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本章

7話:カオルくん逃しません②

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それから数日後いつもと変わらぬ日々を過ごす。

今日はクリスは狩りに行ってくるといい俺はいつものように留守番をしていた。

暇だな…と思っていると昨日散策した時に紅茶に入れると上手い果実がなっていたのを思い出す。
クリスが帰ってきた時に出すお茶にその果実を入れてやったら喜ぶかな…

昼食を終え俺は一人で森へと向かった。
そう言えばクリスに一人で森に行くなと言われたが…まぁ、何度も行っている場所だし大丈夫だろう。

「お。あったあった!」

目的の果実を見つけて帰ろうとした時に森の奥からガサっと音が聞こえる。
動物かな?と思いそっと見ると…
人影が目に入った。

「え?嘘…」

驚き目を凝らして再度確認するが間違いなく人だった。
太った青年が籠を持ち歩いていたのだ。
俺はクリス以外の人に会えて嬉しくなり思わず声をかけてしまう。

「あ、あの。すみません!」

青年は俺の声に驚いた様子で振り向いた。

「こんにちは。あの…お兄さんどこから来たんですか?」
「こ、こんにちは。僕はこの近くの村から来たんだよ」

村!?その言葉に俺は興奮してしまう。

「村って…馬車でここまで来たんですか?」
「馬車?いやここまでは歩いて来たんだよ」

ここまで歩いて来れる村が近くにあるのか!
クリスも知らないところなんだろうな。
俺は青年の言葉に喜びを隠しきれずにいると青年から話しかけられる。

「ところで君はどうしてこんなところに?」
「俺はこの近くの家に住まわせてもらってるんです」
「え…あの家に…」
「えっと…どうかしました?」

青年の顔はみるみる青くなり、どうしたんだろう?と心配して近づいていくと…

「カオル!!離れるんだ!」

俺の背後からクリスの声が聞こえた。
今まで聞いたことのない怒鳴り声に俺も青年も驚いてしまう。
後ろを振り向くと息を切らし恐ろしい顔をしたクリスが目に入る。
青年はクリスの姿を見てさらに顔を青くした。

「クリスどうしたんだ?なんで怒ってるんだよ」
「…早く小屋に戻ろう」
「え…でもこの人なんだか調子が悪そうで…」
「いいから!」

おれの手をぐいっと引っ張りクリスは歩きだす。
青年の方を振り返れば顔を青くし突っ立ったまま俺達の事を茫然と見ていた。

「痛っ…クリス!なぁクリスってば!」

家に着くまでクリスは俺を無視したまま歩き続けた。クリスの歩くスピードについて行けず何度か転びそうになる…
ようやく家へと到着し部屋に入ると握っていた手を離してくれる。
握られた手首は赤くなり少し痛い。


「おい!なんなんだよ!なんでそんなに怒ってるんだよ!」
「…森の中は危ないって言ったでしょ。ダメだよ一人で行ったら」
「それはゴメン…でも何度も行った事あるから大丈夫かなって思って。森に行った事でこんなに怒ってるのか?」
「………。」

押し黙るクリスは何か隠しているように見えた。


「なぁ、さっきいた人が近くに歩いていける村があるって言ってたけど俺…その村に行ってみたい…」
「………なんで?」
「なんでって…少しでもこの世界の事知りたいし、日本に帰る手がかりがほしい…」
「そんなにここから出ていきたいの?」
「出ていきたいとかそうゆう訳じゃないって!このままクリスにずっと迷惑かけられないって思って…」
「そうか…私から離れたいんだ…」
「だから違うって…」

クリスも俺も下を向き無言のまま時間が過ぎる。

話が通じない…
なんだよ何をそんなに怒ってるんだよ…

クリスが何を考えてるのか分からない。
このままじゃ同じような事を言い合って尚更仲が悪くなるだけだ。
こうゆう時は少し時間をあけたほうがいいよな…

「俺…少し頭冷やしてくる」

クリスのそばから離れドアに手をかけようとした時だった。
背後からクリスに抱きしめられる。

「ダメだ…出て行ったらダメ…」
「なんでだよ…」
「どうしてもダメ…………

そうか。あの青年のところに行くんだね」

クリスはそう言うと抱きしめている腕の力を一層強くする。

「はぁ?なんでそうなるんだよ。なぁ…腕苦しいって…」
「行かせない…絶対に…絶対に行かせない。カオルはずっとずっとずっと私と一緒にここにいるんだ…」

クリスはそう言うと酷く怯えたような顔をしながら玄関の戸棚を開け何かを探しだす。

「おいクリス…何やってるんだよ…」

俺は豹変したクリスが怖くて動けずにいると棚から何かを手に取り俺の方へと向かってくる。

「な、なんだよその首輪と鎖…なぁクリス怖いって…。やだ!クリス!嫌だって!離せっっ!」

クリスに腕を掴まれリビングの隣にある寝室へと引きずられるように連れていかれる。
俺をベッドの上に押し倒すと馬乗りになり俺の首に大型犬に付けるような太い首輪をはめ鎖で繋ぎ鎖はベッドの柵に固定し鍵をかけられる。

俺はクリスの常軌を逸した行動を震えながら見ている事しかなかった。

「なぁクリス…こんなの冗談だろ?早く外してくれよ」
「…外さない。カオルはここでずっと一緒に暮らすんだ」


クリスの顔からは表情が消え冷えた金色の瞳が俺を見下ろしていた。
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