平和への使者

Daisaku

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英雄伝記「番外編」

10話 裏切りと現実

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「帰ったよ」

「姉ちゃん、お帰り」

弟と妹が走って迎えてくれた。

「あれ、オトンとオカンはどこだ?」

「オトン、オカン帰ったよ~。ちとばかし帰るのおそうなったけど、ちゃんと交換したぞ」

マツが大声で家の中で声を出したが、返事がない、おかしいと思い三つ下の妹タエに

「どこいった?」

「オトンとオカンは朝起きた時はもういなかった」

お昼も過ぎて、こんな雪が積もっている中どこに行ったかマツは全くわからなかった。

「ちょっと近所の家に行ってくる。おまんたちはこの干し魚を食べて待っててな」

マツは近くに3軒ある家に聞いて回ろうと思った。
はじめに一番近い家の川辺さんところに着いた。

「ごめんください。ごめんください」

しばらくして川辺さんとこのじいちゃんが出てきた

「あ~、松田さんとこの、マツか。どした?」

少し、ぼけているところはあるが、川辺のじいちゃんはしゃべりはしっかりしている

「うちのオトンとオカン知らん?」

しばらく考えて

「なんか、朝早く、町の方に荷物持って歩いとったぞ、どこ行くんだと言ううたら、
何も言わんで、さっさと行ってしもうた」

マツはびっくりして

「いつ?それは」

「そだな~5時過ぎぐらいだったかの」

マツは目に涙を浮かべて

「なんも、うちも妹達も聞いとらん。どこ行ったん」

「最近、畑なんぞやってても、小作人の家じゃ、食べるのがやっとじゃ、
いなくなるものも増えてきとるみたいじゃな~」

マツは悟った、親に捨てられた

「うちら子供に今まで、あんな冷たい親はこの世におらんと思っとたが、
まさか、うちらに黙って捨てて出てくなんて」

その場で茫然として、目から涙が止まらなかった。

「マツよ、うちじゃあどうすることもできん。
親がおらんと小作料も払えんじゃろうから畑も家も地主に取り上げられるぞ」

マツはきりっとした顔になり、

「しばらく、オトンとオカンが帰ってくるの待ってみる」

じいちゃんは申し訳なさそうにうなずいた。
マツは家に帰る途中、妹達とこれからどうやって生きていくか、考えてみた。
考えても考えても何も頭には浮かんでこなかった。

「帰ったよ」

「姉ちゃん、オトンいた?」

妹達に本当のことは言えず

「ちょっと出てるみたい、そのうち帰ってくるよ」

妹達は安心した顔に変わり

「姉ちゃん、この魚うまい」

弟の太郎は元気そうな顔で笑いながらマツを見ていた。
マツは今日は色々あり、疲れたので、三人で早く寝ることにした。

次の日の朝、戸をドンドンと叩く音がして、開けると地主さんのところの番頭さんが
そこに立っていた、その後ろには川辺さんのじいちゃんやその家族もいた。

「マツ、小吉と竹さんがいなくなったそうじゃの」

「どうしてそのことを聞いたの」

後ろで川辺家族がニヤニヤしていた。

「あのな、マツ、小吉ところはな借金がたんまりあってな、それをもらわなきゃいかん、
家に入らさせてもらうわ」

「ちょっとやめてください」

三人ほどの地主さんところの者がそこら辺中を物色しはじめた。
食べ物や着るもの、お金になりそうな物はすべて運びはじめた。
その横で妹達はワンワン泣き始めた。

「全く、ろくなもんがないのお。この家は、これじゃ、借金が少しも減ららんな」

マツは親がものすごい借金をしていることは全く知らなかった。

「まあ、川辺さんにすぐ教えてもらえてよかったわ。
礼金ほしさに昨晩来よったからのお。この子らもいなくなったら、たまらんものなあ」

「なにもかも、持っていかれたら、うちら生きていけまへん。勘弁してください」

「マツ、今な大変な不景気でな、うちらも余裕ないんだわ。
かわいそうじゃけど、三人とも身売りになるな。年が離れとるから、身売り先も別々じゃな、まあ悪く思わんでくれや、
うらむんなら、オトンとオカンを恨むんやな」

マツは何が起きているか全く理解できずに、
ただ、ただ、そこに立ち尽くしていた。

「お~い、みんな、そろそろ行こうか」

「佐吉はん、約束通り、ここはうちら家族でつこうてもいいんじゃな」

「わかっとる。わかっとる。その代わり、毎年、納めるめるもんは納めてもらうよ」

「わかってますわ、あんがとごぜ~ます」

川辺のじいちゃんがニコニコして頭を下げているのを見て
マツは無償に腹が立った。
小さいころからよく遊んでくれたじいちゃんが
こんな腹黒い人間だとは・・・

戦争が激化して、景気も悪くなり、みんな食べるものもなく、
昔はいい人間だった人が生きるためには急に変わってしまう。
これはこの村だけの話ではなかった。

マツ達、兄弟3人はしばらく、身売り先が決まるまで、
地主さんの家でお手伝いとして働くことになった。
水保村では一番大きな畑面積を持つ大地主の家に着いたマツ達は
その大きな家や土地に圧倒された。番頭佐吉に連れられて、
屋敷からだいぶ離れた汚い納屋のような家で着替えをさせられて、
地主さんに挨拶をするように言われた。

「まったく、三人とも汚いべべじゃの。
早うこれに着替えてあいさつに行くよ」

マツたちは使用人が着ている物と同じような着物に着替えた。
マツは妹たちの着替えるのを手伝い、あわてて、地主のところに連れられていった。
納屋は離れになっており、大きな屋敷とつながっており、
長い廊下を歩き、その途中には見たこともない置物や
たくさんのお米などが山のように置いてある部屋もあった。
外には池があり、地主の子供だろうか、楽しそうに庭で遊んでいた。
そんなものを見ながら、大きな部屋に通された。

そこで座って地主さんを待った。
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