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第四章 せめぎ合う光と闇
第六十七話 惑う芍薬
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「……!」
静藍と交代するかのように再び意識を戻したルフスは、一瞬ふらついた。右手で腹を押さえ、呪文を口走ると出血は止まった。そこではぁと、大きなため息を一つつく。
「ルフス!」
「俺のことは気にしなくて良い。ただ……」
「ただ?」
怪訝な顔をする茉莉。
それを目にしたルフスは一瞬返答に詰まった。
額から汗が輝きながら一滴、青白さを増した頬を滑らかに滑り落ちる。
「……嫌、何でもない。気にするな。それよりお前、何とか元に戻れたようだな。良かった」
「……ありがとう」
茉莉はルフスに礼を言った。
自分が危ない目に遭ってはいつも助けてくれるのは彼だ。
特に聞きはしなかったが、自分の意識を戻してくれたのもきっと彼であろうと彼女には分かっていた。
ルフスは茉莉の手に握られている刀を目にすると、一瞬凝視した後で一度静かに目を閉じた。腹を押える右手に力が籠もる。
「思っている以上に時間がねぇようだ……静藍も言ってただろ? 後はお前次第だ。急げ!」
「……分かった」
茉莉が心を決めると、温かい何かが身体の中から湧き上がってくるように感じた。
身体から桃色の光芒が放たれる。
柔らかい、透明感のある薄桃色の光だ。
すると、優美達の水晶も静かに光り始める。
ルフスの足元に落ちている二個の水晶が茉莉に向かって光を放つと、他の六個の水晶もそれに倣った。
八色の光が茉莉の身体を包み込むと、瞳の色が鳶色から桜色へと変化し、額には赤い芍薬の花の印が現れる。
長い黒髪をたなびかせ、芍薬刀を持ち佇む姿は、まるで女神が降臨したかのような神々しさを醸し出していた。
身体の周りからは薔薇に似た、優しく甘い芳香が湧き上がってくる。
「……茉莉……っ!!」
「これは……降臨というやつか?」
「先輩……! 頑張って……!!」
その光景を目の当たりにした優美達は驚きのあまり、それ以上の声が出ない。
茉莉は芍薬刀を鞘に納めた後、柄を右上にして鞘の鐺を上斜めから滑らすように帯の間に入れて差し、脇の外に鞘を出した。それから前を真っ直ぐに見据えた。視線の先には矢車菊が花開くような輝きを持つ蒼玉が二つ並んでいる。その口元はどこか皮肉げな笑みを浮かべている。
「私の術が解かれたか……まぁ良い。ならばその刀を打ち砕くまで……」
「……そうはさせないわ!」
茉莉はセフィロスを桜色の瞳で睨み付けた。
「君は名を茉莉と言ったな。このセフィロスが相手する。覚悟するがいい」
左手を出すと青い光が生じ、中から一振りの剣が登場した。
それを見た茉莉は左の親指でぐっと鯉口を切る。
それぞれの身体から光芒が立ち上がっている。それは揺らめく炎のようだ。
青色と桃色の光芒がぶつかった途端、バチバチと火花のような音が周囲に鳴り響いた。
間髪入れず茉莉の目の前に青い光が薙ぐように飛んで来るのが見える。
「……くっ……!!」
茉莉は勢いよく抜刀し、青い光を跳ね飛ばす。
身体中と芍薬刀から炎のように、ゆうらりと桃色の光芒が湧き上がっている。びりびりとした衝撃が身体中に痛いほど響き渡るが、先程までずしりと重いと思った刀が不思議と羽のように軽く感じた。中学三年生まで習っていた剣道の記憶を改めてふっと蘇らせる。
(昔の習い事がこんな形でまさか役に立つとはね……)
セフィロスの剣は目にも留まらぬ速度を持っていた。
研ぎ澄まされた感覚と身体捌きによって繰り出される剣戟は、茉莉をじりじりと追い詰める。
彼女も負けじと応戦した。右薙ぎ、左薙ぎ、とその黒装束の胴を狙うが、軽々と避けられてしまう
逆に自分は何とか避けるのが精一杯というところだ。
(強い……! 何か悔しいんだけど! 太刀筋は視えるのに……)
彼女が身にまとう白小袖と紅袴はいつの間にかところどころが切り裂かれ、血に濡れている。
露出した肌は傷だらけで見るからに痛々しい。
対するセフィロスは衣服が少し切り裂かれている位で、ほぼ無傷だ。
室内に無機質な金属音が響き渡る。
冷たく、透き通った音だ。
剣と刀が火花を散らしながら十文字に交錯する。
伝わってくる衝撃の強さに思わず刀を落としてしまいそうになるが、ぐっと堪える。
「はぁっっ!!!!」
双方一旦後方に引いて、互いに距離をとった。
「……君の持つ刀は美しく良い刀のようだな。私が遠い昔に見た刀剣より品が良い。まあ、あれは私欲の塊で作り出されたようなものだったからな」
「……?」
事情を知らぬ茉莉は首を傾げる。セフィロスは気にもとめずに語り続けた。
「あれに比べるとそれからは強い“想い”を感じる。同じ“芍薬”が関係している刀剣とは言え、随分と異なるものだな」
「え……?」
「それもそうだな。それは体内から生み出されたもの。意識を失ってもおかしくない程の痛みを伴っただろう。まともな精神では出来るまい」
「……!」
(茉莉さんっ……!! )
彼女の脳裏で自分の名を呼ぶ静藍の声が聞こえた気がした。
茉莉は右肩にビリッとした電気が走るのを感じ、顔を顰める。
右肩から血が吹き出す。
つい右肩にやってしまった視線を元に戻そうとすると、すぐ目の前に美しいサファイア・ブルーの二つの瞳があった。矢車菊の花弁が花開くように輝きを増している。
(しまった! )
茉莉はすぐ視線を逸らそうとしたが間に合わなかった。正確には、目を逸したくても抗えない衝動に駆られたのだ。飛んで火に入る夏の虫のように、青玉の瞳に吸い寄せられてしまう。
彼女は以前、ウィリディスによって強い暗示を掛けられている。その為、セフィロスの術に大変掛かりやすくなっているのだ。流石のルフスもそこまで解くことは出来なかったようだ。
「!?」
茉莉の脳にある映像が流れ込んできた。マリー・アントワネットかルイ十六世が出てきそうな立派な屋敷が見える。
(何!? これは……!? 十七・十八世紀のフランスかイギリス? )
彼女の意識がセフィロスが見せる映像に囚われた。
それは、彼の目を通して見てきた二百年以上前の出来事だった。
平和だった頃のテネブラエ。
六人で仲良く遊んだ日々。
突如として砕け散った日常。
次々と奪われてゆく平穏……。
「!」
セフィロスを庇い、剣に刺されたルフスの姿を見た時、茉莉の身体がびくりと縦に跳ねた。
(ルフス……この時に刺されたことがきっかけで一度死んだの!? )
「そ……んな……っ!!」
悲しみのあまり発狂するセフィロス。ボロボロになりながら彼を守ろうと、血だらけになりながら奮闘するウィリディス達。脳でダイレクトに見せられた光景は、茉莉の精神に多大なショックを与えるには充分過ぎる威力があった。彼女の身体から湧き上がっている桃色の光が消えかかる。
「!!」
意識が急に現実へと戻ると、大気を切り払うように切っ先が自分に向かって来るのが目に飛び込んで来た。
茉莉はセフィロスの攻撃を受け止めきれず、身を捩ってぎりぎりのところで避ける。
緋袴の右脛の辺りが切り裂かれ、黒髪の切れ端が宙を舞った。
「茉莉……っ!!」
手に汗を握りながら見守る優美達から悲鳴が上がる。
よろけながらも茉莉は何とか持ちこたえた。
「……いったいわねぇ! 何するのよ! 私の意識に今度は一体何をしたの!? 卑怯な真似するんじゃないわよ!」
鼻息の荒い茉莉にぎろりと睨まれたセフィロスは、眉一つ動かさずに答えた。
「卑怯? 私はただ君に足りない情報を与えただけだ。君の仲間達にはルフスが教えたようだが……」
「え……?」
「あれは君だけが知らなかった事実。自分一人が無知なのは嫌だろう? 物事は公平にしたいからな……」
セフィロスの言っていることは別に間違ってはいないのだが、茉莉の意志に迷いを確実にもたらした。手の中にある芍薬刀の重みが増したような気がしてならない。
自分達を襲う彼等は、二百年以上昔に起きた争いで今まで住んでいた建物も従者達を全て無くした。大切な仲間であるルフスをも失った。立て直しを図る為、ルフスを蘇らせようと静藍を狙い、完全復活を願っている……。
(彼等はただ仲間を取り戻したい一心でこれまでやってきたわけなの!? それじゃあ、私は一体どうしたら良いのよ……!! )
セフィロス自身の感情までダイレクトに伝えられてしまった為、茉莉は彼に刃を向けることが出来なくなっていた。彼はただ純粋に、大切に想う仲間に自分の元へと帰ってきて欲しいと乞い願っているのだ。その相手は自分達の味方となっている為、頗る複雑だ。
彼を斃せば、今起きている吸血鬼事件が起きなくなる。だけど、それは同時にセフィロス達を確実に不幸な目にあわせることになる。彼等は理不尽にも奪われた平穏を何とかして取り戻そうと躍起になってこれまで生き続けてきたのだ。その方法が合っているのか間違っているのかは誰にも分からない。
(でも、私がここで彼を討たなければ、静藍を確実に失ってしまう……それは嫌!! )
茉莉の瞳の色が桜色から榛色に戻りかけそうになっていた。
その時である。
カシャンと何かが床に落ちる音が聞こえてきた。ふと自分の右手を見ると、芍薬刀はそのまま無事だった。音が聞こえた先に目をやると、輝く月色の髪が目に飛び込んできた。
静藍と交代するかのように再び意識を戻したルフスは、一瞬ふらついた。右手で腹を押さえ、呪文を口走ると出血は止まった。そこではぁと、大きなため息を一つつく。
「ルフス!」
「俺のことは気にしなくて良い。ただ……」
「ただ?」
怪訝な顔をする茉莉。
それを目にしたルフスは一瞬返答に詰まった。
額から汗が輝きながら一滴、青白さを増した頬を滑らかに滑り落ちる。
「……嫌、何でもない。気にするな。それよりお前、何とか元に戻れたようだな。良かった」
「……ありがとう」
茉莉はルフスに礼を言った。
自分が危ない目に遭ってはいつも助けてくれるのは彼だ。
特に聞きはしなかったが、自分の意識を戻してくれたのもきっと彼であろうと彼女には分かっていた。
ルフスは茉莉の手に握られている刀を目にすると、一瞬凝視した後で一度静かに目を閉じた。腹を押える右手に力が籠もる。
「思っている以上に時間がねぇようだ……静藍も言ってただろ? 後はお前次第だ。急げ!」
「……分かった」
茉莉が心を決めると、温かい何かが身体の中から湧き上がってくるように感じた。
身体から桃色の光芒が放たれる。
柔らかい、透明感のある薄桃色の光だ。
すると、優美達の水晶も静かに光り始める。
ルフスの足元に落ちている二個の水晶が茉莉に向かって光を放つと、他の六個の水晶もそれに倣った。
八色の光が茉莉の身体を包み込むと、瞳の色が鳶色から桜色へと変化し、額には赤い芍薬の花の印が現れる。
長い黒髪をたなびかせ、芍薬刀を持ち佇む姿は、まるで女神が降臨したかのような神々しさを醸し出していた。
身体の周りからは薔薇に似た、優しく甘い芳香が湧き上がってくる。
「……茉莉……っ!!」
「これは……降臨というやつか?」
「先輩……! 頑張って……!!」
その光景を目の当たりにした優美達は驚きのあまり、それ以上の声が出ない。
茉莉は芍薬刀を鞘に納めた後、柄を右上にして鞘の鐺を上斜めから滑らすように帯の間に入れて差し、脇の外に鞘を出した。それから前を真っ直ぐに見据えた。視線の先には矢車菊が花開くような輝きを持つ蒼玉が二つ並んでいる。その口元はどこか皮肉げな笑みを浮かべている。
「私の術が解かれたか……まぁ良い。ならばその刀を打ち砕くまで……」
「……そうはさせないわ!」
茉莉はセフィロスを桜色の瞳で睨み付けた。
「君は名を茉莉と言ったな。このセフィロスが相手する。覚悟するがいい」
左手を出すと青い光が生じ、中から一振りの剣が登場した。
それを見た茉莉は左の親指でぐっと鯉口を切る。
それぞれの身体から光芒が立ち上がっている。それは揺らめく炎のようだ。
青色と桃色の光芒がぶつかった途端、バチバチと火花のような音が周囲に鳴り響いた。
間髪入れず茉莉の目の前に青い光が薙ぐように飛んで来るのが見える。
「……くっ……!!」
茉莉は勢いよく抜刀し、青い光を跳ね飛ばす。
身体中と芍薬刀から炎のように、ゆうらりと桃色の光芒が湧き上がっている。びりびりとした衝撃が身体中に痛いほど響き渡るが、先程までずしりと重いと思った刀が不思議と羽のように軽く感じた。中学三年生まで習っていた剣道の記憶を改めてふっと蘇らせる。
(昔の習い事がこんな形でまさか役に立つとはね……)
セフィロスの剣は目にも留まらぬ速度を持っていた。
研ぎ澄まされた感覚と身体捌きによって繰り出される剣戟は、茉莉をじりじりと追い詰める。
彼女も負けじと応戦した。右薙ぎ、左薙ぎ、とその黒装束の胴を狙うが、軽々と避けられてしまう
逆に自分は何とか避けるのが精一杯というところだ。
(強い……! 何か悔しいんだけど! 太刀筋は視えるのに……)
彼女が身にまとう白小袖と紅袴はいつの間にかところどころが切り裂かれ、血に濡れている。
露出した肌は傷だらけで見るからに痛々しい。
対するセフィロスは衣服が少し切り裂かれている位で、ほぼ無傷だ。
室内に無機質な金属音が響き渡る。
冷たく、透き通った音だ。
剣と刀が火花を散らしながら十文字に交錯する。
伝わってくる衝撃の強さに思わず刀を落としてしまいそうになるが、ぐっと堪える。
「はぁっっ!!!!」
双方一旦後方に引いて、互いに距離をとった。
「……君の持つ刀は美しく良い刀のようだな。私が遠い昔に見た刀剣より品が良い。まあ、あれは私欲の塊で作り出されたようなものだったからな」
「……?」
事情を知らぬ茉莉は首を傾げる。セフィロスは気にもとめずに語り続けた。
「あれに比べるとそれからは強い“想い”を感じる。同じ“芍薬”が関係している刀剣とは言え、随分と異なるものだな」
「え……?」
「それもそうだな。それは体内から生み出されたもの。意識を失ってもおかしくない程の痛みを伴っただろう。まともな精神では出来るまい」
「……!」
(茉莉さんっ……!! )
彼女の脳裏で自分の名を呼ぶ静藍の声が聞こえた気がした。
茉莉は右肩にビリッとした電気が走るのを感じ、顔を顰める。
右肩から血が吹き出す。
つい右肩にやってしまった視線を元に戻そうとすると、すぐ目の前に美しいサファイア・ブルーの二つの瞳があった。矢車菊の花弁が花開くように輝きを増している。
(しまった! )
茉莉はすぐ視線を逸らそうとしたが間に合わなかった。正確には、目を逸したくても抗えない衝動に駆られたのだ。飛んで火に入る夏の虫のように、青玉の瞳に吸い寄せられてしまう。
彼女は以前、ウィリディスによって強い暗示を掛けられている。その為、セフィロスの術に大変掛かりやすくなっているのだ。流石のルフスもそこまで解くことは出来なかったようだ。
「!?」
茉莉の脳にある映像が流れ込んできた。マリー・アントワネットかルイ十六世が出てきそうな立派な屋敷が見える。
(何!? これは……!? 十七・十八世紀のフランスかイギリス? )
彼女の意識がセフィロスが見せる映像に囚われた。
それは、彼の目を通して見てきた二百年以上前の出来事だった。
平和だった頃のテネブラエ。
六人で仲良く遊んだ日々。
突如として砕け散った日常。
次々と奪われてゆく平穏……。
「!」
セフィロスを庇い、剣に刺されたルフスの姿を見た時、茉莉の身体がびくりと縦に跳ねた。
(ルフス……この時に刺されたことがきっかけで一度死んだの!? )
「そ……んな……っ!!」
悲しみのあまり発狂するセフィロス。ボロボロになりながら彼を守ろうと、血だらけになりながら奮闘するウィリディス達。脳でダイレクトに見せられた光景は、茉莉の精神に多大なショックを与えるには充分過ぎる威力があった。彼女の身体から湧き上がっている桃色の光が消えかかる。
「!!」
意識が急に現実へと戻ると、大気を切り払うように切っ先が自分に向かって来るのが目に飛び込んで来た。
茉莉はセフィロスの攻撃を受け止めきれず、身を捩ってぎりぎりのところで避ける。
緋袴の右脛の辺りが切り裂かれ、黒髪の切れ端が宙を舞った。
「茉莉……っ!!」
手に汗を握りながら見守る優美達から悲鳴が上がる。
よろけながらも茉莉は何とか持ちこたえた。
「……いったいわねぇ! 何するのよ! 私の意識に今度は一体何をしたの!? 卑怯な真似するんじゃないわよ!」
鼻息の荒い茉莉にぎろりと睨まれたセフィロスは、眉一つ動かさずに答えた。
「卑怯? 私はただ君に足りない情報を与えただけだ。君の仲間達にはルフスが教えたようだが……」
「え……?」
「あれは君だけが知らなかった事実。自分一人が無知なのは嫌だろう? 物事は公平にしたいからな……」
セフィロスの言っていることは別に間違ってはいないのだが、茉莉の意志に迷いを確実にもたらした。手の中にある芍薬刀の重みが増したような気がしてならない。
自分達を襲う彼等は、二百年以上昔に起きた争いで今まで住んでいた建物も従者達を全て無くした。大切な仲間であるルフスをも失った。立て直しを図る為、ルフスを蘇らせようと静藍を狙い、完全復活を願っている……。
(彼等はただ仲間を取り戻したい一心でこれまでやってきたわけなの!? それじゃあ、私は一体どうしたら良いのよ……!! )
セフィロス自身の感情までダイレクトに伝えられてしまった為、茉莉は彼に刃を向けることが出来なくなっていた。彼はただ純粋に、大切に想う仲間に自分の元へと帰ってきて欲しいと乞い願っているのだ。その相手は自分達の味方となっている為、頗る複雑だ。
彼を斃せば、今起きている吸血鬼事件が起きなくなる。だけど、それは同時にセフィロス達を確実に不幸な目にあわせることになる。彼等は理不尽にも奪われた平穏を何とかして取り戻そうと躍起になってこれまで生き続けてきたのだ。その方法が合っているのか間違っているのかは誰にも分からない。
(でも、私がここで彼を討たなければ、静藍を確実に失ってしまう……それは嫌!! )
茉莉の瞳の色が桜色から榛色に戻りかけそうになっていた。
その時である。
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