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第一章
26話 〜ゴードンSide〜
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「…鍵がない」
アスト様への昼食を手にし鍵置き場を見るが鍵が見当たらない。
「またフィッツが返すのを忘れたんですね…」
はぁ…と、ため息をつきフィッツの予定を確認すると今日はガイル様の付き添いで外に出ていた。
屋敷のマスターキーを持つガイル様もいない今、二人の帰りを待つしかないか…。
食事は冷めないように保温庫に入れて、他の仕事を片付けながら二人の帰りを待つ事にした。
✳︎
「戻りました~」
それから一時間程してフィッツの呑気な声が聞こえてくる。
「フィッツ。また鍵を返し忘れていますよ。アスト様への食事を持っていくので早く返しなさい」
「えぇっ!?鍵なら今朝いつもの場所に戻しましたけど……ない。あっれ~??」
フィッツは慌ててポケットの中を探し出すが鍵は見つからず、青い顔をしながら私の方を見てくる。
「見つからないのですか?」
「はい…。すみません…」
冷や汗をかきながら焦るフィッツを見て、再びため息をつき声をかける。
「フィッツ…まずは今日の行動をゆっくり振り返ってみなさい」
「は、はい!えっと…今日は、アスト様の食事を持って行った後は鍵をかけていつものように裏口から屋敷へと戻って…その時にハイル様がいたので話をしながら一緒に厨房へと戻ってきたんです。そして、鍵を引き出しに入れたはずなんですけど…」
「ハイル様と一緒にここへ来たのですか…?」
「え?あ…はい…。そうです…」
まさか…
ハイル様が……鍵を?
「フィッツ!離れの屋敷に急ぎますよ!」
「へ?は、はいぃっ!!」
嫌な予感が脳裏をよぎり急いでアスト様のいる離れの屋敷へと向かう。普段ならば施錠されている扉は開いており、屋敷の中へと入れば微かに血の香りがする…
「うそ…血の…匂い…。それに…ハイル様の匂いも…」
嗅覚に優れたイタチの半獣のフィッツは、血の香りとハイル様の匂いを感じたのか顔を青くする。
アスト様のいる部屋へと向かって行くにつれて強くなる血の香り…
開かれた部屋の扉から中を覗き込むと、血塗れのハイル様を大事そうに抱きかかえ首元の傷を舐めている獅子の半獣人の姿が…
「アスト…様……」
「嘘だろ……」
驚きのあまり立ち尽くす私達に気付いたアスト様は、威嚇するように睨みつけハイル様を抱き寄せる。
ハイル様は抱きしめられた時に「ぅ…」と小さく声を漏らし、意識は失っているものの息がある事に少し安心する。
「フィッツ…ガイル様とイザベラ様を呼んできなさい…。あと、拘束具も…急いで!!」
「わ、分かりましたぁぁ~」
フィッツは「ヤバイヤバイ…」と、言いながら急いで屋敷の方へと向かう。
アスト様は私から目を逸らさずにずっと威嚇を続けている。
…このままではハイル様が危ない。
ハイル様の体は血に塗れ、塞がっていない首筋の傷口からはじわりと血が滲む。
「アスト様…抱きかかえている子を離してください…。このままではその子の命が危ないのです」
「ゔぅぅ……」
言葉を発さずに唸り声をあげるアスト様…
凶獣化が長かった影響なのか…言葉が通じていない印象だ。
こうなったら…力づくでいくしかない。
ゆっくりと近づいていき鉄格子の中へと入ると、ハイル様を取られたくないのかアスト様は低い唸り声を大きくし威嚇を強める。
「アスト様…申し訳ありません…」
そう呟くと同時にダンッと地を蹴り一瞬にして2人に近づく。アスト様は私の動きに反応出来ず、怯んだ隙にアスト様からハイル様を奪いとる。
アスト様は牙を剥き怒りに満ちた顔でハイル様を取り返そうと私に手を伸ばすがそれよりも前に、私の拳がアスト様の溝落ちに沈む。
アスト様は「カハッ……」と小さな呻き声をあげて倒れ込む。
「ゴードンっっ!!」
アスト様が倒れたと同時にガイル様が到着し、この場の状況を見て言葉を無くす。
「ガイル様…申し訳ありません。アスト様を殴ってしまいました。罰は後で受けさせていただきます。まずはハイル様の手当てを…」
血塗れのハイル様を見たガイル様は顔を歪め「ハイル…」と声をかけ血が流れ出ている傷口をハンカチで押さえた。
イザベラ様も到着し、ハイル様の姿を見て小さく悲鳴をあげる。
そして……
床に蹲る半獣人に戻ったアスト様を見て「嘘……」と呟きその場に座り込んでしまう。
「イザベラ…すまないがアストを頼む。私はハイルをマリオンに見せてくる」
「わ、分かったわ…」
ガイル様に声をかけられ放心状態だったイザベラ様もハッとした表情を見せ立ち上がりアスト様の方へと近づく。
「ゴードンさーーん!拘束具持ってきましたぁ!」
遅れてフィッツが両腕に拘束具を抱えやってくる。
「ガイル様…。アスト様は錯乱し言葉も通じません…。拘束具の装着の許可を…」
「あぁ…構わない。よろしく頼む」
「分かりました。ハイル様をよろしくお願いします」
ガイル様はハイル様を抱きかかえ屋敷の方へ。
残された私とフィッツとイザベラ様でアスト様に拘束具を装着していく。
途中、暴れ出したアスト様は言葉を話さずに獣のように唸り声を上げる。イザベラ様が必死に話しかけるが落ち着く様子もなく暴れ回るアスト様を見て目に涙を溜めていた…。
なんとか拘束し終わる頃には体力を使い切ったのかアスト様は大人しくなり、その後スースーと寝息を立てる。
「イザベラ様。今の間にアスト様の部屋を準備して来ます」
「えぇ…お願い…」
穏やかな寝顔を見せるアスト様を見つめイザベラ様は安堵の表情を浮かべた。
屋敷へと戻ると、アスト様の様子を思い出しながら必要な物を準備していく。
見た目は半獣人に戻ってはいるが獣のようなアスト様に私は何が出来るのだろうか…。
そしてハイル様にも…。
アスト様への昼食を手にし鍵置き場を見るが鍵が見当たらない。
「またフィッツが返すのを忘れたんですね…」
はぁ…と、ため息をつきフィッツの予定を確認すると今日はガイル様の付き添いで外に出ていた。
屋敷のマスターキーを持つガイル様もいない今、二人の帰りを待つしかないか…。
食事は冷めないように保温庫に入れて、他の仕事を片付けながら二人の帰りを待つ事にした。
✳︎
「戻りました~」
それから一時間程してフィッツの呑気な声が聞こえてくる。
「フィッツ。また鍵を返し忘れていますよ。アスト様への食事を持っていくので早く返しなさい」
「えぇっ!?鍵なら今朝いつもの場所に戻しましたけど……ない。あっれ~??」
フィッツは慌ててポケットの中を探し出すが鍵は見つからず、青い顔をしながら私の方を見てくる。
「見つからないのですか?」
「はい…。すみません…」
冷や汗をかきながら焦るフィッツを見て、再びため息をつき声をかける。
「フィッツ…まずは今日の行動をゆっくり振り返ってみなさい」
「は、はい!えっと…今日は、アスト様の食事を持って行った後は鍵をかけていつものように裏口から屋敷へと戻って…その時にハイル様がいたので話をしながら一緒に厨房へと戻ってきたんです。そして、鍵を引き出しに入れたはずなんですけど…」
「ハイル様と一緒にここへ来たのですか…?」
「え?あ…はい…。そうです…」
まさか…
ハイル様が……鍵を?
「フィッツ!離れの屋敷に急ぎますよ!」
「へ?は、はいぃっ!!」
嫌な予感が脳裏をよぎり急いでアスト様のいる離れの屋敷へと向かう。普段ならば施錠されている扉は開いており、屋敷の中へと入れば微かに血の香りがする…
「うそ…血の…匂い…。それに…ハイル様の匂いも…」
嗅覚に優れたイタチの半獣のフィッツは、血の香りとハイル様の匂いを感じたのか顔を青くする。
アスト様のいる部屋へと向かって行くにつれて強くなる血の香り…
開かれた部屋の扉から中を覗き込むと、血塗れのハイル様を大事そうに抱きかかえ首元の傷を舐めている獅子の半獣人の姿が…
「アスト…様……」
「嘘だろ……」
驚きのあまり立ち尽くす私達に気付いたアスト様は、威嚇するように睨みつけハイル様を抱き寄せる。
ハイル様は抱きしめられた時に「ぅ…」と小さく声を漏らし、意識は失っているものの息がある事に少し安心する。
「フィッツ…ガイル様とイザベラ様を呼んできなさい…。あと、拘束具も…急いで!!」
「わ、分かりましたぁぁ~」
フィッツは「ヤバイヤバイ…」と、言いながら急いで屋敷の方へと向かう。
アスト様は私から目を逸らさずにずっと威嚇を続けている。
…このままではハイル様が危ない。
ハイル様の体は血に塗れ、塞がっていない首筋の傷口からはじわりと血が滲む。
「アスト様…抱きかかえている子を離してください…。このままではその子の命が危ないのです」
「ゔぅぅ……」
言葉を発さずに唸り声をあげるアスト様…
凶獣化が長かった影響なのか…言葉が通じていない印象だ。
こうなったら…力づくでいくしかない。
ゆっくりと近づいていき鉄格子の中へと入ると、ハイル様を取られたくないのかアスト様は低い唸り声を大きくし威嚇を強める。
「アスト様…申し訳ありません…」
そう呟くと同時にダンッと地を蹴り一瞬にして2人に近づく。アスト様は私の動きに反応出来ず、怯んだ隙にアスト様からハイル様を奪いとる。
アスト様は牙を剥き怒りに満ちた顔でハイル様を取り返そうと私に手を伸ばすがそれよりも前に、私の拳がアスト様の溝落ちに沈む。
アスト様は「カハッ……」と小さな呻き声をあげて倒れ込む。
「ゴードンっっ!!」
アスト様が倒れたと同時にガイル様が到着し、この場の状況を見て言葉を無くす。
「ガイル様…申し訳ありません。アスト様を殴ってしまいました。罰は後で受けさせていただきます。まずはハイル様の手当てを…」
血塗れのハイル様を見たガイル様は顔を歪め「ハイル…」と声をかけ血が流れ出ている傷口をハンカチで押さえた。
イザベラ様も到着し、ハイル様の姿を見て小さく悲鳴をあげる。
そして……
床に蹲る半獣人に戻ったアスト様を見て「嘘……」と呟きその場に座り込んでしまう。
「イザベラ…すまないがアストを頼む。私はハイルをマリオンに見せてくる」
「わ、分かったわ…」
ガイル様に声をかけられ放心状態だったイザベラ様もハッとした表情を見せ立ち上がりアスト様の方へと近づく。
「ゴードンさーーん!拘束具持ってきましたぁ!」
遅れてフィッツが両腕に拘束具を抱えやってくる。
「ガイル様…。アスト様は錯乱し言葉も通じません…。拘束具の装着の許可を…」
「あぁ…構わない。よろしく頼む」
「分かりました。ハイル様をよろしくお願いします」
ガイル様はハイル様を抱きかかえ屋敷の方へ。
残された私とフィッツとイザベラ様でアスト様に拘束具を装着していく。
途中、暴れ出したアスト様は言葉を話さずに獣のように唸り声を上げる。イザベラ様が必死に話しかけるが落ち着く様子もなく暴れ回るアスト様を見て目に涙を溜めていた…。
なんとか拘束し終わる頃には体力を使い切ったのかアスト様は大人しくなり、その後スースーと寝息を立てる。
「イザベラ様。今の間にアスト様の部屋を準備して来ます」
「えぇ…お願い…」
穏やかな寝顔を見せるアスト様を見つめイザベラ様は安堵の表情を浮かべた。
屋敷へと戻ると、アスト様の様子を思い出しながら必要な物を準備していく。
見た目は半獣人に戻ってはいるが獣のようなアスト様に私は何が出来るのだろうか…。
そしてハイル様にも…。
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