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第四章 せめぎ合う光と闇
第五十一話 迫る刻限
綾南高校新聞部部員は、茉莉以外部室に集まっていた。夏季休暇中の部室利用に関してはあらかじめ許可をとってある。
「勉強会」という名目だ。
新聞部の部室は普段でも自習室化しているようなものなので、部員であれば複数人で集まっていても怪しむものは誰もいない。従って、作戦会議室としては申し分ない場所だ。勿論、夜には施錠して退室していないといけないのだが。
夏季休暇中ということもあり、みんなTシャツとジーパンといった気楽な私服である。
照り返す太陽光線をカーテンで遮断しているが、まだ冷房が充分に効いていないせいか室内は妙に蒸し暑い。
※ ※ ※
「……茉莉さん……っ!?」
静藍は後ろを振り返ってみたが、誰もいなかった。誰も座っていない椅子と机がぽつんとあるだけだ。長いまつ毛を二・三回瞬かせ、目を見開いている。
(おかしいな。確かに彼女の声が聞こえたはずなのに……)
ホワイトボードの近くの机で調べものをしていた愛梨が首を傾げる。ポニーテールに結ったゆるふわの茶髪の毛先が、肩の上で揺れ動いた。
「静藍先輩、急にどうしたのですかぁ?」
「……今……茉莉さんの声が……」
窓際の席にいる左京と右京は顔を見合わせた。互いに首を傾げている。
「全然聞こえないっすよ先輩。そら耳なんて珍しいっすね」
「……静藍君ちょっと大丈夫? 熱ない?」
織田と優美に両脇から額と後頭部を手のひらで押さえつけられる静藍。彼は自分が妙なサンドイッチ状態になっていることに気付いて苦笑した。
「……僕今日は平熱ですよ」
「すまない。君のことだからてっきり熱発じゃないかという気がしてね」
織田は弁解したが、静藍はこのところ体調が優れない日が多く、周りが心配しても無理はない状態だった。
目まい、ふらつき、吐き気……などなど。
今まではたまに起きる程度だったが、二・三日に一度の頻度で体調不良の日が発生していた。特に八月に入ってから顔色の悪い日の方が明らかに多い。“病魔”によりどんどん身体が蝕まれてゆくのが嫌でも分かる為、ついカレンダーを何度も見返してしまうのだ。
八月二十日。
運命の日。
静藍の十七歳の誕生日。
この日、これから先自分が“神宮寺静藍”として生きていけるか否かが決まる。
その日までに決着を付けなければ……。
――十七歳の誕生日を迎えるその日までに人間として生きるか吸血鬼として生きるかを決断せよ。どちらかを選択せねばお前の命はないぞ――
ドクンドクン……。
脈を打つ頻度は変わらないから、心臓が動いているのは分かる。
起きている時も眠っている時も休まず動き続けている心臓。
この音が聞こえなくなる日が本当に来るのだろうか?
この音を自分で聞けなくなる日が本当に来るのだろうか?
この呪いを解くことが出来なければ、その動きを止めてしまうのか……?
これから先、茉莉を救出する戦いを控えている。
吸血鬼達と戦わねばならないのだ。
戦闘は主に己の体内に宿るルフスにほぼ任せっきりになると思うが、肝心の肉体の方が万全ではないのが気掛かりである。
つい悪い方に物事を考えがちになるのは良くない癖だ。
頭では分かっているのだが……。
「茉莉の声か。彼女があたし達を呼んでるわけね。早く行かなきゃだわ! 場所さえ分かれば殴り込みに行くのに……!」
優美は右手を握り拳にし、鼻を大きく膨らませている。
「場所なら僕が分かります」
静藍の自信のある声にその場がざわついた。
どこか根拠があるような雰囲気を醸し出している。
「それは本当なの静藍君!!」
ダンッと机の上に手をついた音がした途端、優美の声が大音量で室内に響き渡った。衝撃で机上のシャープペンシルが床に転がり落ち、カシャンと音をたてる。
「ええ。僕の中にいる“彼”が案内してくれるそうです」
「……静藍君、ここのところあまり顔色が良くないみたいだけど……本当に大丈夫?」
「僕は……大丈夫です。ルフスの力をかりて何とかしのぎます」
「俺達は俺達で何とかしなくてはな」
「せめて茉莉を助け出した後、彼女にその霊剣というものを渡せるように出来ればベストよね。静藍君を助けることと、茉莉を助けこと。共通点は“打倒吸血鬼”ね」
優美はホワイトボードにキュッと音を立てて「静藍」「茉莉」「打倒吸血鬼」と黒のマーカーで書き込んだ。勢い良く書き過ぎたのか、マーカーのフタが床に転がり落ちている。
「シンプルでめっちゃ分かりやす!」
「でも簡単じゃないですよね……きっと。俺達を殺しにかかっててくるだろうし」
右京が後ろ髪を指でいじりながら眉をひそめる。
「私達はこの水晶があれば、最低限自分の身を守れることは分かりました。上手に使えば攻撃も出来ることは、先日の神社での一件で証明されています。何か武器になるものを別途準備しては如何でしょうか?」
「そうだな。茉莉君にしか彼等に最終的な止めを刺すことが出来ないから、それまでの時間稼ぎにはなれるかもしれないな」
「出来るだけ頑張ってみましょう!」
あれこれ意見が飛び交う中、コホンと咳払いが聞こえた。室内全員の視線が一斉に静藍へと集中する。
「ところで」
「戦う前にまずは相手のことを良く知るのも作戦の一つです。僕はルフスと知識と記憶を共有しています。これからみなさんにお話ししようと思うのですが、良いですか?」
「良いですよ。どうぞ。みんな静粛に!!」
紗英の合図と共に、静藍は知り得た“ルフスの記憶”を簡潔に話し始めた。
部室内は不思議な静寂に包まれていった。
「勉強会」という名目だ。
新聞部の部室は普段でも自習室化しているようなものなので、部員であれば複数人で集まっていても怪しむものは誰もいない。従って、作戦会議室としては申し分ない場所だ。勿論、夜には施錠して退室していないといけないのだが。
夏季休暇中ということもあり、みんなTシャツとジーパンといった気楽な私服である。
照り返す太陽光線をカーテンで遮断しているが、まだ冷房が充分に効いていないせいか室内は妙に蒸し暑い。
※ ※ ※
「……茉莉さん……っ!?」
静藍は後ろを振り返ってみたが、誰もいなかった。誰も座っていない椅子と机がぽつんとあるだけだ。長いまつ毛を二・三回瞬かせ、目を見開いている。
(おかしいな。確かに彼女の声が聞こえたはずなのに……)
ホワイトボードの近くの机で調べものをしていた愛梨が首を傾げる。ポニーテールに結ったゆるふわの茶髪の毛先が、肩の上で揺れ動いた。
「静藍先輩、急にどうしたのですかぁ?」
「……今……茉莉さんの声が……」
窓際の席にいる左京と右京は顔を見合わせた。互いに首を傾げている。
「全然聞こえないっすよ先輩。そら耳なんて珍しいっすね」
「……静藍君ちょっと大丈夫? 熱ない?」
織田と優美に両脇から額と後頭部を手のひらで押さえつけられる静藍。彼は自分が妙なサンドイッチ状態になっていることに気付いて苦笑した。
「……僕今日は平熱ですよ」
「すまない。君のことだからてっきり熱発じゃないかという気がしてね」
織田は弁解したが、静藍はこのところ体調が優れない日が多く、周りが心配しても無理はない状態だった。
目まい、ふらつき、吐き気……などなど。
今まではたまに起きる程度だったが、二・三日に一度の頻度で体調不良の日が発生していた。特に八月に入ってから顔色の悪い日の方が明らかに多い。“病魔”によりどんどん身体が蝕まれてゆくのが嫌でも分かる為、ついカレンダーを何度も見返してしまうのだ。
八月二十日。
運命の日。
静藍の十七歳の誕生日。
この日、これから先自分が“神宮寺静藍”として生きていけるか否かが決まる。
その日までに決着を付けなければ……。
――十七歳の誕生日を迎えるその日までに人間として生きるか吸血鬼として生きるかを決断せよ。どちらかを選択せねばお前の命はないぞ――
ドクンドクン……。
脈を打つ頻度は変わらないから、心臓が動いているのは分かる。
起きている時も眠っている時も休まず動き続けている心臓。
この音が聞こえなくなる日が本当に来るのだろうか?
この音を自分で聞けなくなる日が本当に来るのだろうか?
この呪いを解くことが出来なければ、その動きを止めてしまうのか……?
これから先、茉莉を救出する戦いを控えている。
吸血鬼達と戦わねばならないのだ。
戦闘は主に己の体内に宿るルフスにほぼ任せっきりになると思うが、肝心の肉体の方が万全ではないのが気掛かりである。
つい悪い方に物事を考えがちになるのは良くない癖だ。
頭では分かっているのだが……。
「茉莉の声か。彼女があたし達を呼んでるわけね。早く行かなきゃだわ! 場所さえ分かれば殴り込みに行くのに……!」
優美は右手を握り拳にし、鼻を大きく膨らませている。
「場所なら僕が分かります」
静藍の自信のある声にその場がざわついた。
どこか根拠があるような雰囲気を醸し出している。
「それは本当なの静藍君!!」
ダンッと机の上に手をついた音がした途端、優美の声が大音量で室内に響き渡った。衝撃で机上のシャープペンシルが床に転がり落ち、カシャンと音をたてる。
「ええ。僕の中にいる“彼”が案内してくれるそうです」
「……静藍君、ここのところあまり顔色が良くないみたいだけど……本当に大丈夫?」
「僕は……大丈夫です。ルフスの力をかりて何とかしのぎます」
「俺達は俺達で何とかしなくてはな」
「せめて茉莉を助け出した後、彼女にその霊剣というものを渡せるように出来ればベストよね。静藍君を助けることと、茉莉を助けこと。共通点は“打倒吸血鬼”ね」
優美はホワイトボードにキュッと音を立てて「静藍」「茉莉」「打倒吸血鬼」と黒のマーカーで書き込んだ。勢い良く書き過ぎたのか、マーカーのフタが床に転がり落ちている。
「シンプルでめっちゃ分かりやす!」
「でも簡単じゃないですよね……きっと。俺達を殺しにかかっててくるだろうし」
右京が後ろ髪を指でいじりながら眉をひそめる。
「私達はこの水晶があれば、最低限自分の身を守れることは分かりました。上手に使えば攻撃も出来ることは、先日の神社での一件で証明されています。何か武器になるものを別途準備しては如何でしょうか?」
「そうだな。茉莉君にしか彼等に最終的な止めを刺すことが出来ないから、それまでの時間稼ぎにはなれるかもしれないな」
「出来るだけ頑張ってみましょう!」
あれこれ意見が飛び交う中、コホンと咳払いが聞こえた。室内全員の視線が一斉に静藍へと集中する。
「ところで」
「戦う前にまずは相手のことを良く知るのも作戦の一つです。僕はルフスと知識と記憶を共有しています。これからみなさんにお話ししようと思うのですが、良いですか?」
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部室内は不思議な静寂に包まれていった。
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