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第七章
その5
しおりを挟む新ダンジョンのグランドオープンに、若者おっさんギャルなどが列を作る。
冒険者ばかりなので見た目のガラが悪い。
小さな子連れの母親が近くを通れば『見ては駄目です』とばかりに、子供の首を逆に向けるに違いない。
そして入場の前に、抽選のようなランク判定があった。
「ステータスオープン!」の掛け声と共に、魔法道具に付いた水晶に手を当てる。
何処の魔女が考えたのか、非常に悪趣味である。
「はいこちらは全員Eランクですね。後ろに回って下さい」
受付嬢が忙しそうに、百組四百人は並んだ冒険者を測定しては並ばせていた。
弱い組は後ろになる、先頭で踏み込んで大怪我されては困るので当然の処置。
ついにキャルルの番がやってきた。
キャルルはこの時を楽しみにしていたのだ。
このランク測定器が出回った頃、アドラーに自分も測りたいと頼んだ事がある。
「兄ちゃん、ボクも実力を知りたい!」
「うーん、あれはなあ。悪い出来ではなかったが、表層的なものしか数値化出来なくてなあ。経験や知識、それに一番重要な精神面が出ないんだ。だからキャルルは測らなくていいぞ」
キャルルが尊敬する団長は、まるで製作者のような口ぶりで必要ないと断言した。
だが男の子にとって、日々成長する自分の能力を知りたいと思う欲求は止められない。
むしろ今日までよく我慢した方だった。
「ステータスオープン!」と、キャルルが張り切って掌をかざす。
青く魔法の光が灯り、キャルルをスキャンした。
筋力 68
持久 75
耐久 47
守護 55
敏捷 92
魔力 178
幸運 191
魅力 241
得意武器 剣と弓
攻撃力 C 防御力 D
「へー、これは凄いですね!」
キャルルのステータスを見ていた受付のお姉さんが声と顔をあげ、キャルルの顔を見て納得して頬を染めた。
「ねえ、どれくらい?」
魅力全開の笑顔で少年はお姉さんに尋ねる。
「総合C3からD1くらいですけど、サービスしてCの3級にしちゃいます!」
「それだけ!? 三桁が三つもあるのに!」
お姉さんの申し訳無さそうに答える。
「下の二つは戦闘に関係ないのでランクに影響しないの、ごめんなさいね」
「何でそんなのまで測るのさ!?」
キャルルはご不満である。
姉のミュスレアや団長のアドラー、それにキャルルに一番稽古を付けてくれるオークのダルタスが桁外れに強いことは知っている。
間違いなくSランクってやつだろうと。
ここで高い数値が出れば、自分も前線に混ぜてくれと言うつもりだったのだ。
頬を膨らませたキャルルに、アスラウが後ろからこっそり話しかける。
「あれ使えあれ。一気に全数値上がるだろ」
このエルフ族の少年は、珍しい事に神さまから二つもバフを貰っている。
一つはバスティから貰った敏捷力上昇、もう一つはバスティの姉から貰った攻防強化の特大バフ。
この二つをかけ合わせれば、単純な戦闘能力は一気に倍増する優れものだが、さらに後ろからタックスが止めた。
「キャルル、使うのはやめておけ。余り人前で見せるものじゃない、それにあの看板を見てみろ」
タックスが示した看板には、こう書いてあった。
・大盛況に付き入場制限いたします!
一つのパーティでB級以上は1名まで!
A級以上の入場はお断りします!!
オーナーより
「タックス、なにあれ?」
「最近はたまにあるんだ。上手いやつが来て荒らされるより、長くダンジョンを維持して稼ごうってビジネスがな」
「ふーん……」と返事をしながら、キャルルはよく分からないって顔をした。
ダンジョンも未踏の地も、一気に制覇してしまえば良いのにと若者らしく考えている。
「ここでB級二人とかになったら困るだろ? だからやめとけ」
「うん!」
キャルルは素直に従う。
強化魔法でB級に格上げになっても、アスラウもB級で一緒に探検出来ないとなったら意味がない。
もちろんバスティが強いとは微塵も思っていない。
「じゃあ次は俺か」
宮廷魔術師の息子がランク測定に挑む。
筋力から敏捷まで全ての数値でキャルルを下回るが、魔力が四桁の大台を超えても上がり続ける。
受付のお姉さんが大声で褒めてくれた。
「凄い、なんと魔力が2880! 魔術師ならC1級です!! あと魅力も225!」
惜しくもB級に届かないが、アスラウは満足だった。
キャルルよりは上だったから。
「負けたか」
「ふふん、まあな。俺は物心付いた時から魔術師になるために育てられてきたからな」
C級の基準は、並の冒険者ギルドで中堅メンバーといったところ。
A級はライデン市でも二桁と言われ、S級ともなれば十数人。
この測定器を作ったアドラーは、幸運と魅力以外は全て200前後の高ステータス――ただし魔力以外は測れるのは255まで。
そしてアドラーは、そこから自らのバフで最低九倍にまで能力を引き上げる。
桁違いの大人達を知るキャルルとアスラウが、「俺たちでC級ってかなり甘いな」と感じても不思議はなかった。
「次はうちだにゃ!」
猫と冒険の女神が右手を差し出して、数値を読み取った受付嬢は困惑する。
「え……? 身体能力は最低クラスなのに運と魅力だけ255でカンストしてる……。なにこれ、壊れちゃったかしら?」
「あっ、多分あってます! こいつだいたいそんな感じなんで!」
キャルルが慌ててバスティを引っ込める。
そこそこの魔力もあったがパーティの三人目はF級だった。
「次はあーしかぁ……って、ヒーラーも測るの?」
「いえ、ヒーラーはどれだけ強くても入場制限はありません」
臨時の四人目であるリリカは、測定する必要もなかった。
これでキャルルの隊は、平均的な剣士が一人とちょっと強い魔法使いが一人、幸運のお守りのような猫神さまと駆け出しヒーラー。
変わったパーティだが、初めての冒険には悪くないといった感じになった。
「わははっ! 良いバランスじゃねえか!」とタックスも笑って褒める。
そのタックスだが、測定するとB1級の数値が出た。
入場できるギリギリで、実力通りと言えなくもなかったが”銀色水晶”団の副団長になった男は渋い顔。
少し離れてからキャルルを呼び寄せる。
「少し判定が甘い。これだとA判定で入れないベテランが出るかも知れん、用心しとけ」
本気で真面目な顔でキャルルに警告する。
こくりと頷いたキャルルは、浮かれた気持ちを抑えて冷静と慎重を取り戻す。
このダンジョンへは遊びに来たのではない。
身重の姉と側を離れられない兄に代わって、稼ぎに来たのだ。
まだキャルルは知らない。
この坑道跡ダンジョンのオーナーは最近とある人物に代わっていた、それも飛び切りの因縁がある金の亡者に。
さらに冒険者の中には、キャルルを睨む美女がいた。
さらにさらに、前日退治した山賊コロッサス団が復讐にと大勢でダンジョンへ向かっていた。
そして竜に乗ったS級冒険者とハイレベルなヒーラーが一人、キャルル達を探し回っている。
幸運の値は高くとも、キャルルのトラブル体質はアドラー譲りだった。
だが知らない事に気を回せるような少年ではない。
「よーし、行くぞ!」
「おー!」
若い四人のパーティは、先頭を切ってダンジョンへ踏み込んで行く!
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