朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第二章

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 少し時はさかのぼる。

 ミュスレア・リューリア・キャルルの3姉弟は、順調に旅を続けていた。

 路銀は豊富で、長い耳を隠せばクォーターエルフだともバレない。
 子供二人を含む一行は珍しいが、咎められるほど治安が悪いこともない。

 ミュスレアは何度も「ごめんね」と言いそうになるが、下の二人はその隙を与えなかった。
 生まれた街を離れても、家族一緒なら我慢も出来る。

 せっかくアドラーが体を張って逃してくれたのだと、一番年下のキャルルも文句一つ言わなかった。

「まあ、エルフの村でどうやって暮らしを立てるかって問題はあるけどね」
 現実的なリューリアは、時々先のことを心配する。

「ちょっとした農地を買えるくらい兄ちゃんがくれたし、僕が狩りに出てもいいし、姉ちゃんらは嫁に行ってもいいしさ」
 15歳だが体格は11~12歳のキャルルも、自立しようとしていた。

「大丈夫よ。お姉ちゃんがいるから」
 東の森は遠征の冒険者も多い。
 腕の立つミュスレアなら雇い口もある。

 季節は旅に向いた春で、エルフの村まで問題なく着けるはずだった。

 森を貫く川沿いの街道、あと幾つか丘を越えれば目的地。
 エルフの感覚が異常を捉えるよりも前に、精霊たちが危険を知らせた。

 式を繋げて呪文を描く法術魔法、神の力を使う神授魔法、世界に満ちる精霊たちの助けを借りる精霊魔法。

 この内、生まれながらの素質が最も重要なのが精霊魔法。
 血は薄くなったとはいえ、エルフ族に連なる3姉弟は精霊の声が聞こえる。

「なにこれ聞いたことない。精霊の悲鳴?」
 リューリアは怯えた。

 ミュスレアが武器を取り出し辺りを観察する。

「前から……なにか来る。森の中にも……二人とも、こっちへ!」

 近くにあった老オークの巨木、その根本に隠れ込もうとしたがやめた。
 精霊の騒ぎ方は尋常ではなかった。

「ごめん、ちょっと守って!」
 木に語りかけ、ミュスレアは縄を投げ上げて二人を登らせる。
 引き上げられたミュスレアも枝を伝ってさらに上へ。

 やがて、遠くにエルフの村が見えた。
 真っ黒い何かの集団が村を覆い尽くしていた。

「なんだあれ……」
 3人共、見たことも聞いたことがない魔物の群れだった。
 森から数体の8つ足の魔物が現れ、木の上の3人を確認すると仲間を呼び始めた……。

 夕暮れになる前に包囲され、日が昇る前には大集団が現れた。
 小型の物が木に飛びついたが、ミュスレアが蹴落とす。

 次には大型の物が木を揺すり始める。
 老オークの根が、みしみしと嫌な音を立てていた。

 火種を使い狼煙をあげようとしたり、剣に光を反射したり、誰かを呼ぼうとしたが無駄だった。
 最も近い人里まで歩いて3日はある。

 キャルルは、胸に下げた水晶球を握りしめた。
『兄ちゃん……』

 森で拾った行き倒れ、いつの間にか仲良くなった人間から、別れの間際に貰った魔法の道具。
 最後の通信から、もう16日が経っている。

 キャルルは、アドラーから送られた文字を消してない。
 最後に読み返してみようという気になった。

 取り出した水晶には、新しい文字が何度も送られていた。
『近くにいる。何処だ』と。

「姉ちゃん、にいちゃんが!」

 返信をした後、アドラーは直ぐにやってきた。
 文字通り飛んできた。

「すげえ……にいちゃん、あんなに強かったんだ!」
 キャルルはリューリアと抱き合って喜んでいた。

「つか、誰よ。あの子」
 ミュスレアがぽつりと呟く。

 三百から四百はいた魔物の群れが次々に蹴散らされる。
 8割はアドラー、残りはミュスレアの知らない銀髪の女の子が殴り飛ばす。



 倒した数をカウントするのは、アドラーの悪い癖だった。
 最初はみんなに認められたくて、功績を誇る為に数え始めた。

 誰かに頼りにされるのが嬉しかったのだ。

 前世では、最後に助けた猫達以外には、余り感謝されたとは言えない人生だった。
 今度は誰かの役に立ちたい、その為の力を女神がくれた。

「ブランカ、こっちへ来い。あまり離れては駄目だ」
「うん」

 身軽な足取りでブランカがやってくる。

 この敵――ナフーヌ――は、群れの決まりで動く。
 戦いの前に戦力を集中するし、仲間がやられて激昂することもなく、囮や陽動にも乗らず、不利だからといってバラバラに逃げることもない。

「さてと、どうでるかね」
 アドラーの予想では、揃って撤退するか全滅するまで戦うか、ナフーヌの行動は二択。

 今回は全体で引き始めた。
 律儀にも同族の死体を運べるだけ運ぶ。
 ナフーヌは、仲間の死体の殻を使って巣や防御陣地まで作る。

「ブランカ、追わなくていい。強いなお前、本当によくやった!」

 満面の笑みのブランカが寄ってくる、褒められて嬉しいのか尻尾が左右にぶんぶん振れる。
 アドラーが汚れた手袋を外すと、頭を差し出してくる。

 二本の角の間を撫でながらアドラーは思い出した、バスティがこの竜を犬扱いしていたのを。

『まさか、竜の性格って孤高とかでなく社交的なのか?』
 伝説や伝承ってのはあてにならいものだ。

 アドラーは、老オークの木の下まで歩いていって声をかけた。
「キャル、リュー、ミュスレア。もう大丈夫だ、降りておいで」

 枝の上から、見慣れた顔があらわれた。
 体重の軽い方から次々に飛び降りる。

「キャル、ごめんよ。怖かったろう」
「平気さ、絶対にーちゃんが来てくれると思った」
 キャルルは迷わず抱きついた。

「リューもごめんな、怪我はないか?」
「一晩中ね、樹の下でわたしたちを狙ってたの。怖かったよ、アドラー」
 リューリアも安心したのか、しがみついて泣き出した。

 ミュスレアの番になったが、その時に空から大きな影が舞い降りる。
 この大陸を統べる白金竜の眷属、飛竜の背中から猫耳の少女が降りてきて、アドラーの背中に飛びつく。

「凄かったな! 敵のど真ん中に飛び降りるから、どうなるかとおもったにゃ!」
 バスティはひとしきり鼻をこすりつけた後、金色の瞳を男の子に向けた。

「お前たちも無事で良かったにゃ」と、困惑するキャルルを可愛がり始める。

「おい、この団の2番目はわたしだぞ! 団長、もっと褒めろ!」
 ブランカも輪に混ざる。

「ミュスレア、無事で良かった! ごめんね、東へ行けと言ったばかりに……」
 ようやくアドラーとミュスレアは顔を合わせたのだが。

「猫耳娘に角と尻尾の娘と、アドラーは変わったのが好きなのか?」
「へっ?」

 エルフ耳の娘は、かなりご不満の様子だった。

 暇を持て余していた飛竜が、大きな声で空に向かって一つ吠えた。
 この大陸で、数百年ぶりに響くドラゴンの咆哮と、初めての天敵の襲撃だったが、アドラー達はしばらく日常に戻る。

 と言っても、人数不足の冒険者ギルドの日常だが。



 二章完

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