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剣聖フラガ
しおりを挟むヴァン・クーと名乗る盗賊が目の前に現れてしまった。
お頭と言われたヴァンと名乗る男が文字通り頭だとフリードが考えつつ体格を見るとフリード並みに背が高い。それに、横にも大きくて単純な圧力は相当な物だった。手綱を握りつつレオンを見ると萎縮する訳でも無く仁王立ちで盗賊を見ている。
お頭を取り巻く連中を観察すると、ナイフを武装した細身の男や、剣を構える中肉中背の男が居た。目には迷いが無く、手慣れてた様子でジリジリとレオンへにじり寄っていく。
「俺は食料を分けて欲しいんだが?」
「くっ、はっはっはっ。まだ自分の状況が分かってねえようだな。お前らは自分の命さえ無いと思え」
下品に笑う男達を尻目にレオンはフリードに話しかける。
「ここはお前に任せたいが――色々と後ろめたい気持ちが数ミリ存在する。そこで見てな」
流石にレオンは自分でなんとかするらしい。
「歯向かおうってのか? そんな手ぶらで元冒険者のヴァン様に勝てる訳ないぜぇ」
細身の男が顔を立てて満足そうにヴァンも頷いていた。五対一の状況だけを考えると此方は圧倒的に不利でどうしようもない。とはいえ、フリードが参戦するのは話が違った。
なにより、勇者パーティのリーダーが『見てな』と指示を出している。
だからこそフリードは手を出すつもりが一切無かった。
「ナイフに剣と槍か……でっかいのが大ぶりの斧を持ってるな。最後の一人は手ぶらか? いや、細い杖を持ってんのな。んじゃ、俺はこれで相手しよう」
そう言ってレオンが天へ手を掲げるとその手には木刀が握られていた。殺傷能力が明らかに低い道具を何もない空間から出現させている……これがレオンの持っているスキルだとフリードは興味津々に見ていた。
武器を貯蔵できるスキルだとしても不利な状況に変わりない。
「そんな獲物で十分ってか? お頭ぁ! ネーラがいっちょカマしてやりますわ」
そう言いナイフを握る手に力を込めてレオンへ近づいた。
「そんな棒切れで刃物に勝てると――思うなよッッッ!」
ネーラは笑いながらナイフを放り投げた。
レオン目掛けて投げたであろうナイフはくるくると回りながら明後日の方向へ飛んで行く。そのナイフをレオンが目で追うと新たなナイフを取り出した。刃物に気を取られた相手を本命のナイフで斬りつける姑息な手でレオンに襲いかかる。
「剣聖フラガを知ってるか?」
気にも止めずレオンは軽く木刀を振ると握られたナイフを叩き落とした。木刀の先が綺麗な孤を描き手首の骨と木刀がぶつかった音をフリードは聞いた。
簡単に獲物を取り上げられた男は声にならない悲鳴を上げてその場にうずくまるも……にらみつける顔は笑っていた。
「何が剣聖フラガだ。そんなおとぎ話に意味はあんのかよ!」
「今の俺は剣聖だと思ったほうがいいぞ?」
レオンはうずくまる男を見ながら後ろを見ず木刀を振るとナイフが地面に突き刺さる。先程、男が投げつけたナイフがレオンに狙いをつけていたのだ。
「なっ、お頭ァ……こいつ意外とやりやがる。スキル『射的』が失敗だぁー」
元冒険者という情報から全員がスキルを扱うと容易に想像できるフリードは自分に攻撃が来ないか警戒しつつレオンを見守っていた。手首を木刀で殴られ痛がる男を見て剣を握った男が口を開く。
「こいつは本当にただの木刀しか持ってないですぞ。それならこの剣でカロンにお任せくだせえ」
見るからにおぼつかない手付きで剣を握る手を上に振り上げレオン目掛けて斬りかかる。その単純な剣先をレオンは少しだけ左に身を躱すだけで避けた。そして、木刀の柄でカロンの頭をゴツンと殴りつけバランスを崩したカロンが剣を手放して転ぶ。
「ちっ、これだから剣はダメだ。相手に近づくだけでリスクってモンがあんだよなぁ!」
槍を構えるムッシャが一歩前に出た。それを見てカロンは剣を広い一目散にお頭の元へ駆け寄る。
「さっきの奴はスキルを使ってなかったみたいだが……お前はどんなスキルを使うんだ?」
レオンは手首で木刀を回しながら槍使いへ話しかける。しかし、返答は無かった。何故なら槍使い――ムッシャのスキルは『夜目』で夜に他人よりも周りが見やすいスキルを所持している。
この近距離で日が高い現状では使えるスキルでは無く、それを知る由もないレオンは警戒していたがムッシャは体重を乗せ槍をレオン目掛けて撃ち放った。
真っ直ぐとレオンの腹目掛けて飛び立つ槍に対し、レオンは木刀を正面でくるくると槍の周りを回したかと思うと上に弾いた。勢い余ってムッシャの手から槍が離れ、レオンの足元にカランと音を立てて転がる。
「武器が無くなったら近づいてくんのか?」
「くっ……」
剣を使うカロンは手元に武器があるけれど、ムッシャに関しては回収不可となってしまった。
「どいつもこいつも……下がってろ野郎共ォ!」
両手で斧を握る大男のヴァンが手下共を下げて前に出た。横幅の大きく体当たりしても弾かれそうな体格はレオンと比べるまでも無く雲泥の差だ。素手同士なら勝てないと素人目に見える状況にレオンはあいも変わらず木刀しか持っていない。
「勇者フラガってーと、おとぎ話のまやかしよぉ。誰よりも早く相手を斬りつける風に愛された男って話だったはずだ。それがどうよ、明らかにおとぎ話とは掛け離れているんじゃねーか」
目にも留まらぬ剣撃も一瞬で距離を詰める速度もレオンは出来ていない。
「それがよぉー。俺様もそう思ってたところだ。なんか調子悪いんか? やっぱ飯が足りてないのかもしれん」
弁明する訳でもなくレオンもヴァンのセリフに頷いていた。
「けっ、そんな野郎なんぞこれで終いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
体格に合わない軽快な動きでヴァンは距離を詰め、両手で握る程の大きな斧をレオン目掛けて振り回した。流石に木刀で斧を受け止めては一溜まりもなく粉々に壊されるのでレオンもヴァンの一撃を受け止める事は出来ない。
レオンは後ろに下がって一振りを躱し前に出た。
二撃目が来る前にレオンは木刀を大きく上に振りかぶり更に一歩前に進みながらヴァンの右肩へ狙いをつけ振り下ろした。
ヴァンは所詮木刀……当たっても物が斬れる訳でもなく、鈍器で殴られる程度だと確信していた。先にやられた手下共も手首を擦っている程度だ。体重差も二倍はあり、威力はたかが知れている。
小さな子供が棒を振り回してビビる大人は存在しない。
ヴァンは肉を斬らせて骨を断つ想いでレオンの一撃を甘んじて受ける選択を取った。恵まれた自分の体格を信じ、往復する二撃目で真っ二つにしてやろうと内心――勝利を疑わうことはなかった。
「ぐあぁぁぁあああぁ」
突然、野太い悲鳴がヴァンの耳を支配した。あまりにも何が起きたか理解出来ずに数秒後……その悲鳴が自分の口から溢れ出る物だと気づく。溢れる涙に紛れて微かに地面を転がる自分の武器を見つけた。
「お頭アアアァァァァァァァ」
無傷で後ろに居た杖を持つ男――ザリーがスキルを使った。
杖から溢れ出る真っ黒な煙は周囲を纏い始めるも、レオンは左から右に木刀を振るっただけで暗雲が消えた。余りの剣圧に離れたフリードの前髪を風がなびく。
そして、レオンはゆっくりと近づき倒れているヴァンの首筋ギリギリに木刀の先を突き立てた。
「食料を分けて欲しい」
最初と要求は変わらずレオンは食料が欲しいだけだ。その言葉を聞いて顔を真っ青にしたヴァンは薄ら笑いを浮かべながらウンウンと頷く人形となる。
「フリード。なんでも持っていっていいらしいぞ」
レオンは笑顔でヴァンの想いをフリードに伝えた。
「そうか。まったく……いい人たちに出会えて良かったよ」
フリードはそう言いながら盗賊の馬車へ歩き中身を物色し始める。人が入りそうな袋が三つあり、一つ目を開けると中には煌めく食器や金貨が数枚あり古そうな箱が入っていた。中身を開けるとうっすら紫が浮かぶ宝石の様な石が、こぶし大の大きさで入っていた。
フリードに鉱石関係の知識は無く、恐らく価値ある物だろうと想いつつ次の袋に手をかける。
男四人で馬車を引いているだけに大量の肉が姿を現した。その量はフリード達がエデンを発つ時の積荷量と遜色ない。
目的の食料は見つけたが全てを貰う訳にはいかず、残りの袋にも同じ様に食べ物が残っているか確認した。
すると、袋の中には小さく丸まり口には猿轡を施された女性が姿を見せる。
闇の中から突然現れた光に瞬きをしながら女性は何やら訴えているがフリードには聞き取れない。何より怯える表情が真っ先にフリードへ向けられて自分が悪い事をしたような錯覚さえ感じていた。
次第に目が慣れた女性はフリードの顔を見て何かに気づく。
それは自分を誘拐した盗賊連中と違って清潔感のある色男だった。
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