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【番外編※不定期更新】〜嫌われ者の兄はやり直しの義弟達の愛玩人形になる〜
恐怖 〜シャルルside〜
フロルさんの部屋から出ていくように促され、俺は放心状態のまま廊下を歩いていく。
頭の中では、苦しそうなフロルさんの表情が浮かぶ。
そのたびに、後悔が胸の中で渦巻き苦しくなる。
ーーフロルさんが話せるようになったら、謝りにいかないと……。でも、謝ったところで許してくれるだろうか?
握りしめていたクッキーの袋が目に入り、忌々しく感じた。
考えを巡らせていると、俺の前を歩いていたジェイドとリエンの足が止まり話があると声をかけられる。
ジェイドとリエンの表情からは、普段の優しさは感じられず酷くさめたものだった。
フロルさんを傷つけてしまったことを責め立てられるんだと覚悟をして、ジェイドの部屋へと入る。
想像していた通り、ジェイドからかけられた言葉は怒りに溢れていた。
きっと俺もジェイドと同じ立場なら、同じように怒り責め立てていただろう。
分かってはいるけれど、わざとではないことを釈明していくと段々と悲しみが強くなってきた。
恐怖で抑えられていた感情が湧き上がり、目頭が熱くなる。
俺に泣く権利などないのに涙が止まらない……
俺は震える声で言葉を紡ぐ。
フロルさんを傷つける意思など、俺にはないことを二人には分かってほしくて必死に伝えた。
「……フロルさんをもっといい医者に見せた方がいいよな。王都には腕の立つお医者様がいるって父様が言っていたことが……」
「王都になど行かない! 行かせるものか!」
ジェイドの怒気をはらんだ声が部屋に響き渡る。
初めて聞くジェイドの大声に俺は驚き身をすくめた。
どう返事をしたらいいのか分からず、俺は立ち尽くすことしかできない。
何故ジェイドが王都に行くことについて、そんなに怒っているのか分からなかった。
フロルさんをよくするためには、王都の優秀な医師に見せることは最善だと思うのに……
重苦しい空気が部屋を埋め尽くす。
しばらく黙っていると、ジェイドは重々しく口をひらき『王都に行けば父と母が死ぬ』と不吉な言葉を放つ。
冗談はよせと言うが、ジェイドは真っ直ぐに俺を見つめたまま冗談ではないといった。
訳がわからなかった。
なんでこんな嘘をつくのか、ジェイドが何を伝えたいのか分からない。
目の前にいるジェイドが、別の人物に感じ俺は恐れを感じ少しずつ距離をとる。
だが、ジェイドは詰め寄り作り笑顔を浮かべて話しかけてくる。
「兄さんには、全てを知ってもらいたいのです。私とリエンは一度この人生を歩みました。そして、神により再び同じ人生を歩まされているのです」
……フロルさんが苦しんだ姿を見てジェイドの心が壊れてしまったのだろうか。
リエンに視線を向ければ、目が合った。
問いかける間もなく、ジェイドの言葉に同調するようにリエンは小さく頷いた。
頭の中が混乱し、言葉を詰まらせているとジェイドがたたみかけるように語り始める。
「一度目の人生で父と母が死んだ原因を作ったのは、シャルル兄さん……あなたです。母のことが気に入らないと罵声を浴びせ、精神的に苦しめ、持病が悪化した母を心配し王都の医者に見せると父上と共に王都へと向かったのです。その道中、野盗に襲われ二人は殺されました」
「う、嘘だ! 何をおかしなことを言っているんだジェイド。そんな話……信じられるわけないだろ……」
ジェイドが真顔で恐ろしいことを言ってくる。
父とフロルさんが殺される?
そんな妄想話など、到底信じられるはずもない。
怖くなってジェイドとリエンから視線を外す。
持っていたクッキーの包み袋は、俺の心と同じように、もうぐしゃぐしゃだった。
「信じられませんか……。兄さんは、私たちがこの屋敷にきた時、不思議に思いませんでしたか?」
「え?」
「かくれんぼをした時、どうして屋敷にきたばかりの私たちがあの場所を知っていたのか不思議に思いませんでしたか? あんな奥まった部屋の、隠し扉を普通見つけられるわけないでしょう? あそこは……一度目の兄さんが、泣きじゃくるリエンを無理やり閉じ込めた思い出の場所なんですよ」
ジェイドの話に、あの時の二人の顔を思い出す。
陽が落ち始め闇と混じり合った部屋の中で、淡く輝くアメジスト色の二人の瞳。
なぜ、この場所が分かったのかあの時は怖くて考えられなかった。
ジェイドとリエンがとても不気味に感じたのは、あの時が初めてだった。
そして……今も……
怖くなり俺はジェイドの話を遮る。
「あれは……ただの偶然だろ? もう、この話は終わりにしよう、な?」
「偶然などではありませんよ。なあ、リエン?」
「シャルル兄様。僕もジェイド兄様も嘘なんてついていないよ。僕たちは一度人生を終わらせられたんだ。シャルル兄様によって……。兄様が僕たちを拒絶して、僕たちを見捨てた。そして、僕たちはお粗末な死で一度目の人生の幕を閉じたんだよ。死ぬ間際まで、何度も何度もシャルル兄様を恨んだせいか……再び神様に同じ道を歩かされているんだよ。シャルル兄様と出会うために」
リエンは俺を見上げ、屈託のない笑顔を向ける。
逆にそれが怖くて、俺は顔が引き攣った。
早くここから逃げるんだと警告するように鼓動が速くなる。
息苦しくて必死に息を吸い込むが、怖くてうまく吸えない。
ジェイドはそんな俺を真っ直ぐに見つめ問いかけてくる。
「兄さん、あなたが自分勝手に行動すれば、周りが傷つくのです。それは一度目で証明されているんですよ。そして、今日もまたあなたのせいで母は命を落としかけた……。あなたはまた、父と母を殺し、私たちを捨て、ウォールマン家を潰すのですか?」
父とフロルさんを殺す?
ジェイドとリエンを捨てる?
俺がウォールマン家を潰す?
何かもが信じられなくて、もうジェイドの話を聞くのが恐ろしかった。
ーー逃げなきゃ、早く、逃げなきゃ……
後退り、ドアノブが手に触れた。
俺は背を向けると急いでドアを開く。
ジェイドから引き止められるかと思ったが、最後は優しい声が響く。
「明日の夕方から、雪が降ります。今日の夜から寒くなるので暖かくして眠ってくださいね、兄さん」
ジェイドの言葉を背に受け、俺は自分の部屋へと逃げ込み鍵をかける。
震える体を落ち着かせようと、ベッドに潜り込み毛布を体に巻き付ける。
フロルさんのこと、ジェイドとリエンのこと。
頭の中が三人のことで埋め尽くされておかしくなってしまいそうだった。
ーー怖い……怖い……
溢れる涙は止まらず、俺はただ現実から逃げることしかできなかった。
頭の中では、苦しそうなフロルさんの表情が浮かぶ。
そのたびに、後悔が胸の中で渦巻き苦しくなる。
ーーフロルさんが話せるようになったら、謝りにいかないと……。でも、謝ったところで許してくれるだろうか?
握りしめていたクッキーの袋が目に入り、忌々しく感じた。
考えを巡らせていると、俺の前を歩いていたジェイドとリエンの足が止まり話があると声をかけられる。
ジェイドとリエンの表情からは、普段の優しさは感じられず酷くさめたものだった。
フロルさんを傷つけてしまったことを責め立てられるんだと覚悟をして、ジェイドの部屋へと入る。
想像していた通り、ジェイドからかけられた言葉は怒りに溢れていた。
きっと俺もジェイドと同じ立場なら、同じように怒り責め立てていただろう。
分かってはいるけれど、わざとではないことを釈明していくと段々と悲しみが強くなってきた。
恐怖で抑えられていた感情が湧き上がり、目頭が熱くなる。
俺に泣く権利などないのに涙が止まらない……
俺は震える声で言葉を紡ぐ。
フロルさんを傷つける意思など、俺にはないことを二人には分かってほしくて必死に伝えた。
「……フロルさんをもっといい医者に見せた方がいいよな。王都には腕の立つお医者様がいるって父様が言っていたことが……」
「王都になど行かない! 行かせるものか!」
ジェイドの怒気をはらんだ声が部屋に響き渡る。
初めて聞くジェイドの大声に俺は驚き身をすくめた。
どう返事をしたらいいのか分からず、俺は立ち尽くすことしかできない。
何故ジェイドが王都に行くことについて、そんなに怒っているのか分からなかった。
フロルさんをよくするためには、王都の優秀な医師に見せることは最善だと思うのに……
重苦しい空気が部屋を埋め尽くす。
しばらく黙っていると、ジェイドは重々しく口をひらき『王都に行けば父と母が死ぬ』と不吉な言葉を放つ。
冗談はよせと言うが、ジェイドは真っ直ぐに俺を見つめたまま冗談ではないといった。
訳がわからなかった。
なんでこんな嘘をつくのか、ジェイドが何を伝えたいのか分からない。
目の前にいるジェイドが、別の人物に感じ俺は恐れを感じ少しずつ距離をとる。
だが、ジェイドは詰め寄り作り笑顔を浮かべて話しかけてくる。
「兄さんには、全てを知ってもらいたいのです。私とリエンは一度この人生を歩みました。そして、神により再び同じ人生を歩まされているのです」
……フロルさんが苦しんだ姿を見てジェイドの心が壊れてしまったのだろうか。
リエンに視線を向ければ、目が合った。
問いかける間もなく、ジェイドの言葉に同調するようにリエンは小さく頷いた。
頭の中が混乱し、言葉を詰まらせているとジェイドがたたみかけるように語り始める。
「一度目の人生で父と母が死んだ原因を作ったのは、シャルル兄さん……あなたです。母のことが気に入らないと罵声を浴びせ、精神的に苦しめ、持病が悪化した母を心配し王都の医者に見せると父上と共に王都へと向かったのです。その道中、野盗に襲われ二人は殺されました」
「う、嘘だ! 何をおかしなことを言っているんだジェイド。そんな話……信じられるわけないだろ……」
ジェイドが真顔で恐ろしいことを言ってくる。
父とフロルさんが殺される?
そんな妄想話など、到底信じられるはずもない。
怖くなってジェイドとリエンから視線を外す。
持っていたクッキーの包み袋は、俺の心と同じように、もうぐしゃぐしゃだった。
「信じられませんか……。兄さんは、私たちがこの屋敷にきた時、不思議に思いませんでしたか?」
「え?」
「かくれんぼをした時、どうして屋敷にきたばかりの私たちがあの場所を知っていたのか不思議に思いませんでしたか? あんな奥まった部屋の、隠し扉を普通見つけられるわけないでしょう? あそこは……一度目の兄さんが、泣きじゃくるリエンを無理やり閉じ込めた思い出の場所なんですよ」
ジェイドの話に、あの時の二人の顔を思い出す。
陽が落ち始め闇と混じり合った部屋の中で、淡く輝くアメジスト色の二人の瞳。
なぜ、この場所が分かったのかあの時は怖くて考えられなかった。
ジェイドとリエンがとても不気味に感じたのは、あの時が初めてだった。
そして……今も……
怖くなり俺はジェイドの話を遮る。
「あれは……ただの偶然だろ? もう、この話は終わりにしよう、な?」
「偶然などではありませんよ。なあ、リエン?」
「シャルル兄様。僕もジェイド兄様も嘘なんてついていないよ。僕たちは一度人生を終わらせられたんだ。シャルル兄様によって……。兄様が僕たちを拒絶して、僕たちを見捨てた。そして、僕たちはお粗末な死で一度目の人生の幕を閉じたんだよ。死ぬ間際まで、何度も何度もシャルル兄様を恨んだせいか……再び神様に同じ道を歩かされているんだよ。シャルル兄様と出会うために」
リエンは俺を見上げ、屈託のない笑顔を向ける。
逆にそれが怖くて、俺は顔が引き攣った。
早くここから逃げるんだと警告するように鼓動が速くなる。
息苦しくて必死に息を吸い込むが、怖くてうまく吸えない。
ジェイドはそんな俺を真っ直ぐに見つめ問いかけてくる。
「兄さん、あなたが自分勝手に行動すれば、周りが傷つくのです。それは一度目で証明されているんですよ。そして、今日もまたあなたのせいで母は命を落としかけた……。あなたはまた、父と母を殺し、私たちを捨て、ウォールマン家を潰すのですか?」
父とフロルさんを殺す?
ジェイドとリエンを捨てる?
俺がウォールマン家を潰す?
何かもが信じられなくて、もうジェイドの話を聞くのが恐ろしかった。
ーー逃げなきゃ、早く、逃げなきゃ……
後退り、ドアノブが手に触れた。
俺は背を向けると急いでドアを開く。
ジェイドから引き止められるかと思ったが、最後は優しい声が響く。
「明日の夕方から、雪が降ります。今日の夜から寒くなるので暖かくして眠ってくださいね、兄さん」
ジェイドの言葉を背に受け、俺は自分の部屋へと逃げ込み鍵をかける。
震える体を落ち着かせようと、ベッドに潜り込み毛布を体に巻き付ける。
フロルさんのこと、ジェイドとリエンのこと。
頭の中が三人のことで埋め尽くされておかしくなってしまいそうだった。
ーー怖い……怖い……
溢れる涙は止まらず、俺はただ現実から逃げることしかできなかった。
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