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ニ突き目 まさると歩

カミングアウト

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昨日の涼介という男が気になった恵だったが、なかなか切り出せずにいた。暴力団関係であることは、わかっていたが、張り詰めた場を一瞬で鎮めてしまったことが、恵の好奇心を駆り立てていた。
何はともあれ、恵にとって今日は特別な日であった。以前から約束のあった高校時代の友人と会うため、心躍っていた。
一旦帰宅しためぐむは、一城の運転するワゴン車を降りる。
「すみません、家まで送って頂いちゃつて」
「礼には呼ばないよ。それより、高校ん時以来なんだろ?」
「はい、なので、すごく楽しみで」
一城は、窓枠に肘を乗せると恵に対して微笑んだ。
「そっか、楽しんで来いよ」
「はい、ありがとうございます」
「暇が出来たら連絡してくれ」
「はい、連絡します」
しばしの別れが辛く思える恵に対し、
手招きをする一城。なんだろうと近づく恵、口元に手のひらを持ってきて内緒話でもするかのような一城の口元に顔を近づける。
一城は、そのまま、手で覆い隠したまま恵の頬にキスをする。
えっと、一城に向き直った恵に対して今度は正面から唇にキスをした。
軽いタッチだったが、恵の胸が苦しくなった。
「じゃあ、またな、恵」
走る車の窓から手を振る一城。
ブレーキランプが五回、点滅して愛してるのサインを送る。
「古すぎだよ、一城さん」
でも、嬉しかった。
だんだん、そういった行為が普通になってきていた。

角を曲がり見えなくなった一城の運転するワゴン車を見送るとスマホのメッセージの着信音が鳴る。
「お、あゆむからだ」
スマホの画面を見ながら、思わず胸弾ませる恵。
[駅まで迎えに行くね 久しぶりだから驚くよ。きっと 歩]
橘歩たちばなあゆむ、高校時代の同級生で、俺と同じように女の子みたいな名前から、〈めぐみ & あゆみ〉 と、周囲から馬鹿にされて、常に一緒にいることを強要された時期がある。二人が親友になれたきっかけにもなった。
歩の住むアパートまで、電車で二駅のところだった。
時計を見る恵。
「もうこんな時間か」
階段を駆け上がると慌てるように部屋に入る恵。
シャワーを浴び、白のロングTシャツに、サックスブルーのデニムパンツに着替えるとスニーカーを引っ掛けて、部屋を出た。

        ・・

恵の乗る電車が、まもなく目的の駅に到着しようとしている。
メッセージがまた届く。
[改札を出たところで、待ってます 歩]
スマホの画面の上で、恵の親指が踊る。
「あは、も、う、す、ぐ、つ、く、よっと、送信」
スマホを、ポケットにしまうと待ち遠しくて窓から電車の向かう先を見つめた。
間も無くして駅に到着すると、足早に改札を出る。
取り分けて大きなビルもなく、拓けたロータリーを商店が立ち並び、コンビニがある。昔はたばこ屋を備えた駄菓子屋だったと聞く。
一角に喫煙所があって、数人が灰皿を取り囲んでいる。
煙を掻き分けて通り抜けると販売機が立ち並んだ所に、ベンチが置いてある。
そのすぐ横にクレープを売っているワゴン車が止まっていて、甘く香ばしい匂いが、恵のは鼻をくすぐっていく。
歩が来たら食べようかな。そんなことを考えながら、間も無くだと思いベンチに腰掛けることもなく待った。
「この辺でいいのかな?」
居住を主にしたこの一帯は、人と通りも少なく、待ち合わせに打ってつけの場所であった。辺りを見るが、まだ来ていないようだった。
クレープ屋さんを挟んだ反対側に、白のブラウスに、ベージュのフレアスカートの女の子と、一瞬、目があったがお互いが目を背けてしまう。
気のせいか、その女の子は、こちらをチラチラと見ては、照れくさそうしているように見えた。
恵は、女の子にどこか見覚えがあったが、あまり、ジロジロ見るのは失礼だと視線を合わそうとしなかった。
「コンビニの方に行ってみるか」
恵は、女の子の前を通り過ぎながら、軽く会釈をした。
女の子は、何か言いたそうに恵を目で追っている。
女の子の前を横切った間も無く、シャツの裾を引っ張られる恵。
振り返ると女の子が、顔を伏せたまま恵のシャツが伸びるほどに引っ張っていた。
「え?あ、あの、何か?」
薄い紅を塗って、髪の毛を後ろで束ねている。その子は、微かに頬を赤らめてたが口を開いた。
「め、恵。あ、歩だよ」
言葉少なく名乗る女の子。
女の子にシャツの裾を引っ張られたままの恵は、そのまま固まった。
「え?ええええええええ」
メチャクチャ、驚いた。普通に見たら、普通に女の子だった。が、よくよく見ると歩の顔だった。確かに、あの頃から可愛い感じはあったが、ここまで変わるとは思いもしなかった。
「あ、歩?」
恵の問いに、ただコクリと頭を下げる歩。
「ほんとに?」
再びコクリとする歩。
「ほんとに、ほんと?」
「う、うん」
ようやく、歩から返事が返ってきた。
あの頃よりも、少し見た目が細くなっている気がする。
平な胸が、その細身な体に自然で違和感がなかった。
しつこく聞かれて少しむくれて頬を膨らませる歩が、すごく可愛かった。


少し距離を置いて歩く恵と歩は、トボトボと歩の住むアパートにむかっていた。驚きのあまり予定していたクレープを買うのを忘れていたことを思い出している恵。
少し後ろを歩く歩。下を向いたまま、言葉をほとんど発しない。
お互いに、変に緊張していた。
恵には初めてくる場所なので、アパートへの道筋がわからなかった。
「どっち?」
指で、方向を示す歩。
こうして、歩のアパートにたどり着くと歩の部屋に入った。
恵は、男の部屋を想像していた。が、まるで違った。
部屋の中は、女の子の部屋、その物だった。
化粧品が並び、ぬいぐるみがいくつか置いてあって、ハンガーラックには色鮮やかな洋服が隙間なく吊るされていた。淡いピンクのカーテンのせいもあり、部屋全体がピンク色をしていた。
呆然と立ちすくむ恵の横に立つ歩。
「驚いたよね?」
やや作られているが、歩の懐かしい声だった。
「あ、うん、まあね。まさか、こんな趣味があったとは、思わなくて」
歩は、驚いた表情をして見せる。
「趣味?」
「あ、いや、ごめん、そういう変な意味じゃなくて、あの」
ソファに腰を下ろす歩の横に恵も腰を下ろした。
「平気だよ。まだまだ、未完成だし」
歩は無理に笑顔を作っているが、目が輝いている。
「未完成、て?」
すぐ横に女になった歩がいるのを意識してか、ドキリとす恵。
「あ、ある時ね。気づいたんだよ」
「何に?」
歩は、少しモジモジするとチラリと恵を見た。
「男の人が好きだってこと」
「お、男・・」
実は、俺も今気になる男がいるんだ。とは、言えなかった。
歩は、話を続けた。
「だからね、手術を考えてるんだ」
「手術?なんの?」
「あのね、せ、性別適合手術」
性別を適合させる手術
「へ?それって?」
うんと頷く歩。
「私、女の子になりたいの」
「え?」
「心は、あの頃から女だったの。だけど、体だけは・・・体だけはどうにもならなくて」
今のままでも十分可愛い。と恵は思った。が、確かに平すぎる胸と股間の膨らみは隠しようがなかった。
見るとハンガーに真新しいベージュ色のパンツが吊るされていた。
「そっか、そうなんだ」
恵も、その気持ちがわからないでもなかった。
一城といたい、一城がもっと自分を好きになってくれたら、と女性の体をした自分への憧れさえ抱くこともあった。
「今日は、恵に会うのを心待ちにしていたんだよ」
「え?」
歩が恵を見る目が、少女のように輝いていた。
「・・・好き、だったんだよ、あの頃から」
「え?」
「恵が、好き・・・」
可愛いと思った。気づいたら男の自分がここにいた。
歩が、恵に擦り寄る。
「恵、お願い・・・キスして」
恵は、ドッキリした。女の子に告られ、求められるってこんな感じか?と錯覚するほどだった。
「え、あ、いや」
男とわかっていながらも、歩の胸元に目が行く恵はブラウスの隙間から、白くやや骨張った胸元が見た。顔だけは、女の顔をしていた。
胸のボタンを外すと肩からブラウスを脱ぎ始める歩。
白く華奢な体が露わになる。
「な、何を?」
大胆にも、恵の大きくなり始めたそれを、歩は握りしめた。
「あ、ちょ」
思わず、声を漏らす恵。
「あ、恵が欲しい」
「あ、歩?」
確かにあの頃、俺も歩が好きだったのかもしれない。時々見せる女性らしい仕草に、ドキドキしたこともあった。
「女になる前に、あなたに抱かれたい」
「な・・なんで?」
「生まれ変わる前に、あなたを覚えておきたい。・・・忘れたくないから」
「歩・・・」
本気なのがわかった。歩は、女になろうとしている。それも、好きな男に抱かれたい一心からだろう。
「歩?ほんとにいいんだよね?」
「え?」
「これからすること、後悔しないんだよね?」
「うん」
一城さん、こういう場合、謝るべきことなのかな?
一瞬、ためらったが心は決まっていた。このまま、歩を放っておけなかった。
恵は、歩の、肩を抱くと唇を寄せた。
チュッと、唇が離れる。
「嬉しいよ、恵」
これから俺は男の体をした。女である歩を抱こうとしている。
もう一度、唇を重ねる二人。
歩は、女としての吐息を吐いた。
歩の平な胸の小さな粒を、つまんだ。コリコリとすると身を縮める歩。
お互いに着ているものを脱ぎ裸になると、恵は歩を支えながらすぐ横にあるベッドに倒れ込む。
キスをする恵。深くそして、唸るように絡み合う舌。
お互いの熱が、頬を赤く染める。
熱い息が、すぐそこで交差し合う。
歩が恵を見て微笑むと恵も笑みを浮かべていた。また、互いの舌を絡め合う。
恵は、歩の耳に口を持っていくと、溝の中を舐め回した。恵の息が耳にかかり、ビクリと体を震わせる歩。
互いがたまりかねて、それぞれが相手のものに触れる。
二人とも硬くなっている。
互いの手が上下する。
吐息が漏れる二人。
恥ずかしさから、互いに口を封じ合う。キスをすることで、声を殺している。
息の苦しさが、二人の興奮をより高い物にしていた。
歩は、クルリと背を向けると四つ這いになった。
「舐めてくれる?安心して、アナル洗浄はしてあるから」
こうなることは、想定済みだった歩。
この分野では、歩には敵わなそうだった。
舐めてと言われたが、恐る恐る口を寄せる恵。
歩の体臭だけだった。ずっとそばにいたから、覚えていた。
舌先を伸ばし、穴に触れる。
大きく身をそらせる歩。
「ああっ。ご、ごめん、少しびっくりした」
「いいよ」
歩の片方のお尻にキスをする恵。
身をよじる歩。
再び、舌を寄せる恵は、少し舐めるとグシュグシュと音を立てて、舌と唇で歩の穴を攻めた。
逃げ出そうとする歩の腰を両手で掴む恵。クネクネとお尻をくねらせる歩。
「あー、すごい」
その声に答えるように、恵は、歩の肉棒を握るとゆっくり上下させる。
ビクンと、跳ね上がるとトロリとした液が滲み出る。
「まっ、待って。恵。今度は私が」
恵に立つように促すと、歩は目の前の肉棒を握ると袋の玉を、口に含んで転がした。
「ああああ、歩」
歩は、手慣れていた。恐らく何度か男との関係があったのだろう。
唇を玉から離すと、剥き出しになった頭を咥え込んだ。ジュッポジュッポと、吸いながらの刺激がさらに頭を膨らまれている。
たまらず恵も先端を濡らす。
すがる思いで、歩の頭を抱える恵。
片手で恵を掴みながら、もう片方で自分をシゴく歩。
二人が離れると、肩で息をしながら、歩が何かを手に取って、恵に差し出す。
「入れる前に、これを使って」
ローションを恵の手のひらに、出すと歩自身も、穴に塗った。
恵もまた、手の中のローションを自身に塗りたくる。
四つ這いになる、歩。
「来て、恵」
「うん」
片手で歩のお尻を支えながら、片手で自分のものを穴へと導く。
入り口で多少の負荷はあったが、つるりと、難なく入っていく。
崩れそうになる体を必死に支える歩。
こんな感じなんだ。この時、一城と共感出来た気がする恵は、ゆっくりと腰を動かし始める。
グチュグチュと音を立てる。
動きながら、歩の背中に顔を近づけると、チュッとキスをした。
恵は片手を離し、歩のそれを掴むと先端はぐっしょりと濡れていた。
ツルツルとよく滑る。ギュッと、力を加えるが、滑りの良さは変わらない。
上と下からの刺激に、歩は声を上げながら、身をよじらせている。
我慢することのない射精へと、上り詰めていく恵。
歩のそこは、少し乾き始め、先ほどまでの滑りはなかった。頭の下の棒自体を上下させる恵。
上り詰めてきていた歩は、腰を引く。
その後ろから、攻めてくる恵。
「あ、イクよ、恵」
「イッて」
「ああ、う、う、」
腰をビクンビクンさせながら、白い液体がシーツを汚す。
へたり込みそうになる歩が、肘をついて踏ん張る。
腰の動きに集中する恵。
射精の波が押し寄せてくる恵は、スピードを速める。
「ああ、イク、イクよ」
「き、きて、恵」
「うう!」
ビクビクと、脈打ち、歩の中に放出される。
鼓動が速く恵は、息も絶え絶えになる。
恵は、歩から離れると四つ這いの歩の横に倒れ込む。歩も恵に向き合うように横になる。
「はあ、はあ、恵。まだ先から出てるよ」
「はあ、はあ、歩こそ、飛ばし過ぎ」
ふふふふ、あはははは、親友同士に戻った二人。
お互いが、顔に手を差し伸べる。頬に触れ合う二人。
歩の指が、恵の唇を指でなぞる。
恵は、歩の頬から耳の側の髪をかき分ける。
お互いに見つめ合うと、顔を寄せ合い、唇と唇を合わせる。軽く触れ合うだけの二人は、深く唇を合わせると再び舌を絡めあった。
歩の覚悟は、決まった。心置きなく生まれ変われると。
恵は、歩と交わることで多くを学んだ気がした。
やっと、出会えた二人だが、またしばしのお別れとなる。
今度、会う時は、歩は身も心も女になっている。
それを、少し羨ましく思う一方で、嫉妬する部分もあった。
一城との関係にこのままでいいのかと、考えてしまう恵だった。
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