狼兵は運命の番を逃がさない

ろいず

文字の大きさ
24 / 58

寝室

しおりを挟む
 発情期だと理性を失って求め合うのだと言われているけれど、そこまで酷い発情期になった事が無かったから、自分はこうした事には、淡白な性質たちなのだろうと思っていた。
 メイデルの手が服にかかり、素肌をまさぐり始めると、体に火が付いたように……とはこういう事を言うのだろうか? 体ごと一つの心臓になってしまったように鼓動だけの存在になってしまったような気がする。
 テーブルの上に押し倒されて、されるがままに身を任せて服が脱がされていく。
 たまに噛みつくような貪られる口付けに、応えてしまう体が淡白な性質などでは無いことを証明していた。

「サキさん、このまま進めても大丈夫ですか?」

 動きを止めたメイデルの言葉に、聞くなよ! と、騒ぎたいところだけど、羞恥心が邪魔をして頷くだけで精いっぱいだった。
 
「なら、寝室の方に行きましょうか。ここでは、監視の目もありそうですからね」
「監視?」
「何でもありません。九階といえどリビングの窓は大きいですから、人目についてしまうかもしれませんからね」

 キスをしたまま抱き上げられて、お姫様抱っこで寝室まで運ばれた。
 寝室は和室で、畳で出来たベッドの上に布団が敷いてあった。
 い草の匂いがふわりと鼻をくすぐる。

「スプリングが無いタイプですね……」
「そりゃ、畳ベッドだからね。こういうの憧れてはいたけど、高いからここにあって少しビックリだ」
「……サキさんが、喜んでくれているなら……良かったです」

 歯切れの悪そうなメイデルに、どうしたのだろうかと見上げるとキスをされて、ベッドに下ろされる。
 素肌に布団の感触が良いと思いながら見上げた天井は、竹で出来ていて……純和風仕様なようだ。
 服を脱ぐメイデルを見て、ギョッとして目を丸くしてしまったのは仕方がない。

「メイデル、筋肉凄い……」
「鍛えていますからね」

 元軍人とはいえ、無駄な肉は無いといわんばかりの筋肉で出来た体つきは引き締まっている。
 四十七歳とか言っていたような……衰える事を知らないのでは? と思たり……
 自分の貧相な体つきに少しだけショックだ。
 筋トレしよう。うん、同じ男として少し鍛えよう。

「サキさんは、発情期じゃなくても濡れる方ですか?」
「濡れる方?」

 何が濡れる……って、あそこか! と、思い当ってブンブンと顔を横に振る。
 発情期の時は、ほぼ眠くなる薬で終わるまで寝ているだけの状態だから、濡れるも何も分からない。
 女性が濡れる症状はオメガの男性にも起こる事で、性交の時に体の中を傷つけない為に体液が出て濡れるらしい。
 
「もしかしてと思いますが……性交渉の経験は?」
「っ! なっ! なんでそんな事……」
「なるほど。子供を作る事を条件として呑むので、てっきりこうした事も経験豊富で、アルファを毛嫌いしているのかと思いましたが、知らない故に怯えていただけのようですね」

 人の顔をまじまじと見て答えを出していくのは勘弁してほしい。
 当たらずとも遠からずだ。子供は、それしか支払えるものが無かったからだし、アルファを毛嫌いしているというより、オメガだからアルファと比較されて生きてきたのだから、苦手意識は少なからずある。
 
「別にいいだろ……俺みたいな地味なオメガ、誰が相手にするって言うんだよ……」
「サキさんは自分を卑下し過ぎですよ。サキさんは、十分魅力的でチャーミングですからね」
「そりゃ、メイデルの目がおかしいだけだ。運命の番だから、そう思えるだけだろ?」
「サキさんが自分を否定する分、私がどれだけ愛しているか、教えてあげますよ」

 目を細めて笑ったメイデルに、ゾックリとした悪寒のようなものが体に走る。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。

水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。 ※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。 過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。 「君はもう、頑張らなくていい」 ――それは、運命の番との出会い。 圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。 理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

こじらせΩのふつうの婚活

深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。 彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。 しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。 裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

金色の恋と愛とが降ってくる

鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。 引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。 二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に 転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。 初のアルファの後輩は初日に遅刻。 やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。 転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。 オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。 途中主人公がちょっと不憫です。 性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話

降魔 鬼灯
BL
 ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。  両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。  しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。  コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。  

処理中です...