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第七章
その3
しおりを挟むキャルル達は、軽快に進んでいた。
もうすぐ父親になるアドラーと比べても、歩いたり走ったりならずっと身軽でタフ。
おっさんは若い者について行けないので、馬車や馬に乗る。
地図を見ながらアスラウが山を指差す。
「坑道跡ダンジョンはこっちかな。バルツの街はこっから下るけど、どうする?」
「もちろん直行!!」
末っ子気質のキャルルに迷いはない。
三人は道を外れて山を突っ切る。
魔物が出るかも知れない山野だが、ここではバスティが役に立つ。
「やれやれだにゃー」と、言いながらも気配と猫耳を研ぎ澄ます。
バスティは見た目は小柄で黒紫髪の少女だが、中身は女神様。
強い力や、ヤバイ存在が近づけば誰よりも早く分かる。
猫の感覚に引っかからないくらいの魔物なら、キャルルとアスラウでも充分に倒せる。
以前にキャルルは、とある神さまから固有魔法を貰った。
自分と誰かを攻防大アップという珍しくて便利な強化魔法だった。
三年間の成長で、今は自分以外の二人にも攻防大アップのバフをかけれるようになっていた。
キャルルから強化をもらったアスラウとバスティは、木の枝から枝へと飛び移る芸当が出来る。
「へへ、やっぱこれ良いな。筋力は強く体は軽い、軽業師みたいだ」
宮廷魔術師の息子アスラウも、強化を受ければA級の戦士並の動きが出来る。
目的地に連なる山の一つを、三人は軽々と超えていく。
「あっ、野豚だ。オスだなぁ……」
木の上を走る三人に驚いた獣が一頭走り出てきた。
キャルルが空中で器用に弓を取り出し、地面にまで着地しながら矢をつがえた。
動かない大地に降り立つと、一瞬だけ息を止めて弓を放つ。
矢は右足の根本に深々と刺さり、バランスを崩した野豚は転けながら悲鳴をあげる。
「ごめんよ、美味しく食べるからね」
すぐに走り寄ったキャルルは、暴れる牙に気をつけながら止めを刺す。
食べるには手頃なサイズの獲物で、メスを狩らないのは狩人の流儀。
「お前、時々凄いことするなあ」
アスラウも目を丸くする早業だった。
「美味そう、いただくにゃ。ついでにうちが祈るにゃ」
本物の女神が、獣の魂の安寧と輪廻を祈った。
食べなければ生きていけないのだ、誰も文句を言ったりはしない。
血だけを抜いたキャルルが豚を担ぐ。
「残りの処理はあそこでしよう。ほら、もう見えてきた!」
夏草濃い斜面から見下ろすと、そこはもう目的地の坑道跡ダンジョンだった。
がさがさと山を割って出てきた少年少女に、先に到着していた冒険者達がびっくりする。
ついでに肩に担いだ野豚にもう一度驚く。
「うーんと、地元の子か? 豚を売りに来たと」
「違うよ!」
キャルルが代表して答えた。
「なら通りすがりの地元の子か?」
また別の冒険者が聞いた。
「同じじゃん!」と、キャルルが笑って答える。
今度は別の冒険者が、スケベそうな顔をしながら言った。
「へへへ、あれだな。美人の三人組ってことは夜の……」
スケベな冒険者は、最後まで台詞を言えなかった。
ぬっと現れた一人の男が、頭をはたいて黙らせていた。
その男は、キャルルの前に来ると人懐っこい笑顔で歓迎する。
「よー! キャルルじゃないか、久しぶりだな。何だ二人も彼女連れか?」
「タックス!」
キャルルは年上の冒険者を呼び捨てにしたが、男は嬉しそうだった。
”銀色水晶団”のタックスは、アドラーの飲み友達である。
何度か一緒にクエストに出たり共に喧嘩をしたりと、”太陽を掴む鷲”とは関係の深いライデン市の冒険者。
ライデンから一日半の距離のバルツに、遠征して来ていても不思議はなかった。
「なんでいるの? ここ、初心者向けのダンジョンでしょ?」
タックスはキャリアの長い冒険者で腕は確か、低ラン荒らしと言われても仕方のない実力がある。
「いやいや、俺は新人たちの引率だよ。こいつも今年入ったばかりだ」
タックスがスケベ面の冒険者を引っ張った。
「あれ、副団長のお知り合いですか? そりゃ失礼しました」
スケベ面は素直に謝る。
「知り合いも何も、こいつら太陽と鷲だぞ。この金髪は、あのミュスレアの弟だ」
「げっ!」
スケベ面はドン引きした。
新人でもライデンの冒険者なら知っている、悪名と異名高き”太陽を掴む鷲”団のことは。
曰く。
命が惜しいなら近寄るな
軍隊8万人なら大丈夫だと思ったら猫を連れた7人に負けた
足元がぐにゃりとしたのでよく見るとドラゴンの死体だった
街中の依頼なら何も起きないだろうと思ったら地下で眠る魔人を見つけた
太陽と鷲が倒せる魔物は一日120万体、うち20万体見たこともない魔物
ただし命が危ない時は全力で頼れ
ベテランの冒険者たちが面白がって付けた尾ひれのせいで、もう意味が分からない事になっていた。
「やめてよ、そのせいで全然新人が来ないんだから!」
キャルルは半分本気で怒る。
お陰で何時まで経っても団の一番下の雑用扱いなのだ。
「お前は怒ってもかわいいなあ。それでこっちがアスラウかい? アドラーから聞いてるよ」
タックスは更にキャルルを怒らせる台詞を言いながら、アスラウと握手をした。
大抵の人にはそっけないアスラウ――昔は見下していたが今はだいぶ丸くなった――もアドラー団長の友人ならと笑顔で握り返す。
一通りの挨拶が済んだところで、キャルルは肩から豚を降ろして聞いた。
「これ解体したいけど、井戸の水を借りていいのかな?」
小さく辺りを見渡したタックスが、顔を寄せて囁く。
「少し離れたとこに川がある、そっちを使え。あの井戸の水は、浄化せずに飲むな。鉱石の毒が混ざってる、うちの団の者に見張らせて警告させてるがな……」
「えっ、主催者からは?」
キャルルも驚いて聞き返す、水を全必要分運ぶのは冒険者でも辛い。
「それが何も言って来ない。あまり良い主催者じゃねえかもな、お前らも用心しとけ」
タックスは他にも必要な情報を隠すことなく教えてくれ、キャルルが礼を言うと「お前の兄貴に請求するから、気にすんな」と去っていった。
初心者向け、と銘打たれたダンジョンの解放は明日になる――。
――そしてライデン市。
「ブランカ、ブランカー。いるー?」
家に帰ったリューリアは、すぐに竜の娘を呼んだ。
「なーにー?」
ブランカは家の中に居た。
ミュスレアのお腹が大きくなってきてから、ブランカは片時もと言って良いほど側を離れない。
だんちょーとミュスレアは、ブランカにとって兄と姉であり両親代わりでもある。
これから生まれて来る子供は、弟か妹なのだ。
「余り気を張るんじゃない。まだまだ先は長いんだから」と、同じように落ち着かないアドラーに諭されても、どうしてもミュスレアが気になる。
ミュスレアが転けたりしないか、変なものを食べないか、刺すような虫が寄ってこないか、可能な限り寄り添っていた。
「ちょっとこっち来てくれる?」
リューリアの呼びかけに、ブランカがやっとミュスレアの側を離れる。
「なーに?」
次女を見つめる竜の目はとても優しい。
だがもしも、今ここへアドラー達を狙った刺客でも現れれば、その連中は真の竜の怒りを見るだろうが。
ちょっと声を潜めてリューリアが聞いた。
「キャルルとアスラウを知らない? 何処かへ勝手に行ったみたいなのよ」
「知らないけど……あの馬鹿どもめ」
ブランカはリューリアと同じ感想を持った。
「まだ夜遊びくらいなら良いけど、行き先も告げずに冒険に出たらしいのよ」
「うーん、ちょっと待ってて!」
ブランカは、キャルルとアスラウが家にしている丸太小屋に勝手に入り込んだ。
あちこちひっくり返して探し回り、一枚の紙を見つける。
「リューリア、これは?」
「あー、これっぽいわね。日付は明日ね、今からではちょっと間に合わないか」
夏の昼長とはいえ、そろそろ夕方だった。
「竜、呼ぼうか?」
ブランカが提案したが、リューリアは首を横に振った。
「明日にしましょう。夜にみんな居ないと、お姉ちゃん心配するでしょ?」
「うん、そうだ! あの馬鹿たちよりも、ミュスレアが大事!」
二人はさくっと優先順位を付けた。
キャルルもアスラウも男の子である、死なない程度に怪我をするなら、別に良いのだ。
ただし、無断で出かけたことが許される訳ではない。
ブランカはその夜の内に、ライデン市の遥か上空を飛んでいた竜の中で、一番速いものを呼んでおく。
キャルル達三人は、そんなことも知らずに仕留めたばかりの野豚の腹に野草を詰め込み、地面に焼いた石と一緒に埋めて調理していた。
育ち盛りの三人が、腹いっぱい食って満足できる量と味だった。
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