おおかみ宿舎の食堂でいただきます

ろいず

文字の大きさ
7 / 45
一章

透明人間

しおりを挟む
 部屋のベッドに腰を掛け、そのまま横になると少しだけまぶたが重くなる。
久々に寝心地の良いベッドに横になれた。

「ここの人達は、いつまで……私を覚えてくれているだろう……」

 目が覚めたら、御守さんは私の事を忘れてしまっているかもしれない。
買い物へも行けないかもしれない。過度な期待は、してはいけない。
知っている。私は、いつ『透明人間』になるか、分からないのだから__。


 子供の頃、私には両親がいた。

 記憶には無い。
生き別れてしまった場所が場所だった為に、手がかりも見付からなかった。
両親の名前も、顔も分からない。
私自身の名前も、年齢も、全て分からない。
麻乃という名前は、施設で付けられた仮の名前だからだ。

 ___私の記憶の最初にあるのは、燃え盛る遊園地だけだ。

 テレビや新聞でも報じられた。
酷い火災だった。でも、誰のせいでもない。

 自然災害。そう、あれはよく晴れた日の遊園地で、人が多く賑わっていた。
雲一つない空から、雷が、幾つも落ちてきたのだという。

 私はそれを覚えていないけれど、遊園地内のフランクフルト屋のガスボンベに引火し、爆発が起きた後は……気付けば、炎に全てが包まれていた。

 死者は二十九名。
身元不明者は八人。
その八人のうちの一人が親なのか二人が親なのかも、私には解らない。

 ただ、私は焼け落ちたお化け屋敷の中から救い出された時には、服も何も着ていなかった。
でも、火傷一つ無く、奇跡の様な子供だと言われた。

 そこで話が終われば、まだ良かった……
私は、病院で暫く入院していたけれど、看護師さんもお医者さんも、私をなかなか認識出来なかった。
目の前に居るのに、直ぐに私を忘れてしまうのだ。

 ようやく、施設に預けられた時も、皆が私を無視した。
ワザとではなく、認識できていなかった。施設の職員さんも、私の顔を何度見ても覚えられはしなかった。

 たまに、私の事を意識できる子がいた。
そういった子は、私を不気味がって『透明人間』と呼んだ。
『透明人間』が分からず、図書室で調べたら、誰の目にも映らないものの事だった。
ああ、なるほど……確かに、そうかもしれない。
私は納得した。自分の存在は、まさに『透明人間』の様だと。

 けれど、私を『透明人間』と言った子の方が、他の皆から『何言ってるんだアイツ?』という変な子扱いをされていた。
私の事を『幽霊』と呼ぶ子もいた。
『幽霊』だったら、どんなに良かっただろう。
死んでいるのならば、何か迷いがあって成仏できないのならば……私は、こんなに生き辛くは無かっただろう。

 中途半端に最初の頃は、認識されてしまうから、仲良くなればなるほど、段々と私を忘れていってしまう友達や先生が居るのが悲しかった。

 施設は十八歳になれば出ていかなくてはいけなかった。
幸いな事に、私は養子縁組をしてもらい、『雛姫』という名の夫婦に引き取られた。
お料理教室をしていた養母に、習字教室をしていた養父。
とても優しい夫婦だった。

 大好きな人達だった。
私を認識できた珍しい人達で、とても親切で温かかった。
しかし、養父が脳梗塞で亡くなり、半年ほどして、養母の様子がおかしくなり始めた。
認知症だった。
温和な性格の養母は段々と攻撃的な性格になり、私を忘れていった。
認知症で忘れ去られるのではなく、私を認識できなくなったのだ。
介護施設に入って、二ヶ月、風邪から肺炎を拗らせて養母は亡くなった。

 葬儀が終わって、直ぐに私は、養父母の実子から家を追い出された。
だからこそ、私の荷物は、衣装ケース一個で納まる程しか物が無い。

 私が『おおかみ宿舎』の前任の調理場の人と出会ったのは偶然だった。
道端にしゃがみ込んで居た泉田さんに、声を掛けたのが切っ掛け。
泉田さんは高齢で、腰を悪くしていた事もあり、そろそろ厨房を誰かに任せたかったらしい。
幸いにも、私は養母のススメで料理学校と、養母の料理教室を手伝っていた事もあり、そのまま引き受けた。
なにより、住み込みという待遇が、私には有り難かったからだ。

 出来れば、今のまま、誰もが私を忘れないでいてくれると、凄く有り難いのだけれど___。


「 ……」
「……の」
「麻乃」

 体を優しく揺さぶられて目を開けると、三角の耳が見えた。
銀色の三角の耳……うん? 御守さんの頭に、三角の耳が見える……?

「麻乃。そろそろ買い物に出掛けようか?」
「あー……はい」

 パチパチと目を何度か瞬きして、ジッと御守さんの頭の上を見る。
何故……頭の上に獣耳……ハロウィン……ではないよねぇ?

 先を歩く御守さんは、寝る前に着ていた灰色の着物から、普通の白シャツに黒いスラックスで……お尻から、銀色の尻尾が生えている……
歩く御守さん、揺れる尻尾。
何がどうなっているの???
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...