるやつは滅多におらんよ」
そうでしょうか? このショッピングモールで働く人なら誰しもが目にするものなのでそこまで違和感はないかなとも思うのですが。
「まあ、そりゃあここで働くやつは皆んな見てる。でも、トリックアートは話題性があるものだから催事的な要素もあると思わないか? となるとだ、企画系の話題なら広報とかさ、そういう機能をしてるとこに聞くもんだろう? それがわざわざおれみたいなやつに話を聞くってことは、もう企画室に取材はしていて、念のためおれにも話を聞くか、もしくは企画室に断られたかのどっちかだと思ったんだよな」
なるほど、それで私が後者だと思われたんですね。
「そういうことだ。まあ、取材は断られたって仕方ねえよ、うちの企画室は閉じこもってるからよ。あんたみたいに取材に来てダメ元でこっちに回ってくる人はたまにいるんだよな」
そうなんですね。先日、企画室の方にお話を聞こうと思ったんですが『うちはそういうのはお断りしています』の一点張りで何も伺えなくて……
「そんなもんそんなもん。あそこ、広報の仕事もしてるはずなんだが、外に情報発信はしてもいつも一方通行なんだよな。前はもうちょいとマシだったんだけどここ最近は何を聞いてもだんまりでよ」
そうなんですね。あ、あの、今更なんですが取材させていただいて大丈夫なんでしょうか? 企画室の方からはNGだったってことは施設管理の方にお話聞くのもやめておいた方がいいんですかね? もしご都合が悪いようでしたら遠慮させていただこうと思うのですが……
「え? ああ、いいんだよいいんだよ。おれにとっちゃどうでもいいことだしさ」
どうでもいいこと……ですか。そう言いますと?
「おれ、もう定年再雇用だからさ、給料安いんだよね。だから、いい仕事が見つかればここなんてすぐ辞めるつもりだし、思い入れなんてもんもないのさ。今更ショッピングモールの印象がどうなろうとおれには興味がないの。だから、何聞かれてもおれが知ってることならなんでも教えてやるよ」
それはありがたい……と言ってしまっていいんですかね。でも助かります。それじゃあ早速。ショッピングモールにトリックアートを設置する企画はいつ頃からあったのかってご存知だったりしますか?
「すまん! それは企画室のやつしか知らんなあ」
そうですよね、すみません。企画室の方に聞きたかったことなのでもしご存知だったらと思いまして。
「あ、でも、多分一年前とかそれぐらいだろうな。トリックアートの話が出て割とすぐに設置のスケジュールが決まってたし、制作会社のメンバーも『企画から設置までがかなり早い』って話してたからな」
前々からあった企画ではなさそうなんですね。
「そうなんだよな。企画室のトリックアートの企画担当のやつと何回か話したんだが、この企画は早く進めないと、みたいなことを言ってたなあ」
早く進めないといけない……上司や上層部から急かされていたんでしょうか?
「いやー、そんな感じでもなかったな。もっと切羽詰まった感じだったんだよ。鬼気迫るというか、会社の上から言われている感じとは違う焦った雰囲気だった」
鬼気迫る……ですか。仕事の一案件でそんなに焦るものでしょうか?
「いやあ、わからないんだよな、それが。おれもそう思って聞いたんだが口ごもって教えてくれなかったんだよ」
そうなんですね。じゃあトリックアートが設置されてからはその方は落ち着かれたんですか?
「落ち着いた……うーん、確かに落ち着いてはいたけど、なんていうか、そんな単純な顔じゃなかったな。どこか諦めているような、そんな感じの顔をしてた」
諦める……ですか。でも、設置は上手くいったんですよね? 何がダメだったんでしょう?
「さあな、何を聞いてもだんまり。話してくれなかったなあ。ああ、『これで良かったんだ。やれることはやったんだ』って呟いているところを何度か見かけたよ」
そうなんですね。その感じですと何か満足いく出来じゃなかったのかもしれませんね。
「そうかもなあ。でも、それだけじゃない気もしてならないんだよな」
出来栄え以外にも何か気になることがありそうなんですか?
「あいつ、怯えてたんだよ」
怯えてた……企画室の人がですか?
「ああ、何度も急に振り返ったりして、そわそわしていたな」
振り返る……ということは視線でしょうか? 誰かに見られていると感じたんですかね。
「そうかもなあ……でも、そんな感じだったなあ」
あの、よかったらその企画室の方のお名前を教えていただけませんか? もう一度企画室の方にアポを取ってみようと思うんです。
「アポ? 企画室の山本にか? それは無理だぞ」
無理? どうしてですか?
「だって山本は死んだからな。トリックアートが設置されて一ヶ月も経たないうちに」
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