黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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24章

初恋ハンカチ ハガネ視点

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 目の前でスーがラム爺さんと消えて、直ぐになにが起きたかを理解した。
目を見開いて泣き出しそうな顔をしている君主のアカリに酷ではあるが、「異世界渡りだ」と告げる。
未来のスーが目の前で展開していた魔法なので、魔法の粒子のような物をつぶさに見ていた為に間違いはねぇ。

 未来のスーがちゃんと自分達の前に現れたことから、こちらへは確実に戻ってくると考えるとすると、例え、大人のスーが過去を変えて未来を変えたとしても、未来からスーが来たことが自分達の記憶にある以上は、そこは変らねぇだろうし……

「私の世界は獣人なんて、一人も、居ないの……あの子、あんな所に行ったら、どうなるか……」

 口を押えてアカリが最悪を想定して青ざめていくのを、大旦那が「大丈夫だ」と根拠の無い慰めをしているが、大旦那も手が微かに震えている。

 ラム・クランチ__やっぱり、面倒くせぇ爺さんだ。
自分の中でそれだけは変らない。

 よく考えろ。
俺ならどうする? スーが一人で帰れるか……?
いや、それは無理だ。魔力が安定してねぇのに、わけの分からねぇ世界に一人、いや、面倒くせぇ爺さん付きで落ち着いて、また異世界渡りが発動できるとは、思えねぇ。

 それに、アカリの世界に獣人が一人も存在しない世界だとすると、余計にパニックになる。
スーが一人で帰る事はまず不可能ということになる……つーことは、それを打破出来るのは、一人しか居ねぇ。

「アカリ、心配すんな! 俺に心当たりがある!」
「ハガネ!!」

 何度もあいつが言ってたからな「神さんに困った時は頼め」って、な。
俺がそう教えてたってことは意味がある。だから、困った時は、神頼みだ!

 正月の準備で忙しい神社の境内を走り、社の扉を開けると、そこに目的の人物は座ってスーを膝の上に乗せていた。

「やっぱ、居たか!」
「ふふっ、流石ハガネ。俺を直ぐに見つけてくれて助かったよ。準備もなにもせずに出てきたから神社の外、行けなかったんだよね」
「スー、お前、髪、切ったみてぇだな」
「あはは。会って早々それなの? うん。解決したら切るって言ってた通り、切ったのさ」

 指を二本立てて髪を切る真似をしながら、大人のスーが目を細める。
膝の上のスーはぷぅぷぅと寝ている。

「とにかく、スーが無事で良かった。ハァー……」
「俺が? こっちが?」

 自分と小さなスーを指さしで聞くお調子者のスーに「両方だ」と言えば、目をパチパチさせて、その後で照れたように笑う。

「んで、ラムの爺さんはどうなった?」
「あー、あの人ねー……人型が取れない人みたいでさ、獣化したまま騒いで通行人に怪我させたりして、結局、大事になっちゃってね。最後には魔導銃に似たヤツで撃たれて死んじゃった。どうにかこっちの世界に戻したかったんだけど、あの爺さん、大暴れでどうしようもなくてね……途中で俺もキレちゃって……」

 言わずとも察した。
あの爺さんは人をおちょくる天才だからな……そりゃ仕方がない。

「にしてもさ、俺……自分の番にこんなチビの時に逢ってるなんて知らなかった」
「は? お前の番?」
「そっ、俺の番は異世界人なんだけどさ、チビ頃に俺は異世界渡りした時に小さい頃の番に出逢ってたんだよね……ハガネがニヤニヤしてるわけだよ。ったく、ハガネは人が悪い」
「んなことは未来の俺に言え。俺は初耳だ」

 大人のスーがチビのスーの手を掴むと、チビのスーは手にしっかりとなにかを持っている。

「なんだこりゃ? ……布巾か?」
「そう。俺の番が、泣いてるチビな俺にくれたハンカチ。チビ、手放さなくてさ……チビっこい自分に嫉妬してる俺がいるんだけど!?」
「……そりゃ、難儀だな」

 自分に嫉妬してどうすんだか?
チビなスーを大人のスーが俺に手渡すと、伸びをして羽を広げる。

「さて、正月の準備中だったし、そろそろ帰んないと番に怒られるから、俺帰るね! ハガネ、俺の異世界渡りは気を付けさせてよ? ちょくちょく呼び出されんの嫌だからね!」
「いや、お前の行動だろうが……」
「ハガネは俺の先生なんだから、そこしっかりしてよ!」
「おいおい……メチャクチャだな」
「んじゃ、ハガネ、良いお年を!」
「ああ、お前もいい年を過ごせよ」

 バサッと羽を動かして大人のスーは未来へ帰っていった。
とにかく、元気で未来でやっている様でなによりだ。

「さて、俺等も帰っかな。アカリが心配してるだろうしな」

 人の気など知らず、ぷぅぷぅと寝入っているこの根性は誰に似たんだかである。
帰る前に一応、神社のさい銭箱に小銭を投げ入れて、拝んでおく。
今年はこの辺で勘弁しておけ。ついでに、来年も何事もなく過ごせるように、と。

 神社を出るとスーが目を覚ましたのか、「うにゅー」と声を上げている。

「おう、目ぇ覚めたか?」
「うー! はにゃー!」
「スー、お前の来年の目標は魔法の使い方を覚えることだな」
「うー?」

 首を傾げるスーを抱いて屋敷へ戻ると、アカリが飛びついてきて、アカリにスーを返してやるとワーッと泣いて、宥めるのがちと大変だった。
大旦那には軽く説明しておいたものの、アカリがスーを離さないとかで大旦那が妬きもちをやいていた。
 スーが持っている布巾は小さな桜色で『もも組 ひなみ さくら』と名前が書いてあり、それを手放さないスーにアカリも「母上にもちょっとだけ、ちょとだけで良いから、みーせーてー!」と妬き持ちなのか、騒がしく騒いでいて、似たもん親子だなぁと、思いながら、何とか今年も無事に終わりそうだ。
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