狼兵は運命の番を逃がさない

ろいず

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美羽

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 雨風で駐車場は枯葉とゴミが多く散乱していた。
 そんな駐車場に、俺の黒いバンは遊園地の入り口の近くに置いてあった。

「車の中には、居ないな……」

 予備のカギで車を開けて中を調べ、車の中に入れていたものを確認する。
 特に荒らされたり壊されたりしたものも無く、そこら辺は美羽の育ちの良さにホッと安堵出来るものだった。

「咲、行くよー」
「はーい」

 シズクが先頭を歩く形で静谷さんと俺、そして最後にメイデルが歩く。
 別に女の子一人に構えることは無いのだけど、閉鎖されて中身がどのくらいか分からない建物だという事から、安全確認みたいな感じだ。
 遊園地と言っても、そこら辺のデパートの上にありそうな簡単な遊具ばかりで、動物広場というウサギ小屋や、ハムスターのふれあい広場と書かれた看板がある場所があるぐらいだ。
 
「シズク、美羽が居そうな場所が分かって歩いてんのか?」
「そこら辺は僕に任せてよ。美羽の子供の頃のアルバムまで調べてきたんだから」
「よくそんな物、調べられたな」
「今時は、スマホで撮った物はネット上にもアップロードされるようになってるからね。そういうのを見付けるのは、僕の得意分野だもん」

 スマートフォンを片手にシズクが「ふふーん」と自慢し、頼りになると言えばいいのか、他人の写真を探し当てる能力に空恐ろしい物を感じると言うべきなのか……
 展望台の螺旋らせん階段を上り、体力不足というべきか、筋肉痛と腰の痛さに気怠さのスリーコンボ状態の俺は三人についていくのがやっとという感じになっていた。
 途中でメイデルが抱き上げようとするものだから、全力で否定して必死で上っている。
 これで美羽が居なかったら、帰りはメイデルに連れて帰ってもらおうと思っていたが、美羽は展望台のレストランに居た。

「眠れる森の美女……っていうより、美少女……かな。まぁ、僕の方が美少年だけどね」

 レストランの椅子を組み合わせて、カーテンで天蓋を作ったそのスペースの中心で眠る美羽は、シズクの言うように眠れる森の美少女という感じだ。
 シズクが美羽を揺り動かして起こすと、美羽は驚いた顔で後退った。

「誰!? あなた達、誰よ!」
「人の薬に食料に服と車、盗んでおいてそれは無いでしょ?」
「あなたに関係なー……」

 美羽が途中まで言いかけ、俺に気付くと目が泳ぎ始める。
 これで盗んでいないなんてしらを切られたら、流石の俺も黙ってはいない。

「私は弁護士の静谷・カークランドです」

 静谷さんは丁寧に名刺を出し、美羽は不安げな目で名刺を見つめる。
 こういう時はやはり、弁護士という職業のお堅いものが一番役に立ちそうだ。
 
「お父さん達に雇われたの? わたしは帰る気はないわ……」
「貴女のお父上は関係なく、こちらの名執さんのご依頼で貴女を追っていました」
「なもり……?」
「俺だよ。名執咲って、自己紹介しなかったっけ?」

 美羽は少し首を傾げ、俺は自分の存在感の無さに泣きたい。
 メイデルが俺の腰に手を回して、気にするなと言うように眉を下げて笑うが、人をテレビで誘拐犯にまでした相手がこれでは泣くに泣けない。

「ごめんなさい。わたし、発情してて記憶があいまいなまま行動してたから……色々と、迷惑を掛けてしまって申し訳なく思っているけど、わたしはお父さんのゲームに巻き込まれた景品扱いは嫌なの!」
「あのねぇ、君が逃げたせいで咲は、テレビで誘拐犯扱いされて警察にも捕まったんだからね!」
「シズク、それはよくは無いけど、美羽にも色々あるんだし……」
「サキさん!」
「咲!」
「「そんな甘い事は……っ」」

 メイデルとシズクの言葉が被り、二人は同時に顔を反らして嫌そうに溜め息を吐く。
 
「テレビ? どういう……だって、ただの家出よ?」

 首を傾げてオロオロとする美羽に、シズクが自分のスマートフォンを弄って『蓬生グループ令嬢行方不明』のニュースの動画を見せる。
 食い入るように見る美羽を尻目に、メイデルがレストランの窓の外を見る。
 展望台になっているレストランで、外の眺めは遠くまで見晴らせて良いだろう。

「メイデル?」
「ようやくネズミが来たようですね」
「ネズミ?」

 俺も窓から下を見れば、駐車場には黒塗りの車から黒服の人間が数人出てきていた。
 メイデルを見上げると、頬に口づけてから「私の活躍を見ていて下さいね」と囁かれた。
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