黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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5章

デート

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 朝食が終わると【刻狼亭】の忙しい1日がまた始まる。
 
朱里は小さな肩掛けのカバンに栗色のスクエアワンピースに7分丈の黒いパンツを穿き少し厚手のブーツを履いて【刻狼亭】の暖簾のれんをくぐり温泉街の道に出る。

「アカリさん、今日は一緒に楽しみましょうねぇー」
「今日は僕も特別休暇です!」

テンと小鬼がいつもよりカジュアルなシャツにパンツルックという服装で朱里に手を振る。

「はい。今日はよろしくお願いします」

朱里が頭を下げると、「頭、触りますよ」と朱里の髪に少しだけ触れる。

「髪に糸くずが付いてましたよー」
「わわっ、ありがとうございます」

 テンが指先でフゥッと息を吐いて糸を飛ばすとニッコリ笑って小鬼を肩に乗せて朱里の手を繋いで歩き出す。
朱里の歩調に合わせているのか、普通にのんびりなのかゆっくりとした歩調で歩くテンに、【刻狼亭】の暖簾の隙間から従業員達が「テンの奴、絶対見せつけてるんだ!」と騒ぐ。

 【刻狼亭】の料理長アーネス・ネイトの息子で小料理屋【もんふぇ】の店主リグリス・ネイトが「若い女の子の意見が聞きたいから新作のデザートを若女将に食べて欲しいです」と、話を持ってきたのが始まりだった。

 バッと手を上げたのは女性従業員達で、負けじと男性従業員達が手を上げた。

「おいおい。女の子って言ってただろ?年を考えろよ?」

「ああん?男は最初からおよびじゃないんだよ?」

と、男女で火花を散らした結果、料理長のアーネスがパイを焼き「パイの中に【当たり】を入れておいた。当たった奴が行け」と、従業員達でパイを食べたところ・・・テンが小鬼に食べさせていたパイから【当たり】の黒猫のお菓子が出てきた。
 最初から興味無さげでパイを小鬼に食べさせるだけのつもりだったテンに皆の目が一斉に「譲ってくれ!」に変わるとテンはニッコリ笑顔で小鬼と「デートですね」と言ったのだ。

 「アカリさんとデートしに行きましょう小鬼」

従業員達が「この悪魔!!!!!」と騒いだのは言うまでもない。

 ルーファスはどうしても抜けれない用事があり、終わり次第合流。
ハガネは安全確認の為に先に小料理屋【もんふぇ】に行っている。
テンが信用できる能力の持ち主だからこその決断と【もんふぇ】は【刻狼亭】からそんなに離れていない場所という事でテンに朱里をエスコートする様に頼んだわけである。

 小料理屋【もんふぇ】は例にもれず東国風の店構えで店の前に【もんふぇ】と文字と蝶の模様の入った店の小豆色の暖簾が付いている。

 カラッと引き戸を引いて店内に入るとこじんまりとした店内にはカウンター席と座敷が4つ程あり、気の弱そうなやせ型の若草色の髪をした男、リグリス・ネイトが「いらっしゃいませ」と声を掛けてくる。

「リグリスさん、お久しぶりです」
「若女将さん、星降り祭りの会合以来ですね」

朱里とリグリスが挨拶をし、座敷に通されると熱いおしぼりが出てくる。
熱いおしぼりで小鬼の顔を蒸しているテンに小鬼がポカポカと手を振りながら叩いている。

「熱いです!テンさん何するんですか!!」
「赤くなった顔が可愛いと思ったんですよー?うん。可愛いですよー?」
「明らかに疑問形じゃないですか!酷い!」
「思っただけなので、なんともー」

ワーッと小鬼がテンに言い、テンが笑うと朱里もそのやり取りに「ふふふ」と笑いが自然と零れる。
店の奥からハガネが顔を出し、朱里達に気付くと席にやってくる。

「ようやく来たか」
「ハガネ。今日はデザート楽しみだね」
ハガネが朱里の髪の飾り紐を直し、頭を撫でると「よしよし」と、確認する様に声に出す。
最近、【刻狼亭】では朱里の頭を触るのがブームなのかというぐらいに頭を触られていて朱里的に「何のご利益が?!」とか思っている。

「新作デザート!つまり新しい情報です!僕、楽しみです!」
「小鬼は小さいのに食べるの好きだよねぇー」
ツンツンと小鬼の頬を突きながらテンが再び小鬼におしぼりを頭の上に乗せて遊び始める。

カラッと再び引き戸が開き店内に人が入ってくる。

「あ、いらっしゃいませ。申し訳ございませんが、今日はご予約の方だけしか・・・」
店主のリグリスが言葉を言い終わる前に入店してきた客はズンズンと朱里達の方へやってくる。

 褐色の肌に金色の髪、白い丸耳に尻尾。
小さな背丈にサファイアブルーの瞳。
南国のミシリマーフの神官の息子イルマール・ジス。

そして、褐色の肌をした赤髪の男と青髪の男エスタークとダリドア。

 「女将!会いに来たぞ!」

「主、はしゃがないでください」
「主、店内では静かに」
左右からペシンとイルマールを叩く従者2人。

 ハガネが朱里を体で隠しながら睨み付ける。

「また殴られに来たってぇのか?」

 ガタッとハガネが席から立ち上がると、エスタークとダリドアが手で降参ポーズをとる。
 テンはいつも通りの穏やかな顔で指の隙間から細長い鉄で出来た串を覗かせて戦闘状態に入って、じっと様子をうかがっている。
 小鬼に至っては『争いごとは情報の発生』とばかりに目をくるくるさせて一番いい席で見ようとテーブルの奥に置いてある箸置きの上にあがるのに必死だ。

「女将に挨拶に来ただけだ。直ぐに帰る」

イルマールは奥の席でハガネの背中から困惑顔で見つめる朱里に子供らしく屈託のない笑顔を向ける。

「女将、色々あったけど元気になったみたいで良かった。おれは今日にはここから去るから最後に父上に変わって挨拶がしたかったんだ。追い回して悪かった」

一瞬、ハガネも朱里も毒気を抜かれた顔をするが、テンは表情を変えず、小鬼に関しては残念そうな顔になっている。

カラッと再び店の開き戸が引かれ、茶色いシャツに黒いパンツ姿のルーファスが店内に入ってくる。

「リグリス、店内を騒がせてすまないな」
「いえいえ。若旦那いらっしゃいませ」

ルーファスがイルマールの元へ来ると軽くイルマールが頭を下げる。

「イルマール。これが『約束』の物だ。あちらにも先程話は通しておいたから今日から出る定期船であちらに向かってくれ。テルトワイト神官にもよろしくな」

ルーファスが小さな瓶をイルマールに渡し、イルマールがその瓶をじっと見つめて頷く。

「ありがとう。恩に着る。確かに女将と同じ物の様だ」
「こちらもアカリを助けてもらったからな。礼には及ばん」

イルマールがエスタークとダリドアに頷いて、2人がルーファスに頭を下げてイルマールの頭をグリグリ撫でると3人は嬉しそうな顔をしていた。

「女将、【刻狼亭】の人達も世話になった。もし南国に来ることがあったら声を掛けてくれ。今度はちゃんと遊びに連れて行ってやるから」

「それを言うなら、主、おもてなしをします。だ」
「主は本当に頭の残念な主だ」

エスタークとダリドアに左右から頭を叩かれながらイルマールは挨拶だけして店を出て行った。
店の外で「おれはお前達の主だよな?!」と声が聞こえたが、その声も今日までの様だ。

ルーファスが朱里達の方を向いて笑うと、ハガネが席をどいてテンの座席の方へ座り、ルーファスが朱里の横に座る。


「ルーファス、イルマール君に何を渡したの?」

朱里の質問にハガネも首を上下させながらルーファスに注目する。
ルーファスが小鬼に金貨を1枚渡して「これは企業秘密だ。聞いた事は胸にしまえ」と言ってから説明を始める。
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