朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第二章

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 初クエストまでの3日間、アドラーはギルドハウスの片付けをしていた。

 日用品に壊れた武具や家具それに本まで、使えそうな物はミュスレアの家へ運んだ。

 金属は売れるので、ボロい鍋釜や武具は売った。
 手入れをすれば使えそうな、5人分くらいの装備と遠征道具が手元に残った。

 その一部をロバのドリーに積んで、アドラーは行く。
 バスティさんもロバの背に乗せる。
 鞍の上でくつろぐ猫というのは相性が良い。

「コボルトや人狼が、人間を食うはずないよな。ねえバスティさん?」
 眠そうにワーキャットの女神が頷く。

 人と犬の中間のようなコボルトも、ワーウルフとも呼ばれる人狼もヒト亜種だ。

 むしろ仲間意識の方が強く、ヒトは獲物にするにしても大きすぎる。
 間違ったとしても家畜の鳥くらいしか襲わないはず。

「コボルト族は……頼りになる。命令に忠実で、固守を命じれば全滅するまで戦う……」

 コボルトの事を考えていると、アドラクティア大陸での事を思い出してきていた。
 忘れていなかった事に、アドラーはほっとした。
 これからも、機会があれば記憶が刺激され浮かんでくるだろう。

『きっと何かの誤解だろう』とアドラーは道を急ぐ。
 夕暮れまでにはガラガ村に着ける距離だった。


「止まれ!」
 村の入口で誰何された。
 ライデン市周辺の村にしては珍しいことだ。

「ギルド本部から依頼を受けた。太陽を掴む鷲のアドラーだ」
 名乗るとすんなり村長のところまで案内される。

 アドラーは”はったり”重視の格好で来た。
 以前は魔法使いのようなローブを着ていたが、それでは押しが弱い。

 さりとてお金もない。
 ギルドに残っていた鎧をバラし、大工仕事で胸当てを作る。
 腰の革ベルトには長剣を差し込み、背には短く切った槍を一本。

 肩当てにはマントを留め、左腕には小さなバックラー、右腕だけに手甲。
 金属部分は一晩かけて油で磨き上げた。

「太陽を掴む鷲の団長、アドラーだ。さっそくだが話を聞かせてもらおう」

 村長と長老の中に、老舗の名門”太陽を掴む鷲”の名を知ってる者がいた。
 
『こういう時には、名が通ってるのは便利だな』
 アドラーは、ギムレットを除いた先代達に感謝した。


「ふむ……それで、通りかかったコボルト達を捕らえたと? 誰も殺害現場を見たわけではないのか?」

 乱暴な話だった。
 食い殺された死体に牙の跡があったことだけでコボルトを犯人と決めつけていた。

 だが普段から異種族として虐げているコボルト族の仕返しだと、村人たちは信じて疑わなかった。

『恨まれるような事をするから、何時か返ってくると怯えることになる』
 心底うんざりする理由だったが、アドラーは下らない説教はしない。

「まずコボルトに合わせて貰えますか? それから遺体の確認を」
「それは……」

 村長が渋ったが、アドラーは団長の肩書で押し通した。
 既に棺に収めていた遺体を、教会へ運ばせる。

 それからコボルトへ会いに行くが、その前にアドラーは大きなパンを一つ所望した。

「お腹が空かれましたましたかな?」
「まあそんなところで」

 3人のコボルトは、牢屋がないので納屋に押し込められていた。
 父親だろうか、一番大きなコボルトは縛られて傷だらけ。

「村長……私的な拷問はご法度ですよ?」
「い、いや、捕らえる時に暴れたものでして……」

 アドラーは、そんな訳があるかと思いながら、こんな事もあろうかと準備していた魔道具を取り出す。

 治療結晶――安い宝石に回復系の呪文を封じたもの。
 呪文を動かすには外から魔力が必要だが、それはアドラー自身のものを使う。

「大丈夫か。俺は敵ではない、信じてくれ」
 アドラーは縄を切る。

「団長殿!?」
 慌てる村長達を手で制す。

「これを使え、事情を話して貰わんとな」

 治療結晶を渡そうとしたが、父親のコボルトは受け取らない。
 アドラーの知っているコボルト族の目は、人懐っこくて優しいものだったが、今は怒りと憎しみに満ちている。

 ちらりと、アドラーは母親と子供のコボルトを見た。
 こちらは首輪に鎖だ。

『酷いことを……怒るのも仕方がないか』
 ただの革の首輪だったが、抜けぬようにきつく締め上げてある。

 アドラーは久しぶりに2種類の強化魔法を使った。
 通常の魔術師が使うバフは競合して、効果が強いほうが残る。
 だがアドラーは別枠乗算でかかる特殊強化が使える。

 筋力を3倍し、更に3倍する。
 9倍に強化された指先は、革の首輪を紙のように引きちぎった。

「これでよし。もう心配しないで受け取ってくれ」
 あぜんとする村人の前で、父コボルトに結晶を押し付けた。

 しかし今度はコボルト達の目が怯えに変わる。
『出来れば信頼して貰いたいのだが……』と困ったアドラーの横を、バスティが駆け抜けた。

 猫は父ゴブリンの肩に飛び乗ると、何事かをささやく。
 すると、ようやくコボルトの目から恐怖と警戒が薄くなった。

 治療結晶の力でじわりじわりと傷を治す父コボルトの前に膝を付いて、アドラーが頼んだ。

「すまないが、口を開いてくれないか?」
 素直に犬の口を開いたコボルトの前で、バスティを抱き上げて聞いた。

「分かる?」
「にゅあ……人の肉の臭いはしないにゃ」

「やっぱり、猫型でも言葉を喋れるんじゃないの」
「にゃはは」

 コボルトを成敗する必要がなくなり、アドラーもほっとした。
 これであとは村人を納得させるだけ。

 この世界では、死体は不浄な物だったり神聖な物だったりで、検死という概念が定着してない。
 田舎の村となれば尚更だ。

「このパンを、噛み切らないように咥えてくれ。死体の傷と比べるから」
 アドラーの差し出したパンに、父コボルトは大人しく歯型を残した。

「村長、教会へ案内してください。このコボルト達も連れていきます。真犯人を探すのに、彼の鼻は役に立つ」

 立ち上がったアドラーの指示に、村長は黙って頷くと先に立って歩きだした。
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