朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第五章

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 アドラーがやぐらを登ると、顔や体のペイントが汗とオイルで流れ、小さなマントと膝を抱えるエスネがいた。

 彼女を崇拝するシロナ団の者が見たら、卒倒するだろう。
 いや、アドラーの命が危ない。

「すいません、お待たせしました……」

「遅いぞ……。下で戦いは始まるし、私は丸腰どころか全裸だし、しかも終わったら誰も居なくなってお祭りが再開するし!!」

 エスネが怒るのも無理はない。
 全裸マントで二時間ほど一人にされたのだ。

「くっ! 皆にこんな姿を見られたら、舌を噛むしかない。貴公、どう責任を取るつもりだ?」

「ほんとにごめんなさい」
 アドラーは土下座の勢いで謝る。

「ところで、はしごはどうした?」
「それが……」

 はしごは、防衛戦に使用されてボロボロに壊れていた。
 はしごを横にすると、お手軽な防壁になる。
 軍に行った者なら、一度は習う定番の使用法。

「背負って降ります」
 アドラーは、エスネに背中を向けた。

「な、なんだとっ!? そ、そしたら、下から丸見えではないか!? ライデンの乙女と呼ばれるこの私になんてことをっ!」

 アドラーも初耳の称号だった。
 彼女とグレーシャの仲が悪いのを、今更ながら思い出す。

「では、どうすれば……?」

 しばらく、アドラーとエスネは試行錯誤した。
 この時間と騒ぎが、恐ろしい者を呼び寄せるとも知らずに。

「ま、これで良い」
 ようやくエスネの許しが出た。

 身体強化を全開にしたアドラーが片手でエスネを抱え、彼女の腕が首に回る。
 下からもアドラーからも裸体が見えぬ、片手お姫様抱っこ。

 アドラーは片手と両足を使い、慎重にやぐらを降りる。

「上から見てたが、そなた強いな」
「強化系の魔法が使えるので……」

「ふむ、それにしても限度というものがあろう……。ところで、重くないか?」
「いえ、とても軽うございます」

「うむ、よろしい。貴公には世話になった、一つ借りが出来たな」

 落ちないようにエスネがしっかりと抱きついて、柔らかさと体温がアドラーに伝わる。
 体に張り付いたマントは美しい曲線を描き、目のやり場に困るほど。

『いやー色々と起きたけど、良い冒険になったなぁ』

 アドラーは、冒険の女神に感謝していた……が、地上では、二体の 戦鬼オーガが待っていた。

「アドラー!!」
 ミュスレアとリューリアが、同時に怒鳴る。
 エルフの鋭い感覚は、いとも容易く宴から消えたアドラーを見つけ出していた。

「何処の女よ! って、エスネか?」
「は、裸の女!?」

 ミュスレアは呆気にとられたが、リューリアの反応は激しかった。
 全身に塗られた保温のオイルが光り、ぎりぎりの所をマントが隠す副団長の姿は、少女にとって刺激が強すぎた。

「お、お兄ちゃんの、ふ、不潔!!」

 アドラーが見たこともない軽蔑の視線をぶつけると、リューリアは全力で走り去る。

「あっリュー、待て、違うんだ。これは生贄用で……」
 アドラーの言い訳は、少女の背中に追いつくことなく夜の闇に吸い込まれた。

「……エスネ、あんたさぁ。これどうなってんの?」
 ミュスレアが、エスネのマントをめくる。

「きゃっ!」と叫んだエスネの悲鳴と同時に、白いお尻がアドラーの目に飛び込んだ。

「わ、私だって、好きでこんな格好をしてるわけではないぞ!」

 エスネの名誉を守るため、事情を聞いたミュスレアがこっそりと風呂へ連れて行く。

 全てが無事に終わったかに思われたが、しばらくの間、リューリアはアドラーと視線すら合わせてくれなかった。


 ――翌日になった。
 村は復興中で、アドラーは、バスティとブランカを連れて廃神殿を訪れる。

「こっちだにゃ」
 バスティが先頭に立って歩く。

「こんなとこ、よくこれまで見つからなかったね」
 アドラーは不思議だった。
 この辺りには、幾らでも冒険者がやってくる。

「違うにゃ。主が目覚めたから、出入り口が開いたにゃ」

 ブランカは居心地が悪そうだが、猫の女神に恐れる様子はない。
 二人の先に立って、黒猫の姿でとことこ歩く。

 アドラーは、ブランカとキャルルから、此処で何があったか聞いていた。
 キャルルが神殿の地下でレバーを動かすと、突然一人の男が現れたと。


 その気配は、ブランカでも気付かないもので、驚く二人に男はこう言った。

「ふはは、我は古来よりこの地に住まう悪魔であるぞ!」

 両腕を広げた上半身裸の男に、キャルルとブランカは恐怖した。
 二人とも悪魔(へんしつしゃ)を見るのは初めてだった。

「きゃー!」と驚き抱き合う二人を見て、悪魔は満足そうに続けた。

「ふむ、子供を脅かすと言うのは良いものだな。だが、その装置を触ってはならんぞ」

 自称悪魔は、キャルルがいじったレバーを元に戻し、怯える二人と黒猫を見据える。

「そなたは普通の子か。で、こっちは竜の子。猫よ、お主は同族だのう、だいぶ若いが」

 ひと目で三人の正体を見抜いた男はただ者ではなかった。

「うーん、この辺りの古い神かにゃ? もう役目が無いみたいだけど……」

「そうである。昔は土地の者の面倒を見てたのだが、少し長く眠り過ぎたわい」
 男は、豪快に笑った……。


 アドラーは、バスティに尋ねる。
「それって神なの? 悪魔なの?」

 バスティの答えは単純明快。
「役目を担って働くのが神で、ふらふらしてるのが悪魔だにゃ。どっちも同じ存在だぞ」

「ふーん、バスティさんが働いてるとこは見たことないけど……」
「にゃ、にゃんだと!?」

 心外だとばかりに、バスティが牙を剥いた。

 地下の奥では、男が待っていた。
 浅黒い肌に年齢不詳の容貌、ただどの種族にもない立派な角が一本生える。

「昨夜は、子供たちがお世話になりました」
 アドラーは、丁寧にお辞儀をする。

「気にするな。起きたばかりで暇だったのでな。ところで、お主も変わっておるの?」

 アドラーは正直に、北方大陸の猫と冒険の女神に呼ばれたと告げた。

「おお、あの小娘か。知っておる知っておる。最後に会ったのは何時になるかの……」

 自称悪魔は、本当に神さまだったようだ。

「それで、何が聞きたい?」
「昨夜、起動した塔の話を。あれは大陸を繋ぐものですか?」

 アドラーは率直に聞いた。

「本来なら……ここで無理難題を押し付けて試すとこだが……わしも少し前に、起動させてしまったのでな」

「ひょっとして、この辺りに現れていた魔物はあなたが?」

「そうじゃ。数千周期の眠りから目覚めて、塔が動くか試したら奴らが渡って来おったわい。すまんすまん」

 悪魔は語る。

 この世界に大陸は四つある。

 竜と巨人が争う力の時代、大陸の一つで戦いが激化した。
 森を焼き大地を砕く戦争に、神々は決断した。

 生まれて間もないヒトやエルフやリザード族らを、避難させようと。

 選ばれたのが、アドラーの生まれ故郷とこの大陸。

 塔は、大陸同士を繋ぐ橋である。

「では、最初の大陸は、我々がナフーヌと呼ぶ魔物に支配されてると?」

「知恵の時代を争うは、個体で生きるそなたらと群体の奴らじゃ。奴らが勝った大陸があっても不思議はないの」

 やっとアドラーにも理解出来た。

 故郷のアドラクティア大陸で大発生していたのは、古代遺跡を渡って来た侵略軍。
 ここ数ヶ月、この付近で見かけたナフーヌも、未知の大陸からやって来たもの。

 それからアドラーは、一番聞きたい事を尋ねた。

「それでは、この大陸と私の故郷を繋ぐ遺跡もあるんでしょうか?」
「断言は出来ぬが、たぶんある。一万周期ほど前は行き来していたはずでの」

 アドラーは、よく分からないといった顔をしているブランカを見た。

「ブランカ、お前と俺の生まれ故郷に戻れるかも知れないぞ」

 竜の娘は一瞬だけ顔が明るくなったが、直ぐに口を尖らせた。

「せっかく仲良くなったのに、もうみんなと別れるの?」と。

「うっ……」
 アドラーにとって、これまで考えぬようにしていた事だった。

「言っておくが、わしは他の橋や通路が何処にあるか知らんぞ?」
 見かねた自称悪魔が付け加えてくれた。

「なら、数千年かけて探せば良いのか!」

「待て、せめて数十年にしてくれ」
 アドラーに数千年はちょっと長い。

「なら、いっぱい冒険しないと駄目だな! 一緒に!!」

 ブランカに満面の笑みが戻る。
 竜の胸元には、大きな紅玉がきらきらと光っていた。
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