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家族
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二日経ち、病院の検査も一通り終え、退院の許可も下りた事から家に帰ることになった。
部屋は引っ越しでもするかのように、物が片付けられている。
リビングのテーブルも椅子も無い。
唯一あるソファにメイデルと二人で横に並んで座った。
「えーと……部屋、何も無いな」
「引っ越しをした方が安全だと、養父の方達が引き払ってしまいました」
「あー、そっか……」
確かに最近は何かと俺が迷惑をかけまくっているから、心配したのだろう。
「このソファは、どうするんだろうな」
「これはシズクが、リサイクルショップに投げ込むと言っていましたよ」
お互いに何から話し合うべきかを決めあぐねて、一先ず、襲われてから今までを順序良く説明してもらった。
俺のマンションのインターフォンには、誰が訪問したかをシズクに知らせるようになっていて、いつの間にそんな物を取り付けたんだ!? とも、思うけど……シズクがメイデルに連絡を入れると、丁度メイデルも俺のマンションへ来る途中だった為、合流したらしい。
玄関のカギを開けるとチューンロックで入れず、隣の住民に断ってベランダから侵入し、倒れている俺を発見。
そして犯人の女を確保……という流れだったようだ。
「心配かけちゃったよな。本当に、ごめん」
「私は任務以外で人を殺しかけたのは、初めてです……」
「もしかして、あの女を殺しかけちゃったり?」
黙ったまま目を逸らすメイデルに、肯定なのだろうと思う。
危うく、メイデルを殺人犯にしてしまうところだったみたいだ。
今更、メイデルが一人や二人、闇に葬ったところで、俺は驚かないと思うけどな。
でも任務と自分の意思での行動は、違いがあるだろう。
「シズクにも謝らないとな。絶対、怒られるけど」
「そうですね。彼は、根に持つタイプな上に、心配性のようですからね」
メイデルに抱き寄せられて、首筋から頬に這わすように唇が押し付けられる。
くすぐったさに身をよじると、耳朶を食まれて吸われ、恥ずかしさにジタバタと手足を動かしてしまう。
「サキさんは、可愛いですね」
「~っ、お前ぐらいだよ。そういう事言うのは……てか、離せ」
「それは、遠慮しておきます」
遠慮とかそういう問題ではないと思うんだが、心配させてしまったのもあってメイデルに強く言えないのもある。
舌も使って首筋を舐めては吸われてを繰り返されるのは、勘弁してほしい。
「メイデル! ストップ! ストーップ!」
動きが止まって、目を合わせると唇を奪われ、そのままソファに押し倒された。
完全に、メイデルのペースに流されている気がする。
一応、こちらは退院したばかりなのだが? と、言いたいが……検査じゃ何もなかったんだよな。
心肺蘇生の時に胸にヒビが入っているかもしれないとは言われたが、ヒビ一つない丈夫な体にオレ自身ビックリだ。
流石に内出血はしてしまったようで、肌の色が最初は紫色だったが、今では黄色っぽくなっているし、押されたら痛いのもある。
それもあって、俺はメイデルの頭にチョップを食らわせた。
「メイデル。話し合い、頼むから話し合いをしよう!」
「ボディトークで良ければ」
「良く無いわ! まったく、澄ました顔してそういう事を言うな!」
「サキさんは退院したばかりだというのに、元気が有り余っていますよね」
こっちが悪いような言い方をするなと言いたい。
押し倒されたそのままの体勢で、「さて、何を話しましょうか?」と微笑まれる始末だ。
本当にこいつは性質が悪い。
「俺とメイデルは、いつ家族になったって言うんだ?」
「車の中で話し合ったじゃないですか。『父親になるなら、しっかり稼いで来い』と、言ったのはサキさんです。つまり、子供が出来たら、私を夫にするという意味ではないのですか?」
美羽の事件が終わって車で帰る時に、メイデルの家族に俺のことを言ってあるのか聞いたんだよな……奥さんが、いきなりメイデルが子供を連れ帰ったらビックリするんじゃないかって思っての質問だったはずだ。
「えーと、メイデルの家族はいるんだろ?」
「ええ、居ます」
ほらな。
奥さんが居るのに、なんでメイデルが俺の夫になるんだって話だ。
俺は少し考えてから口を開く。
「あのさ、運命の番だからって……、奥さんと離婚してまで俺と一緒になるって意味なら、俺はお断りなんだけど」
「はい?」
奇妙な顔をしたメイデルに、俺としては、家庭がある人間の関係性まで壊して、新しく家族を作ろうって考え、それは駄目だと思っている。
「サキさん。私、サキさんとの食い違いがわかったかもしれません」
「食い違いっつーか、意見の相違だろ?」
「いいえ。私は独身です。家族は父と母に兄夫婦。そして、サキさんと生まれてくる子供だけです」
「マジで?」
「マジは、日本語で本気でしたか? 本気というならば、本気です。私は戦場にばかり身を置いていましたので、婚期を逃して今に至ります」
メイデルの茶色の目がギラリと光った気がして、俺は要らない藪を突いて蛇を出してしまったかもしれない。
部屋は引っ越しでもするかのように、物が片付けられている。
リビングのテーブルも椅子も無い。
唯一あるソファにメイデルと二人で横に並んで座った。
「えーと……部屋、何も無いな」
「引っ越しをした方が安全だと、養父の方達が引き払ってしまいました」
「あー、そっか……」
確かに最近は何かと俺が迷惑をかけまくっているから、心配したのだろう。
「このソファは、どうするんだろうな」
「これはシズクが、リサイクルショップに投げ込むと言っていましたよ」
お互いに何から話し合うべきかを決めあぐねて、一先ず、襲われてから今までを順序良く説明してもらった。
俺のマンションのインターフォンには、誰が訪問したかをシズクに知らせるようになっていて、いつの間にそんな物を取り付けたんだ!? とも、思うけど……シズクがメイデルに連絡を入れると、丁度メイデルも俺のマンションへ来る途中だった為、合流したらしい。
玄関のカギを開けるとチューンロックで入れず、隣の住民に断ってベランダから侵入し、倒れている俺を発見。
そして犯人の女を確保……という流れだったようだ。
「心配かけちゃったよな。本当に、ごめん」
「私は任務以外で人を殺しかけたのは、初めてです……」
「もしかして、あの女を殺しかけちゃったり?」
黙ったまま目を逸らすメイデルに、肯定なのだろうと思う。
危うく、メイデルを殺人犯にしてしまうところだったみたいだ。
今更、メイデルが一人や二人、闇に葬ったところで、俺は驚かないと思うけどな。
でも任務と自分の意思での行動は、違いがあるだろう。
「シズクにも謝らないとな。絶対、怒られるけど」
「そうですね。彼は、根に持つタイプな上に、心配性のようですからね」
メイデルに抱き寄せられて、首筋から頬に這わすように唇が押し付けられる。
くすぐったさに身をよじると、耳朶を食まれて吸われ、恥ずかしさにジタバタと手足を動かしてしまう。
「サキさんは、可愛いですね」
「~っ、お前ぐらいだよ。そういう事言うのは……てか、離せ」
「それは、遠慮しておきます」
遠慮とかそういう問題ではないと思うんだが、心配させてしまったのもあってメイデルに強く言えないのもある。
舌も使って首筋を舐めては吸われてを繰り返されるのは、勘弁してほしい。
「メイデル! ストップ! ストーップ!」
動きが止まって、目を合わせると唇を奪われ、そのままソファに押し倒された。
完全に、メイデルのペースに流されている気がする。
一応、こちらは退院したばかりなのだが? と、言いたいが……検査じゃ何もなかったんだよな。
心肺蘇生の時に胸にヒビが入っているかもしれないとは言われたが、ヒビ一つない丈夫な体にオレ自身ビックリだ。
流石に内出血はしてしまったようで、肌の色が最初は紫色だったが、今では黄色っぽくなっているし、押されたら痛いのもある。
それもあって、俺はメイデルの頭にチョップを食らわせた。
「メイデル。話し合い、頼むから話し合いをしよう!」
「ボディトークで良ければ」
「良く無いわ! まったく、澄ました顔してそういう事を言うな!」
「サキさんは退院したばかりだというのに、元気が有り余っていますよね」
こっちが悪いような言い方をするなと言いたい。
押し倒されたそのままの体勢で、「さて、何を話しましょうか?」と微笑まれる始末だ。
本当にこいつは性質が悪い。
「俺とメイデルは、いつ家族になったって言うんだ?」
「車の中で話し合ったじゃないですか。『父親になるなら、しっかり稼いで来い』と、言ったのはサキさんです。つまり、子供が出来たら、私を夫にするという意味ではないのですか?」
美羽の事件が終わって車で帰る時に、メイデルの家族に俺のことを言ってあるのか聞いたんだよな……奥さんが、いきなりメイデルが子供を連れ帰ったらビックリするんじゃないかって思っての質問だったはずだ。
「えーと、メイデルの家族はいるんだろ?」
「ええ、居ます」
ほらな。
奥さんが居るのに、なんでメイデルが俺の夫になるんだって話だ。
俺は少し考えてから口を開く。
「あのさ、運命の番だからって……、奥さんと離婚してまで俺と一緒になるって意味なら、俺はお断りなんだけど」
「はい?」
奇妙な顔をしたメイデルに、俺としては、家庭がある人間の関係性まで壊して、新しく家族を作ろうって考え、それは駄目だと思っている。
「サキさん。私、サキさんとの食い違いがわかったかもしれません」
「食い違いっつーか、意見の相違だろ?」
「いいえ。私は独身です。家族は父と母に兄夫婦。そして、サキさんと生まれてくる子供だけです」
「マジで?」
「マジは、日本語で本気でしたか? 本気というならば、本気です。私は戦場にばかり身を置いていましたので、婚期を逃して今に至ります」
メイデルの茶色の目がギラリと光った気がして、俺は要らない藪を突いて蛇を出してしまったかもしれない。
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