43 / 58
美羽
しおりを挟む
雨風で駐車場は枯葉とゴミが多く散乱していた。
そんな駐車場に、俺の黒いバンは遊園地の入り口の近くに置いてあった。
「車の中には、居ないな……」
予備のカギで車を開けて中を調べ、車の中に入れていたものを確認する。
特に荒らされたり壊されたりしたものも無く、そこら辺は美羽の育ちの良さにホッと安堵出来るものだった。
「咲、行くよー」
「はーい」
シズクが先頭を歩く形で静谷さんと俺、そして最後にメイデルが歩く。
別に女の子一人に構えることは無いのだけど、閉鎖されて中身がどのくらいか分からない建物だという事から、安全確認みたいな感じだ。
遊園地と言っても、そこら辺のデパートの上にありそうな簡単な遊具ばかりで、動物広場というウサギ小屋や、ハムスターのふれあい広場と書かれた看板がある場所があるぐらいだ。
「シズク、美羽が居そうな場所が分かって歩いてんのか?」
「そこら辺は僕に任せてよ。美羽の子供の頃のアルバムまで調べてきたんだから」
「よくそんな物、調べられたな」
「今時は、スマホで撮った物はネット上にもアップロードされるようになってるからね。そういうのを見付けるのは、僕の得意分野だもん」
スマートフォンを片手にシズクが「ふふーん」と自慢し、頼りになると言えばいいのか、他人の写真を探し当てる能力に空恐ろしい物を感じると言うべきなのか……
展望台の螺旋階段を上り、体力不足というべきか、筋肉痛と腰の痛さに気怠さのスリーコンボ状態の俺は三人についていくのがやっとという感じになっていた。
途中でメイデルが抱き上げようとするものだから、全力で否定して必死で上っている。
これで美羽が居なかったら、帰りはメイデルに連れて帰ってもらおうと思っていたが、美羽は展望台のレストランに居た。
「眠れる森の美女……っていうより、美少女……かな。まぁ、僕の方が美少年だけどね」
レストランの椅子を組み合わせて、カーテンで天蓋を作ったそのスペースの中心で眠る美羽は、シズクの言うように眠れる森の美少女という感じだ。
シズクが美羽を揺り動かして起こすと、美羽は驚いた顔で後退った。
「誰!? あなた達、誰よ!」
「人の薬に食料に服と車、盗んでおいてそれは無いでしょ?」
「あなたに関係なー……」
美羽が途中まで言いかけ、俺に気付くと目が泳ぎ始める。
これで盗んでいないなんてしらを切られたら、流石の俺も黙ってはいない。
「私は弁護士の静谷・カークランドです」
静谷さんは丁寧に名刺を出し、美羽は不安げな目で名刺を見つめる。
こういう時はやはり、弁護士という職業のお堅いものが一番役に立ちそうだ。
「お父さん達に雇われたの? わたしは帰る気はないわ……」
「貴女のお父上は関係なく、こちらの名執さんのご依頼で貴女を追っていました」
「なもり……?」
「俺だよ。名執咲って、自己紹介しなかったっけ?」
美羽は少し首を傾げ、俺は自分の存在感の無さに泣きたい。
メイデルが俺の腰に手を回して、気にするなと言うように眉を下げて笑うが、人をテレビで誘拐犯にまでした相手がこれでは泣くに泣けない。
「ごめんなさい。わたし、発情してて記憶があいまいなまま行動してたから……色々と、迷惑を掛けてしまって申し訳なく思っているけど、わたしはお父さんのゲームに巻き込まれた景品扱いは嫌なの!」
「あのねぇ、君が逃げたせいで咲は、テレビで誘拐犯扱いされて警察にも捕まったんだからね!」
「シズク、それはよくは無いけど、美羽にも色々あるんだし……」
「サキさん!」
「咲!」
「「そんな甘い事は……っ」」
メイデルとシズクの言葉が被り、二人は同時に顔を反らして嫌そうに溜め息を吐く。
「テレビ? どういう……だって、ただの家出よ?」
首を傾げてオロオロとする美羽に、シズクが自分のスマートフォンを弄って『蓬生グループ令嬢行方不明』のニュースの動画を見せる。
食い入るように見る美羽を尻目に、メイデルがレストランの窓の外を見る。
展望台になっているレストランで、外の眺めは遠くまで見晴らせて良いだろう。
「メイデル?」
「ようやくネズミが来たようですね」
「ネズミ?」
俺も窓から下を見れば、駐車場には黒塗りの車から黒服の人間が数人出てきていた。
メイデルを見上げると、頬に口づけてから「私の活躍を見ていて下さいね」と囁かれた。
そんな駐車場に、俺の黒いバンは遊園地の入り口の近くに置いてあった。
「車の中には、居ないな……」
予備のカギで車を開けて中を調べ、車の中に入れていたものを確認する。
特に荒らされたり壊されたりしたものも無く、そこら辺は美羽の育ちの良さにホッと安堵出来るものだった。
「咲、行くよー」
「はーい」
シズクが先頭を歩く形で静谷さんと俺、そして最後にメイデルが歩く。
別に女の子一人に構えることは無いのだけど、閉鎖されて中身がどのくらいか分からない建物だという事から、安全確認みたいな感じだ。
遊園地と言っても、そこら辺のデパートの上にありそうな簡単な遊具ばかりで、動物広場というウサギ小屋や、ハムスターのふれあい広場と書かれた看板がある場所があるぐらいだ。
「シズク、美羽が居そうな場所が分かって歩いてんのか?」
「そこら辺は僕に任せてよ。美羽の子供の頃のアルバムまで調べてきたんだから」
「よくそんな物、調べられたな」
「今時は、スマホで撮った物はネット上にもアップロードされるようになってるからね。そういうのを見付けるのは、僕の得意分野だもん」
スマートフォンを片手にシズクが「ふふーん」と自慢し、頼りになると言えばいいのか、他人の写真を探し当てる能力に空恐ろしい物を感じると言うべきなのか……
展望台の螺旋階段を上り、体力不足というべきか、筋肉痛と腰の痛さに気怠さのスリーコンボ状態の俺は三人についていくのがやっとという感じになっていた。
途中でメイデルが抱き上げようとするものだから、全力で否定して必死で上っている。
これで美羽が居なかったら、帰りはメイデルに連れて帰ってもらおうと思っていたが、美羽は展望台のレストランに居た。
「眠れる森の美女……っていうより、美少女……かな。まぁ、僕の方が美少年だけどね」
レストランの椅子を組み合わせて、カーテンで天蓋を作ったそのスペースの中心で眠る美羽は、シズクの言うように眠れる森の美少女という感じだ。
シズクが美羽を揺り動かして起こすと、美羽は驚いた顔で後退った。
「誰!? あなた達、誰よ!」
「人の薬に食料に服と車、盗んでおいてそれは無いでしょ?」
「あなたに関係なー……」
美羽が途中まで言いかけ、俺に気付くと目が泳ぎ始める。
これで盗んでいないなんてしらを切られたら、流石の俺も黙ってはいない。
「私は弁護士の静谷・カークランドです」
静谷さんは丁寧に名刺を出し、美羽は不安げな目で名刺を見つめる。
こういう時はやはり、弁護士という職業のお堅いものが一番役に立ちそうだ。
「お父さん達に雇われたの? わたしは帰る気はないわ……」
「貴女のお父上は関係なく、こちらの名執さんのご依頼で貴女を追っていました」
「なもり……?」
「俺だよ。名執咲って、自己紹介しなかったっけ?」
美羽は少し首を傾げ、俺は自分の存在感の無さに泣きたい。
メイデルが俺の腰に手を回して、気にするなと言うように眉を下げて笑うが、人をテレビで誘拐犯にまでした相手がこれでは泣くに泣けない。
「ごめんなさい。わたし、発情してて記憶があいまいなまま行動してたから……色々と、迷惑を掛けてしまって申し訳なく思っているけど、わたしはお父さんのゲームに巻き込まれた景品扱いは嫌なの!」
「あのねぇ、君が逃げたせいで咲は、テレビで誘拐犯扱いされて警察にも捕まったんだからね!」
「シズク、それはよくは無いけど、美羽にも色々あるんだし……」
「サキさん!」
「咲!」
「「そんな甘い事は……っ」」
メイデルとシズクの言葉が被り、二人は同時に顔を反らして嫌そうに溜め息を吐く。
「テレビ? どういう……だって、ただの家出よ?」
首を傾げてオロオロとする美羽に、シズクが自分のスマートフォンを弄って『蓬生グループ令嬢行方不明』のニュースの動画を見せる。
食い入るように見る美羽を尻目に、メイデルがレストランの窓の外を見る。
展望台になっているレストランで、外の眺めは遠くまで見晴らせて良いだろう。
「メイデル?」
「ようやくネズミが来たようですね」
「ネズミ?」
俺も窓から下を見れば、駐車場には黒塗りの車から黒服の人間が数人出てきていた。
メイデルを見上げると、頬に口づけてから「私の活躍を見ていて下さいね」と囁かれた。
1
あなたにおすすめの小説
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
金色の恋と愛とが降ってくる
鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。
引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で
オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。
二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に
転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。
初のアルファの後輩は初日に遅刻。
やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。
転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。
オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。
途中主人公がちょっと不憫です。
性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる