朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第六章

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 楽しい楽しいギルド対抗戦も、残り二日。

 毎日、同レベルのギルドと朝から晩まで競い、勝てば対戦相手も魔物も強くなる。

 四日目までは、ギルド同士の争い。
 そして最終日は、シード圏と個人順位のラストスパート。

 個人の10位のまでには、”対抗戦の英雄”という微妙な称号がもらえる。
 さらに個人100位まで副賞が出るが……昨年はミン国特産の花瓶という微妙なもので、閉会式は大いに荒れた。

「さーみんな、今日も全力で稼ぐぞ? どーした元気ないな?」
 四日目も、この過酷な対抗戦が好きなミュスレアの士気は高い。


 三日目の夜、アドラーは団員には全てを伝えた。
 反応は様々だった。

 キャルルは、アドラーとブランカが戻ってきた事を素直に喜ぶ。
 少年は若く、別れてもまた会える、それか自分も付いて行けばいいと、深刻には考えてない。

 女の子のリューリアは、今の安定した状況が壊れることに抵抗がある。
 それでもブランカを抱き寄せて、「勝手に行っては駄目よ?」と釘を刺すにとどめた。

 ミュスレアは、困ったなどうしようという表情を隠さなかった。
 もともと彼女は、直ぐに顔に出る。

 視線も素直で、物言いたげにアドラーを見ては、気付かれて視線を外すというのを何度か繰り返す。

「ブランカ、おいで」

 ミュスレアは、妹の腕の中にいたブランカを呼び寄せる。
 何時もキャルルやリューリアと同じ様に可愛がり、時に叱るもう一人の妹。

「離れたくない!」
 ブランカの方から抱きつく。

 アドラーは、選択肢はブランカにあると気付いた。
 団の中で、一番寿命が短いのはアドラーだった。

 オークも寿命は長い方で、マレフィカは魔力に支えられながらよぼよぼの魔女になるだろう。

 そしてブランカは、皆の子や孫を見届けてなお、永劫の時を生きる。

「もうちょっと……」
 みんなで一緒にいようと、アドラーが言おうとした時、ミュスレアが続きを奪う。

「今度はみんなで行きましょう!」
「えっ?」

「え、じゃないわよ! 二人とバスティで行っちゃうから、みんな心配なんでしょ? 全員で行けば問題ないわ!」

「いやいや! 人跡未踏が盛りだくさんで、魔物もこっちより大きく強い。あちこちに国や冒険者ギルドがある、この大陸とは違うんだよ?」

「だったら尚更じゃないの!」
 この話し合いで初めてミュスレアが怒った声を出した。

 しかしそれも無理はない。
 別の大陸に繋がる遺跡を見つけたとの、アドラーの話から小一時間。

「次に行く時は、お前も一緒に来い」と言われるのを、ミュスレアはじっと待っていた。

 何時まで経っても誘わないアドラーに対して、短い怒りの導火線にあっさり火が付いた。

「ねえ、ブランカ?」
「なに?」

 ミュスレアは、ブランカには優しく語りかけた。

「あっちに行ったら、住む家を探すんでしょ?」
「うん。一番高い山に住む」

「だったらみんなで、お引越しの手伝いをしないとね」

 大陸の守護竜になるブランカが、それなりの竜になるにも数百年はかかる。
 それをまるで、妹のひとり暮らしの準備のようにあっさり片付けた。

「もしも、黙って勝手に行ったら許さないわよ? 海の果てでも追いかけてくから」

 アドラーは、比喩でも何でもない言葉で脅された。

「へー、兄ちゃんの故郷か。どんなだろ」
「かわいい服、あるかしら?」
 キャルルとリューリアは、姉の決定に異論なし。

「いいの?」
 アドラーは、マレフィカとダルタスにもそっと尋ねた。

「新大陸かー。興味深いな、十年二十年くらいなら付き合うぞ?」
 魔女は好奇心の塊。

「問題ない。強者に付き従うのがオークだ」
 ダルタスは、何時もの仏頂面で断言した。

「ダルタスさ、ハーモニアとはどうなったの?」

 キャルルが突然聞いた。
 自分の四倍以上の体重があるオークを、少年はまったく怖がらない。

「ん、んな!? そ、それは!」
 珍しく、ダルタスが表情に出して動揺する。

「良いから言えよー」
「むむむ……ほ、ほとんど相手にされぬ……やはり強さが足りぬようだ。未知の大陸で鍛え直し、再度突撃しようかと……」

「なんだ、じゃあみんなの目的は同じか。ブランカの新しい家、探してやらないとな!」

 アドラーの代わりに、キャルルがまとめた。
 このギルドは、これからも一丸となって動くと決めた。


 そんな訳で、今日もギルド対抗戦が大好きなミュスレアは元気いっぱいだった。

 他のみんなも、気分は晴れているのだが三日目の激闘のせいで体が重い。

「まあ、そうだな。今日は七層の様子を探ろう」
 アドラー達は、日が高くなってからダンジョンに潜る。

 個人ランキングで二位につけるミュスレアは、暴れ続ける。
 個人一位は所属ギルドも三連勝しているエスネだった。

 まだ一勝で六層や七層で戦う団の者が、二位に付けるなど前代未聞。
 アドラーの強化魔法を限界を超えて受け取るミュスレアに敵う魔物はなく、見つけるを幸いに殲滅していく。

 それを見ていた、四日目の対戦相手が白旗を上げた。

「アドラー、すまんが先に上がらせてもらう。今回は結構きついからな、これ以上の怪我人は出したくない」

 相手の団長がやってきて、そう告げた。

「良いのか?」
 団員七人のアドラー達との対戦は、ボーナスステージだが。

「良いんだ。勝てる気がしない」

 相手の団長がちらりと見た先では、ミュスレアを先頭にブランカとダルタスが突っ込み、キャルルが数歩後ろを付いていく。
 起立した二足のオオトカゲ、ティラノスと呼ばれる中型魔物が蹴散らされるところだった。

 四日目も終わった。
 対戦形式はこれで終わり。

 もう一層から九層までの魔物はほとんど討伐された。

 最終日は、深部と呼ばれる十層から十二層にかけて慎重に踏み込む。
 どの団も、怪我人や新人は外して精鋭を出す。

 本戦128のギルドから、おおよそ千人ばかりが参加する締めの一日。

 もう対戦が無いので、地上のキャンプには和気あいあいの空気が流れる。
 ライデン市のギルドが集まる焚き火では、リューリアが引っ張りだこ。

「一曲、一曲でいいから歌って!」と、みんながエルフの歌を聞きたがった。

「なんでわたしのとこには、頼みに来ないんだ?」
 ミュスレアが妹との扱いの差に憮然としながら、アドラーに酒坏を差し出した。

 リューリアが歌う度に、差し入れが増えた。
 肉に酒にパンに、七人のギルドには多すぎるくらい。

「まあ、今回も無事に終わりそうで良かった」
 アドラーは、受け取った酒杯を美味そうに傾ける。

 あとは、現在55位のギルド順位を維持して、エスネとミュスレアの一騎打ちになった個人ランキング――特典はない――の行方を見守るのみ、のはずであった。

 この前日、三日目の夜にアドラーが出した報告書は、運営から即座に一人の男に通知された。

 ”宮殿に住まう獅子”東部総団長のバルハルトである。
 彼は、帝国と冒険者を繋ぐ役割を持っている。

 いざミケドニア帝国が外敵との戦いになれば、国内で四万とも五万とも言われる冒険者は貴重な戦力。

 それゆえ帝国政府も、冒険者には基本的に寛大な立場。
 帝都に居たバルハルトが、四日目の夜に驚くべき報告を帝国政府から受ける。

「馬鹿者どもめ! そのような態度で冒険者を挑発するなど、愚の骨頂! えーい、馬を引け!」
 バルハルトが、ライデン市へ向けて夜の街道を駆ける。

 帝国や周辺列強がここ数十年、『未知の大地』のことを調べているのは帝国中枢にあるバルハルトは知っている。

 そしてアドラーの出した報告書に、ミケドニア帝国は僅かながらもヒントを見つけた。

 バルハルトは、冒険者に関する問題は自分に下命されると思っていたが、帝国政府は直接の強行手段に出ていた……。
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