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一章
自己紹介
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お米の炊けた音がピピピと鳴り、朝食の支度が出来たと伸びをしていると、厨房に二階堂さんが顔を出した。
「まののん。畑に来ないから、迎えに来たぜ」
「畑……ですか?」
「あれ? スイに聞いてねぇの? 野菜畑が宿舎の裏にあるんだよ」
「そうなんですか。丁度、お野菜が足りないと思っていました」
「それならついて来いよ」
二階堂さんについて行き、食堂から出て奥へ行くと、部屋がいくつかあり、お手洗いや『浴場』と書かれたお風呂場のガラス扉もあった。
そのまま進むと、大きな畳の広間があり、広間の縁側から下駄を履いて二階堂さんに連れられ、中庭から裏へ行くと畑があった。
四十八坪ほどの畑なのだそうだ。
「ここが『おおかみ宿舎』の畑だ。今は大根とジャガイモに白菜……春菊はまだ少し早いな。ブロッコリーは大丈夫だ。好きに食材で使って良いぜ」
「うわぁー……凄いですね。鰤大根とか出来そうです! お夕飯は鰤大根にしましょうか? でも、朝も鰤の照り焼きだし、飽きてしまいますか?」
「いいや。そんな事ないだろ? 夜はどうせ皆宴会だろうしな」
「宴会ですか?」
二階堂さんは人懐っこそうな笑顔で頷いて、お猪口でお酒を飲む様な仕草をする。
大根を三本程抜いてもらい、他に白菜も一つ貰った。
大根が余ったら、白菜と一緒に浅漬けでもしよう。
柚子もあれば柚子も入れて、鷹の爪も入れたら美味しそうだ。
「まののんは酒は飲めるのか?」
「一応……嗜む程度ですが……」
「なら、夜はジャンジャン注がれるだろうから、無理に飲まないようにな」
「はい。ありがとうございます」
「んじゃ、そろそろ煩いのが起きたみたいだし、食堂に行こうぜ」
大根と白菜を二階堂さんが全て持ってくれて、食堂へ戻れば、すでに何人かの宿舎の住民が雑談をしていた。
「おう。お前等、今日から食堂の飯作ってくれる、まののんだ!」
「へっ!? ちょっ! 二階堂さん! まののんはやめて下さい~っ!」
「良いじゃねぇか。可愛いし」
真っ赤になって二階堂さんを下から睨み上げると、カラカラ笑って二階堂さんは野菜をテーブルの上に置くと私の頭をポンポン叩く。
「へぇー。泉田さんの代わりの子なんだー」
「若いねー。幾つ?」
「スイさんが、よくこんな平凡そうな子入れたわねぇ」
わらっと住民の人達に囲まれて、私は頭の中で少しパニックになってしまう。
ちなみに泉田さんは、私の前任の調理場の人で、私はその人にスカウトされてここを紹介されたという経由がある。
囲まれた私は緊張で喉をゴクリと鳴らし、上を見上げる。
身長が低いのもあるけれど、全員、背が高くないだろうか!?
質問がポンポンと頭の上からくるものの、どれに最初に答えて良いのかもたつくと、腰をガシッと持ち上げられて足が床から離れる。そして周りに集まっていた人達は目を丸くしていた。
「お前達、麻乃が困っているだろう。ったく、朝から騒がしい奴等だ」
「み、御守、さん……?」
私の腰を持ち上げて腕に抱き寄せたのは、御守さんで、何故か威嚇する様に周りの人達を睨みつけていた。
いや、それより放して欲しい……
「まだ他の連中は起きていないのか?」
御守さんが「今日は早起きしろと言ってあったのに」とブツブツ文句を言い、私の腰から手を離すと床に下ろしてくれた。
すると、また食堂にぞろぞろと人が入ってきた。
「スイ。おはよー」
「スイ。おはよー」
女の子と男の子が御守さんの周りをクルクル走り回り、御守さんに頭をガシッと掴まれて動きを止める。
顔を上に上げて女の子と男の子はニィッと笑う。
「朝ご飯はなーにー?」
「お腹すいたーご飯ー」
「 紫音、 紫雨。大人しくしていろ」
「ん? なんか面白い子がいる!」
「あっ! 見た事ある!」
「だから、少し大人しくしていろ。皆も、各自席につけ。紹介をする」
御守さんが子供達の頭から手を離すと、二人は赤いスーツを着たシンプルボブの髪型の女性の所へ走っていく。
女性は二人を連れて席につき、小さく欠伸をしていた。
「皆揃ったな。今日から『おおかみ宿舎』の食堂で働いてくれる、雛姫麻乃さんだ」
御守さんの紹介に私は慌てて頭を下げる。
「雛姫麻乃です。住み込みでここで働くことになりました! よろしくお願いします!」
小さく拍手があり、御守さんが一人ずつ紹介してくれる。
先ずは、二階堂さん。二階堂さんは既に挨拶を終えているので、手短に。
赤いスーツの女性は 江島 七緒さん。子供二人は双子の兄妹で、お兄さんの方が紫音。妹さんが紫雨。
七尾さんの弟妹なのだそうだ。見た目は小学校2,3年生らしいけれど、「学校は行かない!」「勉強は学校じゃなくても出来る!」と言い、七尾さんが「ネットでも大丈夫な学校があるのよ」と説明の付け足しをしてくれた。
分厚い眼鏡を掛けた白衣を着た男性は、 椿木 幸志さん。とても眠そうな感じの人で、自己紹介中にも何度か寝落ちしかけていた。
他にも紹介を受けたのだけど、私が覚えられたのはこの人達くらい。
名前と顔が一致しない……一発で覚えられるほど、私の頭は良くはないし、徐々に覚えていくしかない。
「まののん。畑に来ないから、迎えに来たぜ」
「畑……ですか?」
「あれ? スイに聞いてねぇの? 野菜畑が宿舎の裏にあるんだよ」
「そうなんですか。丁度、お野菜が足りないと思っていました」
「それならついて来いよ」
二階堂さんについて行き、食堂から出て奥へ行くと、部屋がいくつかあり、お手洗いや『浴場』と書かれたお風呂場のガラス扉もあった。
そのまま進むと、大きな畳の広間があり、広間の縁側から下駄を履いて二階堂さんに連れられ、中庭から裏へ行くと畑があった。
四十八坪ほどの畑なのだそうだ。
「ここが『おおかみ宿舎』の畑だ。今は大根とジャガイモに白菜……春菊はまだ少し早いな。ブロッコリーは大丈夫だ。好きに食材で使って良いぜ」
「うわぁー……凄いですね。鰤大根とか出来そうです! お夕飯は鰤大根にしましょうか? でも、朝も鰤の照り焼きだし、飽きてしまいますか?」
「いいや。そんな事ないだろ? 夜はどうせ皆宴会だろうしな」
「宴会ですか?」
二階堂さんは人懐っこそうな笑顔で頷いて、お猪口でお酒を飲む様な仕草をする。
大根を三本程抜いてもらい、他に白菜も一つ貰った。
大根が余ったら、白菜と一緒に浅漬けでもしよう。
柚子もあれば柚子も入れて、鷹の爪も入れたら美味しそうだ。
「まののんは酒は飲めるのか?」
「一応……嗜む程度ですが……」
「なら、夜はジャンジャン注がれるだろうから、無理に飲まないようにな」
「はい。ありがとうございます」
「んじゃ、そろそろ煩いのが起きたみたいだし、食堂に行こうぜ」
大根と白菜を二階堂さんが全て持ってくれて、食堂へ戻れば、すでに何人かの宿舎の住民が雑談をしていた。
「おう。お前等、今日から食堂の飯作ってくれる、まののんだ!」
「へっ!? ちょっ! 二階堂さん! まののんはやめて下さい~っ!」
「良いじゃねぇか。可愛いし」
真っ赤になって二階堂さんを下から睨み上げると、カラカラ笑って二階堂さんは野菜をテーブルの上に置くと私の頭をポンポン叩く。
「へぇー。泉田さんの代わりの子なんだー」
「若いねー。幾つ?」
「スイさんが、よくこんな平凡そうな子入れたわねぇ」
わらっと住民の人達に囲まれて、私は頭の中で少しパニックになってしまう。
ちなみに泉田さんは、私の前任の調理場の人で、私はその人にスカウトされてここを紹介されたという経由がある。
囲まれた私は緊張で喉をゴクリと鳴らし、上を見上げる。
身長が低いのもあるけれど、全員、背が高くないだろうか!?
質問がポンポンと頭の上からくるものの、どれに最初に答えて良いのかもたつくと、腰をガシッと持ち上げられて足が床から離れる。そして周りに集まっていた人達は目を丸くしていた。
「お前達、麻乃が困っているだろう。ったく、朝から騒がしい奴等だ」
「み、御守、さん……?」
私の腰を持ち上げて腕に抱き寄せたのは、御守さんで、何故か威嚇する様に周りの人達を睨みつけていた。
いや、それより放して欲しい……
「まだ他の連中は起きていないのか?」
御守さんが「今日は早起きしろと言ってあったのに」とブツブツ文句を言い、私の腰から手を離すと床に下ろしてくれた。
すると、また食堂にぞろぞろと人が入ってきた。
「スイ。おはよー」
「スイ。おはよー」
女の子と男の子が御守さんの周りをクルクル走り回り、御守さんに頭をガシッと掴まれて動きを止める。
顔を上に上げて女の子と男の子はニィッと笑う。
「朝ご飯はなーにー?」
「お腹すいたーご飯ー」
「 紫音、 紫雨。大人しくしていろ」
「ん? なんか面白い子がいる!」
「あっ! 見た事ある!」
「だから、少し大人しくしていろ。皆も、各自席につけ。紹介をする」
御守さんが子供達の頭から手を離すと、二人は赤いスーツを着たシンプルボブの髪型の女性の所へ走っていく。
女性は二人を連れて席につき、小さく欠伸をしていた。
「皆揃ったな。今日から『おおかみ宿舎』の食堂で働いてくれる、雛姫麻乃さんだ」
御守さんの紹介に私は慌てて頭を下げる。
「雛姫麻乃です。住み込みでここで働くことになりました! よろしくお願いします!」
小さく拍手があり、御守さんが一人ずつ紹介してくれる。
先ずは、二階堂さん。二階堂さんは既に挨拶を終えているので、手短に。
赤いスーツの女性は 江島 七緒さん。子供二人は双子の兄妹で、お兄さんの方が紫音。妹さんが紫雨。
七尾さんの弟妹なのだそうだ。見た目は小学校2,3年生らしいけれど、「学校は行かない!」「勉強は学校じゃなくても出来る!」と言い、七尾さんが「ネットでも大丈夫な学校があるのよ」と説明の付け足しをしてくれた。
分厚い眼鏡を掛けた白衣を着た男性は、 椿木 幸志さん。とても眠そうな感じの人で、自己紹介中にも何度か寝落ちしかけていた。
他にも紹介を受けたのだけど、私が覚えられたのはこの人達くらい。
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