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制作会社 真鍋慎吾
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「ああ、あそこのショッピングモールですね、よく知ってますよ」
あのショッピングモールに設置されたトリックアートは御社が担当されたと伺ったのですが……?
「そうですね、うちが、というより私が担当してました」
そうなんですか! あの、もしよければ、可能な範囲内でいいのでその時のことを教えていただけますか?
「いいですよ。最初、企画室の山本さんから電話で相談をいただいたんです。人の目を床に集める仕掛けが欲しいって、それもかなり急ぎで」
床に視線を集める仕掛けですか……じゃあ最初はトリックアートを設置する話じゃなかったんですね。
「そうですね、トリックアートは私が提案しました。既にあるデザインを流用できれば、そんなに時間をかけずできると思ってお話ししたら、そこからとんとん拍子で話が進みました」
そうなんですね。山本さんとは長いお付き合いなんですか?
「別にそんなに長いわけではないんですが、何度かお取り引きをさせていただいたことがありますよ。仕事熱心な方で細かな雑務もきっちりしてくださるので、一緒に仕事がしやすい人でしたね。だから、亡くなられた時はかなりショックでした。まだまだお若かったのに……」
そうだったんですね。じゃあトリックアートが山本さんとの最後のお仕事だったんですか?
「そうですね、あれが最後の仕事ですね。そうか、そう考えると複雑だな……あれが最後か……」
仕事中に何かあったんですか?
「いや、特に何か変なことがあったわけではないんですが……いや、ないこともないのか。こんなことあまり言いたくないんですが、一言で言うならいい思い出ではないんですよね」
あの、その辺りも可能な範囲内で構いませんので、少し教えていただけませんでしょうか?
「わかりました。まず、最初にお電話いただいた時点で、山本さんの様子が少しおかしかったんですよね。何かすごく焦っているみたいで、一日でも早く仕掛けが欲しいって言ってたんです」
それはかなり焦ってらっしゃるような印象を受けますね。これまでに同じようなことはありましたか?
「ないですね。あまり社交的な人ではなかったんですが、上から目線で無理難題を言うようなこともなく、取引先に対しても対等に接してくれる人でした。だから、そんな人が一日でも早くって言うから何か訳があるのかなと思ってこっちも全力で対応させていただきました」
そうなんですね。でも、いい思い出ではないってことは他にも何かあったんですか?
「電話の件はいいんです、なんだかいつもと違うなって思った程度だったので。でも、なんでしょうね、実際にお会いして商談をしてもいつも『制作期間をもう少し縮められないか?』と何度も聞かれたんです。できる限り短い期間での対応をさせていただいてることや、これ以上は短縮できないことを毎回ちゃんと説明させていただいたんですが、そこをなんとかって無理をおっしゃっていました」
それはなんだか変ですね。さっきのお話ではそんな無理を言うような人ではなかったとお聞きしていたのに。
「ええ、なので私も気になって理由を聞いたんです。でも、何度聞いても教えてもらえませんでした。ただ、一度だけ口を滑らしたみたいにぼそりと言われたことがあります。『人の命がかかっているんだ』と」
人の命、ですか。それはかなりの大事ですよね。
「はい、私もそう思って詳しい話を聞こうとしたんですが、駄目でした。今のは聞かなかったことにしてくれと言ってそれ以上のことはまったく……」
そうでしたか。他には何かありましたか?
「トリックアートの絵の内容についてのこだわりが異常でしたね」
異常と言いますと?
「大物、そのエントランスホールや広い通路に設置する大きなアートのコンセプトやデザインにこだわるのはわかるんです。特にエントランスホールはショッピングモールの顔でもありますし、一番たくさんの人が目にすることになりますから。でも、山本さんが強いこだわりを見せたのはそういう花形のアートじゃなく、スタッフ専用通路の近くや、アパレルショップや雑貨屋さんの目の前のスペースに設置する小さなアートだったんです」
サイズの小さなトリックアートにかなりこだわられていたということですか?
「はい。全てではないんですが、何ヶ所かはかなりこだわられていましたね。特に、お財布や子どもの靴が落ちているみたいに見えるトリックアートを設置した場所がそうですね」
お財布のトリックアート、先日拝見して来ました。かなりリアルで本当にそこにお財布が落ちているみたいでびっくりしました。
「そう言っていただけて嬉しいです。あれ、山本さんからの強いご要望で、近くを通る人が思わずそこを見てしまうような、たくさんの人の視線を集めるアートが欲しいと言われて、社内でもかなり悩んで作ったアートなんです。色々提案したんですが、『もっと人の目を引くアートが欲しい』ってなかなか首を縦に振ってもらえなかったんですよね」
あのアートができるまでかなり大変だったんですね。でも、確かにあのアートは歩いていたら思わず見てしまいますし、その点で言えば上手くいったんじゃないでしょうか?
「そうですかね? それはよかったです。でも……」
でも?
「トリックアートの設置はショッピングモールが閉店した後、深夜にやるんです。職人を連れて設置に行ったんですが、山本さんが強いこだわりを見せた場所は設置する時、何故かすごくプレッシャーを感じたんです」
プレッシャーですか?
「はい、どこからか誰かに睨みつけられているような感じがして、寒気を感じたんです。それは私だけじゃなく作業をしてくれていた職人も言っていました。『なんか視線を感じる』って。それに……」
まだ何かあったんですか?
「関係があるかどうかはわからないんですが、財布や子どもの靴のアートを設置してくれた職人が、トリックアートの設置が全て終わった翌日に行方不明になったんです。彼はまだ見つかっていません……」
あのショッピングモールに設置されたトリックアートは御社が担当されたと伺ったのですが……?
「そうですね、うちが、というより私が担当してました」
そうなんですか! あの、もしよければ、可能な範囲内でいいのでその時のことを教えていただけますか?
「いいですよ。最初、企画室の山本さんから電話で相談をいただいたんです。人の目を床に集める仕掛けが欲しいって、それもかなり急ぎで」
床に視線を集める仕掛けですか……じゃあ最初はトリックアートを設置する話じゃなかったんですね。
「そうですね、トリックアートは私が提案しました。既にあるデザインを流用できれば、そんなに時間をかけずできると思ってお話ししたら、そこからとんとん拍子で話が進みました」
そうなんですね。山本さんとは長いお付き合いなんですか?
「別にそんなに長いわけではないんですが、何度かお取り引きをさせていただいたことがありますよ。仕事熱心な方で細かな雑務もきっちりしてくださるので、一緒に仕事がしやすい人でしたね。だから、亡くなられた時はかなりショックでした。まだまだお若かったのに……」
そうだったんですね。じゃあトリックアートが山本さんとの最後のお仕事だったんですか?
「そうですね、あれが最後の仕事ですね。そうか、そう考えると複雑だな……あれが最後か……」
仕事中に何かあったんですか?
「いや、特に何か変なことがあったわけではないんですが……いや、ないこともないのか。こんなことあまり言いたくないんですが、一言で言うならいい思い出ではないんですよね」
あの、その辺りも可能な範囲内で構いませんので、少し教えていただけませんでしょうか?
「わかりました。まず、最初にお電話いただいた時点で、山本さんの様子が少しおかしかったんですよね。何かすごく焦っているみたいで、一日でも早く仕掛けが欲しいって言ってたんです」
それはかなり焦ってらっしゃるような印象を受けますね。これまでに同じようなことはありましたか?
「ないですね。あまり社交的な人ではなかったんですが、上から目線で無理難題を言うようなこともなく、取引先に対しても対等に接してくれる人でした。だから、そんな人が一日でも早くって言うから何か訳があるのかなと思ってこっちも全力で対応させていただきました」
そうなんですね。でも、いい思い出ではないってことは他にも何かあったんですか?
「電話の件はいいんです、なんだかいつもと違うなって思った程度だったので。でも、なんでしょうね、実際にお会いして商談をしてもいつも『制作期間をもう少し縮められないか?』と何度も聞かれたんです。できる限り短い期間での対応をさせていただいてることや、これ以上は短縮できないことを毎回ちゃんと説明させていただいたんですが、そこをなんとかって無理をおっしゃっていました」
それはなんだか変ですね。さっきのお話ではそんな無理を言うような人ではなかったとお聞きしていたのに。
「ええ、なので私も気になって理由を聞いたんです。でも、何度聞いても教えてもらえませんでした。ただ、一度だけ口を滑らしたみたいにぼそりと言われたことがあります。『人の命がかかっているんだ』と」
人の命、ですか。それはかなりの大事ですよね。
「はい、私もそう思って詳しい話を聞こうとしたんですが、駄目でした。今のは聞かなかったことにしてくれと言ってそれ以上のことはまったく……」
そうでしたか。他には何かありましたか?
「トリックアートの絵の内容についてのこだわりが異常でしたね」
異常と言いますと?
「大物、そのエントランスホールや広い通路に設置する大きなアートのコンセプトやデザインにこだわるのはわかるんです。特にエントランスホールはショッピングモールの顔でもありますし、一番たくさんの人が目にすることになりますから。でも、山本さんが強いこだわりを見せたのはそういう花形のアートじゃなく、スタッフ専用通路の近くや、アパレルショップや雑貨屋さんの目の前のスペースに設置する小さなアートだったんです」
サイズの小さなトリックアートにかなりこだわられていたということですか?
「はい。全てではないんですが、何ヶ所かはかなりこだわられていましたね。特に、お財布や子どもの靴が落ちているみたいに見えるトリックアートを設置した場所がそうですね」
お財布のトリックアート、先日拝見して来ました。かなりリアルで本当にそこにお財布が落ちているみたいでびっくりしました。
「そう言っていただけて嬉しいです。あれ、山本さんからの強いご要望で、近くを通る人が思わずそこを見てしまうような、たくさんの人の視線を集めるアートが欲しいと言われて、社内でもかなり悩んで作ったアートなんです。色々提案したんですが、『もっと人の目を引くアートが欲しい』ってなかなか首を縦に振ってもらえなかったんですよね」
あのアートができるまでかなり大変だったんですね。でも、確かにあのアートは歩いていたら思わず見てしまいますし、その点で言えば上手くいったんじゃないでしょうか?
「そうですかね? それはよかったです。でも……」
でも?
「トリックアートの設置はショッピングモールが閉店した後、深夜にやるんです。職人を連れて設置に行ったんですが、山本さんが強いこだわりを見せた場所は設置する時、何故かすごくプレッシャーを感じたんです」
プレッシャーですか?
「はい、どこからか誰かに睨みつけられているような感じがして、寒気を感じたんです。それは私だけじゃなく作業をしてくれていた職人も言っていました。『なんか視線を感じる』って。それに……」
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