【エヴリスタコンテスト受賞しました】救世主(仮)が救世主を探します!

浅野新

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第3話

いきなり波乱の予感。

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次の日は、よく晴れた気持ちの良い日だった。

 バドが朝食前に私を朝の散歩に誘った。花々が咲き乱れる美しい公園を二人で歩く。私は早速昨夜の心配事を彼に聞いてみた。
「ああ、その心配は無用ですよ。時の階段は開く時に不思議な力を発揮します。マコトの国の時間に作用しますから、お帰りになる際も何ら不都合はないはずです。その力は・・魔法とも言いますね」
「すごい! 魔法があるんだ! 」
「ここでは珍しくありませんが、マコトにとっては初めて見るような物もあるかもしれませんね。おや、おはようございます、アレクセイ」
「これは奇遇だな」
 庭の中に椅子とテーブルがセットされており、アレクセイが椅子に腰掛けてのんびり紅茶を飲んでいた。
「こんな気持ちの良い朝の一杯は格別だ。良かったら一緒に飲まないか」
それはいいですねえ、とバドは腰掛けようとしたが、バド様、すみません、と召使らしき男性に呼ばれあわてて立ち上がる。
「おや。すみません、用事が入ったもので。マコト、ゆっくりしていってください」
 アレクセイは彼の姿を見送りながら苦笑する。
「やれやれ。執事殿も忙しいな。でも丁度良かった。マコト、かけないか」
 私は勧められた椅子に腰掛け、紅茶をもらった。とても美味しい。ふと気がつくとアレクセイがにこにこ私を見つめている。
ひえー、こんなかっこいい人に見つめられちゃ恥ずかしいよ! だ、駄目だ、顔がほてってきちゃう。

 私は苦し紛れに話しかけた。
「あの、紅茶すごく美味しいよ! で、あのー。そうそう、さっき丁度良いとか言ってたけど、僕に何か用事でもあった? 」

 ああ、とアレクセイは頷いた。
「二人きりになれた絶好のチャンスだと思ってね」
は?
「一目ぼれなんだ。救世主殿と言えど愛は語れるだろ? 」

 ぶほっ!!
 私は思わずむせた。
 今、今なんて!? 

 せきこみながら必死で言う。きっと今、私の顔は真っ赤になっているに違いない。
「ああああの、僕、男だから! 」

「そうだな。だから? 」
へ?
「だ、だからって、あの、」
「なんだ、マコトの所は駄目なのか? 」
「だ、駄目って言うか、その」
「じゃあ、気にしなければいい。ここは大丈夫だから」
だ、大丈夫って、はい!?

 綺麗すぎる微笑を見せるアレクセイに私は赤面したまま硬直していると、運良くエヴァが通りかかった。
「え、エヴァー!!」
 渡りに船―っ!!
「あら、おはようございます。マコト、アレクセイ。・・・マコト、どうなさいました? 」
「ごめん、アレクセイ、僕用事があったんだ、エヴァ、行こう、こっち! 」
「は、はい!?」

しばらくして茂みからセドリックが出て来た。アレクセイが笑う。
「よお、セドリック、偶然だな」
「・・・ち、ちょっと朝の散歩コースを変えてね」
セドリックはむっつりしながら答える。アレクセイはエヴァをぐいぐい引っ張りながら遠ざかるマコトを見ている。

「顔を真っ赤にしちゃって。可愛いよな」
「仮にも救世主だろ。相手が違う。ふざけるのはよせ」
「へえ。お前からそんな台詞を聞けるとはな。マコトの事気に入らなかったんじゃなかったのか?」
 セドリックは一瞬顔を赤くし、
「それとこれとは別だ! 」
と言い放った。それをにやにやしながら眺めていたアレクセイは紅茶を一口すすった。
「安心しろ、俺は本気だから」



「どうなさいました? マコト」
 私はアレクセイが全く見えなくなるところまでエヴァを引っ張って来ると、ほっと一息をついた。と同時に、良いひらめきを思いつく。

「ねえ、エヴァ、お願いがあるんだ」
「何でしょう」
「一度占ってもらえないかな。私について。皆には内緒で」
 彼女は狼狽した。
「マコト、それは」
「分かってる。予言は絶対だって。でも、あれは救世主を探す為の予言だよね? このままじゃ、自分はここで何をしていいか分からない。と言ってただぼーっとしているのも嫌だし。だから、今度は私について予言してほしんだ。これからどうしたらいいのか」

 エヴァは静かに私の話を聞くと、やがて、わかりました、と頷いた。
「お力になれるよう精一杯占います。ただ、異世界の方を占うのは少し時間がかかるかもしれません。それでも宜しいですか? 」
「うん。ありがとう。ごめんね、こちらも無理を言っちゃって」

 良かった。親切にしてくれる皆には悪いけど、早く家に帰りたいもの。
 私はほっとしつつ、予言が出たらすぐに教えてもらうよう頼み、彼女と別れた。

 

 朝食の時間までまだ間があるからと、廊下をぶらぶら一人で歩いていると、一人のメイドさんが水のいっぱい入った二つのバケツを手に提げ、必死に歩いて行くのが見えた。少し歩いては停まり、歩いては停まりしている。

 重そうだなあ、お仕事とは言っても。
周りを見ると、男性の召使は他の召使としゃべっていて見向きもしない。

何、あれ。感じ悪い。暇なら手伝ってあげたらいいのに。

 私は彼女に近付いた。
「手伝うよ。どこまで運んだらいい? 」
 すると、彼女は一瞬驚きと嬉しさの入り混じったような顔をしたが、すぐに、いえ、結構です、と小さく言った。
「いいよ、僕はここの人じゃないけど気にしないで。どうせ今暇なんだから」
「マコト、女性の仕事をするつもりか? 」
 笑い声がしてアレクセイが姿を見せた。先ほどの件を思い出して赤くなりながら、私は努めて平静な様子で、何で、と尋ねた。メイドの女性が答える。
「家事や掃除一切はメイドの仕事と決まっているのです。他に男性召使の仕事を手伝う事もあります。しかし男性は女性の仕事を手伝わなくても良い事になっています」
 何それ!?
私は開いた口をふさぐ事ができなかった。

何なのこの時代錯誤な男尊女卑!!

 アレクセイは優雅に笑い、
「ほら、言っただろ? マコトは休んでればいいから」
と、私の肩に手を置いた。
 私は思わずかっとして彼の手を振り解いた。
「男も女も関係ないよ、力のある者がない者を助けなくてどうするんだよ! 」

 きょとんとしたアレクセイを無視し、私はメイドへ近寄ると、
「いいよ、僕が持つから。ちょっとどいてて」
 と、バケツを持ち上げ、ようとした。

 う。重い。
 でも何とか持てない重さじゃない。
 男子だったら、やっぱりこういうの軽々運ぶんだろうな。重そうにしちゃ駄目駄目。
「大丈夫ですか? 」
 メイドが心配そうに私の顔を覗く。
「あっはっは、大丈夫、余裕余裕」
 
 私は腰をかがめてそれぞれのバケツの取っ手を掴んだ。

 が、頑張って、えいやで持ち上げるぞおお。

 なんの、だてに中学、高校と運動部で鍛えてないわよ。この女の人よりは絶対力があるんだから!

「よっ」
 小さくかけ声をかけ、私はたっぷり水の入ったバケツを持ち上げた。両手が軽く震えている。
「まあ、さすが男性の方は違いますわね。手伝って頂けるなんて初めて。ありがとうございます」
 うっとりと私を見るメイドさんにひきつった笑顔を返しながら、私は努めて何でもないように歩き出した。
「あの洗い場まで返しに行けばいいんだね、いいよ、僕やっておくから」

 メイドさんとニヤニヤ笑うアレクセイの視線を背中に感じながら、私はがにまたでえっほえっほと歩き出した。
とりあえず、メイドさん達が見えなくなるあの柱の影まで行こう。
何でもないように、楽勝な態度で歩かなきゃ。

軽く百メーターはある廊下を歩き、両手が赤くなって痛くなってきた所で、ようやく柱の影に辿り着いた。

 ちらりと後ろを振り返り、誰もいない事を確認して、一気に柱の影に駆け込む。
 ごとん、とバケツを置いて大きくため息をついた。

「あー、重かったあ」
 赤くなった両手を軽くさすり、私は再びバケツの取っ手を再び握った。
 あともう少しだ。頑張らなきゃ。

すると。

「だから言ったろ? 」
なんと一本先の柱の影からアレクセイが出て来た。
「え。な・・なん・・」
「俺は足が速くてね。ちょっと先回りをしていたんだ」
 休憩していたの、きっとばれてるよね。
「・・べ、別に僕は余裕だから」
「その割にはきつそうだけどな」
ぐっ。図星。
 アレクセイは不敵な笑みをこぼした。
「手伝ってやろうか」
「い、いいよ!僕一人で大丈夫だから」
 私はまた腹が立ってきて、彼の脇をのしのし歩いて行こうとした。すると、アレクセイが、ひょいと私の右手からバケツの取っ手を引っ張った。
「持つよ」
「い、いいんだってば!!」
「マコトが言ったろ、力がある者がない者を助けるんだって。」
 ぐぐっ。
思わず返事に窮した隙をねらって、アレクセイが私の手からバケツをとってしまった。そのまますたすたと先に歩き出してしまう。

 悔しいけど、力では男の人には叶わないなあ。

 私は残る一つのバケツを両手で持ち替え、彼の後ろを懸命に追った。
 バケツを二つ運ぶのと一つとでは全然違う。あんなに遠いと思っていた洗い場まで何とか着く事ができた。
 アレクセイが先に着いてにっこりとこちらを見ている。
悔しいけど。手伝ってくれたんだよね。
私は上目遣いにアレクセイをみた。

「・・あの」
「何だ、マコト? 」
「あ、ありがと」
すると、アレクセイは目を丸くして、次の瞬間大きく口を開けて笑い出した。

「な、なんだよっ!」
 彼は私に近付き、顔を寄せて耳打ちした。
「かわいいな、マコトは」
 かか、顔が、頬と頬がくっつく程近くに!!
 私は思い切り後ろに後ずさった。
「!! かかか、からかうなよっ!!」
アレクセイはまだ笑っている。
 私は顔がみるみる赤くなるのが分かった。
男の人可愛いなんて言われた事も、あんな近くに顔が迫ってきた事も、初めてだよお。
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