転生した私はバイプレイヤーで満足です

柚木 倫太郎

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そんなことを言われても、普通人なんですって

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治薬院は朝陽城内の西側にあり、緊急時や治療が必要な場合にすぐに駆け付けることができる場所にある。

装飾は簡素でたぶんこれは宋先生の趣味というか好みなのだと思う。



結局のところ、秀鈴は宋先生におんぶしてもらったわけではなく自分の足で歩いて戻ってきた。彼のあの力で治療を受けたら不思議なことにすぐに飛び跳ねることができるくらい回復した。やっぱり魔法だ。



( まあ、おんぶしたら宋先生の腰が砕けるかもしれないし、私意外と重いから )



自分の体型とつい見比べてしまうほど、彼はスレンダーな体型をしている。



時刻は夕方になるには少し早い時間。まだ亮をはじめ数人の助手が作業していたが、宋先生の指示で今日は早めに作業を終わらせて帰らされた。



全員が帰宅したのを見届けた後、宋先生はいつもの一段高い自分の書斎のような場所で正座をして筆を取り何か書き留めている。



「 お茶でも? 」

「 いらぬ 」



ピリピリした空気を和ませたくて言ったのに即答で拒否される。それからはまたいつものように秀鈴のことを存在無視のだんまりだ。いい加減にイラつく。



( そっちがその気ならこっちだって )



秀鈴はいつものように土間のような作業場で生薬の原料を仕分け始める。何もしないで立たされん坊になっているのは時間の無駄だし、余計に疲れるからだ。



「 それで? 」



一刻くらい経った後、秀鈴がすっかり今の状況がなんだったのか忘れた頃、宋先生はいきなり話を振ってくる。まるでさっきまで会話をしていたかのように・・・



「 それで?って言われましても 」

( この人?もしかして、この間の取り方って?天然なの? )



彼は先ほどと同じように正座している。筆は硯に休ませているが、目線は自分が書いていた書簡に落としたままだ。



「 あなたは 何者だと聞いている 」



『それが人に聞く態度かよ』と言ってやりたいのをぐっと堪える。この世界、身分上下関係は命が係るほど重要だ。下手な態度であの世行きという場面を何度も目にしている。



「 何者 と言われましても、私は胡 秀鈴で、鄭 凌雪様の侍女でございます 」



身を低くしてわざと丁寧にゆっくりと答える。



「 それは仮の姿であろう 」

「 仮と言われましても・・・誰に聞いてもらっても私はただの侍女です 」

「 否 それはただの表面的なものの筈だ 」



顔を上げ秀鈴を見る宋先生の眼は昼下がりに見たあの赤みのかかる黒色へ変わっている。例の不思議な力が発動する前兆だと秀鈴は分かってきた。でも、その力がどの程度でどんな作用があるのかは知らない。



漫画やアニメや海外ドラマとかだと、目からレーザービームが出たり? 見つめられると石になっちゃうとか? もしかしたら・・・発火する?? つい両手で防御して、



「 私には超能力ありませんから! そ、それに、レーザービームとかは勘弁してください 」



叫んでいた。



「 レーザー? ビーム? それはなんのことだ 」



いつの間にか宋先生は秀鈴の目の前に立っていた。

( 瞬間移動した? こわ )



「 先生のそれですよ。その変な力のことです。きっと、眼から光が出たりするんでしょ? 」

「 光? 何を言っている? 」



宋先生は訝しむ様な顔をして秀鈴を見下ろす。彼は180cmくらいありそうな長身で、普通の身長170cmの秀鈴でも彼を見るには見上げる形になる。上目遣いに彼の美しい顔を見つめる。



「 やはり・・・それが、人心を惑わすものか? 」



彼は細く長い指で秀鈴の顎を掴む。そしてつぶやくように、『只者ではない』と言う。これが恋人同士であれば甘い雰囲気になるのだろうが・・・



そんな訳が分からない勝手放題、言いたい放題の宋先生にいい加減腹が立ってきた。秀鈴は顎を掴んでいる彼の手をはたきおとして、



「 勝手なことばかり言わないでください。そんなこと言われても、私は普通人なんですってば。ただ、現世の・・・・いや・・・こっちからしたら、あっちが異世界になる? まあどっちでもいいか その記憶が残っているってだけだって 私には先生みたいに変な力なんてまったくないですって! 」



彼を睨み付けて言ってしまうのだった。





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