レトロの喫茶店~コールドスリープから目覚めたら借金塗れになっていましたが、同僚の親友メイドロボとなんとかします

次郎

文字の大きさ
34 / 40
2章 セツナとクオン

31話 セツナの日常 三人のお茶会


 その日、セツナは珍しい面々と茶席を囲んでいた。

「二人してよく遊ぶねぇ……感心感心」
「ああ、だがすぐに戻ってくるだろう……水を差すのは感心しないな」
「はいはい、お菓子を少し食べてていいから静かにしな。お嬢もお茶をどうぞー」
「うむ、ポリポリ……」
「ありがとう、メカボロ」

 並んで窓の外を眺めていた二人のメイドは、席に戻って別々の振る舞いをした。ナナナナは座って米粉スコーンを摘み、メカボロはその傍らでカップにお茶を注ぐ。以前は火気厳禁な二人だったが、今ではそれなりに見る組み合わせになっていた。

 カップの淵まで満杯にしてしまう前に、セツナはメイドに声を掛けた。

「それくらいでいいわよ、けどメカボロも休日でしょ? あなたもレトロとウサミミと一緒に楽しんできたら?」
「あー、ダメダメ。レトロって意外と甘えん坊なんだから……あたしがいるとすぐに頼るんだってば。今はいないほうが丁度いいんだよ」
「それに少年にとっては必死な歩行訓練だ。君が散歩する程度の認識は改めた方がいいぞ、セツナ」
「そ、そうね……注意するわ」

 軽い話題のつもりが己の不見識で返されて、セツナは気まずくなった。幸いにもそれ以上の槍玉に上げることはなく、メカボロも席に移る。

 メイドはわざとらしく、予定帳を広げてみせた。

「けど主にそう言われちゃあたしも確認しなきゃね……えー、午前はハイミスと繕い物に料理の勉強、今はウサミミと歩行訓練。その後はみんなでお昼寝会で、夕食前にはナナナナとたたみ物。夕食時には配膳練習で、寝る前にはあたしとお絵かき……うん、予定が詰まっているね。今日はあの子もお嬢と遊ぶ時間は取れないねぇ」
「け、結構に濃密なスケジュールなのね……レトロは」
「予定を組むのが好きなのよ、あの子は。昔は短い時間しか動けなかったから……まあその分、予定外の行動も楽しめるけどね」
「もちろん合間での休息は皆でチャックしている。少年の体調管理については我々を信じてくれ」
「ふふっ、そうね……成長を信じて見守ることも、大人の務めね」

 『まあまだまだ生意気だけどね』との発言には、皆が笑う。幼いことは確かだが、同じ背丈の頃の自分や妹と比べてもレトロは格段に行儀がいい。メイニャンだって、彼ほどには純朴ではないだろう。

 ナナナナも柔らかい表情をしながら、唇を突き出してみせる。

「蒸し返すがセツナ。以前に君が私の制止を振り切って、脱衣所の少年を連れ出した行為は、まったくもって褒められたものではないからな。うむ、私が大人で助かったな」
「もうっ……またお腹が裂けちゃうとか言うつもり? ほらっ、あーん……」
「うむ、君を許そうセツナ……もぐもぐ」
「けどナナナナ、普段の失言でお嬢に怒られているのはあんたが悪いと思うよ」
「メカボロも私の問題行為を指摘しないで……あーん」
「へへへっ……これは失敬、あたしも口が悪いからさぁ……ぱくぱく」
「ふふふ……」

 かつてならば喧嘩になったであろう話題でも、気安く話が出来る。これはあの少年が運んできた幸せであると、セツナも感じていた。

 それを自負するかのように、メカボロも指を広げて、

「ほらっ、お嬢もさぁ折り返しが近いでしょ……だからさ、そろそろ前向きなってもいいんじゃない? 結婚に」
「えっ……その、メイニャンと……?」
「……んっ? なんでアイツの話が出てくるの? お相手ならレトロに決まっているでしょ、レトロ」
「あ、うん……そ、そうね」

 動揺したセツナはナナナナに目を向けるが、彼女はレトロ焼きを頬張ってこちらを見ない。時にこのワイズマウスは人生の選択において、物分りの良い姿勢も見せてくれる。
 余計な口を挟まれないことに安堵して、セツナはメカボロに身体を向けた。

「けどいいの? あなたは弟分にそういうことは、まだ早いって叱りそうなものだけど……」
「早いも早いけど、幸せは待ってちゃ来ないよ。拙速は巧遅に勝るってやつ……これもあの子の受け売りだけど」
「少しばかり生き急いでいない? あなたがレトロに強要しているようなら、わたくしも木主としてあなたとお話をしなくてはならないわ」
「……や、これはあたしが勝手にやっていることだから、あの子には内緒にしてね?」

 両手を挙げつつメカボロは己の非を認める。だがその表情はまるで悪びれたものではない……ミミックには珍しい態度であった。
 ペロリと舌を出して、メカボロは口を開く。

「あたしはあの子の幸せが一番だけどさ、だからってお嬢の幸せが二の次でいいとか言い切る気はないんだ。みんなが幸せなら、あたしも幸せってわけ……この気持ちだけは偽りはないよ。家族には幸せでいて欲しいの」
「……そうね、それは確かね」

 否定してはいけないことを、機械は言ってくる。意地の悪い言い方なのは理解しているのか、メカボロは首を屈めて上目遣いに、

「だから二人が仲良くなることについては、あたしも反対する理由もないってわけ。あの子もお嬢を口説いて、お嬢もあの子をぬいぐるみ扱いした。それが二人して落ち着いたんだから、親睦を深めるのは良い頃合いでしょ? レトロとウサミミも、仲良くしようと頑張っているんだし」
「……えっ、二人はとっても親密だと思うけど」
「私ほどではない。少年はウサミミに生の感情はぶつけていない……お互いに一歩引いた関係だ」
「そ、そうだったの……」

 さりげなく自分を上にして、ナナナナ。だがそれ以上は張り合うことはなく、メカボロも彼女を無視する。

「そそっ、そういうわけだからお嬢も油断してちゃいけないよ。別に誰とか言う気はないけど、あの子を取られちゃうよ?」
「そ、そんな……わたくしはどうすればいいのでしょうっ……!?」
「ぬふふっ……そんなときのための秘策がこれっ、ジャーン!」

 わざとらしい反応をしたこちらを真に受けたのか何なのか、メカボロは得意げに手帳を取り出してくる。どうやら日記帳らしい。
 ミミックは自信満々に、こちらに見せ付ける。

「まずはねぇ、交換日記だよ。これが親しくなるための第一歩だね」
「こ、交換日記……?」
「そうそう、言葉に出来ないことを文字にして伝えればきっと、お互いの心が伝わる……」
「えっ、けど私……前からレトロとやっているわよ? あの子が花畑に来れない日には、園芸日誌に書いて渡しているもの」
「……へぇ」

 露骨に不機嫌になったメカボロに、セツナはこれはマズいと思う。矛先を逸らすために、レトロとの交流を自ら打ち明ける。

「そ、それと恋文を読み上げたりして貰っているわ……以前は馬鹿らしかったんだけど、レトロのおかげで笑えるものになったわ。それに手紙を書くのも一緒に考えてくれて……ナ、ナナナナも付き合ってくれているわよね?」
「ああ、不健全なことは何もないぞ。博士に便りを送っているくらいだ」
「そうそう……ナツもお手紙なんて久しぶりでびっくりしたみたいで、レトロの分まで返してくれたのよ。ふふっ、旧交を温めるっていいわよね?」
「……そう、女の子に手を出すのも早いんだね。あの子……」
「そ、そういう言い方は良くないんじゃないかしら……?」

 セツナは精一杯にレトロを擁護する。実際にセツナはメイニャンの近況を知るために、レトロをダシに使ったのだった。自分の下心からの行いに、誰かを責めさせるわけにはいかない。

 メカボロも弟分の行動力に呆れたのか、日記帳を取り下げた。だが口を結ぶ前に負け惜しみめいた口調で、

「……けどあの子も妹ちゃんに手紙を送ったからね。あぐらを掻いていたら、主の立場が入れ替わっちゃうかもしれないよ?」
「う、うん……」

 メイドの苦言に、セツナは何故かレトロが木主になる姿を想像した。ほんのささやかな我がまましか命じない主に仕えて、もどかしい思いを抱える自分を。
 けどメイドが粗相をすると途端に怒ってしまって……。

(いやいやいやっ……)

 ありえない妄想にセツナは首を振った。メカボロが言っているのはそういった意味合いではない。だがあの子も伴侶を得たら、ちょっぴり横柄に嫉妬したりするのだろうか……?

(だからそういうのはダメでしょ! それに人類至上主義の両親から生まれた私が、機械と恋なんて……)

 怪訝な顔を浮かべるナナナナの口封じに、セツナはパイを持ち上げようとするが……ドールメイドの視線の向きは違った。ナナナナはメカボロを見つめていて、彼女は上の空だった。どうやらメカボロは端末通信をしているらしい。

 これまでの話の流れとは無関係に、メカボロはガッツポーズをした。

「よしっ、流石はウサミミ……正面から話させるなんて流石だね。おっと……そろそろ時間だね、ナナナナも付き合いな」
「ああ、確かに時間だが……なぜ私が必要なのだ? 枕はやらんぞ」
「そんなのいらないって。あの子の秘密の隠し場所がわかったのよ……まさかベッドの下だなんて。けどレトロのことだから、電撃トラップくらい仕掛けているに決まっているよ……そういうわけであんたの手を借りるよ」
「そんなものはないが……それに、あったとしても私に解除を押し付けるのはどうかと思うぞ」
「ちゃんとハイミスに頼んでカステラケーキでも作ってもらうから……今度は好きに食べていいよ?」
「うむ、ならばまあいいか……失敗の場合も報酬は貰うぞ。今回は私が皆に分けてやるとしよう」
「よっ、太っ腹……じゃあお嬢、ちょっとナナナナを借りていくよ」
「ではセツナ、私もその後に少年と過ごしてくる。さらばだ」
「え、ええ……いってらっしゃい」

 嵐のように去って行くメカボロに連れられて、ナナナナも一緒に出て行く。最後の呟きが何故か、セツナの耳に残る。

「別に自室とは言っていないのだろうがな……」



「な、なんだったのかしら……?」

 よくわからないが、最近はよくあることであった。レトロが来てからセツナの周囲は騒がしい。もちろんそれが不快かと言えば、そんなことはまったくないが。

 しかしながら一人になると、急に静けさを意識してしまうのは困り事であった。

「……ふぅ」

 メイドは片付けもしないで行ってしまったが、セツナはそのまま席に腰掛けた。そのうちハイミスがやって来るだろう……それに呼べば誰かが来る。自分は一人ではないのだ。

 茶会の余韻のままにセツナはタブレットを起動して、動画を開く。自分で上げた動画や、友人のものも。
 妹の動画を確認するのは、久しぶりであった。

「家族、家族ね……はぁ」

 一人でなければ出来ない顔をして、セツナはタブレットを見つめる。

 決して充実した一日ではなかったがセツナはこの日、自発的に己の家族へ思いを馳せたのであった。



 なおその後、

「あ、メカボロ……探し物は見つかったの?」
「……なかったよ、けどいいもんねっ。今日はあたしもレトロに膝枕をしてもらったからっ」
「そ、そう……そ、それは良かったわね?」
「ちなみにそれはセツナも、以前にしたことがあるぞ」
「……そう、じゃあね」
「……ナナナナ、ちょっとこっち来ましょうか」
「……うむ」

 メカボロはその日、不機嫌なままで一日が終わってしまいましたとさ。
 ちゃんちゃん。
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。