どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?

鞠目

文字の大きさ
9 / 11

友達 佐藤真紀

「ねえ、もう大丈夫なの? 元気かなーと思って久しぶりに連絡したら、入院してるって言うからびっくりしたんだけど」

 ごめん、心配かけて。もう大丈夫。

「本当? でも、高校の時からすぐそうやって誤魔化してたでしょ。無理してない?」

 大丈夫だって。ただの過労で倒れただけだからさ。

「あのね、普通の人は過労で倒れたりしないの。働きすぎじゃないの?」

 本当に大丈夫だって。仕事もセーブしてるし、最近はすごく調子もいいしさ。

「ならいいけど……」

 そんなことより、どう? そうだ、小学生になって少しは子育ては落ち着いてきた?

「どうかなあ、小学生になったらなったで保育園の時とは違う大変さがあるというか……心配事も絶えないし」

 そっか……小学生の親もいろいろ大変そうだね。

「そうね……ところで自分はどうなの? 浮いた話とかないの?」

 ないない、私は仕事しながら自分のペースでまったりしていたいだけだから。恋愛なんてもう縁のない話よ。

「どこがまったりよ、過労で倒れたくせに」

 まあ、そうなんだけど。でも、そんなに仕事を詰め込んだつもりはないんだけどな……。

「自分が思ってるよりも、もっとセーブしなきゃいけないんじゃない? これぐらい大丈夫って思っていることでも危ないことだってあるんだから」

 なんだかお母さんに怒られてるみたい。

「そりゃあ、私もだてに六年もお母さんしてないって。ちょうど昨日うちの子にも同じことを言ったところだし」

 そうなんだ。晴人はると君、何かやらかしたの?

「友達の家に遊びに行くのはいいんだけど、門限を守らないんだよね。最近うちの近所物騒だから、近所でも注意しなきゃ危ないよって叱ったとこなの」

 子どもの頃はつい門限を無視しちゃうよね。でも、物騒って何かあったの?

「それがさ、学校から保護者宛に連絡があったの。下校時にランドセルや体操服を入れた巾着を切られた子がいるんから注意してくださいって」

 切られた? 通り魔ってこと?

「それがよくわからないんだよね。みんな気がついたら切り傷がつけられてたって言ってるみたいで、犯人がわからないの」

 誰も犯行現場を見てないのかな?

「これが誰も見てないみたいなんだよねえ。しかも、複数人で家の前まで帰ってきた子ですら被害に遭ってるみたいでさ、本当に不思議なんだよね。まあ、幸い怪我人は出てないんだけどね」

 そっか……それは心配ね。

「でしょう? せっかく変なおばさんがうろつかなくなったとこなのになあ……」

 変なおばさん? なにそれ?

「いつ頃からかわからないんだけどね、よれよれのくたびれた黒っぽいシャツを着た、ぼさぼさの長い髪のおばさんをよく見かけるようになったの」

 ご近所さん?

「どうだろう? 晴人が保育園に通い出してからだから、たぶんここ二、三年のうちに引っ越してきたのかも。その人、いつも何も持たないで、頼りない足取りでふらふらしてた。ふらふらしてるだけならよかったんだけど、半年……いや、もうちょっと前かな、意味不明なことを叫びながら歩くようになったんだよね」

 意味不明なこと?

「私もちゃんと聞いてないから記憶が曖昧だけど、『余計なことしやがって!』、『怒らせたらどうするんだ!』、みたいなこと言ってたかな。あ、あと、『ヤマモト』がどうとか言ってた」

 ヤマモト? たぶんそれ人の名前だよね?

「たぶんね。なんかそのヤマモトって人に怒ってる感じだった。でも、ここ二ヶ月ぐらいだと思うんだけど、何かに怯えるみたいに独り言を言うようになってさ。『ヤマモトは怒らせてしまった』とか、『これは災いだ』とか、『もう出てきてしまう』みたいなことを言ってたかな。周りに危害を加えることはないんだけど、すごく怖かったんだよね」

 たしかにそんな人を近所で見かけると怖いね。

「でしょう? でも、最近急に見かけなくなって、ちょっと安心してたんだよね」

 引っ越したのか、それとも施設にでも入所したのかな?

「私もどっちかかなって思ってる。その人がさ、近所のショッピングモールの周りをよく徘徊してたから、買い物の行き帰りに見かけることが多かったんだよね。それで買い物に行くのがちょっと億劫に思う日もあったんだ。だから、最近見かけなくなったからほっとしてるんだよね」

 ショッピングモール? もしかしてトリックアートがある所?

「そうそう、それそれ。色んなトリックアートがあって、私結構好きなんだよね、あそこ」

 そうなんだ……。

「でも、ちょっと残念なんだよなー」

 残念? 何が?

「トリックアート、いくつかなくなっちゃったんだよね」

 なくなった? いきなり?

「割といきなりだったかな。大きなやつは残ってるんだけど、小さなやつがいくつもなくなったの。劣化が原因って掲示が出てかな、たしか」

 そっか……それなら仕方がないね。

「うん。でも、そう言えばなんか変なんだよね」

 変って? 気になることでもあるの?

「うん。なくなった絵って、どれもお財布とか、ハンカチとか、誰かの物が落ちているように見える絵ばっかりなの。エントランスホールみたいに人通りの多いところにあるのはそのままなのに、ピンポイント過ぎるんだよね。それに……」

 それに?

「絵が無くなる前、絵があった場所にブルーシートが敷かれていて、その周りに『立ち入り禁止』の張り紙がされた赤いカラーコーンが立ってたんだ」

 それはそういうものじゃないの?

「そうなんだろうけど、なんだろう……絵のサイズよりもブルーシートが敷かれていた面積がかなり広かったんだよね。なんとなくだけど、劣化した絵を隠すっていうより、もっと他の何かを隠してるみたいだったんだ……」
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき