悪役令息に転生したビッチは戦場の天使と呼ばれています。

赤牙

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【番外編】ダンジョン ①

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 キャンプ地の集会所に集まった面々は、いつになく真剣な面持ちでガリウスさんを見つめている。
 張り出された地図には、目的地となる場所に大きなバツ印がつけられている。
 そこを指差しガリウスさんが話し始める。

「今回は『ダンジョン攻略』という前例にないものだ。この場所はどんな危険があるか分からない。だが、魔獣の発生源となるこの場所を攻略すれば、我々の生活はより安全になるだろう。大切な者を守るために、皆力を貸してくれ」

 ガリウスさんの言葉に、傭兵たちは賛同するように声を上げ拳を突き上げる。

 『ダンジョン攻略』
 それは、俺のささいな一言から始まった。



 遡ること数ヶ月前。
 西の森にヒポグリフという前半身がわしで後半身が馬の魔獣がたびたび確認され、個体数が増殖しているのではないかと情報が入る。
 調べた結果、今までにない数の個体数が確認され、このまま放っておけば前線にも影響が出ると判断された。
 ガリウスさんやノルンたち傭兵団のリーダー格は集会所に集まり、討伐の編成を考えていた。
 俺も状況確認のために話し合いに参加し、討伐時に必要な薬草や薬品を選別していく。
 ガリウスさんやランドルは、ヒポグリフが増殖したことに首を傾げながら戦略をたてていた。

「ヒポグリフは前回の繁殖期を迎える前に討伐して個体数を減らしたはずなんっすけどね~。なんで、こんなに増えたのか謎っす」
「確かにな。俺たちの把握していないところで個体数を増やし、群れが合流したと考えるのが妥当か……」
「それでも、こんなに増えるもんすかね? 突然あらわれたって感じっすけどね~」

 ランドルとガリウスさんの会話を聞きながら、RPGの世界や異世界の物語を思い浮かべる。
 魔法があり、魔獣がいるこの世界。
 生きることに精一杯で、この世界の成り立ちについては深く考えたことがなかった。
 魔獣の出現で思いついたのはダンジョン。
 ダンジョンからモンスターがあらわれ、大量発生して暴走したりするなんてお決まりの設定はよくある。
 もしかしたら、この近くにもダンジョンがあるんじゃないだろうか。
 そう思い、俺は深く考えもせず意見を言う。

「この近くに『ダンジョン』でもあるんですかね?」

 話し合いをしていたメンバーたちは、俺の発言に小さく首を傾げ、ガリウスさんが問いかけてくる。

「だん、じょん? なんだそれは?」
「え? あ~魔獣や魔物がよくあらわれる迷宮……みたいな?」

ーーもしかして、ダンジョンって言葉はこの世界にないのか?

 スライムにゴブリンと魔物の名称も同じだったので、何気なく言ってしまった。
 ダンジョンの意味を伝えると、ガリウスさんやランドルたちは興味をもったのか俺に顔を寄せてくる。

「おい、アンジェロ。その『だんじょん』ってやつがあると魔物が増えるのか?」
「増えるというか、ダンジョンから生み出された魔物たちが外の世界にでてきている、なんて書いてあった本があったようなぁ……」

 誤魔化すように言葉をにごすが、ランドルがくいついてくる。
 
「その『だんじょん』ってやつの話をもっと教えて下さいアンジェロ様!」
「い、いいですけど……幼い頃に読んだ本なので記憶はさだかじゃないですよ。この話は作り話かもしれないですし……」
「それでもかまわないっす!」

 ランドルの熱意に押され、俺はダンジョンについて必死に思い出していく。
 ダンジョンには多種多様な魔物たちがいて、そこにはお宝が眠っていたりすること。
 そして、最奥にはダンジョンを作り出したダンジョンコアがあり、そこにはコアをまもる強い魔物がいて、そいつを倒しコアを破壊するとダンジョンを攻略でき魔物があらわれなくなること。

 前世でやったゲームや漫画に映画や小説を思い出しながら、なんとか説明を終えると皆は渋い顔をして考え込む。
 
ーーわかりづらかったよなぁ……

 なんとなく知っていることを伝えたので、だんだんと不安になる。
 俺の余計な一言で作戦に支障がでなきゃいいけど……
 隣にいるノルンに視線を向けると、ノルンも顎に触れながら考え込んでいる。
 無言の圧に耐えられなくて、ソワソワしているとランドルが口を開く。

「ちょっといいっすか? 魔獣の生息地は縄張りもあるから大体決まってるんですけど……」

 ランドルは森の地図に丸を描きながら文字を書き込む。
 オーク、キラーウルフ、バジリスク、ピポグリフ……円形に広がる魔獣たちの生息地。
 そして、印が付けられていない地図の部分にはポツンと洞窟があった。

「この洞窟は昔からじいちゃんたちに絶対に近づくなって言われてた場所っす。入ったら最後、生きて出て来れる者はいないって……。じいちゃんも、この洞窟を何度か探索しようとしたらしいんですけど、向かうたびに違う魔獣に出会って大変だったって言ってました。俺はじいちゃんがボケてそんなこと言ったんだと思ったけど……この洞窟がアンジェロ様が言っていた『だんじょん』ってやつなら、じいちゃんの言葉に納得できます。ここは絶対調査しておいた方がいいっすよ!」

 ランドルの言葉に、その洞窟の噂話を知っている数名が頷く。
 ガリウスさんもその一人で、少し間をおいたのち結論を出す。

「まずはヒポグリフの討伐。そして、洞窟の調査も同時進行で行う。アンジェロの言った『だんじょん』ってやつなら放ってはおけない。ランドルはキアルと組んで洞窟の調査の準備をはじめろ」
「了解っす!」

 ランドルは生き生きした顔で敬礼すると、キアルのもとへとかけていく。
 そして、話し合いはまたヒポグリフの討伐にもどる。
 
 話し合いが終わったあとも、俺はダンジョンの件で頭の中はいっぱいだった。
 もしも、洞窟内の探索で何も見つからなかったら……いや、それでランドルたちが危険な目にあう方が問題だ。
 部屋に戻り、悶々としながら考え込んでいるとノルンがそばによってくる。

「アンジェロ様、何か考え事ですか? 眉間にシワが寄っていますよ」
「え? あ~……今日のダンジョンの件で色々と考えていたんです。僕の一言で大事になっちゃったなぁって」
「そうですね。今回の件は大きな騒動に繋がるかもしれませんね」

 ノルンに脅され、緊張が走る。
 背筋を正して、恐る恐るノルンに問いかける。

「やはり、洞窟内の調査はランドルさんたちに危険が及びます、よね?」
「調査に危険はつきものです。そのリスクは前線で戦う者としてランドルもわかっているでしょう。問題は、あの洞窟がアンジェロ様がおっしゃった『ダンジョン』というものだったらと言うことです」

 ノルンの話の意図が分からず首を傾げたまま話を聞く。

「私たちは今まで、魔獣や魔物は繁殖し増殖していくものだと思っていました。昔から、その土地に住み着いていたものなのだと。しかし、魔獣たちの発生がダンジョンとなると、今後の戦闘方法や戦略が変わってきます。もし、ダンジョンが存在するのならば……国を揺るがす大きな発見です! アンジェロ様の博識さに、みな驚いていましたよ」

 少し興奮気味にほめてくれるが、自分の発言した言葉の重さを痛感させられる。
 ダンジョンという概念がなかった人たちからすれば、驚くのも無理はない。
 喜んでいいものなのか分からずに曖昧な表情を浮かべた。

 そして、数日後に洞窟の調査にランドルたちが向かい……結果は、洞窟内で多種の魔獣を確認。
 ランドルは興奮した様子で、洞窟内の状況を報告していた。
 それから、キアルの索敵で洞窟内の大まかな地形の情報をもとに何度か調査が行われ、話し合いを重ねた結果……あの洞窟はダンジョンである可能性が高いと結論付けられたのだった。





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6/12の刊行予定に合わせて番外編投稿始めました!
書影も出ておりますので、ぜひそちらも見てください~☆
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