狼兵は運命の番を逃がさない

ろいず

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ロールケーキとお茶

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 我が家のリビングは八畳ほどの広さでキッチンと対面式に繋がっている。
 リビングの方では、静谷さんとメイデルが話をしていて、俺はキッチンで静谷さんがお土産に持ってきたフルーツ入りのロールケーキを切り分けて皿に盛り付け中だ。
 静谷さんとメイデルは、美羽の父親の会社、蓬生グループに関する資料を見つつ話し合いをしている。
 俺のせいで申し訳ない。

「静谷さんは、コーヒーと紅茶どっちが良いですか?」
「では、紅茶を」
「メイデルは?」
「私は、コーヒーで」
「はーい」

 ロールケーキと飲み物を用意してテーブルに置きメイデルの隣に座ると、腰にメイデルの手が回って引き寄せてくる。
 無意識でやっているのか、目線は資料に通されたままだ。
 メイデルに寄り添うように座ると、嬉しそうに目を細めて頭の天辺にキスを落としてくる。
 いや、お前が腰に手を回して引き寄せたんだぞ? 俺が寄り添ったわけじゃないんだけど……と、ごにょごにょ思うものの、やはり嬉しくて何も言えず、なすがままになっている。

「名執さんに確認したいことがあるのですが、いいですか?」
「あ、はい。なんですか?」

 静谷さんの方に顔を向けると、メイデルに顎を掴まれてキスで唇を塞がれていた。

「んーっ!」

 流石に発情が今は治まっているから、性欲よりも羞恥の方が上である。
 力では敵わないことは承知の上で胸を叩いていると、メイデルの頭を景気よく叩いたシズクの姿があった。

「うちの咲に変な事しないでくれる? オッサン」
「チッ、なんの用ですか?」

 険悪な睨み合いを始めた二人に、静谷さんは苦笑いをし俺はシズクに見られた恥ずかしさでテーブルに突っ伏した。

「咲、僕にも飲み物持ってきて。好みは知ってるでしょ」
「はいはい。濃い目のコーヒーにミルク少しだろ」

 兄使いの荒い弟に肩を落として席を立つと、俺の座っていた場所はシズクに取られ、メイデルに舌を出していた。
 それにしても、アルファが三人も家の中に居るというのも、変な感覚だ。
 アルファは地位が高い分、オメガで地位の低い俺の周りには桜樹以外は居なかったのに……シズクは、まぁ論外と言うべきなのか?

「シズク。はい、コーヒーとロールケーキ」
「ありがと。咲にお土産あげる」
「ん? なに」

 シズクが手の平に何かを握らせてきて、広げてみると軟膏があった。
 首を傾げると、「オッサンにやられ過ぎて出血したら塗ればいいよ」と、笑顔で言い、俺は口をパクパクと酸素不足の金魚状態で動かした。
 もうやだ。この弟分……
 俺が撃沈したあと、シズクは街の情報屋の話と、美羽の行動を監視カメラで追った情報を持ってきたことを告げ、笑顔を向けた。
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