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三章
決着
しおりを挟む三人が同時に見つけた、黒い影。
アルゴの接近に気付いたのか、人ならぬ動きでくねる。
「……なんでしょうね?」
「警戒した方が良さそうね……」
ユークには、正解が見えていた。
きっちり捉えた右目の中で、『25』の数字が縦に並ぶ。
「あのー、なんか弱いみたいだけど、気を付けてね。魔法があるかも」
一応、油断はしない。
本体よりも、危険なのは右手に持った杖だと、距離があっても分かる。
禍々しい気配が、魔力の弱いユークやラクレアにも伝わった。
「とりあえず、攻撃してみるわ」
腰を振る黒フードに向かって、ミグが仕掛けた。
アルゴの背の上で魔法を練り、同時に五本の槍を生み出して、タイミングをずらして投げつける。
「やったか!?」とは、誰も言わなかった。
無造作に振ったように見えた杖が、全ての魔法を弾き飛ばす。
「なんて非常識!」
ミグの攻撃魔法は、既に常識はずれのレベルに達していた。
個体の素質、受け継いだ血筋と加護、ミスリルの武器。
それぞれが掛け合わされ、魔王城に突入した時とは比べ物にならない。
それを杖の一振りが易々と防いだ。
「俺がいく。ラクレア、寄せて!」
次は、更に成長速度の速い剣士が挑む。
アルゴが少し進路を変え、斜めから黒フードに近寄る。
『馬の上から飛んで斬りかかってやろう!』
頭の足りない少年は、カッコ良い登場だけを考えていたが、ラクレアはきちんと減速した。
「あれ、止めるの?」
「走る馬から飛び降りたら、怪我ではすまないですよ」
そこら辺は、しっかり理解していた。
「それじゃ、わたし達はあれを相手するから」
ミグが指差した上空には、数体のキマイラが舞っていた。
「すぐに片付けて手伝うよ」
未だ変化のない戦闘力『25』の二段重ねに、ユークの自信は揺らがない。
「へー、期待せずに待ってるわ」
アルゴと共に、二人は援護に回る。
「さて……とっ!」
何の口上も対話もなく、ユークはいきなり斬りかかった。
防衛線が崩れてから既に半日、街の郊外では魔物の襲撃が始まっている。
余計な時間はない。
「うおー! すげーべ! なんだこの杖!」
黒フードの中では、ミグの魔法を防いでゴブリンのテンションが上がる。
だが、直ぐに次が来た。
「や、奴だ! 奴がきたべ!」
眼帯ゴブリンが叫ぶ。
「だから、何だってばよ! おらは外が見えねえんだぞ!」
「城の中でおらの右目を奪ったあいつだよ!」
「へー、生きてたべか。つーか、あいつは戦闘力『5』だったべ?」
「そうだが……なんか雰囲気が違うべ……って、うおい!?」
足元の砂も意に介さず、一気に間合い詰めて『カウカソス』の抜き斬り。
杖が自動でこれを受けた。
白い骨のかけらが、ほんの薄くだが飛び散る。
「杖が勝手に動いただ! 流石は悪魔の尻尾! けど削れただ!?」
眼帯ゴブリンは、やかましく解説する。
逐一報告しないと、下のゴブリンは動けない。
ユークは、受けられた事に驚いたが、構わずに本体を仕留めいく。
素早く正確に剣を繰り出し、定石通りに黒フードの左手側に回り込む。
動きに付いてゆけず、下になったゴブリンが転んだ。
『杖ごと貫く!』と、両手で突きの構えをとり、一歩踏み出したところで警戒反応が出た。
「下か!?」
大きく跳ね退いたところで、砂を割ってサンドワームが現れ、ゴブリン達を上空へ押し上げる。
頂点へ達したところで、キマイラがそれを捕まえた。
「バイバイだゴブ~!」
大声で叫んだ眼帯ゴブリンの声で、ユークにも本体の正体が知れた。
「ミグ! 魔法で!」
「ちょ、ちょっと待ってて!」
別のキマイラを撃ち落としたミグの位置は遠く、ゴブリンを掴んだキマイラは速い。
「ミグさま、支えて下さい! いけ、アルゴ!」
アルゴの腹を蹴ったラクレアが、鞍から腰を浮かす。
『全速で』の合図を受けたアルゴが、全ての筋肉を使い躍動する。
ミグに支えられしっかりと立ったラクレアは、馬に取り付けていた盾を外し、無双の怪力を振り絞って投げた。
回転しながら飛んだ盾が、キマイラの翼をへし折る。
真っ逆さまに落ちてくる黒フードに向かって、ユークが駆けた。
「おい、力を貸してくれ!」
頼んだユークは知らなかったが、剣は知っていた。
今戦っている『物』が、前の主の命を奪ったことを。
少しだけ、今の主が死なぬ程度に火神の剣が力を開放した――。
急激な温度の上昇と、腕から伝わる振動。
ユークの手と腕を焼き、神経に響いたが、それは頼もしくさえ感じた。
「うおおおおおおぉっ!」
気合と共に、神と悪魔に由来する武器がぶつかる。
凄まじい力のぶつかり合いは数瞬続き、再び剣が骨を断ち切った。
その勢いのまま、ユークは黒フードの胴体を二つにするが。
「あっ!」
布の手応えしかなく、上下に別れたゴブリンは、素早く砂に潜って消えた。
「くっそ、あいつら。何処だ!?」
砂漠や乾燥地で、穴を掘って暮らすゴブリン族。
大きな手足と細い体はその為に進化し、こうなると見つからない。
「まあ良いか……」と、二つに切れた杖に手を伸ばそうとしたとこで、「駄目よ!」とミグが叫んだ。
二本並んで砂に突き立った悪魔の尾骨。
操る者を失い、後方で要塞に群がっていた魔物も、それぞれの住処へ戻りだしていた。
だが、数千年に渡って溜め込まれた悪魔力は健在だった。
「これは、ここで滅するわ。触っては駄目」
ユークとラクレアに、もう一度警告した。
この尻尾が兄アレクシスを殺したと、ミグは知らない。
しかし、その力は邪悪で、ここで消さねばと確信した。
「全力全開でやるから、邪魔が入らないように守ってね」
制御を失った魔物が、周りをうろつき始めている。
ミグは、後を考えず全ての魔力を集中する。
コルキスの王族が持つ”金羊の加護”が目に見える形になって現れる。
黄金の糸が幾重にもミグを包み、その魔力を一気に跳ね上げる。
三人の頭上に特大の<<シリウス>>が輝き、その色は白から青へと変わった。
「凄い……15000を超えた……」
十分以上の時間を使い、存分に集めたマナは大気から稲妻を生み出し、それを見た魔物は本能から進路を変える。
それから、青いシリウスはゆっくりと大地に刺さる骨に衝突した。
先に周囲の砂が溶けて硝子に変わる。
半径数十メートルが融解し、ようやく悪魔の骨が限界を超える。
黒く焼け焦げ、灰になり、粉々になって砂漠の風に誘われ消え去った。
後には、陽に光る 砂漠硝子だけが残った。
三人は、アルゴに乗って最後に残った要塞へ帰る。
また両手が使えなくなったユークを真ん中に、ミグが後ろから抱きしめるように支える。
「いてっ! いてっ! 痛い!」
歩くアルゴに合わせてユークが悲鳴をあげる。
「我慢なさい、男の子でしょ?」
前と後ろから、ラクレアとミグの声が揃った。
目の前に迫った三角要塞では、六百人を超える冒険者が総出で迎えていた。
戦いは終わった。
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