嫌われ者の俺はやり直しの世界で義弟達にごまをする

赤牙

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【番外編★現在更新中★】ジェイドとリエンのやり直し

ジェイドとリエンのやり直しの人生 〜嵐の夜に⑥〜

 嵐は徐々におさまり、静かな朝が訪れる。
 冷えた空気が洞窟内を通り抜けるとシャルル兄さんが目を覚ます。

「ん……」

 兄さんは不思議そう顔をして周りを見た後、思い出したのかハッとこちらに顔を向ける。

「ごめん、寝てた。二人とも大丈夫か!?」
「えぇ、大丈夫です。リエンはまだ寝ていますが」

 兄さんの膝の上で呑気に寝ているリエンを見て、シャルル兄さんは安心した表情を浮かべリエンの頭を撫でる。そして、洞窟の入り口から見える景色を見て呟く。

「あの嵐が嘘のように静かな朝だな」
「そうですね。どうにか屋敷に帰れそうですね」
「あぁ、そうだな。リエンが起きたら出発しようか。父さん達が心配しているだろう」

 リエンの頭を兄さんが撫でると、うっすらと目が開く。微睡んだ顔で微笑み「にいさまぁ」と甘えた声を出して兄さんの腰元に抱きつき顔を埋める。
 甘えたい放題だが、そんなリエンの行動に兄さんも嬉しそうな表情を浮かべ、元気な様子に安心していた。
 しばらくして、出発の準備を進めていく。
 兄さんが近くに彷徨っていた馬を連れ戻してくれ、二頭戻ってきた。
 私と兄さん、リエンと別れ乗馬し屋敷の方へと馬を走らせる。
 一度目の時は、このあと兄さんは体調を崩し熱をだした。きっと今も体の気だるさに耐えながら手綱を握っているはずだ。

「兄さん、大丈夫ですか? 体調が悪ければ私が代わります」
「いや、大丈夫だよ。二人があたためてくれたから元気そのものだ。それよりも、ジェイドの方が顔色が悪いぞ。大丈夫か? もう少し進むスピードを落とそう。そうすれば体への負担も和らぐぞ」
「え? そう、ですか? 特には……」

 兄さんにそう言われた瞬間に、張り詰めていた糸がプツリと切れたのかドッと疲れが押し寄せてくる。悪寒が体の奥からじわじわと広がる嫌な感じがした。

「私は大丈夫です。このままのスピードでいきましょう」

 リエンの方を見ると、話を聞いていたのかコクリと頷く。ただ、リエンの表情もあまりいいとは言えない。
 早く屋敷に到着してほしいという一心で馬を走らせて数時間……やっと、屋敷が見えた。
 屋敷前は人混みができており、今から私たちを探しに行く兵と父の姿があった。

「父上!」

 シャルル兄さんが声を上げると、兄さんたちの姿を見た皆が安堵の声を上げた。玄関前で帰りを待っていた母は待ち切れずにこちらに駆け寄ってくる。

「シャルルさん、ジェイド、リエン」

 母が馬に近づき私が降りるのに手を貸してくれるが、地面に降りた瞬間に右足の痛みと回転性の目眩が襲う。ふらりと体が大きく揺れて母では支えられない場面で、シャルル兄さんが私の体を受け止めてくれた。

「ジェイド、大丈夫……じゃないな」

 私の首に兄さんの冷えた指先が触れる。

「熱も上がってる。すまない、急いでジェイドを休ませてやってくれ」
「……すみま、せん。兄さん」
「気にするな。休んだら良くなるからな」

 兄さんに抱き抱えられると、そのまま屋敷の中に連れられ療養用に準備されたベッドが並ぶ部屋に寝かされた。
 私のすぐあとに、リエンも私と同様に父に抱えられてやってくる。
 奥底にあった体の熱はドクドクと奥から体の隅々まで広がり、熱さに息も上がる。頭の中の血管が脈打つたびに痛みが酷くなる。リエンも私と同じ症状なのか、ベッドに横たわり苦悶の表情を浮かべている。
 従者が着替えの手伝いや温かなスープなどを飲ませてくれる。最後に、薬を飲むと少し落ち着きベッドに横になる。
 ウトウトと微睡のなかを行ったり来たりして、しばらくたった頃だろうか。
 日がくれ、暗くなった部屋の中に淡いランプの光が灯る。
 ぼんやりと浮かぶ人影、淡い炎に照らされた瞳は水色に炎の色を纏わせた優しい色をしていた。

「大丈夫か?」
「……兄、さん」
 
 名前を呼ぶと、兄さんは優しく目を細め額に触れてくる。冷えた指先が気持ちいい。
 
「さっきよりも熱は下がったようだけど、まだ安静にしておかないとな。汗もかいているし体を拭いて着替えるか? 手伝うよ」
「いいんですか?」
「そんなこと当たり前だろ?」

 シャルル兄さんは何をおかしなことを言ってるんだと笑いながら体拭きの準備をしてくれる。その物音でリエンも目覚め、目をこすりながら気だるげに体を起こした。

「あれ……シャルル兄様?」
「リエン、体調はどうだ? 動けそうなら着替えようか」
「うん! 着替える」

 リエンはシャルル兄さんがいると分かると元気よく跳ね起き寝巻きのボタンを外していく。元気なリエンの様子に、シャルル兄さんと私は思わず吹き出してしまった。

 兄さんがお湯とタオルを準備してくれ一人ずつ体を拭いてくれる。リエンとともに、ソファーに座り着替えまで終わると少し息が上がり、息を大きく吐く。
 熱でまだ体は本調子ではないのだと感じていると、兄さんが心配そうに声をかけてくる。

「ジェイド、大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
「そうか……早く熱が下がるように、ゆっくり休まないとな。今日はごめんな。俺が狩りに誘わなければ、二人ともこんなことにはならなかったのにな……」
「兄さんのせいではありません。あれは……仕方のないことです。きっと、兄さんが誘わなくても……」

 そこまで言って言葉が途切れる。
 『兄さんが誘わなければ、私が狩りに誘っていたはずだ』と、思わず口に出してしまいそうになる。
 リエンと目が合うと、リエンは申し訳なさそうに俯いた。

「シャルル兄様……ごめんなさい。僕が狩りに連れていってなんて我儘を言ったから、兄様たちに迷惑をかけちゃった。本当にごめんなさい」
「私からも……シャルル兄さん、申し訳ありません」

 一度目と同じだったならば、シャルル兄さんは自分を犠牲にして傷を負った私を助けてくれただろう。あの時の兄さんは、どんな未来を辿るのか分かったうえで幸せになるために必死だった。
 なのに、私たちときたら浮かれた行動をとり、自分たちだけでなく兄さんにも迷惑をかけてしまっている……

 リエンとともに反省し、シャルル兄さんに何度も何度も「ごめんなさい」「ごめんね」と繰り返していると、シャルル兄さんが私たちの手を取る。

「お前達の言いたいことや気持ちはよく分かった。危ない目にもあったけど、ジェイドがいてくれたから寒さに凍えずに過ごせたし、リエンがいてくれたから寂しい気持ちも無くなった。だから、もうごめんはこれでおしまい。な?」
 
 笑顔のシャルル兄さんに頭をくしゃくしゃと撫でられると、熱で冷静さを失った私とリエンの目頭はぐっと熱くなり、涙が溢れおちてしまう。
 兄さんに「泣くなよ~」と、慰められるとさらに涙は止まらない。自分の情けなさに猛省していると、頬に兄さんの指先が触れる。
 そして、すぐに温かで柔らかな感触が頬に触れた。
 驚きのあまり、涙が止まった目で兄さんを見つめると、はにかみながら答えてくれる。

「大切な人が、辛い時に元気になってもらうにはキスが一番いいんだろう?」

 そう言って、リエンにも優しく頬にキスをするシャルル兄さん。
 リエンは顔を真っ赤にしたまま固まっていた。
 リエンの様子に、シャルル兄さんはおかしそうに笑いぎゅっとリエンを抱きしめてくれた。

 一度目の時、兄さんが私に言った沢山の『ごめんなさい』は、きっとこんな気持ちだったのだろうと今になり理解できた。
 そして、一度目を知る者が未来を変える行動をとる時には、大きな覚悟が必要なのだと痛感させられた。
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