朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第三章

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 バスティの黒い尻尾とブランカの白い尻尾が、走って揺れる。
 二本の尻尾を追いながら、アドラーは気付いた。

「霧が濃くなってきたな……。ぺろっ。こ、これは魔法の霧!?」
「へーそんなので分かるの、兄ちゃん?」

「いや、言ってみただけだ」
 森の中心部だけにかかる霧が天然物なはずがない。

 誰かの魔法か、でなければ古代の魔法。
 それくらいはアドラーにも予想がついた。

 二匹は乳白色のカーテンの中を迷わず進む。
 アドラーが一人きりなら、諦めて引き返したところ。

『だってこれ、来るな! の合図だよなあ』
 隣のキャルルが落ち着いてるのを見て、アドラーは特に警戒もしなかった。

 ――霧の結界を抜けた。

「団長、なんかある!」
「あるにゃん!」
 指先と肉球が一軒の家をさしていた。

 円形に開いた森の中央に、三階建ての木の家。
 緑の蔦に覆われて風情がある。

 広場には、机に椅子やブランコとシーソー、木登りしやすそうな低木に、手を洗える水場と小さな池まで。
 まるで児童公園だった。

「あーあ、見つけちゃったよ……」
 キャルルが困ったなといった顔になった。

「子供の秘密基地にしては……手が込んでるな。キャル、ここはなんだ?」

 大人に秘密を言っていいものかどうか、真剣に悩む子供の顔をしてから、キャルルが喋った。

「うーんとね、うちの大家さんの家だよ!」
「えっ、持ち主が居たのか!? あの家!」

「じゃあこの広場は?」
「そりゃボクらの遊び場だよ。お菓子も出るんだ」

 疑問は何一つ解決しなかったが、木の家の戸が静かに開いた。

「入っても良いって!」
 キャルルは怖がることもなく家に入る。
 バスティ――猫型――も、ブランカも恐れる様子はなく続く。

「お、お邪魔しまーす。お騒がせしてすいません……」
 アドラーだけがこっそりと訪いを告げた。

 家の一階は、リビングような広めの空間。
 壁には鳥の足やコウモリの羽、からからに乾燥した木の実やトカゲの尻尾、そして大きなホウキ。

「はー魔女の家だぁ」
 アドラーから見たままの感想が出た。

 正面の揺り椅子には、目の下まで黒いフードを被った老婆。
 森の魔女は、ゆっくりと喋った。

「おやおや、変わったお客さんが大勢だねえ。大人がここへ来るなんて、何十年ぶりだろうか」

 老婆の声は、スピーカーからでも響くようにはっきり伝わった。

 この家と森は、本物の魔女のもの。
 子供たちは森で遊ぶうちに魔女の家を見つけるが、大人になるとなると忘れてしまう。

 悪さをする魔女ではなく、地域の守護者の魔女。
 だから長い間、忘れた大人達からも大事にされる場所なのだと、アドラーは理解した。

「突然押しかけてすいません。それに、勝手に住み着いたのも……。理由があるのですが、聞いていただけますか?」

 アドラーは丁寧に老婆に語りかけた。
 礼を失して良いことは一つもない。

 パチンッと魔女が指を鳴らすと、奥の部屋から椅子が三脚とテーブルが歩いてくる。
 椅子は三つ並んで止まり、テーブルの上にはティーセットとお菓子。

『凄い魔法だ。無機物をこれほど器用に動かすとは』
 アドラーでさえ驚いた。

 キャルルとブランカが、お礼も言わずに菓子の山に手を突っ込む。

「こらっ、お前ら! せめていただきますくらい言え!」

「ほほほ、良いのですよ。子供は元気が一番、ほんとかわいいわぁ」
 魔女は寛容だった。

 アドラーは二人の頭を掴んで椅子に座らせる。
 バスティを膝に抱えようとしたとこで、猫が魔女の足元へ向かうのを見つけた。

「バスティ、こっちだ! 普通の猫みたいにうろうろするんじゃないの!」

 魔女の足をくんくんと嗅いだバスティは、アドラーを見て言った。
「これ、木製の作り物だにゃ」

 きょろきょろと何かを探し始めた猫と竜が、同時に叫ぶ。
「上だ!」

 二階へぴょんと跳ね上がるブランカと、螺旋階段を駆け上がった猫が、一室へ飛び込んだ。

「う、うわっ、なんだお前ら。どうしてここが!? ぎゅう!」
 老婆ではない若い女の声がした。

 急いで追いかけたアドラーが見たのは、ひとり暮らしの女の家と理科室をぶち撒けたような部屋。
 そこでブランカとバスティに捕まる一人の女性。

 眼鏡に白衣、ぼさぼさの髪に手入れなしの肌、大学の研究室でも見ないレベルの女子だった。

「す、すいません! 離れなさいお前たち!」
 アドラーも焦ったが、女性の方も焦っていた。

「ごめんなさいー、子供が好きだったんですー! 手は出してませんからー!」
 なにやら物騒な謝罪を申し出た。

 森の魔女は『マレフィカ』と名乗る。
 机や椅子を歩かせて、人と間違うほどの木製ゴーレムを操る、間違いなく超A級の魔女。

 それが、ブランカの尻尾に巻かれて頭には黒猫を乗せて、涙目ながらに謝っていた。

「……キャル、知ってた?」
「ううん、まったく。けど、水遊びとかしてると、二階から誰か見てるなーとは思ってた」

「えへへ……キャルルくんはお気に入りです……うふふっ」
 森の魔女マレフィカは、ちょっと駄目な感じでにやっと笑った。

 マレフィカを助け起こしたアドラーは、彼女の話を聞くことになった。
 怪しかろうがマレフィカは大家さん、なんとか住む許可を貰わねばならないのだ。
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