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九条さん家の九人の番
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「あーぁ、みんなに何て言おうかなぁ」
レンを諦めた帰り道。
九条 真人は車を運転しながら、大きなため息を吐き家で待つ家人たちに今日の出来事をなんと話そうか考えを巡らせる。
郊外に建てられた九条家の歴史ある洋館に辿り着き「ただいま」と沈んだ声で玄関のドアを開けるとパンッとクラッカーの音が鳴り響く。
「「「「「「おかえりなさ~い!」」」」」」
賑やかな格好をした一団が笑顔で九条を出迎える。
その一団は九条を見つめたあと、その後ろにいるであろう誰かを探し覗きこむ。
「ようこそ九条家へ~!…………って、あれ? 誰もいなくな~い?」
クラッカーを鳴らした、よく日に焼けた肌の明るい髪色の活発そうな女性ナナコが首を傾げると、その後ろからまた声がする。
「あれ? 今日、だったよね? 真人が新しい人と番うの? 一緒に帰ってこなかったの?」
ナナコの後ろで、カラフルなポンポンを持ちメガネをかけた黒髪の女性ヨウコが隣にいる男性に問いかける。
問いかけられた落ち着いた雰囲気の糸目の男性リョウは『welcome』と英語で書かれたボードを手にしたまま頷く。
「うん。そう言って今日出かけていったよね?」
リョウは後ろで『ようこそ九条家へ』と書かれた横断幕をもった、幼さが残る可愛らしい双子の姉妹アイとメイに問いかける。
「もうヒートがきてるころだから番ってくる~って~」
「嬉しそうな顔して出ていったよ~」
アイとメイは「ね~」と、互いに顔を見合わせたあと九条を見つめる。
皆の視線が九条に集まると、彼は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。
「実は……その子、他のアルファの番になっちゃった」
「「「「………ぇぇぇええええ!」」」」
九条家に響く声に引き寄せられて、奥からも人がバタバタと駆け寄ってくる。
やってきたのは、やんちゃそうな明るい髪色の青年タケルと三十代の落ち着いた雰囲気の女性リン。
「なんだよバカみたいな声だして」
タケルが声をかけると、アイとメイがくるりと振り返り経緯を話す。
その話を聞いた二人も、皆と同じリアクションをして大声をあげた。
「まさかマナくんが寝取られるなんて……」
「世の中何が起こるか分からんもんだな」
後からやってきた二人はそういうと、同情の視線を九条に向ける。
相変わらず苦笑いを浮かべる九条に、ナナコが飛びつくように抱きつく。
「わっ」と驚きながらも九条はなんとか彼女を受け止める。
ナナコは真人の顔をじっと見つめたあと、ちゅっと頬にキスをする。
「真人、今日は沢山慰めてあげるね」
「ハハ、ありがとう」
九条がやっといつもの笑顔を見せると、皆駆け寄ってきて彼を抱きしめる慰めの言葉をかけた。
それから、皆に連れられてダイニングに向かうとレンの歓迎会にと用意されたご馳走様が並ぶ。
エプロン姿の柄の悪い男性コウスケがメインディッシュの肉料理を運んでくる。
今日の主役がいないじゃないかとコウスケが首を傾げていると、皆から事情を聞きゲラゲラと大声を出して笑う。
「マナト~、お前はやっぱおもしれーやつだな」
「僕は全然愉快じゃないんだけどねぇ」
「ハハ、まぁとりあえず飯食って寝ろ。そしたら、少しは心の傷も癒えるだろ。さぁ、冷える前にさっさと食べるぞ」
コウスケの号令を合図に自分の席に全員がつくと両手を合わせて「いただきます」と言って食事が始まる。
皆で食事を囲むのが九条家のルール。
ここに集まった人々は皆九条の番だ。
九条の番は、現在九人。
十九才の双子から四十代の壮年の男性と年齢層は広い。
番の人々は、皆望んでこの家で一緒に暮らしていた。
なぜ一緒に暮らしているのかと番たちに聞けば様々な理由を答えるが、最後には皆必ずこう言う。
『九条を一人にしておけないから』と。
新しい番を迎える歓迎会は『寝取られた九条を励ます会』に変わり、皆から励まされたくさんの笑顔をもらった九条は食事が終わると、楽しい気分のまま自室へとむかった。
満腹になったまま、キングサイズよりも大きなベッドに寝転がると、机に置いていた一枚の古い写真が目に入る。
写っていたのは、九条と寄り添い愛らしい笑顔を浮かべる一人の女性だった。
その写真を見ていると、レンとハヤトのことを思い出す。
幸せそうに番っていた二人。きっとあの二人は『運命の番』だったのだろう。
そう思うと、忘れようとずっと胸の奥に閉じ込めていた『喪失感』が込み上げてくる。
「……いいな」
ポツリと言葉を呟いた時、部屋のドアをノックする音が響く。
「真人さん、入ってもいいですか?」
落ち着いた声が聞こえ「いいよ」と返事すると、メガネをかけたスーツ姿の壮年の男性ツカサが入ってくる。
「仕事で遅くなり歓迎会……いえ、励ます会に参加できず申し訳ありません」
苦笑しながらツカサは九条のいるベッドに腰掛ける。
九条はツカサの方にゴロリの転がると膝の上に頭を乗せた。ツカサは慣れた感じで甘えてくる九条の頭を撫でながら問いかける。
「過去を思い出したのですか?」
「……うん。少しだけね」
ツカサは九条のかげった顔を見つめ、優しく頬を撫でると飾られた写真立てに目を向ける。
そして、一度だけ話してくれた九条の過去を思い出す。
九条真人がこんなに多くの番を囲っているのは『運命の番』を亡くしたことが原因だった。
九条の運命の番だったマリは幼馴染で、二人は常に一緒に仲睦まじく過ごしていた。
互いにとってなくてはならない存在。
そんな二人を周りも温かく見守っていた。
第二次性の判定を受け、アルファとオメガだと判定され、二人が『運命の番』だと告げられた時、九条とマリは心の底から喜びあった。
だが、二人が番う前にマリが倒れてしまう。
急いで病院に連れていき、検査をすると……マリに告げられたのは聞き慣れない病名と余命だった。
進行性の難病で治療方法も治療薬もなく、できることは対症療法のみ。
あんなに元気だったマリは、どんどんと痩せ細り眠っていることが多くなっていく。
九条は必死に看病し、マリに「絶対に治るから」と励ましの声をかけ願うが、その願いが叶うことはなかった。
マリは最後に笑顔で九条に言葉を残す。
「沢山の愛が真人くんを満たして、真人くんが幸せになりますように。そして、沢山の愛をこれから出会う大切な人たちに与えてね」
その笑顔と言葉を最後にマリは天へ召された。
九条はマリを失い、心に大きな大きな穴が空いた。
失望感で何もできない日々。
誰も埋めることのできないその穴を埋めてほしくて、自分を愛で満たしてくれと願い続けた。
誰でもいいからそばにいてくれと……
そんな時に出会ったのが、ツカサだった。
ツカサは、妊娠ができない『出来損ないのオメガ』と言われていた。
番も持てない、家族を作ることもできない自分がオメガとして何の意味があるのか。
悩み苦しんでいた時に、一回りも違う年下の九条に突然「僕の番になりませんか?」と声をかけられる。
淡々と条件を告げる九条に呆気に取られたが、その瞳を見てツカサはふと気付く。
光のない瞳からは、手に入れることのできない願いを持っているように思えた。
この人は自分と同じような苦しみを背負っていると思い、なぜか放っておけなくて……九条の言葉に頷いた。
それから二人は番になり、ツカサは九条と過ごしていくうちに彼に想いを寄せるようになる。
アルファなのに、儚げな九条を見ているとオメガの自分が守ってあげなくてはと思うようになる。
涼やかな瞳の奥には常に孤独が見え、柔らかな笑顔は自分の心を守るためのものに思えた。
その儚さは、いつかプツリと切れてしまいそうで、いつか九条を失ってしまうのではないかとツカサは恐れた。
だが、ツカサだけでは『運命の番』を亡くした九条の寂しさを埋めてあげることはできない。
不甲斐ない自分に腹を立てながら、ツカサは決意し、自分以外の番を持つことを九条に提案した。
その言葉に驚いた九条は最初はためらったが、ツカサが九条を説得する。
『自分は子どもを産めない体だ。だから、番を作り新しい家族を作ってほしい。皆で家族になりましょう』と伝える。
九条はしばらく考え、小さく頷いた。
それから九条は一人の女性を番に迎えた。
九条の二番目の番になるナナコがやってくる日にツカサは今日のような歓迎会を開く。
それから一人、また一人と新しい番を迎え入れる時は、九条家の『家族』で歓迎するようになった。
家族の歓迎を受け入れ九条家にすぐ溶け込む者もいれば、拒否する者もいた。
しかし、拒否していた者もいつしか皆家族としてこの大きな家で一緒に住むようになる。
同じ苦しみを持った者同士惹かれ合うのか、九条が番いたいと思うオメガは、誰もが心の中に闇を持っており、オメガであるが故の寂しさや苦悩を抱えていた。
そして、その闇を九条が手を差し伸べ光へと導き、ツカサたち番が優しく包みこむ。
九条と番たちの生活は、はたから見ればとても特殊なもので周りから九条は変わったアルファだと言われることも多い。
だが、九条とその番たちは歪ではあるがこの関係性に温もりを感じていた。
窓から入る月明かりを見つめながら九条は、ツカサにレンのことをポツリポツリと話していく。
レンを初めて見た時、この子は平凡な自分を受け入れられず、一人で泣いているように見えたと九条が思い出話をする。
だから、自分が助けてあげなきゃと思ったけれど……まさか運命の番がさらいにくるなんて思いもしなかったと苦笑いを浮かべる。
その話を聞いて、ツカサは笑みを浮かべる。
「真人さんは優しいですね。レンくんのことを考えて身を引いたのでしょう?」
「まぁねぇ……でも、すっごく羨ましくてその幸せを壊してやりたいって一瞬思っちゃったけどね」
ヘヘッと寂しげな笑みを浮かべる九条を見て、ツカサはもっと九条に愛を捧げたいと思う。
月明かりに照らされた九条の整った顔を見つめ、そっと顔を寄せ口付けをする。
「これからも私たちはずっと、あなたのそばにいますよ。寂しい時にはいつでも頼って下さいね、真人さん」
「うん、ありがとう」
今度は九条からツカサに口付けをして、少しいい雰囲気になったところに慌ただしい足音が近づいてくる。
「真人~」と、声をかけると同時にドアが荒々しく開かれるとナナコとアイ、メイが自分の枕と毛布を持ちパジャマ姿で九条の寝室に乗り込んでくる。
「真人! 寂しいだろうから一緒に寝てあげる……って、ツカサさん帰ってたの?」
「ええ、先程帰ってきて真人さんとお話をしていたところですよ」
ツカサは若い三人を見て笑顔で手招きをする。
三人はパッと顔を明るくし、ベッドによじ登ると九条を囲むように寝転がる。
大きなベッドとはいえ、大人五人が寝るには狭く九条は苦笑いを浮かべる。
「さすがに五人もベッドで眠れないって~」
「真人さん、私は自室に戻りますので……」
「え~ツカサさんとも一緒に寝たいな~」
「うん、ツカサさん一緒に寝よ!」
「寝よ!」
ナナコたちの圧に押され、ツカサと九条は困ったように笑いながらも「わかりました」と言って眠る準備をする。
九条を真ん中にアイとメイが両脇で九条の手を繋ぎ抱きついてねむる。
二人にぎゅうぎゅうに迫られた九条は「も~暑苦しいって~」と言いながらも、まんざらでもない表情を見せる。
ツカサとナナコはそんな九条の顔を見て、柔らかな笑みを浮かべる。
運命を失った九条の虚しさを自分たちで全て補うことはできない。
だが、笑顔と愛はいくらでも与えられる。
これからもずっと、九条のそばに寄り添い沢山の愛で彼を満たしてあげようと番たちは思うのだった。
おわり
ーーーー
九条家の日常でした!
最後まで読んでいただきありがとうございました☆
レンを諦めた帰り道。
九条 真人は車を運転しながら、大きなため息を吐き家で待つ家人たちに今日の出来事をなんと話そうか考えを巡らせる。
郊外に建てられた九条家の歴史ある洋館に辿り着き「ただいま」と沈んだ声で玄関のドアを開けるとパンッとクラッカーの音が鳴り響く。
「「「「「「おかえりなさ~い!」」」」」」
賑やかな格好をした一団が笑顔で九条を出迎える。
その一団は九条を見つめたあと、その後ろにいるであろう誰かを探し覗きこむ。
「ようこそ九条家へ~!…………って、あれ? 誰もいなくな~い?」
クラッカーを鳴らした、よく日に焼けた肌の明るい髪色の活発そうな女性ナナコが首を傾げると、その後ろからまた声がする。
「あれ? 今日、だったよね? 真人が新しい人と番うの? 一緒に帰ってこなかったの?」
ナナコの後ろで、カラフルなポンポンを持ちメガネをかけた黒髪の女性ヨウコが隣にいる男性に問いかける。
問いかけられた落ち着いた雰囲気の糸目の男性リョウは『welcome』と英語で書かれたボードを手にしたまま頷く。
「うん。そう言って今日出かけていったよね?」
リョウは後ろで『ようこそ九条家へ』と書かれた横断幕をもった、幼さが残る可愛らしい双子の姉妹アイとメイに問いかける。
「もうヒートがきてるころだから番ってくる~って~」
「嬉しそうな顔して出ていったよ~」
アイとメイは「ね~」と、互いに顔を見合わせたあと九条を見つめる。
皆の視線が九条に集まると、彼は申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。
「実は……その子、他のアルファの番になっちゃった」
「「「「………ぇぇぇええええ!」」」」
九条家に響く声に引き寄せられて、奥からも人がバタバタと駆け寄ってくる。
やってきたのは、やんちゃそうな明るい髪色の青年タケルと三十代の落ち着いた雰囲気の女性リン。
「なんだよバカみたいな声だして」
タケルが声をかけると、アイとメイがくるりと振り返り経緯を話す。
その話を聞いた二人も、皆と同じリアクションをして大声をあげた。
「まさかマナくんが寝取られるなんて……」
「世の中何が起こるか分からんもんだな」
後からやってきた二人はそういうと、同情の視線を九条に向ける。
相変わらず苦笑いを浮かべる九条に、ナナコが飛びつくように抱きつく。
「わっ」と驚きながらも九条はなんとか彼女を受け止める。
ナナコは真人の顔をじっと見つめたあと、ちゅっと頬にキスをする。
「真人、今日は沢山慰めてあげるね」
「ハハ、ありがとう」
九条がやっといつもの笑顔を見せると、皆駆け寄ってきて彼を抱きしめる慰めの言葉をかけた。
それから、皆に連れられてダイニングに向かうとレンの歓迎会にと用意されたご馳走様が並ぶ。
エプロン姿の柄の悪い男性コウスケがメインディッシュの肉料理を運んでくる。
今日の主役がいないじゃないかとコウスケが首を傾げていると、皆から事情を聞きゲラゲラと大声を出して笑う。
「マナト~、お前はやっぱおもしれーやつだな」
「僕は全然愉快じゃないんだけどねぇ」
「ハハ、まぁとりあえず飯食って寝ろ。そしたら、少しは心の傷も癒えるだろ。さぁ、冷える前にさっさと食べるぞ」
コウスケの号令を合図に自分の席に全員がつくと両手を合わせて「いただきます」と言って食事が始まる。
皆で食事を囲むのが九条家のルール。
ここに集まった人々は皆九条の番だ。
九条の番は、現在九人。
十九才の双子から四十代の壮年の男性と年齢層は広い。
番の人々は、皆望んでこの家で一緒に暮らしていた。
なぜ一緒に暮らしているのかと番たちに聞けば様々な理由を答えるが、最後には皆必ずこう言う。
『九条を一人にしておけないから』と。
新しい番を迎える歓迎会は『寝取られた九条を励ます会』に変わり、皆から励まされたくさんの笑顔をもらった九条は食事が終わると、楽しい気分のまま自室へとむかった。
満腹になったまま、キングサイズよりも大きなベッドに寝転がると、机に置いていた一枚の古い写真が目に入る。
写っていたのは、九条と寄り添い愛らしい笑顔を浮かべる一人の女性だった。
その写真を見ていると、レンとハヤトのことを思い出す。
幸せそうに番っていた二人。きっとあの二人は『運命の番』だったのだろう。
そう思うと、忘れようとずっと胸の奥に閉じ込めていた『喪失感』が込み上げてくる。
「……いいな」
ポツリと言葉を呟いた時、部屋のドアをノックする音が響く。
「真人さん、入ってもいいですか?」
落ち着いた声が聞こえ「いいよ」と返事すると、メガネをかけたスーツ姿の壮年の男性ツカサが入ってくる。
「仕事で遅くなり歓迎会……いえ、励ます会に参加できず申し訳ありません」
苦笑しながらツカサは九条のいるベッドに腰掛ける。
九条はツカサの方にゴロリの転がると膝の上に頭を乗せた。ツカサは慣れた感じで甘えてくる九条の頭を撫でながら問いかける。
「過去を思い出したのですか?」
「……うん。少しだけね」
ツカサは九条のかげった顔を見つめ、優しく頬を撫でると飾られた写真立てに目を向ける。
そして、一度だけ話してくれた九条の過去を思い出す。
九条真人がこんなに多くの番を囲っているのは『運命の番』を亡くしたことが原因だった。
九条の運命の番だったマリは幼馴染で、二人は常に一緒に仲睦まじく過ごしていた。
互いにとってなくてはならない存在。
そんな二人を周りも温かく見守っていた。
第二次性の判定を受け、アルファとオメガだと判定され、二人が『運命の番』だと告げられた時、九条とマリは心の底から喜びあった。
だが、二人が番う前にマリが倒れてしまう。
急いで病院に連れていき、検査をすると……マリに告げられたのは聞き慣れない病名と余命だった。
進行性の難病で治療方法も治療薬もなく、できることは対症療法のみ。
あんなに元気だったマリは、どんどんと痩せ細り眠っていることが多くなっていく。
九条は必死に看病し、マリに「絶対に治るから」と励ましの声をかけ願うが、その願いが叶うことはなかった。
マリは最後に笑顔で九条に言葉を残す。
「沢山の愛が真人くんを満たして、真人くんが幸せになりますように。そして、沢山の愛をこれから出会う大切な人たちに与えてね」
その笑顔と言葉を最後にマリは天へ召された。
九条はマリを失い、心に大きな大きな穴が空いた。
失望感で何もできない日々。
誰も埋めることのできないその穴を埋めてほしくて、自分を愛で満たしてくれと願い続けた。
誰でもいいからそばにいてくれと……
そんな時に出会ったのが、ツカサだった。
ツカサは、妊娠ができない『出来損ないのオメガ』と言われていた。
番も持てない、家族を作ることもできない自分がオメガとして何の意味があるのか。
悩み苦しんでいた時に、一回りも違う年下の九条に突然「僕の番になりませんか?」と声をかけられる。
淡々と条件を告げる九条に呆気に取られたが、その瞳を見てツカサはふと気付く。
光のない瞳からは、手に入れることのできない願いを持っているように思えた。
この人は自分と同じような苦しみを背負っていると思い、なぜか放っておけなくて……九条の言葉に頷いた。
それから二人は番になり、ツカサは九条と過ごしていくうちに彼に想いを寄せるようになる。
アルファなのに、儚げな九条を見ているとオメガの自分が守ってあげなくてはと思うようになる。
涼やかな瞳の奥には常に孤独が見え、柔らかな笑顔は自分の心を守るためのものに思えた。
その儚さは、いつかプツリと切れてしまいそうで、いつか九条を失ってしまうのではないかとツカサは恐れた。
だが、ツカサだけでは『運命の番』を亡くした九条の寂しさを埋めてあげることはできない。
不甲斐ない自分に腹を立てながら、ツカサは決意し、自分以外の番を持つことを九条に提案した。
その言葉に驚いた九条は最初はためらったが、ツカサが九条を説得する。
『自分は子どもを産めない体だ。だから、番を作り新しい家族を作ってほしい。皆で家族になりましょう』と伝える。
九条はしばらく考え、小さく頷いた。
それから九条は一人の女性を番に迎えた。
九条の二番目の番になるナナコがやってくる日にツカサは今日のような歓迎会を開く。
それから一人、また一人と新しい番を迎え入れる時は、九条家の『家族』で歓迎するようになった。
家族の歓迎を受け入れ九条家にすぐ溶け込む者もいれば、拒否する者もいた。
しかし、拒否していた者もいつしか皆家族としてこの大きな家で一緒に住むようになる。
同じ苦しみを持った者同士惹かれ合うのか、九条が番いたいと思うオメガは、誰もが心の中に闇を持っており、オメガであるが故の寂しさや苦悩を抱えていた。
そして、その闇を九条が手を差し伸べ光へと導き、ツカサたち番が優しく包みこむ。
九条と番たちの生活は、はたから見ればとても特殊なもので周りから九条は変わったアルファだと言われることも多い。
だが、九条とその番たちは歪ではあるがこの関係性に温もりを感じていた。
窓から入る月明かりを見つめながら九条は、ツカサにレンのことをポツリポツリと話していく。
レンを初めて見た時、この子は平凡な自分を受け入れられず、一人で泣いているように見えたと九条が思い出話をする。
だから、自分が助けてあげなきゃと思ったけれど……まさか運命の番がさらいにくるなんて思いもしなかったと苦笑いを浮かべる。
その話を聞いて、ツカサは笑みを浮かべる。
「真人さんは優しいですね。レンくんのことを考えて身を引いたのでしょう?」
「まぁねぇ……でも、すっごく羨ましくてその幸せを壊してやりたいって一瞬思っちゃったけどね」
ヘヘッと寂しげな笑みを浮かべる九条を見て、ツカサはもっと九条に愛を捧げたいと思う。
月明かりに照らされた九条の整った顔を見つめ、そっと顔を寄せ口付けをする。
「これからも私たちはずっと、あなたのそばにいますよ。寂しい時にはいつでも頼って下さいね、真人さん」
「うん、ありがとう」
今度は九条からツカサに口付けをして、少しいい雰囲気になったところに慌ただしい足音が近づいてくる。
「真人~」と、声をかけると同時にドアが荒々しく開かれるとナナコとアイ、メイが自分の枕と毛布を持ちパジャマ姿で九条の寝室に乗り込んでくる。
「真人! 寂しいだろうから一緒に寝てあげる……って、ツカサさん帰ってたの?」
「ええ、先程帰ってきて真人さんとお話をしていたところですよ」
ツカサは若い三人を見て笑顔で手招きをする。
三人はパッと顔を明るくし、ベッドによじ登ると九条を囲むように寝転がる。
大きなベッドとはいえ、大人五人が寝るには狭く九条は苦笑いを浮かべる。
「さすがに五人もベッドで眠れないって~」
「真人さん、私は自室に戻りますので……」
「え~ツカサさんとも一緒に寝たいな~」
「うん、ツカサさん一緒に寝よ!」
「寝よ!」
ナナコたちの圧に押され、ツカサと九条は困ったように笑いながらも「わかりました」と言って眠る準備をする。
九条を真ん中にアイとメイが両脇で九条の手を繋ぎ抱きついてねむる。
二人にぎゅうぎゅうに迫られた九条は「も~暑苦しいって~」と言いながらも、まんざらでもない表情を見せる。
ツカサとナナコはそんな九条の顔を見て、柔らかな笑みを浮かべる。
運命を失った九条の虚しさを自分たちで全て補うことはできない。
だが、笑顔と愛はいくらでも与えられる。
これからもずっと、九条のそばに寄り添い沢山の愛で彼を満たしてあげようと番たちは思うのだった。
おわり
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九条家の日常でした!
最後まで読んでいただきありがとうございました☆
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※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
感想ありがとうございます😊
九条家は真人を中心な不思議な縁で繋がれた大きな家族ですね❤️
子どもについては作中には書かなかったんですが、実はナナコちゃんのお腹には新しい命が宿っていて、このあと大騒ぎになる予定です😊
子どもが産まれたあとは、小さな赤ちゃんにオドオドする真人とナナコをツカサさんたち番がフォローしながら子育てしていき、真人はまた違う愛の形を知っていきます😆
感想ありがとうございます😊
新しい家族の姿をかけてとっても楽しかったです💓
読んでいただきありがとうございました😊
感想ありがとうございます😊
不思議な縁で結ばれている九条さん家ですが、皆が幸せな日々を過ごせています😆
そんな九条家をかけて私も楽しかったです!
読んでいただきありがとうございました😊