朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

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 アドラーの歩いてる辺りは、上空から乾いた風が下りてくる。
 つまりどうやっても砂漠になる地域。

「ライデンは秋だってのに、暑いなあ……」と、文句も出る。

 気候に適応しているゴブリンのクルケットは、フードを被って歩く。
 直射日光の怖さを良く知っているのだ。

「ねー、わたしも脱いで良い?」
 同じくフード付きを着せられたリューリアは、暑さに耐えられなくなっていた。

「駄目です、日焼けは火傷と同じ。後でしみそばかすになるから絶対に駄目」
 アドラーは断固拒否。

「えーだってー、お姉ちゃんはー」
 リューリアが姉を指さす。

 ミュスレアは、革のブーツにホットパンツ、上半身はブラのみで、ミスリス製の槍に傘を付けて日差しを防ぐだけの、とんでもない格好をしていた。

「だからミュスレアは、ダークエルフになってるでしょ?」
 アドラーが幾ら止めても、ミュスレアは聞かなかった。

「エルフってのは、暑さに弱いのよ。あとで魔法のお薬で治すから」

 そう言って服を脱ぎ捨てたミュスレアは、こんがり小麦色になっていた。
 健康的な日焼けで済んだのはクォーターエルフだから。

「だがしかし、団長。この暑さはオークにはこたえるぞ」

 我慢強いダルタスでも音を上げる。
 寒冷地仕様の大型種には、活動限界が近かった。

「兄ちゃん! 水だ、オアシスだよ!」
 クルケットと並んで先頭を歩いていたキャルルが、水辺を見つけて声をあげた。

「よし、そこで日が落ちるまで休もう。動くのは、夜にしようか……」

 たった二日の砂漠の行進で、アドラーもバテ気味。
 早くも方針を変えることにした。 

「だんちょー、泳いでいい?」

 成層圏の気温と光線にも耐えるブランカでさえ汗でべとべと。
 返事も聞かずに白い尻尾と足をむき出しにする。

「あっこら、全部脱ぐんじゃありません! ワンピースあるからこれを着て! それよりも、この水は平気かな? ワニとか潜んでたりしないのか……?」

 保護者のアドラーは大忙し。

「ううー、水質を調べてみようかー?」

 ドリーの引く荷車から、マレフィカが転がり落ちてきた。
 真っ先にスタミナが切れた血統の魔女は、天幕を張った荷台へ避難していた。

 マレフィカが調べている間に、クルケットがとことこやって来る。

「あ、あのですね。たぶん飲めて、安全です! 池の中に、サバクミズカメがいるです」

 ゴブリンの少女が示すオアシスの中央には、甲羅に水草や藻を生やした大きな亀が浮かんだり沈んだりしている。

「あいつらは、水を渡り歩いて背中の緑を繁殖させて食ってるです。サバクミズカメが居る池は、飲めて安全です! ゴブリンは飲んでます!」

 クルケットの知識は、現地的で面白かった。
 アドラーはさっそくメモを取る。
 この世界の博物誌を出版する時、一ページにしてやるつもりだ。

「あ、ほんとだ。びっくりするほど綺麗、ついでに冷たい」
 調べ終わったマレフィカが顔を水に突っ込んだ。

「わーい!」と、アドラーの許可も待たずに子供たちが一斉に飛び込む。
 猫らしくない勢いでバスティまでダッシュして、ダルタスも深みまで歩き頭まで浸かる。

「よーし、お姉ちゃんも!」と、ダイビングしたミュスレアが水面から跳ね上がった。

「痛い! なんだっ!? 肌がっ!?」
 日焼け対策をさぼり、巨乳の露出系ダークエルフになっていたミュスレアに砂漠の水はよくしみる。

 飛び出してきたミュスレアを馬鹿にした目で見ながら、最後にロバのドリーが水に口をつけた。

「あうー、アドラー」
 情けない声を出す長女に、アドラーが現代知識で対処する。

「はいはい。とりあえず油を塗りましょうかね。一時しのぎですけど」

 ランプ用の植物油――もちろん純粋天然物――に、少しだけ香料を混ぜたものを作る。
 傷んだ肌を守るにはこれが一番早くて安くて確実。

「肩と背中がしみるんだ。ぬ、塗ってくれる?」
「えっ、お、俺が?」

「だって……他に居ないだろ……?」
 ミュスレアが、出来たてのサンオイルを見ながら頬を染める。

「姉ちゃん、ボクが塗ってやろうか? ぐはぁ!?」
 水から上がってきた優しい弟を、長女は蹴り飛ばして水に叩き込んだ。

「ひ、ひどい……何も蹴らなくても……」

 理不尽な扱いにキャルルは水に潜って泣き、ブランカはけたけたと笑う。
 砂漠のど真ん中で、オアシス水浴が始まった。


「これ、食えるかな?」
 ひと涼みしたところで、ブランカがサバクミズカメを一匹抱えて持ってくる。
 池にいる中では小型な方だが、軽く70キロの重さがある。

「クルケット?」
 アドラーは現地人に聞いた。

「食えるです! うまいです! けど仲間に気付かれると襲われることがあるですよ。ゴブリンは、村まで生きて持って帰るです」

「ありがと、クルケットは賢いなあ」

 アドラーは、ダルタスを呼んだ。
 二人で離れたところまで運んで、解体して肉にする。

「美味しく食べるからな」と許しを請うて、食べれる部分は全て食料にして残りは埋める。

 アドラーにも地球の現代的な感覚は残る。
 だが一人なら我慢をしても、育ち盛りの子供達に食べさせる義務感の方がずっと強い。

 今日の夕食は、亀肉のステーキだ。


 しっかり遊んで寝て食べて、アドラー達は夜の砂漠を歩く。

「最初からこうするべきだったなあ」
「むしろ寒いくらいね」

 ミュスレアも日焼けで火照った肌の上にしっかりと着込む。
 砂漠の夜は寒いと知ってはいたが、予想以上に冷え込む厳しい環境。

「だんちょー、何か来たぞ」

 月明かりはあっても、遠くを見通すにはブランカが頼り。
 二足種族では見えない波長も、この竜の子は感知出来る。

「どっちからどんなの?」
「あっちから。地中にいる」

「それは困るな」
 アドラーは地面に手をあててみるが、振動などさっぱり伝わらない。
 手についた砂を払いながら、マレフィカを呼ぶ。

「そうだなー、砂のゴーレムで叩き出すか」

 魔女が竜の指さす方にゴーレムコアを投げて準備する。

「きたよ」
 ブランカの声はまったく緊張感がなかったが、ゴーレムに追い出された魔物は巨大だった。

「モンゴリアンデスワーム! しかもギネス級!」
 ギネスブックなど無い世界だが、現れたサンドワームは、起こした体の前半だけで十メートルを超える。

 砂を食って尻から吐き出して進む肉食の魔物は、アドラー達に狙いを定める。
 極地の魔物や獣は、基本的に機会捕食種。

 口に入るサイズなら何でも食べ、そして口のサイズが異様に大きい。

「これは、食えないな。体内は砂だらけで、外郭はほとんど筋だ」
「ゴブリンもこいつらは食わんです。けど団長さま、ほんとお強いです!」

 月下の戦いは、多少長引いた。
 ワーム系のモンスターはタフで、しかも素材にも食料にもならない。

 それでも現地の生き物には驚きの贈り物。
 倒れたモンゴリアンデスワームを目当てに、砂漠の虫や小型動物が早くも集まり始めていた。
 こんな砂漠であっても数日から十数日で、綺麗に掃除される。

「よし、先を急ごう」
 アドラー達は歩き出す。

 クルケットから聞いた話を総合すると、ゴブリンの村を襲ったのはバジリスクかサラマンダー系の大型種。
 ひょっとすれば、魔物として長く生きた特異個体かもしれない。

 ワーム程度の小物とはレベルが違う。
 ライデンの冒険者ギルドなら、もちろん討伐可能。

 ただし最低でも慣れた者が二十名、まともなギルドなら連合を組んで三十から四十人は用意する。
 ただし費用もその分だけかかる。

 まともでない”太陽を掴む鷲”は、たった七人と一匹と一頭のロバで夜の砂漠を進む。

 そして、放棄されたゴブリンの村へ辿り着いた。
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