27 / 214
第二章
27
しおりを挟む少し時はさかのぼる。
ミュスレア・リューリア・キャルルの3姉弟は、順調に旅を続けていた。
路銀は豊富で、長い耳を隠せばクォーターエルフだともバレない。
子供二人を含む一行は珍しいが、咎められるほど治安が悪いこともない。
ミュスレアは何度も「ごめんね」と言いそうになるが、下の二人はその隙を与えなかった。
生まれた街を離れても、家族一緒なら我慢も出来る。
せっかくアドラーが体を張って逃してくれたのだと、一番年下のキャルルも文句一つ言わなかった。
「まあ、エルフの村でどうやって暮らしを立てるかって問題はあるけどね」
現実的なリューリアは、時々先のことを心配する。
「ちょっとした農地を買えるくらい兄ちゃんがくれたし、僕が狩りに出てもいいし、姉ちゃんらは嫁に行ってもいいしさ」
15歳だが体格は11~12歳のキャルルも、自立しようとしていた。
「大丈夫よ。お姉ちゃんがいるから」
東の森は遠征の冒険者も多い。
腕の立つミュスレアなら雇い口もある。
季節は旅に向いた春で、エルフの村まで問題なく着けるはずだった。
森を貫く川沿いの街道、あと幾つか丘を越えれば目的地。
エルフの感覚が異常を捉えるよりも前に、精霊たちが危険を知らせた。
式を繋げて呪文を描く法術魔法、神の力を使う神授魔法、世界に満ちる精霊たちの助けを借りる精霊魔法。
この内、生まれながらの素質が最も重要なのが精霊魔法。
血は薄くなったとはいえ、エルフ族に連なる3姉弟は精霊の声が聞こえる。
「なにこれ聞いたことない。精霊の悲鳴?」
リューリアは怯えた。
ミュスレアが武器を取り出し辺りを観察する。
「前から……なにか来る。森の中にも……二人とも、こっちへ!」
近くにあった老オークの巨木、その根本に隠れ込もうとしたがやめた。
精霊の騒ぎ方は尋常ではなかった。
「ごめん、ちょっと守って!」
木に語りかけ、ミュスレアは縄を投げ上げて二人を登らせる。
引き上げられたミュスレアも枝を伝ってさらに上へ。
やがて、遠くにエルフの村が見えた。
真っ黒い何かの集団が村を覆い尽くしていた。
「なんだあれ……」
3人共、見たことも聞いたことがない魔物の群れだった。
森から数体の8つ足の魔物が現れ、木の上の3人を確認すると仲間を呼び始めた……。
夕暮れになる前に包囲され、日が昇る前には大集団が現れた。
小型の物が木に飛びついたが、ミュスレアが蹴落とす。
次には大型の物が木を揺すり始める。
老オークの根が、みしみしと嫌な音を立てていた。
火種を使い狼煙をあげようとしたり、剣に光を反射したり、誰かを呼ぼうとしたが無駄だった。
最も近い人里まで歩いて3日はある。
キャルルは、胸に下げた水晶球を握りしめた。
『兄ちゃん……』
森で拾った行き倒れ、いつの間にか仲良くなった人間から、別れの間際に貰った魔法の道具。
最後の通信から、もう16日が経っている。
キャルルは、アドラーから送られた文字を消してない。
最後に読み返してみようという気になった。
取り出した水晶には、新しい文字が何度も送られていた。
『近くにいる。何処だ』と。
「姉ちゃん、にいちゃんが!」
返信をした後、アドラーは直ぐにやってきた。
文字通り飛んできた。
「すげえ……にいちゃん、あんなに強かったんだ!」
キャルルはリューリアと抱き合って喜んでいた。
「つか、誰よ。あの子」
ミュスレアがぽつりと呟く。
三百から四百はいた魔物の群れが次々に蹴散らされる。
8割はアドラー、残りはミュスレアの知らない銀髪の女の子が殴り飛ばす。
倒した数をカウントするのは、アドラーの悪い癖だった。
最初はみんなに認められたくて、功績を誇る為に数え始めた。
誰かに頼りにされるのが嬉しかったのだ。
前世では、最後に助けた猫達以外には、余り感謝されたとは言えない人生だった。
今度は誰かの役に立ちたい、その為の力を女神がくれた。
「ブランカ、こっちへ来い。あまり離れては駄目だ」
「うん」
身軽な足取りでブランカがやってくる。
この敵――ナフーヌ――は、群れの決まりで動く。
戦いの前に戦力を集中するし、仲間がやられて激昂することもなく、囮や陽動にも乗らず、不利だからといってバラバラに逃げることもない。
「さてと、どうでるかね」
アドラーの予想では、揃って撤退するか全滅するまで戦うか、ナフーヌの行動は二択。
今回は全体で引き始めた。
律儀にも同族の死体を運べるだけ運ぶ。
ナフーヌは、仲間の死体の殻を使って巣や防御陣地まで作る。
「ブランカ、追わなくていい。強いなお前、本当によくやった!」
満面の笑みのブランカが寄ってくる、褒められて嬉しいのか尻尾が左右にぶんぶん振れる。
アドラーが汚れた手袋を外すと、頭を差し出してくる。
二本の角の間を撫でながらアドラーは思い出した、バスティがこの竜を犬扱いしていたのを。
『まさか、竜の性格って孤高とかでなく社交的なのか?』
伝説や伝承ってのはあてにならいものだ。
アドラーは、老オークの木の下まで歩いていって声をかけた。
「キャル、リュー、ミュスレア。もう大丈夫だ、降りておいで」
枝の上から、見慣れた顔があらわれた。
体重の軽い方から次々に飛び降りる。
「キャル、ごめんよ。怖かったろう」
「平気さ、絶対にーちゃんが来てくれると思った」
キャルルは迷わず抱きついた。
「リューもごめんな、怪我はないか?」
「一晩中ね、樹の下でわたしたちを狙ってたの。怖かったよ、アドラー」
リューリアも安心したのか、しがみついて泣き出した。
ミュスレアの番になったが、その時に空から大きな影が舞い降りる。
この大陸を統べる白金竜の眷属、飛竜の背中から猫耳の少女が降りてきて、アドラーの背中に飛びつく。
「凄かったな! 敵のど真ん中に飛び降りるから、どうなるかとおもったにゃ!」
バスティはひとしきり鼻をこすりつけた後、金色の瞳を男の子に向けた。
「お前たちも無事で良かったにゃ」と、困惑するキャルルを可愛がり始める。
「おい、この団の2番目はわたしだぞ! 団長、もっと褒めろ!」
ブランカも輪に混ざる。
「ミュスレア、無事で良かった! ごめんね、東へ行けと言ったばかりに……」
ようやくアドラーとミュスレアは顔を合わせたのだが。
「猫耳娘に角と尻尾の娘と、アドラーは変わったのが好きなのか?」
「へっ?」
エルフ耳の娘は、かなりご不満の様子だった。
暇を持て余していた飛竜が、大きな声で空に向かって一つ吠えた。
この大陸で、数百年ぶりに響くドラゴンの咆哮と、初めての天敵の襲撃だったが、アドラー達はしばらく日常に戻る。
と言っても、人数不足の冒険者ギルドの日常だが。
二章完
感想など頂けると大変うれしいです
0
あなたにおすすめの小説
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる