朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

いんたーみっしょん2

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 あの戦いから三年……。

 遂にキャルルは、姉のリューリアの背丈を追い越していた。
 その上の姉、ミュスレアも来年には目線の位置が入れ替わる。

 クォーターエルフの18歳は、ヒト族なら15歳前後。
 もう子供扱いされる年齢ではないはずで、自分の呼び方も「ボク!」から「俺」に変えた。


「というわけで、俺らだけで行って帰ってくる。分かる?」

「分かんねーよ」
「そういうことするから子供って言われるにゃ」

 キャルルの提案に、アスラウもバスティも乗ってこない。

 アスラウ・ラーンディルは、宮廷魔術師の一門に生まれ母は皇后の妹、後見人はミケドニア帝国の宿将バルハルトという支配階級の若様だが、今は何故か貧乏冒険者ギルドに身を寄せていた。

 バスティは黒猫。
 ただし中身は”猫と冒険の女神”という立派な神さま。

「だからっ! 兄ちゃんや姉ちゃんが動けない今、俺たちが稼いでくればぎゅーっと評価あがるだろ? 『キャルルもすっかり一人前だなあ』ってなるわけだ!」

「稼げればな」
「自慢の剣を泉にでも落として泣く姿が目に見えるにゃ」

 キャルルの友人と団の守り猫は冷たい。

「……俺がこれほど頼んでも?」
「まだ頼んでもないだろ」

 ほとんど両親を知らないキャルルと、幼い頃に父親から強引な魔力強化手術を施されたアスラウは、対等の付き合いをしていた。

「くっ……お前に頭を下げるのは……」
 苦悩するキャルルに、バスティが猫姿のままで提案した。

「そういうことなら、ブランカを連れて行くにゃ。あいつがいれば、何が出ても大抵は何とかなるにゃ」

 キャルルが嫌な顔をした。
 このギルド、”太陽を掴む鷲”ライデン本社は、相変わらず人数が少ない。
 ただし飛び切りの少数精鋭である。

 団長のアドラーに副官格のミュスレア、そしてオークと魔女とドラゴンの幼生、ここまでは桁外れの力を持っている。

 キャルルもアスラウも年齢にしては頑張っているのだが、如何せん比較対象が悪い。

「あー、あいつにはちょっと前に頼んだ。こっそりクエストやるから、ついて来いって。そしたら、そのままリュー姉に言いつけやがった! ……めっちゃ怒られたし」

 次女のリューリアが怒るのも無理はなかった。
 ”太陽を掴む鷲”団は、始めての事態を迎えて大騒動の真っ只中、それに加えてオークのダルタスが出身部族から呼び出されて帰国していた。

 今は、長女のミュスレアが臨月を迎えていたのだ。
 守られるだけだったキャルルにも甥っ子か姪っ子、守るべき存在が出来る。

 旦那の団長は、落ち着かずに家の中を回遊魚のようにうろうろ、魔女マレフィカとリューリアは付きっきりで出産の準備。
 キャルルは「今こそ自分が家族の為に稼ぐ時だ!」と張り切っていたのだが。

「お姉ちゃんに余計な心配をかけるような事、絶対にするんじゃないわよ!」と、リューリアは弟を見上げながらきつく説教をした。

「じゃ……この話はなかったことに」
 アスラウが席を立つ。

 この家に来てから、お坊ちゃまのアスラウを本気で叱ってくれる人が出来た。
 それはくすぐったい嬉しさもあったが、駄目だと言われることをして、わざと怒られるほど子供ではない。

「待て、待ってくれ! 良いクエストがあるんだよ、これを見てよ!」

 逃げ出そうとした友人の袖と猫の尻尾を捕まえたキャルルが、苦労して一枚の紙を取り出す。

 そこには。
 ――新ダンジョン解放記念! 新鋭さんいらっしゃいキャンペーン!
 何処のダンジョンに行っても、何時も同じギルドが先に攻略してる
 そんな不満はありませんか?

 ここバルツの坑道跡ダンジョンは、最近見つかった迷宮です!
 しかし出現する魔物も弱く、上位の冒険者が来れば一瞬で攻略されてしまう
 
 そこで今回はB級以下の冒険者のみ! 参加パーティも3人から10人まで!
 大冒険時代の初冒険を、バルツの坑道跡ダンジョンから始めませんか?


「う、胡散臭え!」
「ぷんぷん臭うにゃあ!」

 水準以上の教育を受けたアスラウ、七割以上は寝てたが六百年も生きてるバスティ、二人揃って怪しい文章を笑い飛ばす。

「な、なんでだよ? 今はこういう低ランク向けのダンジョンが流行ってるんだぞ?」

 ――時は大冒険時代。
 キャルル自身も関わった、二つの大陸文明の調和と協調。
 新しい土地は人々の視線を惹きつけると同時に、これまで見過ごされていた足元の大地にも向けさせた。

 初心者の内は簡単な南の大陸で経験を積み、一攫千金を目指して北の大陸へ。
 若者達が家業を覚えるのを放り出し、冒険者になる時代である――。

「だとしてもなあ。あ、参加費金貨1枚って書いてある、たけえな」
「ますます臭うにゃ」

 もうすっかりネタ扱いされていたが、キャルルは諦めなかった。
「頼む、頼むよ! この通りだから!! 俺を男にすると思って!」

「あー、バルツって近いよなあ……ところで、最低三人ってあるけど?」
 アスラウは数少ない友達にそこまで言われると弱い。

「そこはほら、バスティ、人型に戻ってくれ」
「んにゃ!? うちを戦力に入れるんじゃにゃい! ほら北の大陸から誰か呼ぶか、シャーン人にでも頼むにゃ」

 北の大陸アドラクティアに、”太陽を掴む鷲”は支部を持っている。
 そしてシャーン人とは、南の大陸に住んでいた最後のダークエルフ族。

 ”太陽を掴む鷲”団が、拐われた有翼族を返さぬ某国の大貴族のところに殴り込んだ時に、ダークエルフの一族は揃って北の大陸への移住を望んだ。
 今は数名が、団長のアドラー個人に忠誠を誓う私兵となっている。

「だって北の団員も滅茶苦茶だし! 一人でも来ればボクの活躍がなくなる……。シャーン人に頼めば、兄ちゃんに筒抜けだよ」

 キャルルは、あくまで自分が活躍してお金を稼いで、褒められて認められたいのである。
 支部の団員は、主にアドラーの昔の仲間達。
 本社の上位陣にも負けぬ、文字通り一騎当千の猛者が集まっていた。

「それでうちかー。うちは使えないぞ?」
「使えない方が良いの! 活躍はボクがする!」

 バスティも、この団の団員は大好きである。
 特に冒険者として独り立ちしそうなキャルルは、可愛くて仕方がない。

 何時の間にか「俺」から「ボク」に戻った言葉と視線に、一人と一匹は負けた。
 今や姉リューリアに次いで、ライデンの冒険者で二番目の美人とまで言われるキャルルの正面からの頼みを断れる人は少ない。

「うーんまあ、今回だけだぞ」
「仕方ないにゃあ」

「ほんと? やったあ!」

 キャルルは無邪気に喜ぶ。
 街の少女たちが見れば、興奮の余りに倒れること間違いなしの笑顔を振りまいて。

「……ところでにゃ、このB級ってなんだ?」
 バスティが肉球で募集文の一部を示す。

「ん? よく知らないけど、最近は強さが測れる魔道具で、冒険者のランクを決めるみたいだよ」

 この世界にも新しい基準がやって来ていた。
 何処かの森の魔女が異世界経験者のアドバイスを元に作った、S級からF級まで判定する魔法道具が、ここ数年で大いに普及していた。

 
 そして、まだ寝癖の残る金髪をなびかせたキャルルと、淡い栗色のくせ毛を少し伸ばしたアスラウが街を出る。
 カモフラージュに外見は普段着のままで。

 キャルルとアスラウが着る服は、主にリューリアが買ってくるか手作り。
 母親代わりのミュスレアに任せると、無地にスヌーピーのようなダサいTシャツになるが、次女は二人によく似合う服を選ぶ。

 今も少年らしいデニムのボトムに、少しラフなパーカー、背負ったザックは冒険者用の丈夫な革製だが、紐を伸ばしてけだるさを演出する。
 手首や首元に光るのはシルバーアクセではなく、ミスリル合金の防具だったが、二人を見つけた街の少女達には関係ない。

「キャルルさまよ!」
「アスラウさまもご一緒に!」
「……誰、あの女?」

 追ってくる視線に、お喋りを続ける二人は気付かない。
 今は初めての自分達の冒険に興奮していた。

 間に挟まれるようにしたバスティは、女の子達の視線が怖い。
 膝まで網目のサンダル、短いキュロットスカートに白のブラウスと猫耳を隠すキャップ、夏の装いの人型で付いて来たのが間違いだった。

「うう……祈りどころか呪いが集まるのが分かるにゃー。まだ猫のままで行くべきだったにゃあ……」

  もしはぐれたりすれば、暗い街角で「あんた何処の誰よ?」と詰問されること間違いない。

 元気いっぱいの少年二人と、びくびくしながら顔を隠す女神さま。
 ”太陽を掴む鷲”で、下から三人だけの冒険が始まった。
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