嫌われ者の俺はやり直しの世界で義弟達にごまをする

赤牙

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【番外編★現在更新中★】ジェイドとリエンのやり直し

ジェイドとリエンのやり直しの人生 〜嵐の夜に④〜

「さい……あくだ」

 馬の走るスピードが徐々に落ち、僕の左腕に絡まった手綱がようやく緩んだ。引きずられ続け、足が地面につくと、そのまま力なく座り込んでしまう。
 手綱が絡み締め付けられた手首は鬱血し指先にかけて感覚がなくなっていたが、解放された今は血が通いジンジンと脈打つように痛み疼き出す。
 嵐の夜を過ごすために用意した荷物は馬が暴れ森の中に放り出され、腰に下げた短剣以外なにもない。この状態で嵐に耐えながら朝を待つのは……とても辛い。
 一度目とは違う行動をしたらどうなるのかという実験は、最悪な結果になったわけだ。

 大きなため息をつき、少しでも雨風がしのげそうな場所を探す。洞穴とはいえないが、一人程度なら入れる窪みを見つけ避難する。
 濡れていない石のうえに座るとヒヤリとした。体温を持っていかれたが、ぬかるんだ土に腰をおろすよりは幾分マシだろう。
 ぐしょりと濡れた服を脱ぎ絞ると小さな水たまりができた。さっきよりはマシかと思いながら絞った 
 服を着ながら離れ離れになった二人の兄のことを思い浮かべる。

「あーあ、今頃、シャルル兄様とジェイド兄様は何してるんだろなぁ~」

 嵐の夜の話を酔っ払ったジェイド兄様から一度だけ聞いたことがある。
 その話をしている時のジェイド兄様の表情の緩いこと緩いこと。幸せいっぱいな顔をして優しい言葉や大好きだと伝えあったのだと、頬を緩ませ楽しげに話す兄様。
 ジェイド兄様はこの事件をきっかけにシャルル兄様との絆を深め、初恋を自覚したと言っていた。

 つまり二人は今頃火を起こして、抱き合って体を温め合っている時か……と、重めのため息をついたと同時に、稲光が走る。
 あたりが真っ白になり、次に地鳴りのような轟音が森の中を駆け抜ける。
 その稲光の中に、生き物のような影が映った。
 暗闇に混じり影が消えた。
 今の状況で一番最悪なことは獣に襲われることだ。
 一気に緊張感が走り、腰に携えていた剣に手をかける。痛みと痺れが続く左手で鞘を握り、震える右手で柄をつかむを掴む。
 雨の音と寒さで集中力がすぐに切れてしまいそうだ。
 でも、こんなところで終われない。生きてシャルル兄様にめいいっぱい褒めてもらって抱きしめてもらうんだ。
 姿勢を低くして臨戦体制で待ち構えていると、また影が動いた。自分の姿を見つけたのかまっすぐこちらに向かってくる。何かを叫びながら。

「— — —! — —ッン! リエン!」
「シャ、シャルル兄様!?」

 雨に打たれながら、こちらにやってくるシャルル兄様。あまりの驚きに剣を手に持ったまま呆然と立ち尽くしていると、シャルル兄様が勢いよく僕を抱きしめる。
 
「リエン、やっと見つけた。大丈夫か? 怪我してないか?」
「え、あ……うん。シャルル兄様、なんでここに?」
「なんでって、兄として弟を探しに行くのは当たり前のことだろう? 俺にとってリエンは大切な弟だ。だから兄である俺がリエンを守るのも当たり前だ」

 兄様の言葉に感極まり、思いきり抱きしめると少し苦しそうな兄様の笑い声が聞こえてきた。

「馬に引きずられ怖くて泣いてたんじゃないかって心配してたけど、元気そうだな」
「あんまり元気じゃなかったけど……シャルル兄様が迎えに来てくれて、すっごく元気になったよ!」

 そう言って、再度思いっきりシャルル兄様の体を抱きしめる。
 雨で冷えた体に互いの体温が混じり、肌が触れあった部分がじんわりと温もりを持つ。温かな部分が増えていくと幸せな気持ちになっていく。

「兄様、このまま抱きついてたら、あったかくなりそうだね」 
「ハハ、そうだな。でも、ここにいても凍えて体調を崩してしまうだろ。さぁ、ジェイドのいる洞穴に行こう。そこなら雨風が防げるし、ジェイドが火を起こしてくれてるんだ。だから、そこまで頑張ろう。けど、歩くのは……難しそうだな」

 シャルル兄様が僕の足元に視線を向ける。
 気がつけば両足の靴底はベロンとめくれていた。馬に引きずられていた時に必死に抵抗して破れてしまったのだろう。
 履けるが……歩くたびに靴底がパタパタと跳ねる。こうなると、靴を履かない方が良さそうだ。

「靴がなくても大丈夫! 代わりに服を破いて足に巻いて歩くよ」
「そんなことしたら足の裏を切るぞ。暗くて下も見えないんだ。鋭利な枝や石があれば大きな怪我につながるからな。だから……ほら」

 そう言ってシャルル兄様は、僕の前に背を向けてしゃがみこむ。躊躇していると、「ほら!」と催促された。
 意を決して、えいっと兄様の背中に飛び乗る。
 シャルル兄様の背中は大きかった。

 — —やり直し前の僕だったらシャルル兄様を丸ごと包み込んであげられたのに、今は背負ってもらう側なのか……

 小さく非力で運も味方につけられない末っ子の現状を叩きつけられた僕は、情けない顔をしたままシャルル兄様の背中にしっかりと抱きついた。
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