黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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12章

試験官5日目 最終日 後編

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 ジリリリリリ・・・・。

 昼休みのベルが鳴り、試験の終了を告げていた。
冒険者試験の今年の10日間再チャレンジ試験は終わり、後は半年に1回受けられる試験のみになる。
一足先に終わった筆記試験官達は帰り支度をしてギルドの中央に集まって冒険者達と談笑していた。

「皆さん、お疲れ様です」
 朱里とルーファスが訓練場から戻り中央に居る筆記試験官達に挨拶をすると、それぞれが「お疲れ様です」と挨拶を返してくる。

「皆さん、私はお先に失礼しますが、5日間お世話になりました!」
 朱里が頭を下げると、ギルドに依頼書を見に来ていた冒険者達が朱里の周りに集まってくる。
ビクッと朱里がたじろぐとズイッと朱里の前にクッキーの缶が差し出される。

「あの、これは・・・?」
「ここに居る冒険者達でカンパして集めた金で買った物だ。試験官はオレ等冒険者には一番初めの試練だからな。そんなわけでオレ等冒険者はこうして昔の恩を形にして渡すのが習わしなんだよ」
「そうなんですか。ありがとうございます!」
 朱里がクッキー缶を受け取ると、筆記試験官達もクッキー缶を手に「私達も貰いました」と嬉しそうに笑っている。
「ミヤ試験官もこれからランクを上げて何時かこの習わしを他の試験官にやるんだぞ?頑張れよ!」
「はい!頑張ります!」
 朱里の頭を冒険者がワシワシと撫でて、朱里がクッキー缶を胸にぎゅっと抱きしめて笑うと、顔を赤くした若い冒険者が朱里の前に立つ。

「ミヤ試験官!オレと付き合ってください!」
 花束を朱里に差し出して耳まで赤くしている冒険者に驚いた顔で見つめ返し、周りに居る冒険者達がヒューヒューと口笛を吹いたり、冷やかしたりしてくる。

「あの、ごめんなさい!お付き合い出来ません!」
 即座に頭を下げて朱里が断ると、周りの冒険者が「ざまみろ!」「お前じゃ無理だっつーの」とヤジが飛び交う。

「ミヤ試験官、おれはどうだ?おれはBランクの中級ランクだぜ!」
 他の冒険者も名乗りを上げて朱里の前に来ると、ルーファスがテーブルの上に飛び乗り毛を逆撫でて威嚇の声を上げる。

「私はルーの物なのでルー以外とはお付き合いしません!」
 テーブルの上に居るルーファスに抱きついて朱里がそう言えば、ルーファスが尻尾を振って朱里の顔を舐める。
そのやり取りを見て冒険者がフラれた冒険者にまた笑いながら「魔獣に負けてやんの」とヤジを飛ばして揶揄う。

 窓ガラスがパンパンと小さく音を立てて何かがぶつかる音がしている。

「おっ、この時期にまた氷竜が来てんのか?『雪氷』がすげぇな」

 その声に朱里がピョンと床から飛び上がって「いっけない!」と声を上げる。

「ミヤ試験官どうかしたんですか?」
「早く帰らなきゃ不味いんです!私、荷物取ってきます!」
 ワタワタと朱里とルーファスがロッカールームに入り、荷物をまとめて外套を着こみ再びギルドのカウンターに出ると、ギルド内の温度が下がり、冒険者達が騒いでいた。

「あの、皆さんお世話になりました!!」

「ミヤ試験官、またな!」
「はい!いつかまた何処かで!」

 朱里が頭を下げてチャルッタ支部の施設を出ると「待って!」と声が掛かる。
リンディが必死の形相で朱里を呼び止め、ルーファスが「グルルル」と声を上げて身を引くめて飛び掛かる体勢を取っている。

「どうかしましたか?リンディ試験官」
「ミヤ試験官、あなたの正体が最後まで判りませんでした・・・あの、あなたは誰なんですか?」
「正体も何も、私は私ですよ」
 朱里が首を傾げるとリンディが目に涙を浮かべてスンッと鼻をすする。
オロッと朱里が戸惑うと、ギルド施設の脇から見た事のあるギルド職員が出てきてリンディの頭をスパンと叩く。

「リンディ調査員、昇級試験失敗につき昇級無しです」
「そ、そんなぁああ!!」
 リンディが職員に泣きつくと職員がまたスパンとリンディの頭を叩く。
ポカンとした朱里に職員が小さく頭を下げる。

「あの、あなたは私に試験試験官の話を持って来た職員さんですよね?」
「ええ。この度は試験官を引き受けて下さりありがとうございました。ついでにうちのギルド職員の昇級試験の人物調査にもご協力いただきありがとうございます」
「え?なんですそれ?人物調査とか聞いてないです!リンディ試験官は職員さんなんですか?」
 リンディを見れば、少し気まずそうに頷いて小さく敬礼をする。

「リンディ・チア。冒険者ギルド人物調査部署所属です!今回は私の昇級試験ご協力いただきありがとうございまじだぁぁ・・・ううっぅ、私の給金アップがぁあぁ、ミヤさんは本当になにものだったんでずがぁあ」
 えぐえぐと泣きながらリンディが朱里を見て職員がスパンとリンディの頭を叩く。

「人物調査のご協力は契約書に書いてありましたよ。帰ったらキチンとお読みください。まぁ小さく書いてありますけど」
「小さく書いてある時点で悪意が見えている気がします・・・」
 朱里の代わりにリンディが悪意があると言えば職員がまたリンディの頭をスパンと叩く。
スパンスパンとよく叩く人だなぁと朱里が困った顔で見ると、職員がルーファスを指さす。

「リンディ調査員、一番簡単なヒントを見逃した時点でお前の降格もあり得る。他の奴が聞いたら簡単すぎて泣いて変わって欲しいという所だぞ」
「ミヤ試験官の魔獣の犬君・・・ワーウルフ?ブラックウルフ?何かヒントがあるんですか?当てたら今からでも昇級できますか?!」
 リンディがルーファスをじっと見るとルーファスが前足で道路の雪をリンディの顔に引っ掛ける。
「ぶはっ!何するんですか!躾なってないですよ!この魔獣!」
フンッと鼻で息を吐くと、ルーファスが朱里の服を引っ張り「行こう」と促す。

「あの、迎えが来ているので、この辺で失礼します、ね?」
「ああん。ミヤ試験官~っ!!!誰だったんですかぁあぁぁ!!!」
「えーと・・・ルーの番です!」
 朱里が苦笑いしながらそう告げると、朱里の足がふわっと宙を浮く。

「オレの番だ。間抜けなギルド調査員め」

 ルーファスが獣化を解き朱里の腰を持ち上げて地面を蹴ると、グリムレインが急降下してルーファスと朱里をそのまま背中に乗せて飛んでチャルッタの街の上空を旋回する。

「あーっ!!!黒狼族・・・って、氷竜?!えええ?!!」

 リンディの叫び声が響き、上空で朱里が小さく笑うとルーファスもフッと笑う。

「グリムレイン、お迎えありがとう」
「嫁も婿も遅いぞ!我を待たせるとは不届き者たちめ!」
「悪い。土産をしっかり買っておいたから機嫌を直せ」
「お土産いっぱいですよ」
「むぅ、それならば許そう」
 くすくす笑いながら朱里がルーファスに寄り掛かると、朱里の腰に手をまわしながらルーファスが頬にキスをしてくる。

「ルーファスはリンディ試験官の正体気付いてたの?」
「怪しかったからな。それに堂々と根掘り葉掘り聞きすぎだ。アレで怪しまない方がおかしい」
「そうだったんですか?私は全然気づかなかったです」
「仕方がない番だな。まぁ、今回は悪い者では無いから放置しておいたがな」
「ふふっ、結構威嚇してたじゃないですか」
「フンッ。あれだけで済んで感謝してほしいぐらいだ」
「大人気ないですね?」
「大人だからこそ威嚇だけで済ませたと言って欲しい所だ」
 ふふっと朱里が笑ってルーファスの胸に頭を擦り付けて寄り掛かる。

「ルーファス、試験官5日間お疲れさまでした」
「アカリも5日間お疲れ様だ」
「早く帰ってゆっくり子供達と過ごしたいね」
「ああ。やはり我が家が一番だからな」

 なんだかんだで楽しかったなと思いながら朱里が目を細めて笑うとルーファスも朱里の満足そうな顔に満足して目を細める。
温泉大陸まで陸路で行けば1日掛かる所をグリムレインのおかげで半日で帰ることが出来、夜には温泉大陸の我が家で子供達に「お土産は?」と言われながら出迎えられた。
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