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英雄伝記「番外編」
12話 贈り物
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「そうだ、裏山だ」
マツは何ですぐに思い出せなかったのだろう。
急激に変わったこの環境で頭が少し麻痺していたからだろう。
外は真っ暗だけど、三月末で雪もだいぶなくなってきているし、
今日はお月さまも出ているから、あそこなら、夜のうちに行って帰ってこられる。
しかし、痛みで震える二人は眠ることもできないから、私だけ外に出たら、不安がるだろうし・・・
「あっ、前にヤエさんに会った時」
「マツさん、また、あなた、大変なお仕事をしてるみたいだから、この薬もってきなさい。
今のように、すぐに治るから」
マツは自分の着物の中に3粒だけ入れておいたのを思い出した。
すぐさま、タエと太郎にその薬を飲ませた。
「姉ちゃん、これ飲むの」
「お薬よ、すぐに治るから」
飲んだら瞬く間に二人の体はきれいに治ってしまった。
「うわあ、すごい、姉ちゃん、すごいよ」
二人とも大喜びだった。
「タエ・太郎とゆっくり眠りなさい。薬のことは絶対に人には言ってはだめよ」
二人とも小さく頷いた。マツはしばらくして、二人が寝たのを確認して、
物音ひとつ立てずに屋敷をこっそり抜け出した、じいちゃんに教わった忍びの知識が役に立った。
今晩は、天気が良く月明かりもあり、裏山まで1里ほどあるが、難なくたどりつけそうだ。
マツは歩きながら思った、こんなにも人生が急に変わってしまうことで、周りの環境にただ流されている自分がどうしようもなく、
みじめで情けないと感じていた。あれだけ、じいちゃんに色々なことを教わって何もできないなんて・・・
そんなことを考えているうちに住んでいた家の横道を通り過ぎた、その時に川辺家族がこの家に住んでいると思うとマツは悔しくてたまらなかった。
家の裏側に静かに入り、そこに大きな木に穴があいておりその中に訓練用の木刀が入っている、マツは木の中に手を入れて、
木刀を取り出した、そしてすぐ近くの裏山の頂上に着いた、ここは、かなり前からお社が祭られており、建物もかなり大きくしっかりとした造りだ。
時折、お供え物や、掃除をする人が来る。
マツはお社を眺めながら、じいちゃんに言われた通り、お社の裏側に行き、家紋を探した。
「ふ~、やっと着いた、松田家紋はたしか梅だった。どこだ?」
マツはお社の裏をウロウロと探したが、どこにも家紋はなかった。
「あれ、ないな、ここまで来て、そんなことあるん?」
しばらく探しても見つからなかったため、帰ろうとしたその時、
高床式になっているお社の土台に平行に細い切り込みが入っていた。
「たしか、じいちゃん剣術水切りを打てといってた」
水切り、松田家に代々伝わる剣術のひとつ、心を水のように透き通らせ、
体を落ち着かせ、刀の先端までその感覚をいきわたらせる、
刀を振り切る時に刀の先端の風圧で相手を吹き飛ばすマツは切り込みに
合わせて水切りを放った。
「シュ、バチッ」
「ぎ~ 」
硬い鉄の板が下がり、その中に家紋の印と奥に紙が丸まって置いてあった。
月明かりに当てて、その紙の文字を読んだ。
[松田 マツ この者を松田家当主第16代と認め、松田家水仙技流剣術、松田家松濤技体術の伝承者とする。
松田家当主第15代 松田 大介]
マツは最後にじいちゃんの名前の下に印が押された厚い紙を見て、
当主と言われても、何もない自分には意味あるものなのか、不思議な気持ちになった。
そして、開いた板の奥にまだ、何か入っていた。
竹の筒と印鑑と鉄の箱のようなものがあった。
その筒と箱を取り出し中を見たら、手紙とその下にお金100円札が100枚と
西欧の金貨が100枚ほど入っていた。その手紙を読むと
「マツへ、わしが亡くなって、おそらくすぐにここに来たのじゃろう、
このお金や金貨はマツに譲渡する、役に立ててくれ、それと、会津には松田家ゆかりの者がおる、この住所に行けば、しっかりと面倒を見てくれるはずじゃ、よく考えて行動しろ、おぬしは松田家の正当な当主じゃ、達者でな」
マツはじいちゃんの周到な準備とやさしさに寒い夜ではあるけれど
心や体があたたくなるのを感じた。
その場所でマツは何度も何度もその紙を読み返した。
そして、何度もじいちゃんに感謝した。
しばらくして、近くの石の上に座り込んでいたマツはこれからのことを考えた。
このお金を持っていけば、間違いなく、地主一族に巻き上げられるだろう。
そんな時、マツの脳裏にじいちゃんの言葉が蘇ってきた。
「マツ、逃げることばかり考えるやつは最後に必ず捕まり、敗者となる。時として、立ち向う時が必要となる。それを忘れるな。
おまんなら、状況に応じて考えれば、必ずわかるはずじゃ」
マツは扉の中に一度すべてを戻して、扉を閉めて、一旦、帰ろうと考えたが、やはり、今こそ、立ち向かう時、それに、タエや太郎はまた、あんな生活をしていたら、命を落とすだろう。
身売りの話も、もう、3月だから、4月にはタエや太郎と身売り先がバラバラで会うこともできなくなるだろう。箱の中の金貨などはそのままとして、遺言書と日本のお金を持って扉を閉めて地主宅に戻ることとした。
マツは何ですぐに思い出せなかったのだろう。
急激に変わったこの環境で頭が少し麻痺していたからだろう。
外は真っ暗だけど、三月末で雪もだいぶなくなってきているし、
今日はお月さまも出ているから、あそこなら、夜のうちに行って帰ってこられる。
しかし、痛みで震える二人は眠ることもできないから、私だけ外に出たら、不安がるだろうし・・・
「あっ、前にヤエさんに会った時」
「マツさん、また、あなた、大変なお仕事をしてるみたいだから、この薬もってきなさい。
今のように、すぐに治るから」
マツは自分の着物の中に3粒だけ入れておいたのを思い出した。
すぐさま、タエと太郎にその薬を飲ませた。
「姉ちゃん、これ飲むの」
「お薬よ、すぐに治るから」
飲んだら瞬く間に二人の体はきれいに治ってしまった。
「うわあ、すごい、姉ちゃん、すごいよ」
二人とも大喜びだった。
「タエ・太郎とゆっくり眠りなさい。薬のことは絶対に人には言ってはだめよ」
二人とも小さく頷いた。マツはしばらくして、二人が寝たのを確認して、
物音ひとつ立てずに屋敷をこっそり抜け出した、じいちゃんに教わった忍びの知識が役に立った。
今晩は、天気が良く月明かりもあり、裏山まで1里ほどあるが、難なくたどりつけそうだ。
マツは歩きながら思った、こんなにも人生が急に変わってしまうことで、周りの環境にただ流されている自分がどうしようもなく、
みじめで情けないと感じていた。あれだけ、じいちゃんに色々なことを教わって何もできないなんて・・・
そんなことを考えているうちに住んでいた家の横道を通り過ぎた、その時に川辺家族がこの家に住んでいると思うとマツは悔しくてたまらなかった。
家の裏側に静かに入り、そこに大きな木に穴があいておりその中に訓練用の木刀が入っている、マツは木の中に手を入れて、
木刀を取り出した、そしてすぐ近くの裏山の頂上に着いた、ここは、かなり前からお社が祭られており、建物もかなり大きくしっかりとした造りだ。
時折、お供え物や、掃除をする人が来る。
マツはお社を眺めながら、じいちゃんに言われた通り、お社の裏側に行き、家紋を探した。
「ふ~、やっと着いた、松田家紋はたしか梅だった。どこだ?」
マツはお社の裏をウロウロと探したが、どこにも家紋はなかった。
「あれ、ないな、ここまで来て、そんなことあるん?」
しばらく探しても見つからなかったため、帰ろうとしたその時、
高床式になっているお社の土台に平行に細い切り込みが入っていた。
「たしか、じいちゃん剣術水切りを打てといってた」
水切り、松田家に代々伝わる剣術のひとつ、心を水のように透き通らせ、
体を落ち着かせ、刀の先端までその感覚をいきわたらせる、
刀を振り切る時に刀の先端の風圧で相手を吹き飛ばすマツは切り込みに
合わせて水切りを放った。
「シュ、バチッ」
「ぎ~ 」
硬い鉄の板が下がり、その中に家紋の印と奥に紙が丸まって置いてあった。
月明かりに当てて、その紙の文字を読んだ。
[松田 マツ この者を松田家当主第16代と認め、松田家水仙技流剣術、松田家松濤技体術の伝承者とする。
松田家当主第15代 松田 大介]
マツは最後にじいちゃんの名前の下に印が押された厚い紙を見て、
当主と言われても、何もない自分には意味あるものなのか、不思議な気持ちになった。
そして、開いた板の奥にまだ、何か入っていた。
竹の筒と印鑑と鉄の箱のようなものがあった。
その筒と箱を取り出し中を見たら、手紙とその下にお金100円札が100枚と
西欧の金貨が100枚ほど入っていた。その手紙を読むと
「マツへ、わしが亡くなって、おそらくすぐにここに来たのじゃろう、
このお金や金貨はマツに譲渡する、役に立ててくれ、それと、会津には松田家ゆかりの者がおる、この住所に行けば、しっかりと面倒を見てくれるはずじゃ、よく考えて行動しろ、おぬしは松田家の正当な当主じゃ、達者でな」
マツはじいちゃんの周到な準備とやさしさに寒い夜ではあるけれど
心や体があたたくなるのを感じた。
その場所でマツは何度も何度もその紙を読み返した。
そして、何度もじいちゃんに感謝した。
しばらくして、近くの石の上に座り込んでいたマツはこれからのことを考えた。
このお金を持っていけば、間違いなく、地主一族に巻き上げられるだろう。
そんな時、マツの脳裏にじいちゃんの言葉が蘇ってきた。
「マツ、逃げることばかり考えるやつは最後に必ず捕まり、敗者となる。時として、立ち向う時が必要となる。それを忘れるな。
おまんなら、状況に応じて考えれば、必ずわかるはずじゃ」
マツは扉の中に一度すべてを戻して、扉を閉めて、一旦、帰ろうと考えたが、やはり、今こそ、立ち向かう時、それに、タエや太郎はまた、あんな生活をしていたら、命を落とすだろう。
身売りの話も、もう、3月だから、4月にはタエや太郎と身売り先がバラバラで会うこともできなくなるだろう。箱の中の金貨などはそのままとして、遺言書と日本のお金を持って扉を閉めて地主宅に戻ることとした。
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