蜃気楼の向こう側

貴林

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8 捕虜収容所

俊とナミリア

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ロムル軍 捕虜第一収監所
地下 牢屋

俊とナミリアは、同じ柵内に囚われていた。優秀な人材として拘束はされていなかった。
周囲を見ると、天井から鎖で繋がれている者。壁に逆さまにはりつけにされている者。ひどいものでは、直角に曲がった木材に腰の下だけを固定され、後ろ手に縛られて前屈みの状態で、直ぐ背中には、板があって体を起こすことが出来ない上。前には水を溜めた大きな桶があって、前に屈むことすら許されなかった。あまりの苦しさに自ら水の中に顔を沈める者もいる。

そこへ指揮官らしきものが、俊たちの元に近づいてきた。
「どうだね、手伝う気になったかね」
「誰が、あんたらみたいな連中に手を貸すものかい」
「威勢のいいのも、どれだけ持つかな?」
「けっ」
「スグル殿は、どうですかな?」
キッと、指揮官らしき者を睨む俊。
「この地の平和のために使う物なら協力もします。民を苦しめる物なら協力出来ません」
「そうか、わかった。時間はまだある。じっくり考えて答えてくれたまえ」
兵士たちが、立ち去ると
「クソったれ」
ガシャン! ナミリアが、鉄の格子を叩く。
「うるさいぞ、眠れないじゃないか」
壁を隔てた隣りの部屋から男の声がする。
「わ、悪かったよ」
ドスンと座り込むナミリア。同じように囚われ、身動きが取れないでいる同じ立場の者がいるのを忘れていた。
声のする方に近づくと柵に顔を押しつけて隣の男に話しかける俊。
「あの、少しお話いいですか?」
「ん?なんだ」
「あ、私はスグルと言います。そちらは?」
「どうでも、いいだろう。で、話ってのは?」
「単刀直入にお尋ねします。ここから、出られた人はいますか?」
「ああ、いるよ」
ほんとか?と、体を乗り出すナミリア。
ちょうど、兵士が生き絶えた者の鎖を解き連れ出そうとしている。
「ああすれば、外に出られるさ」
「あ、あんたね、それじゃ意味がないんだよ」
ナミリアが、立ち上がり柵を掴み男に怒鳴りつける。
これを聞いた兵士が、棍棒で柵を叩く。
「静かにしないか?貴様も、鎖で繋がれたいのか」
けっと、座り込むナミリア。
兵士が引き上げるのを確かめる俊が再び、声を掛ける。
「他に、生きて出られた人は?」

「そうだな、大人しく従って奴らの言いなりになりゃあ、出られるだろうな」
「あなたは、なぜ、そうしないのですか?」
「へっ、俺にも誇りってものがあるんでね。死んでも従わねえよ」
死しても尚誇りを保とうとするからには、相当な意志の強さを持つ人に違いなかった。
「もし、ここから出られるとしたら」
「ん?」
「協力して頂けますか?」
「何を、バカな。そんなことが出来るんだったら、なんでもしてやるよ。なんなら、お前の家臣になってもいいぞ」
ニヤリとする俊。
「約束ですよ。ここを出られたら、協力して下さいね」
「ああ、しつこいぞ。男に二言はない」
「わかりました」
言うと、ナミリアに視線を送り、胸元から、あるものを取り出す。
「あ、その手があったか」
俊の手の中には、結晶石の付いたネックレスがあった。
ボワンと消える俊は、柵の外に出る。
壁にかかった鍵を取ると、男の元に歩み寄る。
「今、開けますね」
ガチャガチャと音を立てて、開かれる格子の扉。
格子の向こうで男が驚いている。
「ば、バカな。お前、な、何を?」
「後で説明します。今は逃げますよ」
立ち上がる男は、扉を出てくる。
俊は、ナミリアのいる柵の扉を開ける。
身を屈め、忍び足の三人。
階段の先の扉を目指す。
扉の向こうに、兵士が二人。
俊は、落ちていた小石を拾う。
ゆっくりと扉を開き、兵士の向こう側に小石を投げる俊。
音のする方に、気を取られる兵士たち。
この隙を逃さないナミリアと男。
後ろから忍び寄り締め上げる。
静かに、光の差さない暗影に兵士を寝かすと再び、上を目指す。
俊は、壁に掛かる弓と矢筒を見つけると、手に取り背中に背負った。
階段を上がると、広間らしき所に出た。壁の上に見張りが三人。広間には、焚き火を囲むように二人。
まずは、遠く壁の上の見張りを矢が狙う。他の見張りから、視界が外れるのを待つ俊。
ビュッと、風を切る音。トスッ
まずは、一人。
次に、向かい合い回話をしている二人。一人の後方を矢で射る。カツン
壁を叩く音。それに、気づいて二人がそちらを向く。
一人が、動き始める。二人の距離が離れたのを見計らって、矢を射る。二人目。すかさず、気づかれる前にと、残る一人に矢を向ける俊。
それを、手でさえぎられ、引き絞った弓を戻す俊。
すぐ側まで、兵士が来ていた。まだ、一人いたのだ。
男が、口に指を当て、シー、とする。
「おい、誰か来てくれ。やられてるぞ」
壁の上の見張りが声を上げる。
気づかれた。人を呼ばれたら、全て水の泡だった。
すぐそこにいた兵士が、声のした方を向いている。男は、兵士を羽交い締めにすると力を込める。コクンと、鈍い音がして兵士が生き絶える。
その異変に気づいた焚き火のそばの兵士たち。
すると何故か、残った三人は、そのまま動かなくなった。
焚き火の揺れる光の中に、二人の兵士のそばに、二つの影が見える。
蓮華と京介であった。壁の上で、ドサッと倒れる音。その側には、麗美がいた。
ああっ!と、明るい表情を浮かべる俊。
瞬時にして、俊の近くに歩み寄る三人。
「皆さん、来てくれたんですね」
「俊ちゃん、良かった」
蓮華が、俊を抱きしめている。
ナミリアと麗美は、激しくハグをしている。
京介は、男を見やると
「この人は?」
「味方です」
蓮華に抱きしめられながら、俊が言う。
「話は後で、早く、ここを出ましょう」
麗美が、外への門を指さす。
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