そして503号室だけになった

第五章 何手詰め？

私が人間でいられないのは私が破損しているから

　加羅と刀利、桜の三人は、フロントの近くで立ちながら、話をしていた。
　こういう光景は、初めてではない。三人は、警察の捜査という観点から、何度か、同じ様な状況を経験してきた。

　加羅は、頭が良い。そのため、桜に頼られて、捜査に首を突っ込むことがあったのだ。喫茶店の店長なのに、である。
　別に、殺人事件が好きなわけではない。数奇な運命が、彼を取り巻いているのである。
　刀利も、頭の回転が速い。加羅にべったりなので、彼にくっついて、現場にちょっかいを出している。
　彼女は、殺人事件の調査の現場で、こう呟いたことがある。

「逆に、生きている意味ってありますか？」

　何も感じないような、冷たい表情だった。微動だにしない、無表情。
　悪気があるわけでもない。悪意があるわけでもない。ただ、死という絶対的なものを前にして、何も感じなかったのだ。彼女の両親は、死んでしまった。それを経験しているにも関わらず。逆に、それが影響したのかもしれない。

「死んで当たり前、とは言いません。ただ、私、何も感じられません。私はおかしいのでしょうか？どこか、破損しているのでしょうか？同じ人間なのに。同じ……」

　無表情で語る、彼女の瞳からは、涙がこぼれていた。
　わからない。何故、何も感じないのか、わからないのだ。
　しかし、わからない、ということがわかる。それが、彼女をギリギリ、あと一歩の所で、制止させていた。人間として。
　加羅は、そんな刀利に、黙って頭を撫でてやった。その時、刀利は涙を流したままだったが、無表情で、茫然に近い感じだったと、加羅は強く記憶している。