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第四章 せめぎ合う光と闇
第五十八話 応酬
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ウィオラの攻撃に逃げ惑う紗英達をちらと見た後、フラウ厶は自分の前に立つ左京と右京をまじまじと眺めた。
黒いフードを完全に外すと、黒装束に身を包んだ、完璧な容姿を持つ美少年が現れる。
彼は長いまつ毛を瞬かせ、目をパチクリさせていた。
その様は無垢な赤子のようだ。
「くくく……では、こちらも始めましょうか。……おや? あなた達は初めて見る顔ですね。ボクはフラウ厶。以後お見知りおきを」
フラウ厶はにこりと微笑み、ぺこりとお辞儀をした。
燃えるように輝く赤銅色の髪。
ルチル・クォーツの瞳。
大理石のように白い肌。
天使のように愛くるしい笑顔。
何もしないで佇むだけならば、誰もが彼を天使と勘違いするに違いない。唇から覗く発達した犬歯でその本性をまざまざと思い知らされる。
季節は真夏の筈なのに背中がひやりとした。
「なあ右京。随分可愛らしい坊やだが、あいつマジで吸血鬼なんだよな!? 一見弱そうに見える奴程一番ヤバイ奴って言うよな!?」
「それ以前の問題じゃないか? 彼は人間じゃない点で俺達より間違いなく強いに決まってるさ。見かけはああだが俺達より二百歳以上も年上なんだぞ」
「先輩達から聞くところによると、“金色の雷には気を付けろ”だったっけ。魂剥かれちゃうんだったよな。刺されるとやべぇよ」
「そうだったな……て、俺達こんなのんきな話しをしている場合じゃないよな」
左京と右京が二人でひそひそ話し合っていると、どこか楽しそうな声が聞こえてきた。声がした方向に顔を向けると、美少年がにこにこ笑顔のままでちょこんと立っている。
「お二人共、二人だけのおしゃべりはここまでにしましょう。ボクも混ぜて下さいね?」
水のように透き通った瞳の奥に見え隠れする金鉱石がキラリと光った。
突然大気を真っ二つに引き裂くような激しい振動が鳴り響く。
すると、金色の光が二人目がけて落ちてきた。
それは竿を継ぎ足すようにジグザグと鋭く突っ走ってくる。
二人は顔を見合わせて「げ!」と同時に声を上げた。
「なんだありゃあ!!」
「ひょっとして……例の雷か……!?」
「やべぇえっ!!」
速すぎて逃げ切れるか自信がなかったが、二人共何とか避けようと思いっきり横に跳んだ。
すると、左京の右手に持つ雷光剣が青色に輝き、落ちてきた光を跳ね返す。
衝撃が身体全体にびりびりと伝わってくる。
その痛みで剣をつい落としそうになったが、そうならぬよう彼は必死に堪えた。
バチバチバチッッッ!!
「うわわわっ!」
「左京っ!!」
弾き出された雷はそのまま床へと激突し、大理石のようなタイルの砕け散る衝撃音が周囲に鳴り響く。
「ひええええっ!!」
二人はその場に伏せた。
そんな彼等を守るかのように青色と緑色の光がそれぞれをふんわりと包み込む。
飛んできたタイルの破片は彼等にかすり傷一つ負わせることなく、明後日の方向へと飛んでいった。
その様子をまじまじと見ていたフラウ厶は目をぱちくりとさせたが、動揺した様子は全く見せなかった。
「へえ。今回は面白いものを持っている人間が相手というわけですか。それじゃあボクも“金刃雷”以外の力を使いますね」
(やめろ! 何故その発想になる!? )
二人は心の中で叫んだが、声には出さなかった。
赤銅色の髪を持つ少年は指先を左京と右京に向け、呪文を唱え始めた。すると、彼の足元からゆらゆらと陽炎のようなものが見える。
「今度は何だ!?」
「良く分からんが、あいつが曲がって見えるぞ」
フラウ厶が得意とする“歪曲術”だ。
空間ですらぐにゃりと曲がって見える為、一点を見ようとすると感覚がおかしくなる。
二人とも真っ直ぐに立とうとしたが、目まいがして崩れ落ちるようにへなへなと座り込んだ。
「くっそ……立てねぇ……!!」
「俺達の三半規管をイカれさせてないかあいつ……!?」
二人が思うように動けない様子を見たフラウ厶はニヤリと三日月型に唇を歪めた。
「おや。もう降参ですか?」
「まだまだぁ!!」
「そうでしょうね。そうこなくては……!」
「何か楽しんでないかお前……!?」
「ボクはただ弱いだけのものをいたぶるのは嫌いなんですよ。それなりの気骨と気概がなければ戦い甲斐がないですからねぇ」
フラウ厶は見かけ以上に好戦家であることが分かった。
それと同時に自分達の置かれている状況もあまり良くないことも思い知らされる。
今の状態では身動きが取れず、逃げることすら出来ない。
芍薬水晶の力がもし負けてしまえば、きっと二人共命はないだろう。
(何とかしてこれが使えないだろうか……)
右京はフラウ厶を睨みつけつつ、ビー玉を掴んだ右手に力を込めていた。
※※※
「ウィオラもフラウ厶も軌道に乗っているようじゃねぇか。こちらも始めるかぁ!?」
手のひらを水平にして額にあてる仕草をしていたロセウスは無精ひげの生えた顎をぼりぼりとかいている。
それから指をボキボキ鳴らし始めた。
前腕にくっきりと浮き出ているのは血管だ。
それは筋肉の動きにあわせてぴくぴくと弾むように動いている。
「純?」
織田がロセウスの前に立って優美を背に庇った。
それを見た彼女は目を瞬かせ、首を傾げる。
「彼は俺が主に相手する」
「え……ちょ、ちょっと。純だけに押し付けるのは嫌よ。あたしだって役に立ちたいの!」
織田は小柄な優美の両肩に両方の手のひらを置くと、彼女は口の動きを一瞬止めた。
凛々しい顔立ちに収まっているその瞳が丸い瞳を見つめている。
彼の瞳はどこか祈るような気迫があった。
眼力に押されて優美はつばをごくりと飲み込んだ。
「君には少し下がった位置で全体を見て欲しい。奴は明らかに肉体を武器とする格闘家タイプだ。恐らく武器は持たない筈。俺は奴と接近戦となるだろう。だからこそ、俺には見えない部分を補って欲しいんだ」
織田の言わんとすることを理解した優美は二つ返事で快諾した。目をキラキラ輝かせている。
「……そういうことか。分かった。あたしは純がヤバそうな時にカバーすれば良いわけね!」
鉄扇をバットのように振り回す仕草をすると、織田の表情が若干和らいだ。
「おーい。二人でいちゃいちゃするのはそこまでにして、こちらの相手してくれ。寂しいじゃねぇか」
どこか誂うような、どこかのんきそうな声が耳に入って来た為、優美はその声がする方へと振り返った。
「あんた……ひょっとして寂しがり屋なの?」
「吸血鬼だって心はある。寂しがって何が悪い?」
「別に悪くはないけど超キモいだけ」
「優美……それは言い過ぎ……!」
二人の間で織田が顔色を赤くしたり青くしたり忙しくしている。
それに対し優美はずばずばと言葉の刃で応戦していた。本気なのかわざとなのか分からない。
「あんた、幾ら相手して欲しいからってあたしの彼氏殺したらぶっ殺すわよ!?」
「だぁーっはっはっはっ!! お前あの小娘と違ったタイプだが面白い奴だな。俺は気の強い娘が好きなんだ。気に入った! そんな奴捨てて俺に乗り換えても良いんだぞ!?」
「だぁれがあんたなんかと!」
「まあまあ……二人共落ち着いて」
ロセウスは仲裁に入る織田をちらとみると、フンと鼻息を鳴らした。右手の人差し指で顎をひと撫でする。
「おっと。本題からズレたな。おしゃべりは一旦止めだ。どこからでもかかってこい」
ロセウスは挑発するかのように中指を立てた。
黒いフードを完全に外すと、黒装束に身を包んだ、完璧な容姿を持つ美少年が現れる。
彼は長いまつ毛を瞬かせ、目をパチクリさせていた。
その様は無垢な赤子のようだ。
「くくく……では、こちらも始めましょうか。……おや? あなた達は初めて見る顔ですね。ボクはフラウ厶。以後お見知りおきを」
フラウ厶はにこりと微笑み、ぺこりとお辞儀をした。
燃えるように輝く赤銅色の髪。
ルチル・クォーツの瞳。
大理石のように白い肌。
天使のように愛くるしい笑顔。
何もしないで佇むだけならば、誰もが彼を天使と勘違いするに違いない。唇から覗く発達した犬歯でその本性をまざまざと思い知らされる。
季節は真夏の筈なのに背中がひやりとした。
「なあ右京。随分可愛らしい坊やだが、あいつマジで吸血鬼なんだよな!? 一見弱そうに見える奴程一番ヤバイ奴って言うよな!?」
「それ以前の問題じゃないか? 彼は人間じゃない点で俺達より間違いなく強いに決まってるさ。見かけはああだが俺達より二百歳以上も年上なんだぞ」
「先輩達から聞くところによると、“金色の雷には気を付けろ”だったっけ。魂剥かれちゃうんだったよな。刺されるとやべぇよ」
「そうだったな……て、俺達こんなのんきな話しをしている場合じゃないよな」
左京と右京が二人でひそひそ話し合っていると、どこか楽しそうな声が聞こえてきた。声がした方向に顔を向けると、美少年がにこにこ笑顔のままでちょこんと立っている。
「お二人共、二人だけのおしゃべりはここまでにしましょう。ボクも混ぜて下さいね?」
水のように透き通った瞳の奥に見え隠れする金鉱石がキラリと光った。
突然大気を真っ二つに引き裂くような激しい振動が鳴り響く。
すると、金色の光が二人目がけて落ちてきた。
それは竿を継ぎ足すようにジグザグと鋭く突っ走ってくる。
二人は顔を見合わせて「げ!」と同時に声を上げた。
「なんだありゃあ!!」
「ひょっとして……例の雷か……!?」
「やべぇえっ!!」
速すぎて逃げ切れるか自信がなかったが、二人共何とか避けようと思いっきり横に跳んだ。
すると、左京の右手に持つ雷光剣が青色に輝き、落ちてきた光を跳ね返す。
衝撃が身体全体にびりびりと伝わってくる。
その痛みで剣をつい落としそうになったが、そうならぬよう彼は必死に堪えた。
バチバチバチッッッ!!
「うわわわっ!」
「左京っ!!」
弾き出された雷はそのまま床へと激突し、大理石のようなタイルの砕け散る衝撃音が周囲に鳴り響く。
「ひええええっ!!」
二人はその場に伏せた。
そんな彼等を守るかのように青色と緑色の光がそれぞれをふんわりと包み込む。
飛んできたタイルの破片は彼等にかすり傷一つ負わせることなく、明後日の方向へと飛んでいった。
その様子をまじまじと見ていたフラウ厶は目をぱちくりとさせたが、動揺した様子は全く見せなかった。
「へえ。今回は面白いものを持っている人間が相手というわけですか。それじゃあボクも“金刃雷”以外の力を使いますね」
(やめろ! 何故その発想になる!? )
二人は心の中で叫んだが、声には出さなかった。
赤銅色の髪を持つ少年は指先を左京と右京に向け、呪文を唱え始めた。すると、彼の足元からゆらゆらと陽炎のようなものが見える。
「今度は何だ!?」
「良く分からんが、あいつが曲がって見えるぞ」
フラウ厶が得意とする“歪曲術”だ。
空間ですらぐにゃりと曲がって見える為、一点を見ようとすると感覚がおかしくなる。
二人とも真っ直ぐに立とうとしたが、目まいがして崩れ落ちるようにへなへなと座り込んだ。
「くっそ……立てねぇ……!!」
「俺達の三半規管をイカれさせてないかあいつ……!?」
二人が思うように動けない様子を見たフラウ厶はニヤリと三日月型に唇を歪めた。
「おや。もう降参ですか?」
「まだまだぁ!!」
「そうでしょうね。そうこなくては……!」
「何か楽しんでないかお前……!?」
「ボクはただ弱いだけのものをいたぶるのは嫌いなんですよ。それなりの気骨と気概がなければ戦い甲斐がないですからねぇ」
フラウ厶は見かけ以上に好戦家であることが分かった。
それと同時に自分達の置かれている状況もあまり良くないことも思い知らされる。
今の状態では身動きが取れず、逃げることすら出来ない。
芍薬水晶の力がもし負けてしまえば、きっと二人共命はないだろう。
(何とかしてこれが使えないだろうか……)
右京はフラウ厶を睨みつけつつ、ビー玉を掴んだ右手に力を込めていた。
※※※
「ウィオラもフラウ厶も軌道に乗っているようじゃねぇか。こちらも始めるかぁ!?」
手のひらを水平にして額にあてる仕草をしていたロセウスは無精ひげの生えた顎をぼりぼりとかいている。
それから指をボキボキ鳴らし始めた。
前腕にくっきりと浮き出ているのは血管だ。
それは筋肉の動きにあわせてぴくぴくと弾むように動いている。
「純?」
織田がロセウスの前に立って優美を背に庇った。
それを見た彼女は目を瞬かせ、首を傾げる。
「彼は俺が主に相手する」
「え……ちょ、ちょっと。純だけに押し付けるのは嫌よ。あたしだって役に立ちたいの!」
織田は小柄な優美の両肩に両方の手のひらを置くと、彼女は口の動きを一瞬止めた。
凛々しい顔立ちに収まっているその瞳が丸い瞳を見つめている。
彼の瞳はどこか祈るような気迫があった。
眼力に押されて優美はつばをごくりと飲み込んだ。
「君には少し下がった位置で全体を見て欲しい。奴は明らかに肉体を武器とする格闘家タイプだ。恐らく武器は持たない筈。俺は奴と接近戦となるだろう。だからこそ、俺には見えない部分を補って欲しいんだ」
織田の言わんとすることを理解した優美は二つ返事で快諾した。目をキラキラ輝かせている。
「……そういうことか。分かった。あたしは純がヤバそうな時にカバーすれば良いわけね!」
鉄扇をバットのように振り回す仕草をすると、織田の表情が若干和らいだ。
「おーい。二人でいちゃいちゃするのはそこまでにして、こちらの相手してくれ。寂しいじゃねぇか」
どこか誂うような、どこかのんきそうな声が耳に入って来た為、優美はその声がする方へと振り返った。
「あんた……ひょっとして寂しがり屋なの?」
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「別に悪くはないけど超キモいだけ」
「優美……それは言い過ぎ……!」
二人の間で織田が顔色を赤くしたり青くしたり忙しくしている。
それに対し優美はずばずばと言葉の刃で応戦していた。本気なのかわざとなのか分からない。
「あんた、幾ら相手して欲しいからってあたしの彼氏殺したらぶっ殺すわよ!?」
「だぁーっはっはっはっ!! お前あの小娘と違ったタイプだが面白い奴だな。俺は気の強い娘が好きなんだ。気に入った! そんな奴捨てて俺に乗り換えても良いんだぞ!?」
「だぁれがあんたなんかと!」
「まあまあ……二人共落ち着いて」
ロセウスは仲裁に入る織田をちらとみると、フンと鼻息を鳴らした。右手の人差し指で顎をひと撫でする。
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