妖怪屋へようこそ

ラニーニャ

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宗教①

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 私の名前は佐々木まみ、どこにでもいる小学四年生だ。
 でも、他の家庭と違うことは、最近、私の母が宗教に依存していること。

 この頃は変なお経まで唱え始め、神のお供えやら道具やらと色々な物を買い集めているのだ。
 今日も、久しぶりにテンションが良いなと思ったら、壺やおかしな形の石を沢山買って部屋に飾っていた。母の部屋はゴミ屋敷と例えるのが生温いほどに物が積まれている。

 食事の生ゴミも、古くて使えなくなった服も、ペットの死体も全て勿体ないと言い、一つも物を捨てなくなったのだ。
 ニリガー教という、どこの宗教か分からない神を信じて、母の周りは不清潔な物に埋め尽くされ、だんだんと衰弱していっているのが目に見える。
 物は安易に捨ててはいけない、それはそうだがあまりにも行き過ぎている。

「無限耳鼻舌身意 不増不減 新品捨禁 古品捨禁 物大切扱 魂宿……」

「お母さん! ねえ、しっかりして。本当にもう、やめてよ」

「老若男女 循環飲食 物捨禁止 取得万全……」

 育児を放棄して、ずっとニリガー様、ニリガー様と神に執着しすぎて、周りに迷惑をかけていることをそろそろ気付いて欲しい。
 そのせいで、お父さんが出ていったことを気づいて欲しい。

「もう何なの。ニリガーってキリスト教でも仏教でもない、変な宗教信じて……」

 バシン!

「ニリガー様を呼び捨てするなんて! お前はお母さんの子じゃない、出て行け!」
 虐待だ。子供を父のベルトで叩くなんて、その時点でアウトに決まっている。

「お母さんはもうどうかしている。全部、全部この変な宗教のせいだ!」
 私は、泣きながら家を飛び出すと、後先考えずに真っ直ぐ走った。行く宛先なんて全くなかったが、今はとりあえず走らないと落ち着かない。


「うっ、うぐ……誰か、誰か助けて……。お母さんを元に戻して……」

 空が赤く染まり始めた時間帯。普通ならば、皆家に帰るのだろうが、まみは公園のベンチに座りながら泣いていた。
 不幸中の幸いということで、公園には誰もいなかった。小四が一人、公園のベンチで泣いていたと同級生に見られたら恥ずかしいに決まっている。

「助けて、と言いましたか?
 フフフ、詳しくお話してくれませんか?」

「キャー! だ、誰ですか⁉︎」
 急に後ろから見知らぬ女性に声をかけられ、驚きのあまり叫ぶとベンチから落ちてしまった。

「いやー、あなたの服に妖怪の痕跡がついていたので、ちょっと気になってついて来た所、助けてと言って泣いていたので」
 その女性は、「妖怪」「痕跡」と何やら変なことを話し出した。よくよく見ると、服装もおかしい。藤色の着物の裾に松葉を散らした羽織を着ており、肌は雪のように白かった。
 顔はキリッと整っており、その着物は遊びで偶然着ていたと言うよりも、常に着ている普段着のように思わせる。髪は白銀で、瞳は透き通った綺麗な赤色をしており、ここら辺では珍しい容姿をしていた。
 まみは思わず唾液を飲み込むと、小さく喉が鳴った。

 何なのだろうか?
 本当に、この不思議な威圧感は何なのだろうか?

「説明が足りなかったですね。
 私は妖怪屋を営んでおり、霊孤れいこと申します。
 お嬢さんから妖怪が近くにいる痕跡、邪気を感じまして、後を追った所お困りのようでしたので声をかけました。
 詳しくお聞かせ願えませんか?」

「え、あ、はい……」
 なぜ、返事をしてしまったのだろう?
 普通なら知らない人に話かけられたら、先生に言われた通りに無視して逃げないといけないのに……。

 パチンっ!

 まみは霊孤の指鳴らしにハッとさせ、気がついたから「妖怪屋」という看板を掲げた古めかしい店の前に立っていた。
 いつの間にここにいるのだろう、と周りをキョロキョロさせると目の前の引き戸がガラガラと開き、先程の女性が出てきた。

「さあさあ、中に入って話を聞かせてくださいな」

 知らない人の家に入るのはダメだけど、お店なら皆知らない人でも入っているから大丈夫かな、と思い言われるがままに足を踏み入れた。

 どうしてそこまで知りたいのだろう?

 そう思いつつも、女性に案内された部屋に入った。そこは、二つの座布団が四角いちゃぶ台を挟んでぽつんとあり、よくあるごく普通の和室だった。

「どうぞお座り下さい」
 まみは無言のまま、正座して座布団に座った。女性をチラチラと見ながら、ここまで来てしまったことに少し後悔する。
 正直、母のことは人に相談しても簡単に解決することじゃないと分かっていたため、人に話す勇気もなく、自分が我慢したら時間が解決するとだけ信じていた。

 でも、話すだけなら別に良いよね、とまみは女性の目をまっすぐ見て、今までのことを事細かく説明した。

 不思議なことに声に出して人に伝えると、今まで我慢してきた溜まってきたことが吐き出されるように落ち着いて、案外相談して良かったのかもと感じた。

「なるほど。お嬢さんのお母様が異常なほどに宗教に依存しているのですね。
 最近、ストーカーやスマホ依存症が増加してきていることもあるため、おそらくによる仕業の可能性があります。
 一度、ご自宅に訪問してもよろしいですか?」

 今日初めて会った人を家に入れて良いのか、少し不安になりつつも、もしかしたら改善するかもしれないという期待が膨らみうなづいた。

 今日は金曜日であるため、霊孤と話して翌日来ることに決まった。

 店の前まで見送りをしてもらうと、水色のミサンガを渡された。翌日会うための目印になるそうだ。よく分からないが、明日このミサンガが示す方向に霊孤がいて案内してくれるらしい。
「それでは、明日お会いしましょう」

 ガラガラ……バタン。

「え⁉︎」

 引き戸が閉まったその瞬間、気がついたら自分の家の前にいた。
「た、確かに、さっき妖怪屋の前だったはず……」
 驚きながらもそっと家の中に入ると、母はもう寝ていた。まみは起こさないようにそろりそろりと音を立てないで歩き、自分の部屋に入った。
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