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突入 -DEAD LINE-
激闘 後編
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光華と幻尊さんは一直線に悪霊へと駆けていった。
瑠唯さんは二人よりも少しだけ後ろの位置にいたのだがその途中、プールの中へと入っていったのだ。
後ろから回り込む気なのだろうか。
『おおおおおああああああッ』
幻尊さんと光華の雄叫びがシンクロした。
同時のタイミングで除霊具をすたすた歩いてきた警戒感ゼロな悪霊へと容赦なく振り下ろす――だが奴は右手の爪で幻尊さんの壽蓮樹を、左手の爪で光華の封光を受け止めたのだ。
まるで意ともしていないぞ。
「ちぃッ!」
「まだまだよッ!」
二人は爪を振り払い、即時に攻撃を仕掛けるがまたも振り払われてしまう。
速すぎる。しかも幽霊とは違い、意思があることを思わせる防御行動だった。
けど激しさを増した楠屋親子の攻撃を防ぐのに精一杯か、奴からは攻撃を仕掛けたりはしない。
「そこですッ!」
何時の間にプールの中から出てきたのか気がつかなかった。
予想通り瑠唯さんが悪霊の後方に回り込み光弾を撃ったのだ。分散せずに放たれた大きなサイズのそれを、奴は飛び跳ねて軽々と避ける。
そのまま、光華へと爪を振りながらの着地――!?
「危なッ!?」
光華がすかさずバックして避ける。
「いあッあぅッ! こいつッ!?」
しかし悪霊は踊り狂うようなトリッキーな攻撃で光華に追撃をする。
光華は防戦一方。今にも後ろへ倒れそうなほどバランスを崩してしまっていた。
「くそぁッ。なめんじゃねぇやッ」
幻尊さんの援護――それすらも右手で器用に受け流す。
光華は体制を立て直すべく距離をとったが、幻尊さんの方はそのまま猛攻を続けている。
隙のない剣戟で、悪霊をプールの中へ落とそうと追い込んでいくぞ。
奴は幻尊さんの意図を感じとったのか、攻撃を回避した後に右方向へ大きくジャンプ。
三人がいる場所から距離を取ろうとしたのだ。
「まだですよ!」
おお! 瑠唯さんがすかさず一撃を放った。
甲奘による光の散弾。けども散弾のうち三つは、奴が信じれない程に柔軟なバランス感覚をもってして、空中で避けたやがった。
「瑠唯さんの攻撃まで! なんて回避能力だよ――ッオオゥ!?」
けど最後の一つは着地した直後に当たったぞ。
体勢を崩しプールサイドへと叩きつけられた。攻撃が被弾した箇所、左肩からは青白い煙が出ている。悪霊はよろけながらも立とうと必死に足掻いている。
おし、今がチャンスだ。
『もらったぁぁぁッ!』
光華と幻尊さんが追い打ちに向かう。
けども奴はダメージを意にも介せず軽快にバックステップを踏み、二人の攻撃を逃がれたのだ。
そして、すぐさま反撃を――
「ああッ二人とも!?」
間一髪だった。二人は瞬時にしゃがみ込むことで、危機を掻い潜ったのだ。
奴の攻撃が若干遅かったのもあって助かった。
「うッ……光華、おじさまッ!」
楠屋親子がギリギリの危殆から免れたのを見計らい、瑠唯さんが抜群のタイミングで追撃の光弾を放つ。
悪霊は二つに分かれた光の弾――頭部と胴体を狙ったであろう攻撃を、またも体を曲げるだけで逃れた。
「うぉぉぉぉぉぉぁあッ!」
「終わってないわよッ!」
遅れて立ち上がった幻尊さんと光華が悪霊へと得物を振り抜いたのだが、奴は二人の攻撃を読んでいたか両手の爪で巧みに防御する。
「おおおおぉうぉあ……こりゃきっついなぁッ!」
幻尊さんとは互角だ。
けども、
「ぐ……なんて力なの!? うぅッ……!」
光華は封光ごと押し戻されていく。
あのままだと危ない。
「光華、持ちこたえて!」
危機を打開すべく向かっていった瑠唯さんが悪霊の胴体目掛けて釈浄刃で突くが、奴は決死の一撃を易々と回避し、宙返りをしながら後ろへと下がる。
「ハァハァ、やっぱすぐには終わってくれぇか」
「強いわ。一筋縄ではいかないわね」
「隙は必ずあるはずです……攻撃は、当たったんですから」
壮絶な戦闘。皆、先ほどからの激しい攻防によって息も絶え絶えだ。
対する悪霊は瑠唯さんの一撃によるダメージを受けたハズだが、胴体からはもう青白い煙は上がっていなかった。
けど、最初の状態と比べると攻撃や回避する速度が鈍っているように感じる。
今だって攻撃を仕掛けるでもなく、弱弱しくふらふらとしているのだ。
「あともう少しだぞ、頑張れ皆ッ!」
けど霊媒師陣営も同じだ。できるだけ早い段階で勝負を決めないと。
「うぉう!? 来やがったぞおめぇら!」
幻尊さんが声を張り上げて女性陣に伝える。
悪霊がいきなり両手の凶器を振り上げ、恐ろしい速度で一気に皆の方へ突進してきたのだ。
「てぇいッ!」
待ち受けるは光華。封光を横一閃に振る。
奴は少し飛ぶだけで難なく回避し――光華へ斬撃をお返ししやがった。
「うわわッ!?」
光華はまともに受けたら力負けすると思ったか、後方へ飛ぶことで攻撃を回避するが危ないッ――悪霊はそれを予想していたかのように突っ込んでッ!?
「光華だけじゃねぇぞ!」
助かった。すかさず幻尊さんのカバーだ。
続けて壽蓮樹を一刀両断と振り下ろし悪霊に肉薄するが、奴は幻尊さん渾身の攻撃を両の爪で受け止めた。
「ぐぬぅッあ……な、なんの! こ、こ、か、らだぜぇぁぁぁぁッ!?」
幻尊さんが力と力の押し合いから、剣道の切り返し的な攻撃動作に切り替えた。
悪霊の頭に狙いを定め、スピードに特化した剣捌きでかかんに攻め立てていく。
いいぞ、悪霊は防戦一方だ。攻めに転じることすらできないようだ。
「ナイス父さんッ。ここで終わりよ!」
光華が封光を斬り上げた。
奴は毎度の如く器用に防御するが、真上に突き飛ばされた。
「もらいましたよッ」
奴の動きを読んでいた瑠唯さんの放った渾身の光弾は、直撃ならずだった。
クソ、爪でかき消しやがった。けどまだまだ霊媒師陣営の攻撃は止まない!
「ラストッおぁぁぁぁぁぁぁッ」
待望のフィニッシュである。
下で待っていた幻尊さんのフルスイングを受けて、奴はぶっ飛ばされた。
そしてプールサイドへとモロに打ちつけられ、そのまま動かなくなったのだ。
あの渾身の一打をまともに食らったのだ。これで終わってくれないと困る。
「え……!? あいつ、まだ立つのかッ」
安心するのはまだ早かった。
悪霊は負傷したのか、左手でだらりと下がった右手を抑えながらよたよたと起き上がったのだ。
幽霊とは違うとはいえ、流石にタフすぎだ。
「けど幻尊さんの一撃をモロにくらったはずだ! やっぱし……疲れの影響があるのか!?」
幻尊さん渾身の一撃だったかのように見えたが、疲労のせいで威力が落ちていたんだ。
悪霊は左手を右手から離して、仁王立ちになっていた。
この距離からだと、どうにか見えたローブの中の顔は――
「なんだよ……あんな小さな女の子の幽霊も、悪霊になっちまうって!?」
少女だ。年端もいかない女の子の顔が確かに見えたのだ。
無表情で幽霊同様生気のない、白すぎるおなじみの顔。
あの女の子は、一体どんな無念を抱えて……。
『???????????????????』
突如、嘆きの咆哮がプール内に響きわたる。
何かを訴えかけているかのような、悲痛な号哭だった。その深すぎる悲しみが、ビリビリと空気を震わせて肌を掠めていったような気がした。
奴は叫び終えた次の瞬間、三人へ向かって尋常じゃない速度で駆け出し始めた。
「本領発揮ってわけかい。次こそ成仏させてやる!」
幻尊さんが先行して悪霊へ真向かっていく。
遅れて光華も動きだし、瑠唯さんも悪霊の後ろを取ろうと再度回り込んでいく。
「でぇぇぇぇぇいッ!」
幻尊さんと悪霊が正面からぶつかる。
奴は右手を負傷している癖に、恐ろしいまでの俊敏な左手の動きでハンデをカバーしている。
「クッ父さん! だぁッ!? コイツッ!?」
追いついた光華が加わっても同じ!
左手を回転させるように防御することで、楠屋親子の攻撃を一切受け付けない。ついさっきよりとは段違いの強さだ。
「グッ――くそぁッ!」
「うぁッ!? 幻尊さん!」
大丈夫だった!? 幻尊さんの法衣が胸から斜め右に破られただけ。
だが紙一重。あと数センチ奥にでも奴の爪が届いていたらどうなっていたか。
「父さん! よくもッ」
光華は悪霊の胴部分をかかんに狙う。
けれども奴は余裕そうな動作で攻撃を避けるがその直後――これまでずっと無視していた瑠唯さんに、突として向かっていった。
なんということだ。完全に幻尊さんと光華の不意をついたのだ。
「ちぃッ。行ったぞ瑠唯ちゃん!」
幻尊さんが声帯を振り絞って瑠唯さんに伝える。
「ええ!」
悪霊の後方にいた彼女は甲奘で光弾を撃つが、奴は体を傾けて一発も当たることなくどんどん近づいていく。
瑠唯さんは近接戦に対応するため、甲奘から釈浄刃へと持ち替えた。
楠屋親子がすぐさまと向かっているが……二人とも早く追いついてくれ!
「なんつぅ瞬発力だよッ! 悪霊の奴ッ!?」
もはや驚嘆すら覚えてしまう。
悪霊がいきなり飛び跳ねて一気に距離を縮め、瑠唯さんへと近づきざまに爪を斜めに振りぬいたのだ。
近接戦闘が開始してしまった。
「はぁッやッ! ツッくぁッ!」
瑠唯さんは悪霊の高速切り込みを、常人離れした反射神経をもってして避け続けいるようだ。
なんとか攻めに転じる機会を窺っているけども、防戦一方である。
「外れですよッ」
でも、チャンスはいきなりきたのだ。悪霊の大振りが空を切った。
「隙ありですッ!」
流石逃さなかった。瑠唯さんは釈浄刃ですかさず切りつけたのだ。
「やったか瑠唯さん!」
見事直撃。奴の背中に一撃をくれてやったのだが――!?
「ッ!? まだ動くのですかッ」
怯まない。奴はダメージ等感じさせない素振りで瑠唯さんへ反撃を繰り出した。
しかも、よりいっそう激しさを増しているのだ。
瑠唯さんは徐々にプールの方へと追い込まれていく。
けどこのままではマズイと悟ったのか、上手く隙をついて彼女の方からプールの中に逃げた。
しかし、悪霊も瑠唯さんを追って中へと入っていったのだ。
「クソッ! 行くぞ光華!」
「わかってるッ」
丁度戦闘現場に追いつくところだった楠屋親子も、行先を変えて援護に向かったようだ。
「中はどうなってる!? 幻尊さん! 光華! 瑠唯さん!」
怒号が飛び交っているようだが、ここからだと全く見えないのだ。
戦いの場が移ったようで、プールサイドに上がってくる様子はない。
「皆! 必ず勝ってくれッ!」
見ているだけの無力な俺にできるのは、三人の勝利を願うことだけであった。
瑠唯さんは二人よりも少しだけ後ろの位置にいたのだがその途中、プールの中へと入っていったのだ。
後ろから回り込む気なのだろうか。
『おおおおおああああああッ』
幻尊さんと光華の雄叫びがシンクロした。
同時のタイミングで除霊具をすたすた歩いてきた警戒感ゼロな悪霊へと容赦なく振り下ろす――だが奴は右手の爪で幻尊さんの壽蓮樹を、左手の爪で光華の封光を受け止めたのだ。
まるで意ともしていないぞ。
「ちぃッ!」
「まだまだよッ!」
二人は爪を振り払い、即時に攻撃を仕掛けるがまたも振り払われてしまう。
速すぎる。しかも幽霊とは違い、意思があることを思わせる防御行動だった。
けど激しさを増した楠屋親子の攻撃を防ぐのに精一杯か、奴からは攻撃を仕掛けたりはしない。
「そこですッ!」
何時の間にプールの中から出てきたのか気がつかなかった。
予想通り瑠唯さんが悪霊の後方に回り込み光弾を撃ったのだ。分散せずに放たれた大きなサイズのそれを、奴は飛び跳ねて軽々と避ける。
そのまま、光華へと爪を振りながらの着地――!?
「危なッ!?」
光華がすかさずバックして避ける。
「いあッあぅッ! こいつッ!?」
しかし悪霊は踊り狂うようなトリッキーな攻撃で光華に追撃をする。
光華は防戦一方。今にも後ろへ倒れそうなほどバランスを崩してしまっていた。
「くそぁッ。なめんじゃねぇやッ」
幻尊さんの援護――それすらも右手で器用に受け流す。
光華は体制を立て直すべく距離をとったが、幻尊さんの方はそのまま猛攻を続けている。
隙のない剣戟で、悪霊をプールの中へ落とそうと追い込んでいくぞ。
奴は幻尊さんの意図を感じとったのか、攻撃を回避した後に右方向へ大きくジャンプ。
三人がいる場所から距離を取ろうとしたのだ。
「まだですよ!」
おお! 瑠唯さんがすかさず一撃を放った。
甲奘による光の散弾。けども散弾のうち三つは、奴が信じれない程に柔軟なバランス感覚をもってして、空中で避けたやがった。
「瑠唯さんの攻撃まで! なんて回避能力だよ――ッオオゥ!?」
けど最後の一つは着地した直後に当たったぞ。
体勢を崩しプールサイドへと叩きつけられた。攻撃が被弾した箇所、左肩からは青白い煙が出ている。悪霊はよろけながらも立とうと必死に足掻いている。
おし、今がチャンスだ。
『もらったぁぁぁッ!』
光華と幻尊さんが追い打ちに向かう。
けども奴はダメージを意にも介せず軽快にバックステップを踏み、二人の攻撃を逃がれたのだ。
そして、すぐさま反撃を――
「ああッ二人とも!?」
間一髪だった。二人は瞬時にしゃがみ込むことで、危機を掻い潜ったのだ。
奴の攻撃が若干遅かったのもあって助かった。
「うッ……光華、おじさまッ!」
楠屋親子がギリギリの危殆から免れたのを見計らい、瑠唯さんが抜群のタイミングで追撃の光弾を放つ。
悪霊は二つに分かれた光の弾――頭部と胴体を狙ったであろう攻撃を、またも体を曲げるだけで逃れた。
「うぉぉぉぉぉぉぁあッ!」
「終わってないわよッ!」
遅れて立ち上がった幻尊さんと光華が悪霊へと得物を振り抜いたのだが、奴は二人の攻撃を読んでいたか両手の爪で巧みに防御する。
「おおおおぉうぉあ……こりゃきっついなぁッ!」
幻尊さんとは互角だ。
けども、
「ぐ……なんて力なの!? うぅッ……!」
光華は封光ごと押し戻されていく。
あのままだと危ない。
「光華、持ちこたえて!」
危機を打開すべく向かっていった瑠唯さんが悪霊の胴体目掛けて釈浄刃で突くが、奴は決死の一撃を易々と回避し、宙返りをしながら後ろへと下がる。
「ハァハァ、やっぱすぐには終わってくれぇか」
「強いわ。一筋縄ではいかないわね」
「隙は必ずあるはずです……攻撃は、当たったんですから」
壮絶な戦闘。皆、先ほどからの激しい攻防によって息も絶え絶えだ。
対する悪霊は瑠唯さんの一撃によるダメージを受けたハズだが、胴体からはもう青白い煙は上がっていなかった。
けど、最初の状態と比べると攻撃や回避する速度が鈍っているように感じる。
今だって攻撃を仕掛けるでもなく、弱弱しくふらふらとしているのだ。
「あともう少しだぞ、頑張れ皆ッ!」
けど霊媒師陣営も同じだ。できるだけ早い段階で勝負を決めないと。
「うぉう!? 来やがったぞおめぇら!」
幻尊さんが声を張り上げて女性陣に伝える。
悪霊がいきなり両手の凶器を振り上げ、恐ろしい速度で一気に皆の方へ突進してきたのだ。
「てぇいッ!」
待ち受けるは光華。封光を横一閃に振る。
奴は少し飛ぶだけで難なく回避し――光華へ斬撃をお返ししやがった。
「うわわッ!?」
光華はまともに受けたら力負けすると思ったか、後方へ飛ぶことで攻撃を回避するが危ないッ――悪霊はそれを予想していたかのように突っ込んでッ!?
「光華だけじゃねぇぞ!」
助かった。すかさず幻尊さんのカバーだ。
続けて壽蓮樹を一刀両断と振り下ろし悪霊に肉薄するが、奴は幻尊さん渾身の攻撃を両の爪で受け止めた。
「ぐぬぅッあ……な、なんの! こ、こ、か、らだぜぇぁぁぁぁッ!?」
幻尊さんが力と力の押し合いから、剣道の切り返し的な攻撃動作に切り替えた。
悪霊の頭に狙いを定め、スピードに特化した剣捌きでかかんに攻め立てていく。
いいぞ、悪霊は防戦一方だ。攻めに転じることすらできないようだ。
「ナイス父さんッ。ここで終わりよ!」
光華が封光を斬り上げた。
奴は毎度の如く器用に防御するが、真上に突き飛ばされた。
「もらいましたよッ」
奴の動きを読んでいた瑠唯さんの放った渾身の光弾は、直撃ならずだった。
クソ、爪でかき消しやがった。けどまだまだ霊媒師陣営の攻撃は止まない!
「ラストッおぁぁぁぁぁぁぁッ」
待望のフィニッシュである。
下で待っていた幻尊さんのフルスイングを受けて、奴はぶっ飛ばされた。
そしてプールサイドへとモロに打ちつけられ、そのまま動かなくなったのだ。
あの渾身の一打をまともに食らったのだ。これで終わってくれないと困る。
「え……!? あいつ、まだ立つのかッ」
安心するのはまだ早かった。
悪霊は負傷したのか、左手でだらりと下がった右手を抑えながらよたよたと起き上がったのだ。
幽霊とは違うとはいえ、流石にタフすぎだ。
「けど幻尊さんの一撃をモロにくらったはずだ! やっぱし……疲れの影響があるのか!?」
幻尊さん渾身の一撃だったかのように見えたが、疲労のせいで威力が落ちていたんだ。
悪霊は左手を右手から離して、仁王立ちになっていた。
この距離からだと、どうにか見えたローブの中の顔は――
「なんだよ……あんな小さな女の子の幽霊も、悪霊になっちまうって!?」
少女だ。年端もいかない女の子の顔が確かに見えたのだ。
無表情で幽霊同様生気のない、白すぎるおなじみの顔。
あの女の子は、一体どんな無念を抱えて……。
『???????????????????』
突如、嘆きの咆哮がプール内に響きわたる。
何かを訴えかけているかのような、悲痛な号哭だった。その深すぎる悲しみが、ビリビリと空気を震わせて肌を掠めていったような気がした。
奴は叫び終えた次の瞬間、三人へ向かって尋常じゃない速度で駆け出し始めた。
「本領発揮ってわけかい。次こそ成仏させてやる!」
幻尊さんが先行して悪霊へ真向かっていく。
遅れて光華も動きだし、瑠唯さんも悪霊の後ろを取ろうと再度回り込んでいく。
「でぇぇぇぇぇいッ!」
幻尊さんと悪霊が正面からぶつかる。
奴は右手を負傷している癖に、恐ろしいまでの俊敏な左手の動きでハンデをカバーしている。
「クッ父さん! だぁッ!? コイツッ!?」
追いついた光華が加わっても同じ!
左手を回転させるように防御することで、楠屋親子の攻撃を一切受け付けない。ついさっきよりとは段違いの強さだ。
「グッ――くそぁッ!」
「うぁッ!? 幻尊さん!」
大丈夫だった!? 幻尊さんの法衣が胸から斜め右に破られただけ。
だが紙一重。あと数センチ奥にでも奴の爪が届いていたらどうなっていたか。
「父さん! よくもッ」
光華は悪霊の胴部分をかかんに狙う。
けれども奴は余裕そうな動作で攻撃を避けるがその直後――これまでずっと無視していた瑠唯さんに、突として向かっていった。
なんということだ。完全に幻尊さんと光華の不意をついたのだ。
「ちぃッ。行ったぞ瑠唯ちゃん!」
幻尊さんが声帯を振り絞って瑠唯さんに伝える。
「ええ!」
悪霊の後方にいた彼女は甲奘で光弾を撃つが、奴は体を傾けて一発も当たることなくどんどん近づいていく。
瑠唯さんは近接戦に対応するため、甲奘から釈浄刃へと持ち替えた。
楠屋親子がすぐさまと向かっているが……二人とも早く追いついてくれ!
「なんつぅ瞬発力だよッ! 悪霊の奴ッ!?」
もはや驚嘆すら覚えてしまう。
悪霊がいきなり飛び跳ねて一気に距離を縮め、瑠唯さんへと近づきざまに爪を斜めに振りぬいたのだ。
近接戦闘が開始してしまった。
「はぁッやッ! ツッくぁッ!」
瑠唯さんは悪霊の高速切り込みを、常人離れした反射神経をもってして避け続けいるようだ。
なんとか攻めに転じる機会を窺っているけども、防戦一方である。
「外れですよッ」
でも、チャンスはいきなりきたのだ。悪霊の大振りが空を切った。
「隙ありですッ!」
流石逃さなかった。瑠唯さんは釈浄刃ですかさず切りつけたのだ。
「やったか瑠唯さん!」
見事直撃。奴の背中に一撃をくれてやったのだが――!?
「ッ!? まだ動くのですかッ」
怯まない。奴はダメージ等感じさせない素振りで瑠唯さんへ反撃を繰り出した。
しかも、よりいっそう激しさを増しているのだ。
瑠唯さんは徐々にプールの方へと追い込まれていく。
けどこのままではマズイと悟ったのか、上手く隙をついて彼女の方からプールの中に逃げた。
しかし、悪霊も瑠唯さんを追って中へと入っていったのだ。
「クソッ! 行くぞ光華!」
「わかってるッ」
丁度戦闘現場に追いつくところだった楠屋親子も、行先を変えて援護に向かったようだ。
「中はどうなってる!? 幻尊さん! 光華! 瑠唯さん!」
怒号が飛び交っているようだが、ここからだと全く見えないのだ。
戦いの場が移ったようで、プールサイドに上がってくる様子はない。
「皆! 必ず勝ってくれッ!」
見ているだけの無力な俺にできるのは、三人の勝利を願うことだけであった。
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