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二章 激闘!武闘祭(なかまに なりたそうに こちらをみている!)

第13話

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 控え室の扉が開いた。
 俺の許可を待つまでもなく中へ入ってきたのは、俺やイレミアスと同じ東の収容所所属の勇者、ランプレヒトだった。こいつは武闘祭に参加している、おまけに本選にも残っていやがる。おおかた盤外戦をしかけにきたか、もしくは単なる嫌がらせにきたんだろう。
 「あ、何てめえ勝手に入ってきてんだよ。人の部屋に入る時はノックしなさいってママに教わらなかったか?」
 俺は最初からケンカ腰だ。
 ランプレヒトは、部屋にイレミアスがいるのに気づいてやや驚いた様子をみせたが、すぐに調子を取り戻した。イレミアスが俺とつるんでいるのは珍しいことじゃなかったのだ。
 「はっ、ノックゥ~?おまえがそんな上品な玉かよ。それともあれか、ナーバスになっちゃってんのか、試合が怖いよ~てなもんか」
 ランプレヒトは整った顔をゆがませていった。金髪に碧眼、彫りが深く高い鼻梁、まあまあの美男子だが、そのハンサムガイぶりが鼻につく。一言でいうならランプレヒトは中途半端な美形だった。また、その中途半端具合がムカつく。いや、本当にムカつく顔だ。こいつは人をムカつかせることにかけては天才的だな。大体、俺と年がそうは変わらないおっさんの癖して、何スカしてやがんだ。
 ランプレヒトは俺やイレミアスとは違い、大団円型の勇者だ。悲劇型とは違い、ハッピーエンドで話を終えるタイプの勇者だ。大団円型勇者のもとには、彼を慕い仲間が集う。その仲間たちと力を合わせ、悪を滅ぼし、めでたしめでたしで終わるのが大団円型である。能力は悲劇型と比べると劣る(それでも普通の人間より段違いに強い)が、それを埋め合わせるように人望と強運を持っている。魔王を倒す旅の途上で出会う仲間や勇者を導く人々、これらは偶然にあらわれたように見えるが、それらを呼び寄せたのは他ならぬ勇者自身の強運なのである。
 この大団円型勇者は魔王を倒した後、そのまま、国を興すケースが多い。確か、三大国の内、サウニアルはその始祖は勇者であったはずだ。
 本来は人望あるはずの大団円型勇者だが、目の前のこいつ、ランプレヒトは例外だ。その口と根性の悪さが災いして、収容所内でも鼻つまみものとして通っている。収容所内の非公式アンケートでは、こいつは友達になりたくない部門で毎回、堂々の一位を記録している。ま、万年二位の俺もたいがいだが。
 いつもなら舌戦に終始するところなんだが、俺も脱走を控え気が立っていた。
 胸倉をつかみ恫喝した。
 「死にてえのか、コラ」
 「んだ、やんのか」
 ランプレヒトも返す。しかし、こりゃチンピラのケンカだな。我ながら勇者とは思えん。
 まあまあ、とイレミアスが間に入った。勇者の中の勇者に仲裁されては、引き下がるしかない。俺もランプレヒトも拳をおさめた。
 イレミアスは俺とランプレヒトに無邪気な笑顔を浮かべた。
 「友達になりたくない部門一位と二位がケンカすることもないよ。どうせ友達いない同士なんだし、仲良くしたらどうだい?」
 これには、俺とランプレヒトも口を揃えていった。
 「三位のおまえがいうな!」
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