マインズ・アイ

貴林

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新任の学級担任

草津大吾の不審な行動

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ホームルームも終わり、八木島も医務室で間も無くして意識を取り戻し教室に戻ってきたが、頭の痛みが続いていた。
何が起きたのか、本人もまるでわかっていなかった。額に激しい痛みを感じたことは覚えていると言う。
教室を出て行く草津は、ボソリと呟いた。
(スポイルされなかっただけ、有り難く思え)
ざわつき始めた教室では、誰にも聴こえていなかった。ただ一人を除いて。
緊張した表情で、草津に耳を傾けている彩音。
(スポイル?どう言う意味なの?)
「おい、彩音?」
彩音は昌樹が声をかけたのが聞こえないようだったので、ポンと、彩音の肩を叩く。
飛び上がるように、驚いている彩音。
余程驚いたのか、胸に手を当て、俯いてしまう彩音。
「ご、ごめん。呼んだのに聞こえなかったみたいだから」
「平気、大丈夫」
「本当にごめん」
「ほんと、平気だから」
「なら、いいけど。彩音、なんかおかしいぞ」
「そお?いつもと変わらないよ。ところで昌樹」
昌樹は、背もたれを抱えて彩音の顔を覗き込む。
「なに?」
「・・・スポイル って、何か知ってる?」
「すぽ?なんて?」
「スポイル」
「スポイル?」
すかさず、雫が鞄から携帯を取り出している。
「え~とね、スポイルとは」
※スポイルとは
台無しにすること。(人間を)だめにすること。 の意味。
「だって。それが、どうかしたの?」
草津が呟いていたとは、言えなかった彩音。
「ううん、別に」
「何気に、おっかねえ言葉だな」
隆道も話を聞いていたのか、口を挟んできた。
「それにしても、光也の奴、どうしたんだろな?急に倒れるなんてよ」
雫が、額の中央を指で押さえながら、吹き出している。
「蜂にでもさされたんじゃないの?赤く腫れてたし」
「そんなんじゃない」
下を向いたままの彩音が何やら呟いていたのを、昌樹は聞き逃さなかった。
「彩音?今なんて?」
慌てて、悟られまいとする彩音。
「ううん、なんでもないよ。昌樹」
「そうか?本当に今日は変だぞ。彩音」
昌樹は、確かに彩音が、そんなんじゃないよ と言ったのを聞いていた。
彩音が、人一倍耳の良いのを知っている昌樹は、光也のことで何か知っているのではないかと気がつき始めている。
でも、今は話したくなさそうな彩音だったので、後でこっそり聞いてみようと思っていた。
彩音は、昌樹が視線を向けているのを感じ取っていた。
「彩音、ちょっくら、トイレ行ってくるわ。また後でな」
彩音の肩をポンと叩くと立ち上がる昌樹は、教室を出ていった。
彩音も、立ち上がると昌樹を追うように出て行く。
「なんだ、彩音も連れションか?」
隆道は、デリカシーのかけらもないのか。雫に頭を叩かれている。
「あんた、バッカじゃないの?」
「いて。そう思ったから言っただけじゃねえかよ」
「思ってても口にしないよ、普通。特に女子に対して」
「へいへい、だったら、俺は糞してくるわ」
「汚いよ隆道、黙って行ってきて」
「ほ~い」
隆道は、立ち上がるとズボンのポケットに手を突っ込むとガニ股でわざとらしく出ていった。
雫は、誰もいなくなって、急に退屈になった。それとなく教壇に目を向けた。
何か、キラリと光るものを机の上に見つける。
周りをチラリと見ながら、誰も気がついていないのを確認すると机に近づく雫は、そこに鈍く輝くものと比較的真新しく輝くものがあった。
「鍵?」
それとなく手にすると、そそくさとスカートのポケットにしまうと自分の机に戻る雫。ポケットから鍵を取り出し、古く最近では見ることのない真鍮製の鍵と今時の洋白製の鍵が二本、古ぼけたタグと一緒にリングに通されていた。タグは角が擦れ白茶けて裏側から文字が反転して浮かび上がっているのに気がつきクルリと反転させた。そこには、マジックで書かれているが、すっかり滲んで読み取りにくくなっていたが三つの文字が書かれているのが読み取れた。
「旧校舎?」
近いうちに取り壊し予定の木造の旧校舎の鍵のようだった。
それをスカートのポケットに仕舞い込む雫は、何事もなかったような顔をする。
その様子を廊下にいた草津大吾が、笑みを浮かべて見ていた。
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