転生した私はバイプレイヤーで満足です

柚木 倫太郎

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身の程を知って生きています

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朝陽城ちょうようじょうの中核にあるのが、国王である照陽王の住まわる光陽殿こうようでんだ。

朝議を行い国の大事を決めるための本殿の奥にその光陽殿があり、ここまではある一定の身分や用事があれば入ることは可能だ。

しかし、その奥の私的スペースである白陽宮はくようきゅうには、陛下の側近や皇后・皇太后辺りしか入ることは許されない。



秀鈴は今、その白陽宮で大きな政務机に座る照陽王の前、4~5m先に跪きまるで土下座状態で伏せて待っていた。



雨の中いきなり来た光偉に連れられてきたものの、まさかうわさでしか聞いたことのない白陽宮に来るとは思いもしなかった。先を歩いてくれていた光偉もここに入ると、秀鈴を差し出すように後方に下がるため仕方なく数歩進み、



「 胡 秀鈴。拝謁いたします 」



といいながら跪くにいたった。跪く直前にチラリと前を見ると、腰掛ける照陽王の向かって右隣にはいつもいる切れ長の眼の太監が無表情でこちらを見ているのと、左隣には見慣れた顔の宋先生がいるのがわかった。



「 楽にせよ。立つがいい 」



低く深みのあるバリトンボイスが部屋の中に響く。



「 失礼いたします 」



言われたように立ち上がるが、そこで顔を上げることはご法度だ。御上を真っ直ぐにみるなどの無礼を働けば一瞬で首が飛ぶ。



「 本当に普通なのだな 」



笑いを含む様な声音で王が言う。



「 はい。この者自体は何も能力は持っていないかと思われます 」



それに答えるのは王より少し声が高いが落ち着きのある宋先生の声だ。



「 秀鈴 面を上げよ 」



王が言うため、仕方がなく秀鈴が頭を上げて前を見れば、彼のエメラルドグリーンの瞳と目が合う。笑みを含むその瞳に見据えられると、身動きができないほどの圧迫感を感じる。



( うわ、この人やっぱりなんか持っている )



目が合っているだけで背中にじっとりと嫌な汗が流れるほどだ。これまであった人の中で一番の威圧感。これが青龍の化身と称される秦陽国の王の力なのだろう。



「 宋、お前の見解を聞かせてくれ 」



秀鈴のことを見据えながら、横に立つ宋先生と会話は続く。



「 はい。このものから聞くには、前世の記憶を持っているようですが・・・懸念したような特殊能力を使うことはありません。ただし・・・」

「 ただし、なんだ? 」

「 例の者たちが、接触しようとしているようです 」



( 例? 例の者ってなに? )



王の力で棒立ちになっている秀鈴でも頭は回転する。彼らの会話を聞いてもよく理解しきれなかった。



「 あれか・・・」



照陽王は机に肘をつき顎髭を親指で撫でながら考え込むような仕草をする。秀鈴は『例』だの『あれ』だの意味の分からないワードにイラついてきた。これが王の前でなかったら、教えてくれと叫んでいたかもしれない。



すると、照陽王はフフッと低く笑う。



「 お前は面白いやつだ 」



面白いやつ? 彼は秀鈴を見て言っているようだった。



「 ?? 」



言っている意味が分からずにいると、



「 数年前に鄭家の辺りで異様な空気を感じた。鄭家は三公の司徒だからな、内々に内情を探らせたが不穏な動きはなかった。だが、その異様さは益々強くなる。私の力であってもその元凶があやふやだった。始めに可能性を疑ったのは鄭 凌雪だった。自分の近くに囲い込んでみたものの・・・まさかのあれがおまえだったとはな 」



王はそう秀鈴に説明し声を上げて楽しそうに笑う。



「 お前は姿形も普通で目立つところなど一つもないが・・・。その顔、特にその眼がな、ものを言いすぎだ 」

「 は?・・・い・・・?」



笑い続ける王に変わって、



「 秀鈴、お前のその口ほどにモノを言う顔と目のことを陛下は仰っておられる。表情に出過ぎているということだ 」



宋先生が解説してくれる。



( 地味だの普通だの 勝手に人の顔の悪口を言っておいて?笑う? )



もし今の状況が元の世界だったら、ちょっと偉い人でも文句を言っていただろう。もちろんこの世界ではそんなことはできない。思っていても口には出さない。それがこの世界での秀鈴の生き方。



( 身の程をわきまえて生き抜くのだ 我慢 我慢 )



「 ちなみに、言っておく。王は表情だけではなく、ある程度の心の内も分かっておられるから・・・ 」



付け足しのように言う宋先生は、表情を変えずに淡々という。



「 え? じゃ、じゃあ 」

( 心の声がダダ漏れってこと? 超能力者? テレパシーってか うそでしょ ヤバいじゃんか )



秀鈴はもう御前であることを忘れてつぶやき、そして心の中で叫ぶしかなかった。



 
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