人が消えた世界で

赤牙

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第一章

34話〜アストSide〜

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熱い…体が…熱くてたまらない…

メキメキと体が異常な音を立て軋み始めると激痛と熱さで意識が飛びそうになる。
近くにいた父さんと母さんの声はどんどん小さくなっていく…



13歳の春、俺は突然凶獣化した。
凶獣化してからの記憶はあまりない。

覚えているのは闇の中を漂っている感覚だけ。
体を動かすことも目を開けることも声を出すこともできない空間を俺は彷徨い続けていた。

永遠に続くと思っていた闇の中で、ある日変化が起きる。
甘い香りと優しい声…
その香りを嗅ぐとずっと開かなかった重い目蓋を開くことができた。

目を開くと漆黒の髪色の少年が俺に語りかけていた。
そして、その少年から発せられる強烈な甘い香り誘われて…気がつけば俺は無我夢中で少年を貪った。
甘い蜜を啜れば身体の渇きが満たされ、甘い香りは心を満たしてくれる。

出会ったばかりだというとに少年のことが愛おしくてたまらなかった。


「ふ…ぐっ…い…たい…くるしい…」

香りと蜜に夢中になっていると少年の声が耳元で聞こえ顔を覗き込めば涙を流していた…。

少年…。何故…泣いているんだ?

じぃっ…と少年を見つめると涙で濡れた真っ黒な瞳が俺を映し出す。
恐怖に揺れる少年の瞳に映し出されたのは一匹の獣…

これは…俺か?
俺は…こんな姿で…何を…?

何かを思い出そうとした時、強烈な睡魔に襲われ…俺はそのまま意識を無くした。




そして身体の痛みで目を覚まし、いつもより重く感じる身体をなんとか起こす。

少年は……?

ふと隣を見ると少年が首筋から血を流しぐったりと横たわっていた。
急いで少年を抱きかかえる。少年の身体は小さく強く抱きしめれば折れてしまいそうだった。

少年を壊さないように抱きしめ首筋から流れ出る血を舐めとる。
なかなか血は止まらず目を覚さない少年の事を心配している時に部屋に二人組の半獣が入ってくる。

俺達の姿に驚いた表情を見せ、一人が声を上げるともう一人は何処かへ行ってしまう。
残った一人は手をこちらへと伸ばし少年を渡せと言っているようだったが…知らない奴に大切な少年を渡すわけにはいかない。

少年を守らなければ…そう思い抱き寄せ入ってきた奴を威嚇する。
近寄るなと唸り声を上げるが止まる気配も無く、馬の半獣がこちらへと向かってくる。

少年は渡さない…俺が守る…

ギュッと抱きしめると少年が小さく声を漏らす。
少年を抱きかかえたまま相手との距離をとるが…一瞬にして間を詰められ少年を奪われてしまう。

ダメだ!返せっ!!

そう思い手を伸ばした瞬間、相手の拳が俺の腹に入り痛みで蹲る。息ができず意識が朦朧としている間に部屋にやってくる半獣の人数はさらに増えた。


少年…少年……。

俺は必死に手を伸ばすが、誰かに抱きかかえられ連れさられる少年を見つめることしかできなかった…。



その後は、身体を押さえつけられ拘束される。
抵抗し暴れ回る俺を落ち着かせようと一人の半獣はずっと俺に声をかけ続けていた。

「アスト…落ち着いて…。大丈夫よ…もう大丈夫だから…」

辛そうな顔をして涙を流し俺の手を握りしめる獅子の半獣…。

その半獣の涙を見ると胸がズキッと痛くなり、そして握られた手の温もりはどこか懐かしさを感じた…。
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