悪役令嬢ポジションが俺で、回復魔法がキスな件!?

ろいず

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一章 悪役令嬢フェルミナ・ドロッセル

季節は巡る

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 季節は穏やかに進み、幾つかの季節を過ぎて行った。
 王族を避けて逃げ回るもラローシュに捕まり、ディオンとも芋づる式に好感度の上がる日々……
 好感度が上がりにくいはずのベンガルの好感度はグングン上がるし、起業して資金繰りが心配なくなったせいで、発明品も増えていき、俺も俺で「こういう感じの作れないかなー?」と、前世にあった道具を作ってもらったりで……それがまたよく売れたりする。おかげで好感度二位はベンガルだ。
 もちろん、一位はルカリオンで、俺の後か横には定位置のように居る。

 ヒルクスには訓練場に引っ張り回される事が多かったが、自分も望んでレベル上げのために行っていたのもある。けれど、自分の体力を強化する事だけは出来なかった。
 フェルミナの体は男ではあるけれど、運動出来るほど頑丈では無かった事が判明。

「フェルどうしたの?」
「んー、あんまり皆ケガしなくなったなぁって……」

 訓練場でセインに話しかけられ、俺は椅子に座ったまま頬杖をつく。
 セインは馬車の事故で自分の魔法がもっと強ければ……と、考えるところがあったようで、魔法の練習に訓練場によく顔を出すようになっていた。
 セインの張るバリアを、ヒルクスが破ろうと剣で叩いてくるという練習方法で、お互いに鍛錬たんれんし合っている。
 暗い性格になるはずのセインは、前髪で隠していた髪を邪魔だとピンで留めて顔を出すようになり、ビクビクしていた頃が遠い昔のようだ。

「知っている? 皆、フェルに良い所を見せたくて、頑張っているんだよ」

 ウィンクをしてセインが白い歯を見せると、「季節外れの虫が……」と言いながら、ルカリオンがセインに拳を叩きこむが、「怖いなぁ。もう」とバリアでギリギリ拳を受け止めて、セインがルカリオンから逃げていく。

「すっかり逞しくなったよね……精神的に」
「キッカケ一つで人間はこうも変わるとは、あのまま弱虫でいてくれた方が良かったですね」

 色々と変わってしまった攻略対象たちに、雪のしらむ季節、俺は溜め息と一緒に諦める事を覚えた。
 それから、ヒロインの行方も諦めている。
 ヒロインの伯父であるテレシアさんから連絡があり、ヒロインは両親と船で別の国へ行く途中、海が荒れて船も乗っていた人たちも行方不明なのだそうだ。
 
「寒っ」
「手を握りましょうか。わたしは獣人ですから、基礎代謝が高いですよ」
「んーっ、ルカリオンが狐とか細くて小さい獣人なら、首に捲けるのにな」
「ならば、小さい獣人にはできない事をしましょうか?」

 ルカリオンが後ろからコートを広げて抱きしめてくる。
 確かに、体格がルカリオンの方が大きい分、俺の小さい体だと全体を温める事が出来るようだ。

ぬくい」 
「でしょう。冬はいつでもご命用下さい」
「そういう事を言っていると、どこぞの王子に毛皮のコートにされるからな」
「それは怖いですねぇ。怖いので、一緒に逃亡しちゃいましょうか」
「逃亡するなら、春の季節が長い国が良いよな」
「坊ちゃんと一緒なら、いつでも春です」
 
 相変わらずのルカリオンである。
 こうしてルカリオンが、冗談のように口にする逃亡は、実は理由がある。
 ドロッセル家に次男のシグマが生まれ、俺の廃嫡が決まったからだ。
 公爵家は弟が次期公爵になる。
 俺たちが地下ダンジョンへ行ったりと、危ない事もするようになったのと、やはり回復術師では公爵の仕事を両立させる事は不可能と判断されたからだ。
 他にも理由をあげるなら、起業した事も「貴族が事業を始める事は恥だ」という昔ながらの、頭が固い貴族思想を両親が持っているのもある。
 
「ルカリオンの白いバラが、年中咲ける春だから良いんだよ」
「今年も綺麗に咲くように、手入れをしておかなくてはいけませんね」

 きっと今年が最後の公爵家で過ごす春になるだろう。
 春を過ぎれば、学園へ入学して宿舎暮らしが始まる。
 ルカリオンは一足先に学園生活を送っていて、学園の宿舎の一角にある温室に、ルカリオンの白いバラが植えられている。
 学園でルカリオンは『バラの君』と女生徒に言われているのだと、ラローシュがコッソリ教えてくれた。
 似合うような気もするけど、やはり頭をよぎるのは、白いバラが真っ赤に染められるシーンである。
 色々変わってしまったこの世界で、変わらない物は、白いバラだけかもしれない。
 
「さて、坊ちゃん。屋敷まで送ります」
「いや、ルカリオンは門限があるんだから、間に合うように帰れよ」
「全速力で帰れば、まぁなんとかなります」
「ダメ。そう言って毎回、ラロに怒られているんだろ? 俺が知らないとでも思っているのか」
「あのお喋り王子め……チッ」
「舌打ちすんなよ」

 うちの従者、怖いもの知らずである。
 幼馴染のようなものだから、気安いのもあるし、ラローシュ自身がこだわらない人物だからだ。
 こうした事に口うるさいのは、弟のディオンの方だ。
 
「坊ちゃん……」
「仕方ないなぁ。これで大人しく宿舎に帰れよ?」

 上を向いて唇に指をつけて、ルカリオンの唇に指先をつける。
 間接キスの指バージョン。これもこれで恥ずかしいが、R18禁ゲームかどうかも分からないのだから、危険はおかせない。 
 顔を真っ赤にして、ルカリオンのコートで顔を隠す。
 
「坊ちゃん、連れて帰ったらダメでしょうか?」
「ダメだから」
「むぅ……気持ちが暴走しそうなので、すぐ、帰ります!」

 ゴソゴソとルカリオンが動くと、コートを俺に被せたまま狼姿になって駆けて帰ってしまった。
 
「まったく、コートどうするんだよ」

 まぁ、気持ちが分からないわけじゃない。
 若いからね。男からでも、アレがアレしちゃう時代だよな。うん。青春だよね……って、俺、人生二周目だけど爺臭いな。
 ルカリオンの匂いと温もりの残ったコートを握り締めて、ヤバいなぁと自分の気持ちに蓋をする。 
 近すぎて離れた事で、家族愛と友愛より深いものだと気付き始めて、手放さなければいけない気持ちだと自覚した。
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