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17章
氷竜と遊園地4
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相変わらずの鏡だらけの道を歩きながらたまに鏡の端に口紅で矢印と『あ』を書いていく。
これで裏か表か判る筈・・・ではあるが、実際に歩き回っていると裏でも表でもあまり関係ない気さえしてしまう。
自分達が何所を歩いているのかすら分からないのだから。
「クリュスターシは獣人なんですか?」
「違うよ。呪いで犬にされてたんだけど・・・何故か解けてしまってる。これじゃメノンの絵本の続きはどうなるか判らないね」
ギクッと朱里が肩を揺らし、おそらく自分が飲んでいたアップルティーに【聖域】が混ざって呪いが解けたとは流石に言えない。
「の、呪いが解けると絵本の続きは出ないの?」
「メノンの絵本では明確にはしてないけど、僕とメノンは呪いを解くために旅をしているからね」
「成程・・・ただの不思議な冒険絵本だとばかり思ってました」
しかし、古くから続く絵本なのにどう見ても若い青年にしか見えない。
おそらく20代前半が良い所かもしれない、もしくは10代後半。
顔はルーファスに比べたら少し見劣りはするけど10人中6人は「カッコイイ」と言うのではないだろうか?
まぁ、番効果もあってか朱里としては世界で一番の美形はルーファスなので比べる対象では無いのかもしれないが。
「娘がメノンの絵本が好きだから続いて欲しいけど、呪いが解けたなら元の生活に戻りたいよね」
「元の生活・・・昔過ぎて昔の生活は夢みたいなおぼろげな感じかな」
「クリュスターシは一体いつから呪いに掛かってるんですか?」
「昔過ぎて忘れたけど、長い間メノンと2人で呪いを解く旅をしてたんだ・・・いつからだっただろう?」
思い出せない程古い記憶なのかクリュスターシは「うーん」と唸りながら眉間にしわを寄せたまま歩く。
「メノン何所に行ったんだろう?」
「ルーファス何所に行ったんだろう?」
同時に2人で声を出して自分が迷子なのか相手が迷子なのかクリュスターシと朱里は少し目線を合わせて苦笑いする。
『おやおや、ワンコロがワンコロじゃ無くなってるぞ?』
『どんくさいワンコロが人になってもどんくさそうだ』
『ワンコロは探し物かな?骨かな?ボールかな?ワンワン』
鏡の中に豚たち3匹が現れて『プーッ』と笑いコサックダンスを踊りながら足の蹄をカツカツいわせてクリュスターシと朱里の前をチョロチョロと動き回る。
「このっ!出て来い!」
ドンッと鏡を叩くと豚たちはクリュスターシを指さして笑う。
『プーッ、クスクス。こうして出て来てるじゃないか?』
『プーッ、クスクス。ワンコロは頭が弱い』
『プーッ、クスクス。怖い怖い。ワンコロは怖いねぇ』
クリュスターシがイラッとして眉を上げると、朱里は目の端に移った物を見てクリュスターシのコートを引っ張る。
「なに?」
「動かないで目線だけ左を向いて下さい」
思わず動きそうになるが押し留まって目線を左にやれば豚たち3匹が鏡に向かっている姿が見える。
豚たちが居る鏡の前は朱里達の鏡の前では真正面に居る様に映るらしく豚たちはクリュスターシを揶揄うのに夢中になって鏡の前でコサックダンスを披露している。
「どうする?」
「私が捕まえてみるのでクリュスターシは豚の相手を」
「任せる」
「はい」
クリュスターシがコートを脱いで鏡の前の豚たちに目隠しの様に広げると、豚たちはコサックダンスを踊りながら横に移動してコートの脇から顔を覗かせる。
『おやおや?何かする気かな?』
『悪だくみかな?ワンコロの無い脳みそで悪だくみ』
『無駄無駄。僕を探せなきゃこの鏡からは出れないのさ』
「そっちこそ悪だくみばかりの小物の分際でよく言うよ」
クリュスターシが挑発する様に言うと豚たちは自分達は煽るクセに煽られるのは慣れていないのか『なんだとー!このワンコロめ!』と大騒ぎしている。
「お前等の名前も『弱虫』『泣き虫』『いじけ虫』にでも変えたらどうだ?お似合いだろ?」
『なんだとー!このワンコロ!また呪われろ!』
『なんだとー!またワンワン鳴いてろ!ワンコロ!』
『なんだとー!生意気なワンコロめ!』
クリュスターシの挑発に乗った豚たちは朱里が動いていることに気付かない様で、朱里はゆっくりと自分のコートを脱いで手に持つとコートを広げて豚たちに覆いかぶさる。
「捕まえたー!観念なさいあなた達!」
『『『うわーっ!』』』
朱里のスカートを左右にバサッと捲って2匹の豚が逃げ出すが、しっかり1匹は確保して朱里がコートでぐるぐるにして手に持つ。
『あざけりが捕まった!なんて卑怯な人間だ!』
『あざけりが食い殺されちゃうぅぅ非道な人間だ!』
逃げ出した豚たちはそれだけ言うと何処かへ姿を消して行く。
「大丈夫かい?・・・あっ、まだ名前を聞いてないかも?」
「大丈夫。ふふっ、朱里・トリニアです」
「アカリかぁ。うん、覚えた。それで豚は『あざけり』かな?」
「2匹の言葉を信じるなら『あざけり』かな?」
朱里のコートでぐるぐる巻きにされた豚は口をへの字に曲げて『プキィー』と声を出す。
『僕は『あざけり』でも僕は僕じゃない。残念だったね』
「つまりあなたはハズレって事だね」
「僕じゃない?どういう意味だ?」
『プーッ、この鏡の世界から出たいなら僕を探さないと駄目なのさ。このワンコロめ!』
「なんだと!このっ!」
クリュスターシが『あざけり』をギュッと握ると『あざけり』はクタッと糸が切れた様に動かなくなる。
それは『あざけり』として動いていた時の嫌な豚ではなく普通のふわふわした豚の人形になっていた。
「ココから出たきゃ『ひがみ』か『いやみ』のどっちかを捕まえないといけないって事だね」
「正解の『僕』って言うのがよくわかりませんけど・・・」
「まぁあと2匹捕まえればどっちかが正解なんだし、両方捕まえればいいさ」
「大人しく捕まってくれたら良いですけどね」
「骨が折れそうだけど、頑張ろう」
「はい。それにルーファスとメノンも探さないとね」
「まったく、迷子になりやすいんだから困るよね」
2匹の豚が逃げた方向へ歩いて行くと、扉が1つあり赤いペンキで豚の絵が2匹描かれていた。
これで裏か表か判る筈・・・ではあるが、実際に歩き回っていると裏でも表でもあまり関係ない気さえしてしまう。
自分達が何所を歩いているのかすら分からないのだから。
「クリュスターシは獣人なんですか?」
「違うよ。呪いで犬にされてたんだけど・・・何故か解けてしまってる。これじゃメノンの絵本の続きはどうなるか判らないね」
ギクッと朱里が肩を揺らし、おそらく自分が飲んでいたアップルティーに【聖域】が混ざって呪いが解けたとは流石に言えない。
「の、呪いが解けると絵本の続きは出ないの?」
「メノンの絵本では明確にはしてないけど、僕とメノンは呪いを解くために旅をしているからね」
「成程・・・ただの不思議な冒険絵本だとばかり思ってました」
しかし、古くから続く絵本なのにどう見ても若い青年にしか見えない。
おそらく20代前半が良い所かもしれない、もしくは10代後半。
顔はルーファスに比べたら少し見劣りはするけど10人中6人は「カッコイイ」と言うのではないだろうか?
まぁ、番効果もあってか朱里としては世界で一番の美形はルーファスなので比べる対象では無いのかもしれないが。
「娘がメノンの絵本が好きだから続いて欲しいけど、呪いが解けたなら元の生活に戻りたいよね」
「元の生活・・・昔過ぎて昔の生活は夢みたいなおぼろげな感じかな」
「クリュスターシは一体いつから呪いに掛かってるんですか?」
「昔過ぎて忘れたけど、長い間メノンと2人で呪いを解く旅をしてたんだ・・・いつからだっただろう?」
思い出せない程古い記憶なのかクリュスターシは「うーん」と唸りながら眉間にしわを寄せたまま歩く。
「メノン何所に行ったんだろう?」
「ルーファス何所に行ったんだろう?」
同時に2人で声を出して自分が迷子なのか相手が迷子なのかクリュスターシと朱里は少し目線を合わせて苦笑いする。
『おやおや、ワンコロがワンコロじゃ無くなってるぞ?』
『どんくさいワンコロが人になってもどんくさそうだ』
『ワンコロは探し物かな?骨かな?ボールかな?ワンワン』
鏡の中に豚たち3匹が現れて『プーッ』と笑いコサックダンスを踊りながら足の蹄をカツカツいわせてクリュスターシと朱里の前をチョロチョロと動き回る。
「このっ!出て来い!」
ドンッと鏡を叩くと豚たちはクリュスターシを指さして笑う。
『プーッ、クスクス。こうして出て来てるじゃないか?』
『プーッ、クスクス。ワンコロは頭が弱い』
『プーッ、クスクス。怖い怖い。ワンコロは怖いねぇ』
クリュスターシがイラッとして眉を上げると、朱里は目の端に移った物を見てクリュスターシのコートを引っ張る。
「なに?」
「動かないで目線だけ左を向いて下さい」
思わず動きそうになるが押し留まって目線を左にやれば豚たち3匹が鏡に向かっている姿が見える。
豚たちが居る鏡の前は朱里達の鏡の前では真正面に居る様に映るらしく豚たちはクリュスターシを揶揄うのに夢中になって鏡の前でコサックダンスを披露している。
「どうする?」
「私が捕まえてみるのでクリュスターシは豚の相手を」
「任せる」
「はい」
クリュスターシがコートを脱いで鏡の前の豚たちに目隠しの様に広げると、豚たちはコサックダンスを踊りながら横に移動してコートの脇から顔を覗かせる。
『おやおや?何かする気かな?』
『悪だくみかな?ワンコロの無い脳みそで悪だくみ』
『無駄無駄。僕を探せなきゃこの鏡からは出れないのさ』
「そっちこそ悪だくみばかりの小物の分際でよく言うよ」
クリュスターシが挑発する様に言うと豚たちは自分達は煽るクセに煽られるのは慣れていないのか『なんだとー!このワンコロめ!』と大騒ぎしている。
「お前等の名前も『弱虫』『泣き虫』『いじけ虫』にでも変えたらどうだ?お似合いだろ?」
『なんだとー!このワンコロ!また呪われろ!』
『なんだとー!またワンワン鳴いてろ!ワンコロ!』
『なんだとー!生意気なワンコロめ!』
クリュスターシの挑発に乗った豚たちは朱里が動いていることに気付かない様で、朱里はゆっくりと自分のコートを脱いで手に持つとコートを広げて豚たちに覆いかぶさる。
「捕まえたー!観念なさいあなた達!」
『『『うわーっ!』』』
朱里のスカートを左右にバサッと捲って2匹の豚が逃げ出すが、しっかり1匹は確保して朱里がコートでぐるぐるにして手に持つ。
『あざけりが捕まった!なんて卑怯な人間だ!』
『あざけりが食い殺されちゃうぅぅ非道な人間だ!』
逃げ出した豚たちはそれだけ言うと何処かへ姿を消して行く。
「大丈夫かい?・・・あっ、まだ名前を聞いてないかも?」
「大丈夫。ふふっ、朱里・トリニアです」
「アカリかぁ。うん、覚えた。それで豚は『あざけり』かな?」
「2匹の言葉を信じるなら『あざけり』かな?」
朱里のコートでぐるぐる巻きにされた豚は口をへの字に曲げて『プキィー』と声を出す。
『僕は『あざけり』でも僕は僕じゃない。残念だったね』
「つまりあなたはハズレって事だね」
「僕じゃない?どういう意味だ?」
『プーッ、この鏡の世界から出たいなら僕を探さないと駄目なのさ。このワンコロめ!』
「なんだと!このっ!」
クリュスターシが『あざけり』をギュッと握ると『あざけり』はクタッと糸が切れた様に動かなくなる。
それは『あざけり』として動いていた時の嫌な豚ではなく普通のふわふわした豚の人形になっていた。
「ココから出たきゃ『ひがみ』か『いやみ』のどっちかを捕まえないといけないって事だね」
「正解の『僕』って言うのがよくわかりませんけど・・・」
「まぁあと2匹捕まえればどっちかが正解なんだし、両方捕まえればいいさ」
「大人しく捕まってくれたら良いですけどね」
「骨が折れそうだけど、頑張ろう」
「はい。それにルーファスとメノンも探さないとね」
「まったく、迷子になりやすいんだから困るよね」
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