朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

文字の大きさ
142 / 214
第七章

142

しおりを挟む

「団長、試し斬りがしたいのだが」
「木でも切ってろ」

 ダルタスが、戦いたくてうずうずしていた。

「だんちょー、虫だらけ」
「うーん……ハーブ絞った汁かけるか?」

「やだ、臭い」

 成層圏を飛びマグマの淵にも住めるドラゴンにも弱点があった。
 砂漠では少なかった羽虫が大量にブランカにまとわりつき、尻尾を振って応戦しても減る気配がない。

「竜の血を吸って変な魔物にならなきゃ良いがなあ」
「うう、だんちょー! もう我慢できない!」

 ブランカの魔力が一点に集中し始める。

「バカこら、それは駄目だ!」
 アドラーが慌てて口を塞ぐと、ブランカは恨めしそうにもごもごと喋った。

「あのブランカさん、これ着て下さい。ごめんなさい、私達が人数分用意してなかったから」

 ”鷲の幻影”団のクリミアが、虫よけマントを差し出す。
 この地域にも足を伸ばすことがある団の備品。

「ひぃひぃの?」
 口を封鎖されたままのブランカが一応アドラーに聞いたが、もうマントに手を伸ばしていた。

 アドラーは「あっ、けど、その」と遠慮しようとしたが、クリミアには別の者がマントを差し出す。

「これ、使え」
 アストラハンが自分の虫よけマントを渡し、自分はアドラーがハーブから作った虫よけ汁を使う。

「あ、ありがとう」と言ったクリミアの頬はピンクで、幻影団の者たちはニヤニヤしていた。

 流石のアドラーも、これには気付く。
 特に気にしてないブランカは、アストラハンとクリミアにお礼を言ってマントを被る。

 虫が離れていく魔法に包まれた白竜は、ご機嫌で歌い出す。

「がおーがおー、あたしはブランカ、ガキ大将ー、天下無敵のドラゴンだぞー。がおーがおー、怖いものはないけれどーご飯抜きは勘弁なー」

 アドラーが覚えていた地球の曲に、鳴き声をいれたもの。
 実際にブランカは、マレフィカの森の家でガキ大将として君臨していた。

 意地悪な男子を寄せ付けないブランカは、近所の女の子達からも認められ、遊び友達が増えたと嬉しそうに語った。
 その時に、アドラーがこの曲を送ったのだ。

 ブランカは女の子なので、キャルルと遊ぶのも良いがやっぱり女子の友達が欲しい。

 どの世界のどの時代でも、女の子が好きなのが歌と踊り。
 アドラーは親心から地球の曲を教えたのだが、歌詞を聞いた食事担当のリューリアが怒った。

「わたしは、ブランカのご飯を抜いたりしません!」と。

 それからブランカは、歌の上手なリューリアに地域の歌や流行りの歌を教えてもらい、友達と歌っている。


 リューリアも虫よけマントを譲ってもらい、男達が虫刺されの数を自慢する一方で、白虎の捜索は難航していた。

 女神の頼み事は一筋縄ではいかない。

「あの、ブランカさんは竜、なのですよね?」
 クリミアが尋ねた。

「そうだよ?」
 ブランカはいまさらといった顔をする。

 女神アクアが「竜の子」と呼ぶので、幻影団の者達は自然と受け入れていたが、やはり不思議に思っていた。

「ならひょっとして、翼とか生えるのですか?」
「生えるよ! もっと強くなると、小さい体に収まらなくなる。そしたらお祖母様みたいに大きくなる」

 アドラーは、ブランカの祖母から詳しい話を聞いていた。
 力が増すと人の姿になるのは辛いと語っていたのは事実。

 だが幼くても人型になるのは難しく、ブランカは色々と学ぶ為に祖母が形を与えたと。

「わたしの若い頃そっくりなのよ」と、巨大な祖竜は言っていた。

「じゃあちょっと見てて!」
 突然、ブランカが口を開く。
 クリミアとあれこれと話す内に、竜らしいとこを見せたくなったのだ。

 牙の揃った口から出たのは、ブレスでなく咆哮。
 巨大な弦楽器を一番高いキーでかき鳴らしたような鋭い叫びで「がおー」とは程遠かった。

「急に叫んだら駄目でしょ!」と耳を抑えたリューリアが叱る。

「はーい、ごめんなさい」
 ブランカは素直に謝って、アドラーもダルタスも驚いただけだったが、幻影団の六人は違った。

 しばらく目を見開いて硬直し、最初にアストラハンが大きく息を吐いた。
 それから順番に動きを取り戻す。

「び、びっくりしました。衝撃に包まれるというか、恐怖で足が竦んで……」
 アストラハンは不思議そうにブランカを見る。

「そういえば、竜の咆哮は根源的な恐れで呼吸も止めるって文献にあったなあ」
 自身には効果なかったが、アドラーも竜の子を見た。

 得意満面の笑顔でブランカは答える。
「竜の咆哮だぞ! 仲間には効かないけど」

「へえ、やっぱり凄いですねえ。アドラーさんの団は……」
 アストラハンが目を輝かせ、その横顔をクリミアが心配そうな顔で見ていた。

 新たな能力を披露したブランカだったが、問題はその後に起きた。

 樹上の鳥やサル、地上の齧歯類、シカやノブタの仲間まで周囲から一斉に逃げ始めた。
 いきなり轟いた頂上生物の叫びに、本能が反応したのだ。

「これはまずい」
「ブランカ?」

「怒っちゃやだ」
 この危機を、ブランカは甘えることで乗り切ろうとした。

 耳の良い虎は、当然ブランカの声を聞きつけて隠れるだろう。
 しばらくは大人しくなるだろうが、縄張りを捨てるとまではいかない。

「仕方ない、今日の探索は中止して船に戻ろう。本当にごめんね、付き合ってもらってるのに」
 アドラーは幻影団の皆に謝る。

「いえいえ気にしないで下さい! 僕、ちょっと探して来ますね、白い虎」

 張り切っているアストラハンが一人で走り出そうとしたが、動き出す直前にアドラーが掴んだ。

「アドラーさん……?」
 強い力で腕を掴まれたアストラハンが、怪訝な顔になった。

 魔法が使えるアドラーは、魔力の流れが読める。
 それを戦いに使うのがアドラーの強さの一つで、さらには強大な敵を事前に察知する事も出来る。

「集まれ、上から何か来るぞ!」
 アドラーが叫ぶ頃には、ブランカも気付いて真上を見る。

 ダルタスが斧を取り出し、リューリアと幻影団の者達にアドラーは強化魔法をかける。

「指揮は俺がやる。俺を信じろ、勝手な攻撃は禁止する!」

 すらりと剣を抜いたアドラーの後ろに、皆が一塊になる。

「なんだ、これ。とんでもないのが来るぞ」

 最大級の警戒をしたアドラーの目が、急降下してくる影を捉えた。
 太陽を背にして巨大な黒い矢が一直線に下りてくる。

「あっ、こいつ!」
 ブランカが叫んだが、緊張感がまったくなかった。

 地上すれすれまで近づいた黒い影は、アドラー達の頭上で見事に静止する。
 高速度からゼロ速度へ、一瞬で移行する尋常ならざる機動力。

 敵意の無い目で地上を見下ろすのは、漆黒のドラゴン。
 片翼だけで十メートル以上あり、手足と尾を垂れ下げながらブランカを見つめる。

「ごめん、呼んじゃった」
 まだ戦闘態勢の団長とオーク、固まる少年少女に向けて、竜の王女がぺろりと舌を出した。


 アドラー達の居る場所は、ライデンよりもずっと東。
 少し高い所に登れば、東方の大山脈『オロゲンの背骨』の白い山頂が見える。

 たまたま遥か上空を飛んでいた黒竜は、一族の姫の声を聞きつけて降りてきただけ。

「ほ、本物の竜……」
 幻影団の者達は、おとぎ話を目にしてぴくりとも動けない。

「失礼な! あたしも本物だぞ」
 ブランカが右手を差し出すと、黒竜は首を伸ばしてその手を舐める。

「ちょっと頼まれてくれる? 失敗しちゃったの」

 バジリスクのボス『アカカブト』でも軽く仕留めることが出来る黒竜は、姫の頼みを聞いて舞い上がる。

 今日、この密林で一番不幸だったのは昨日まで森の頂点にいた白虎。

 地表に数百年ぶりに降りてきた黒竜に散々に追い回されて、人里から遠く離れた森へ追い払われた。

 白虎は魔獣となりさらに長く生きたが、森の奥で静かに暮らす事を選ぶ。

「おわった、褒めて?」
 そしてブランカは、眷属の功績を独り占めした。

 黒竜は人の目では見えぬ空のかなたへ舞い戻り、二度と地上へ来ることはなかった。

 前時代の覇者である竜と、次の時代を担う二足種族、両種が共に暮らす時代はもうちょっとだけ続く。

しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...